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2023年9月25日、「血液凝固第Ⅷ因子欠乏患者における出血傾向の抑制」を対象疾患とするオルツビーオ(エフアネソクトコグ)が承認されました。
サノフィ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | オルツビーオ静注用250/500/1000/2000/3000/4000 |
一般名 | エフアネソクトコグ アルファ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | ラテン語で高い・高いレベルでの維持を意味する「Altus」と 血液凝固第 VIII 因子を意味する「VIII」、 Zero Bleeding 達成の期待を込めた「O」を合わせて、 オルツビーオ(ALTUVIIIO)と命名した。 |
製造販売 | サノフィ(株) |
効能・効果 | 血液凝固第Ⅷ因子欠乏患者における出血傾向の抑制 |
用法・用量 | 本剤を添付の溶解液全量で溶解し、緩徐に静脈内に投与する。 出血時又は周術期に投与する場合、通常、1回体重1kg当たり50国際単位を投与する。 なお、投与量は患者の状態に応じて適宜減量する。 定期的に投与する場合、通常、体重1kg当たり50国際単位を週1回投与する。 |
収載時の薬価 | 静注用250:49,543円 静注用500:99,085円 静注用1000:198,171円 静注用2000:396,341円 静注用3000:594,512円 静注用4000:792,683円 |
発売日 | 2023年11月22日 |
血友病には血友病Aと血友病Bがあり、いずれも血液凝固因子の補充が基本です。しかし、これまでの補充療法は、血中半減期が短いため、週に1回〜数回投与する必要がありました。
週1回の点滴静注で治療効果が期待されていますね。ただ、類薬のヘムライブラ(エミシズマブ)は最長4週間毎の投与が可能なため、使い分け等は気になるところです。
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今回は止血のメカニズムと先天性血友病、そしてオルツビーオ(エフアネソクトコグ)の作用機序とエビデンスついてご紹介します。
止血のメカニズム
我々が怪我などをした際に出血すると、体内では血を止めようとする機構(止血機構)が働きます。
止血には、血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血があります。
出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。
これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいます。
次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。
二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。
二次血栓に関与するフィブリンは様々な「凝固因子」が血液凝固反応(カスケード)を引き起すことで生成されます。
二次止血時の血液凝固反応(カスケード)とは
血液凝固反応では、全部で14種類の凝固因子が活性化することで引き起こされます。
一般的に凝固因子はローマ数字(例:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)で表され、活性化した凝固因子はローマ数字の後ろに“a”を付けて(例:Ⅴa、Ⅶa、Ⅸa、Ⅹa)表されます。
体内の血液凝固反応は、反応の引き金となる因子の違いから「外因系」と「内因系」に分けられていますが、今回は内因系をメインにご紹介します。
内因系の血液凝固反応は第Ⅻ因子が活性化(Ⅻa)されることで開始されます。
ⅫaはⅪを活性化(Ⅺa)させ、Ⅺaが第Ⅸ因子を活性化(Ⅸa)します。また、第Ⅷ因子が活性化したⅧaと、Ⅸaによって第Ⅹ因子が活性化(Ⅹa)されます。
Ⅹaはプロトロンビンをトロンビンに変換し、トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに変換します。
このようにして完成したフィブリンが二次止血を行い、強固な血栓(二次血栓)を形成します。
今回ご紹介する血友病は上記の凝固因子が欠損して発症する疾患です。
血友病とは
血友病は先天的に血液凝固因子が欠損している疾患です。
第Ⅷ因子が欠損している場合を「血友病A」、第Ⅸ因子が欠損している場合を「血友病B」と分類しています。
血友病は染色遺体の伴性劣性遺伝のため、男性の患者がほとんどを占めます。
国内での発症率は男児出生1万人に約1人で、現在では6,000名程の患者さんがいらっしゃると推測されています。
血友病の病態と症状
血友病では血液凝固因子が欠損していることから、二次止血における血液凝固反応(カスケード)がうまく働きません。
その結果、二次止血に重要な「フィブリン」が生成されないため、様々な出血の症状が現れます。
特徴的な出血症状は、関節内や筋肉内の出血(深部出血)です。その他、抜歯後に血が止まらなかったり、頭蓋内で出血することもあります。
血友病の治療
血友病の治療は、欠損している血液凝固因子を補充する治療が基本です。
血友病による出血を予防するため、上記因子の「定期補充療法」を行います。また、出血してしまった際には適宜、「オンデマンド補充療法」を行います。
参考オンデマンド(on-demand)とは、「必要に応じて」を意味します。
血液凝固因子製剤は在宅でも安全に静脈内投与ができることから、上記の定期補充療法を中心として、出血時には必要に応じてオンデマンド補充療法を行うことが一般的です。
現在、血友病Aに使用できる主な定期補充療法薬(第Ⅷ因子製剤)には、以下がありますが、いずれも週に数回の投与が必要でした。
今回ご紹介するオルツビーオは、血友病Aで欠損している第Ⅷ因子の補充を目的としている治療薬で、週1回の投与で治療が可能です!
