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2022年2月10日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」を対象疾患とする経口剤のパキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)が特例承認されました!
厚労省・添付文書|新型コロナウイルス治療薬の特例承認について
ファイザー|ニュースリリース
基本情報
製品名 | パキロビッドパック300/600 |
一般名 | ニルマトレルビル、リトナビル |
製品名の由来 | 海外に準じた。 |
製造販売 | ファイザー(株) |
効能・効果 | SARS-CoV-2による感染症 |
用法・用量 | 通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、 ニルマトレルビルとして1回300mg及び リトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与する。 |
収載時の薬価 | パック300:12,538.60円 パック600:19,805.50円 一般流通開始は2023年3月22日 |
海外の製品名は「Paxlovid」でしたので、日本では「パクスロビド」と報道されていましたが、日本の製品名は「パキロビッド」に決定されました。
これまで新型コロナウイルス感染症で「重症化リスク因子」を有する軽症から中等症の患者さんには抗体薬の以下が使用されていましたが、いずれも注射剤・皮下注でした。
その後、2021年12月24日には初の経口剤としてラゲブリオ(モルヌピラビル)が登場しました。
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パキロビッドはラゲブリオ同様、「重症化リスク因子」を有する軽症から中等症の患者さんに使用しますね。重症化リスク因子については臨床試験のところで紹介します。
今回は新型コロナウイルスの基本的な解説と共に、パキロビッドの作用機序・エビデンスについて解説!
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは
2019年末頃、中国の中国湖北省武漢市を中心に原因不明の肺炎ウイルスが発生しました。
その後、数カ月で日本を含む全世界にパンデミックを引き起こした原因ウイルスが「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」です。このウイルスによって引き起こされる疾患名として、世界保健機関(WHO) は正式名称を「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」と発表しました。
「COVID-19」の読み方:コヴィッド・ナインティーン
SARS(Severe acute respiratory syndrome coronavirus:重症急性呼吸器症候群)と言えば、2003年頃に中国を中心に流行したウイルス感染症で、この原因もコロナウイルス(SARS-CoV)でしたね。今回の新型コロナウイルスもSARS-CoVと似ていることからSARS-CoV-2と名付けられています。
症状としては無症状から風邪様症状(発熱、倦怠感、咳、味覚異常)が多く、重症化することはあまりありません。
しかし、一部、肺炎・呼吸困難・血栓症等、重症化することもあり、特に高齢者や基礎疾患(例:糖尿病、心不全、COPD等の呼吸器疾患)を持っている方では重症化のリスクが高いと言われています。
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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖メカニズム
コロナウイルスの外観は「コロナ(太陽の光冠)」に似ていることからその名前が付けられています。
分類としては「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」で、RNAをゲノムとしているウイルスですね!主にヒトの粘膜上皮細胞に感染します。
- 二本鎖DNAウイルス:アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス
- 一本鎖DNAウイルス:アデノ随伴ウイルス
- 二本鎖RNAウイルス:ロタウイルス
- 一本鎖プラス鎖RNAウイルス:コロナウイルス、エンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス
- 一本鎖マイナス鎖RNAウイルス:麻疹ウイルス、RSウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス
- 一本鎖RNA逆転写ウイルス:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
- 二本鎖DNA逆転写ウイルス:B型肝炎ウイルス
ちなみに、アデノ随伴ウイルスの仕組みを用いた治療法なんかもありますね。
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プラス鎖というのはゲノムそのものがmRNAとして働くことが可能なもの、マイナス鎖というのはゲノムを鋳型として一旦mRNAを作るものを言います。
