8.感染症

ノクサフィル(ポサコナゾール)の作用機序・特徴【真菌症】

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2021年9月27日、「侵襲性アスペルギルス症」を対象疾患とするノクサフィル(ポサコナゾール)の適応拡大が承認されました!

MSD|ニュースリリース

基本情報

製品名 ノクサフィル錠100mg/点滴静注300mg
一般名 ポサコナゾール
製造販売 MSD(株)
効能・効果 ●造血幹細胞移植患者又は好中球減少が予測される血液悪性腫瘍患者における深在性真菌症の予防
●下記の真菌症の治療
侵襲性アスペルギルス症、フサリウム症、ムーコル症、
コクシジオイデス症、クロモブラストミコーシス、菌種
用法・用量 記事内参照
収載時の薬価 100mg1錠:3,109.10円
点滴静注300mg:28,508円

 

ノクサフィルは新規のトリアゾール系抗真菌薬に分類されていて、2020年1月23日に「深在性真菌症」を対象疾患として承認されています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
海外では2005年に懸濁液として登場したそうですが、食事の影響を受けやすかったため、2013年に錠剤と注射剤が承認・販売されたようですね。

 

今回は真菌症に重要となる造血幹細胞移植と、ノクサフィル(ポサコナゾール)の作用機序について解説していきます。

 

真菌の生態と真菌症

まず真菌について説明します。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
真菌と聞くと、パッと思い浮かぶのが「カビ」や「水虫」等ではないでしょうか?

 

ヒトの細胞より少し小さく、異なる点としては以下が挙げられます。

細胞膜の主成分 細胞壁
ヒトの細胞 コレステロール ない
真菌の細胞 エルゴステロール ある

真菌の細胞とヒト細胞の違い:細胞膜がエルゴステロール

 

ヒト細胞の細胞膜の主成分は「コレステロール」ですが、真菌細胞の細胞膜の主成分は「エルゴステロール」である点が重要です。

 

真菌には様々な種類が存在していて、ヒトに感染する部位・場所によって、真菌症は3つに分類されています。

  1. 表在性真菌症:皮膚表面に感染する
  2. 深在性皮膚真菌症:皮下組織や爪に感染する
  3. 深在性真菌症:内臓など体内の臓器に感染する

 

「①表在性真菌症」の代表例としては「水虫・白癬」が挙げられますね。実際に水虫治療では内服薬や外用薬による抗真菌薬が使用されます。

ネイリン(ホスラブコナゾール)の作用機序と副作用【爪白癬】

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この中でも特に「③深在性真菌症」は死に至る危険性もあり、早期の予防・治療が重要だと言われています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
では深在性真菌症発症の危険性が伴う、造血幹細胞移植について解説していきますね。

 

造血幹細胞移植と深在性真菌症

通常はほとんど問題のない深在性真菌症ですが、免疫力が著しく低下した場合、真菌が体内の臓器に感染してしまう恐れがあります。

 

特に造血機能に異常をきたした場合(例:白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍、再生不良性貧血など)、ドナーから提供された造血幹細胞を患者さんに移植するのが造血幹細胞移植です。

 

血液腫瘍(白血病など)の場合、そのまま造血幹細胞を移植してしまっても、体内には腫瘍細胞が残ってしまっています。

そのため、移植を行う前に大量の抗がん剤を数種類併用した多剤併用化学療法を行い、体内の腫瘍細胞と正常な血液細胞を全て根絶します。

造血幹細胞移植の概要図

 

その後、ドナーから提供してもらった正常な造血幹細胞を体内に投与することで、正常な血液細胞が増え(生着)、移植は完了です。

 

しかし移植後も血液細胞の働きは完全と言えず、免疫力が低下している状態ですので、移植後には様々な感染症の危険性が伴います。

 

特に、移植後早期~100日の間には深在性真菌症の発症リスクが高いことから、予防的に抗真菌薬を投与することがあります。1)

真菌の種類としてはカンジダ属とアスペルギルス属が多い。

 

予防・治療に用いられる抗真菌薬には以下の3種類がありますが、ノクサフィルは「トリアゾール系」に分類されていますね。

  1. トリアゾール系:フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ノクサフィルなど
  2. エキノキャンディン系:ミカファンギンなど
  3. ポリエン系:アムホテリシンBなど

 

日本1)において「侵襲性アスペルギルス症」の治療はトリアゾール系の中でもボリコナゾールが第一選択薬で、海外2)ではノクサフィルも第一選択薬の位置づけです!

 

ちなみにですが、造血幹細胞移植時にはサイトメガロウイルス(CMV)感染にも注意が必要で、これに対しては抗CMV薬が使用されます。

プレバイミス(レテルモビル)の作用機序と副作用【サイトメガロウイルス感染】

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ノクサフィル(ポサコナゾール)の作用機序・特徴

トリアゾール系抗真菌薬は真菌の細胞膜の主成分であるエルゴステロールの生合成を阻害するといった作用を有しています。

ノクサフィル(ポサコナゾール)の作用機序

 

木元 貴祥
木元 貴祥
その結果、真菌は細胞膜の合成が行えなくなり、抗真菌活性を示すと考えられています。

 

特徴としては、アスペルギルスに抗菌力がある他、接合菌に対しても効果があると示唆されているそうです。3)

 

副作用

主な副作用として悪心・下痢(5%以上)が報告されています。

 

重大な副作用としては、

  • 肝機能障害
  • 溶血性尿毒症症候群(HUS)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
  • QT延長(1.9%)、心室頻拍(Torsades de pointesを含む)
  • 副腎機能不全(頻度不明)
  • 低カリウム血症(5.2%)
  • 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(頻度不明)
  • 脳血管発作(頻度不明)
  • 急性腎障害(0.4%)、腎不全(頻度不明)
  • 白血球減少症、汎血球減少症(頻度不明)

が挙げられていますので特に注意が必要です。

 

用法・用量

錠剤と注射剤によって用法・用量が異なっています。

 

<錠剤>

通常、成人にはポサコナゾールとして初日は1回300mgを1日2回、2日目以降は300mgを1日1回経口投与します。

 

<注射剤>

通常、成人にはポサコナゾールとして初日は1回300mgを1日2回、2日目以降は300mgを1日1回、中心静脈ラインから約90分かけて緩徐に点滴静注します。

 

収載時の薬価

収載時(2020年4月22日)の薬価は以下の通りです。

 

  • ノクサフィル錠100mg:3,109.10円
  • ノクサフィル点滴静注300mg:28,508円

 

算定根拠については以下の記事をご確認ください。

【新薬:薬価収載】8製品(2020年4月22日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

ノクサフィルはこんな薬

  • トリアゾール系の抗真菌薬
  • エルゴステロールの生合成を阻害する

 

ノクサフィルは新規のトリアゾール系抗真菌薬ですが、既に類薬のイトラコナゾール、ボリコナゾールが臨床で使用されています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
今後は菌の種類・範囲によって使い分けが進んでいくものと予想されますね!

 

以上、今回は深在性真菌症とノクサフィル(ポサコナゾール)の作用機序についてご紹介しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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