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抗凝固薬としては長らくワルファリンが使用されていましたが、ここ数年で新たな抗凝固薬(DOAC)が登場してきました。
現在では4種類の薬剤がありますので、それらの作用機序と薬剤一覧についてご紹介します。
また、関連する疾患の「心原性脳塞栓症」について、血栓形成のメカニズムと併せてご紹介します。
心原性脳塞栓症とは
脳の血管が何らかの原因で詰まってしまう疾患を総称して「虚血性脳卒中(脳梗塞)」と呼んでします。
脳梗塞にはその原因から、以下に分類されています。
- 心原性脳塞栓症
- ラクナ梗塞
- アテローム血栓性脳梗塞
- その他の脳梗塞
心原性とは“心臓が原因”という意味です。
即ち、心臓で発生した血栓が脳の血管を詰まらせてしまう疾患です。
心臓で血栓が発生しやすい疾患として、不整脈の一種の「心房細動」があります。
通常、心臓は規則正しいリズムで収縮と拡張を繰り返していますが、心房細動では心臓が不規則に小刻みに痙攣しまいます。
心房細動では、通常の心臓のポンプとしての役割ができなくなってしまい、心臓内に血液が長時間滞留してしまいます。
その結果、血栓が発生しやすいと考えられています。
このように心房細動の患者さんは、正常な人と比較して脳梗塞を発症する確率が約5倍高いと言われています。
止血と血栓形成のメカニズム
我々が怪我などをした際に出血すると、体内では血を止めようとする機構(止血機構)が働きます。
止血には、血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血があります。
出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。
これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいます。
次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。
二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。
二次血栓に関与するフィブリンは様々な「凝固因子」が血液凝固反応(カスケード)を引き起すことで生成されます。
二次止血時の血液凝固反応(カスケード)とは
血液凝固反応では、全部で14種類の凝固因子が活性化することで引き起こされます。
一般的に凝固因子はローマ数字(例:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)で表され、活性化した凝固因子はローマ数字の後ろに“a”を付けて(例:Ⅴa、Ⅶa、Ⅸa、Ⅹa)表されます。
体内の血液凝固反応は、反応の引き金となる因子の違いから「外因系」と「内因系」に分けられていますが、今回は内因系をメインにご紹介します。
内因系の血液凝固反応は第Ⅻ因子が活性化(Ⅻa)されることで開始されます。
ⅫaはⅪを活性化(Ⅺa)させ、Ⅺaが第Ⅸ因子を活性化(Ⅸa)します。
また、第Ⅷ因子が活性化したⅧaと、Ⅸaによって第Ⅹ因子が活性化(Ⅹa)されます。
Ⅹaはプロトロンビンをトロンビンに変換し、トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに変換します。
このようにして完成したフィブリンが二次止血を行い、強固な血栓(二次血栓)を形成します。
心原性脳塞栓症は、心臓の血液が凝固して二次血栓を生じることで発症するため、血液凝固を阻害すれば発症抑制が可能となります。
DOAC(直接経口抗凝固薬)の作用機序
DOAC(“ドアック”と読みます)は「Direct Oral Anti Coagulants」の略で、凝固因子を直接阻害することのできる経口投与薬の総称です。
※Novel Oral Anti Coagulants(新規経口抗凝固薬)の意味です。
DOACは阻害する凝固因子の違いから2種類に分類されます。
- トロンビン阻害薬:プラザキサ(一般名:ダビガトラン)
- Xa因子阻害薬:
▸リクシアナ(一般名:エドキサバン)
▸イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)
▸エリキュース(一般名:アピキサバン)
また、ワルファリンはビタミンKを阻害することで間接的に第Ⅸ因子、第Ⅹ因子、プロトロンビンの働きを抑制します。まとめるたものが下図です!
DOACの特徴:ワルファリンとの違い
ワルファリンはビタミンKを阻害することで抗凝固作用を示しますが、効きすぎてしまうと出血の危険性があります。
特に脳出血を起こしてしまうと、死の危険性もあります。
また、ビタミンKを多く含む食材(例:納豆、青汁など)を摂取すると、ワルファリンの効果が減弱してしまうため、コントロールが非常に難しいといった問題点がありました。
DOACはビタミンKとは無関係に抗凝血作用を示すため、上記のような食材の制限がありませんし、出血のリスクはワルファリンよりも低いため、安全に使用できるのも利点です。
DOACの薬剤一覧と効能・効果まとめ
2023年11月時点で承認されているDOACの一覧を下表に示します。
その他、併用禁忌にも差があります。リクシアナやエリキュースは併用禁忌の制限が無いため、使いやすいのかもしれません。
また、2021年にはイグザレルト(一般名:リバーロキサバン)にDOAC初の小児適応が追加されています。
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イグザレルト(リバーロキサバン)の作用機序と副作用【静脈血栓塞栓症】
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出血時の対応・処置
虚血性心疾患で心房細動が併存する場合、ワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)などの抗凝固薬に加えて、アスピリン、チエノピリジン系抗血小板薬の2剤併用抗血小板療法(DAPT)が必要となることもあります。1)
1) 日本循環器学会|2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン
このような場合や高齢者ではDOACによる出血のリスクが高まり、特に頭蓋内出血や消化管出血は生命を脅かすこともあるため、非常に重要かつ注意しなければいけません。
各DOAC群の第Ⅲ相試験(Engage 試験の低用量群を除く)では、各出血が以下の頻度で認められていましたので、ワルファリンに比べてリスクが低いとはいえ、やはり注意が必要ですね。2)
- 大出血:2.1~3.6%/年
- 頭蓋内出血:0.23~0.49%/年
- 消化管出血:0.76~3.2%/年
軽度の出血の場合は安易に休薬することなく、減量・休薬等の適切な抗血栓療法の継続を考慮するとされています。1)
2021年には出血リスクが高い高齢者で、リクシアナが1日1回15mgに減量して使えるように用法・用量が追加されています。
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リクシアナ(エドキサバン)の作用機序と副作用【静脈血栓塞栓症】
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また、中等度から重度の出血の場合、休薬の上、以下の対策が行われます。1)
- 活性炭投与(内服4時間以内)
- ⽌⾎(圧迫・外科・内視鏡処置など)
- 輸液(必要時輸⾎)
- 出⾎性脳卒中時の⼗分な降圧
- 中和
中和の場合、DOACの中でもトロンビン阻害薬のプラザキサ(ダビガトラン)については、出血時に中和抗体薬であるプリズバインド(イダルシズマブ)が使用可能です。
抗Ⅹa薬の中和にはこれまで薬が存在しておらず、保険適応外でプロトロンビン複合体製剤や遺伝⼦組換え第Ⅶ因⼦製剤の投与が行われていました。2022年には抗Ⅹa薬の中和薬であるオンデキサ(アンデキサネット)が登場しましたので、こちらも使用可能です。
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オンデキサ(アンデキサネット)の作用機序【DOAC(抗Ⅹa薬)の中和】
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あとがき
ワルファリンでは厳密なコントロールが必要なため、頻回の血液検査が必要でした。
また、食物との相互作用にも注意する必要があります。
DOACが登場したことで、より安全に抗凝固薬が使用できると思われます。
4種類のDOACの直接比較試験等が無いため、今後はこれらの薬剤の適切な使い分け等が検討されれば興味深いと感じます。
以上、今回はDOACの作用機序と各薬剤の一覧についてまとめてご紹介しました。
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