SARS-CoV-2はプラス鎖の一本鎖RNAウイルスですので、ゲノム自体がmRNAとして働き、ヒト細胞内に侵入するとすぐにウイルスタンパク質の合成が始まりますね。
SARS-CoV-2がヒトの粘膜上皮細胞に感染する場合、以下の図のようなプロセスで感染・増殖します。
- 吸着・膜融合・脱殻:ヒト細胞内に入る
- ゲノム(RNA)の複製とタンパク質合成:ヒト細胞内で増える
- 細胞からの遊離:ヒト細胞外へ出て、他の細胞に感染する
上記②のタンパク質合成の過程では、翻訳で合成されたタンパク質は非常に高分子(大きい)のため、適切なサイズに切り取る必要があります。ここで働くのがプロテアーゼ(3CLプロテアーゼ)です。
プロテアーゼがタンパク質を適切な大きさに切り取ることで、ウイルスタンパク質が完成し、増殖していきます。
ちなみに、②の過程のうち、RNAポリメラーゼに関与しているのが以下の薬剤ですね。
重症度別の治療方法
現在、重症度別の治療方法については厚労省の「新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き」や日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)に掲載されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き 第10.1版
軽症例では経口薬の
- ゾコーバ錠(エンシトレルビル)
- パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル) ※重症化リスクが高い場合
- ラゲブリオ(モルヌピラビル) ※重症化リスクが高い場合
等が使用されます。
中等症Ⅱ~重症例では国内初の治療薬として登場したベクルリー(レムデシビル)が使用され、重症例では適宜ステロイドやオルミエント(バリシチニブ)が併用されます。
その他、中和抗体も承認されているものの、オミクロン株に対して有効性が減弱していることから、上記の抗ウイルス薬が優先されています。
各薬剤の特徴については「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)が分かりやすいと思います♪(下図。一部抜粋)
そもそも、まずは感染しないように手洗い・うがい、そしてワクチン接種が大事なのをお忘れないように~。
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パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)の作用機序:プロテアーゼ阻害
パキロビッドの有効成分であるニルマトレルビルはタンパク質合成過程におけるプロテアーゼ(3CLプロテアーゼ)を選択的に阻害するといった作用機序です!3)
タンパク質合成が完了しないため、ヒト細胞内で増殖することができなくなり、結果としてウイルスの増殖抑制効果を発揮すると考えられていますね。
同時に服用するリトナビルはニルマトレルビルの代謝(分解)を抑制することで、ニルマトレルビルの体内濃度を長時間維持する役割を担っています。
エビデンス紹介:EPIC-HR試験
根拠となった臨床試験をご紹介します(EPIC-HR試験)。4)
本試験は以下の重症化リスク因子を1つ以上有し、軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症の入院していない成人患者さんを対象としてパキロビッドとプラセボを検証する国際共同第Ⅲ相試験です(日本を含む)。発症から5日以内に投与が開始されています。
- 60歳以上
- BMI 25kg/m2超
- 喫煙者(過去30日以内の喫煙があり、かつ生涯に100本以上の喫煙がある)
- 免疫抑制疾患又は免疫抑制剤の継続投与
- 慢性肺疾患(喘息は、処方薬の連日投与を要する場合のみ)
- 高血圧の診断を受けている
- 心血管系疾患(心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全、ニトログリセリンが処方された狭心症、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術、頚動脈内膜剥離術又は大動脈バイパス術の既往を有する)
- 1型又は2型糖尿病
- 慢性腎臓病
- 鎌状赤血球症
- 神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群等)又は医学的複雑性を付与するその他の疾患(遺伝性疾患、メタボリックシンドローム、重度の先天異常等)
- 限局性皮膚がんを除く活動性のがん
- 医療技術への依存(SARS-CoV-2による感染症と無関係な持続陽圧呼吸療法等)
主要評価項目は発症から3日以内に治療を受けた患者さんのうち、28日目までにおける「入院または死亡の割合」とされ、中間解析時点の結果は下表の通りでした。4)
プラセボ群 | パキロビッド群 | |
28日までの入院または死亡率 (発症から3日以内に治療を受けた) |
7.01% | 0.77% |
入院・死亡リスク89.1%減少 p<0.001 |
なお、最終解析時点でも3日以内に治療を受けた患者さんにおいて、入院・死亡のリスク低減は88.9%と保たれていました!5日以内に投与を受けた場合でも最終解析では87.8%のリスク低減でした。
オミクロン株、デルタ株への治療効果は?
ファイザー社のニュースリリース5)によれば、前臨床試験においてオミクロン株に対する抗ウイルス効果は認められているとのことでした。また、他の変異株(アルファ、ベータ、デルタ、ガンマ、ラムダ、ミュー)においても同様とのこと。
各変異株はウイルス表面のスパイクタンパクの変異なので、パキロビッドの作用機序からするとあまり関係ないのかな、という印象です。
ニルマトレルビルはSARS-CoV-2臨床分離株(USA-WA1/2020株)及び変異株であるalpha株(B.1.1.7系統)、beta株(B.1.351系統)、gamma株(P.1系統)、delta株(B.1.617.2系統)及びlambda株(C.37系統)に対して同程度の抗ウイルス活性を示し、EC50値はそれぞれ71.2、170、217、204、82.2及び93nmol/Lであった(Vero E6-TMPRSS2細胞)。また、ニルマトレルビルはSARS-CoV-2臨床分離株(USA-WA1/2020株)及び変異株であるomicron株(B.1.1.529系統)に対して同程度の抗ウイルス活性を示し、EC50値はそれぞれ38及び23nmol/Lであった(Vero E6-TMPRSS2細胞)。
パキロビッドパック 添付文書より
参考までに、ロナプリーブやゼビュディなどのオミクロン株に対する効果は以下の通りです(使用時には必ず最新の添付文書をご確認ください)。
副作用
1%以上5%未満に認められる副作用として、味覚不全、下痢・軟便が報告されています。
重大な副作用としては、
- 肝機能障害(頻度不明)
- 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(いずれも頻度不明)
が挙げられていますので、特に注意が必要です。
用法・用量:5日以内に服用開始して5日間経口投与
通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ニルマトレルビルとして1回300mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与します。
つまり、1回あたりニルマトレルビルは2錠、リトナビルは1錠、計3錠の服用ですね。
投与のタイミングや腎機能障害に対する投与法のとしては以下の通りです。
- SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
- 中等度の腎機能障害患者(eGFR[推算糸球体ろ過量]30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビルとして1回150mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与すること。重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しない。
中等度腎機能障害の場合には、「朝及び夕方の服用分それぞれから、ニルマトレルビル錠2錠のうち1錠を取り除き、取り除いた箇所に専用のシールを貼り付けて交付すること」とされていますね。
薬剤師は注意!
相互作用:併用禁忌には注意が必要
リトナビルはCYP3Aと強い親和性があることから、併用禁忌や併用注意が多いため、飲み合わせには十分注意が必要です!
併用禁忌は以下の通り。
- アンピロキシカム
- ピロキシカム
- エレトリプタン臭化水素酸塩
- アゼルニジピン
- オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン
- アミオダロン塩酸塩
- ベプリジル塩酸塩水和物
- フレカイニド酢酸塩
- プロパフェノン塩酸塩
- キニジン硫酸塩水和物
- リバーロキサバン
- リファブチン
- ブロナンセリン
- ルラシドン塩酸塩
- ピモジド
- エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン
- エルゴメトリンマレイン酸塩
- ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩
- メチルエルゴメトリンマレイン酸塩
- フィネレノン
- シルデナフィルクエン酸塩
- タダラフィル
- バルデナフィル塩酸塩水和物
- ロミタピドメシル酸塩
- ベネトクラクス
- ジアゼパム
- クロラゼプ酸二カリウム
- エスタゾラム
- フルラゼパム塩酸塩
- トリアゾラム
- ミダゾラム
- リオシグアト
- ボリコナゾール
- アパルタミド
- カルバマゼピン
- フェノバルビタール
- フェニトイン
- ホスフェニトインナトリウム水和物
- リファンピシン
- セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品
日本医療薬学会より、「パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)の薬物相互作用マネジメントの手引き」も公表されていますので、併せてご確認くださいませ~!
収載時の薬価
収載時(2023年3月15日)の薬価は以下の通りです。
- パキロビッドパック300:12,538.60円
- パキロビッドパック600:19,805.50円(1日薬価:19,805.50円)
算定根拠等については以下をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】13製品(2023年3月15日)
続きを見る
現在は一般流通は行わず、当面の間、厚生労働省が所有した上で、パキロビッドを配分することになっていますが、2023年3月22日より一般流通に切り替わりました。
まとめ・あとがき
パキロビッドはこんな薬
- 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する経口治療薬
- ニルマトレルビルがプロテアーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を抑制する
- リトナビルはニルマトレルビルの分解を抑制する
- 併用薬には注意が必要(特に併用禁忌)
COVID-19はワクチンや有効な治療薬も存在していませんでしたが、2020年以降、凄まじいスピードで治療薬やワクチンが開発されていきました。初めての登場はベクルリーでしたね。
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ベクルリー(レムデシビル)の作用機序・副作用【COVID-19】
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その後、軽症から中等症に使用できる初の抗体カクテル療法のロナプリーブ点滴静注(カシリビマブ/イムデビマブ)や、ゼビュディ点滴静注液(ソトロビマブ)が登場しました。
さらにその後、経口薬のラゲブリオ(モルヌピラビル)が登場し、今回のパキロビッドも経口薬です。
治療効果の直接比較はできませんが、ラゲブリオよりパキロビッドの方が高い印象を受ける一方で、リトナビルはCYP3Aと強い親和性があることから、併用禁忌や併用注意が多いことに注意が必要です。
ワクチンはこちらの記事でまとめていますので、ご覧下さいませ♪
-
コミナティ、ダイチロナ、コスタイベなどの作用機序【新型コロナウイルス】
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以上、今回は軽症・中等症の新型コロナウイルス治療薬の経口剤であるパキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)の作用機序とエビデンスについて解説しました!
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