最近では補充療法以外の治療法として、バイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)のヘムライブラ(エミシズマブ)が血友病Aの治療薬として使用されることも多くなってきました。
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定期補充療法のデメリット(インヒビターの出現)
定期補充療法は、出血を予防するために常に体内に一定量の凝固因子を存在させておく必要があります。
従って、血中濃度を一定量維持するため、週に3回程投与する必要があります。最近では半減期を延長し、週に1回の投与で治療が可能な製剤もあります。
また、定期補充療法を繰り返していると、補充している凝固因子を「異物(非自己)」と認識し、凝固因子に対して抗体が産生されてしまうことがります。
このような抗体のことを「インヒビター」と呼び、血友病A患者さんの約30%、血友病B患者さんの約1~3%に認められます。
インヒビターが出現してしまうと、当然、補充した凝固因子が働くことができないため、止血能力が失われてしまいます。
インヒビターが出現してしまった場合の治療法には「インヒビター中和療法」や「バイパス止血療法」がありますが、選択肢は限られていました。
この場合、最近登場したアレモ皮下注(コンシズマブ)が使用可能です。
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オルツビーオ(エフアネソクトコグ)の構造と作用機序
通常の第Ⅷ因子製剤は、投与後に血中に存在しているファン・ヴィレブランド因子(VWF:von Willebrand factor)と結合することで安定化します。
しかし、VWFが消失すると速やかに分解されてしまうため、どうしてもその半減期はVWFの半減期(約15~19時間)に依存していました。
既存の第Ⅷ因子製剤は、PEG化やFc融合によって半減期を延長しているものの、VWFの半減期の上限を超えることはできませんでした。
オルツビーオは第Ⅷ因子に以下の修飾を行うことで、VWFによる半減期の上限を克服した製剤です!1)
オルツビーオの修飾
- VWFの一部を結合 → 血中のVWFが結合できなくなる
- XTENポリペプチド×2を結合 → 半減期の延長
- IgG抗体のFc領域を結合 → 半減期の延長
その結果、本来のVWFによる半減期の制限から解放され、長時間血中に存在することができるようになりました。
オルツビーオによって第Ⅷ因子が補充されますので、その後の血液凝固反応が進行して無事にフィブリンが生成され二次止血が完了します。
エビデンス紹介:XTEND-1試験
根拠となった臨床試験(XTEND-1試験)をご紹介します。2)
本試験は、12歳以上の血友病A患者さんを対象に、以下の2群の有効性・安全性を検討した非盲検非無作為化介入試験です。
- A群(133例):第Ⅷ因子製剤の定期補充療法を受けていた患者さんに対して、オルツビーオの週1回定期補充療法を行う
- B群(26例):第Ⅷ因子製剤のオンデマンド補充療法を受けていた患者さんに対して、オルツビーオのオンデマンド補充療法を行い、26週以降は週1回の定期補充療法を行う
主要評価項目は、A群における「定期補充療法中の年間出血率」と「試験開始前に行っていた第Ⅷ因子製剤の定期補充療法中の年間出血率との患者内比較」とされ、結果は以下の通りでした。
A群 | |
定期補充療法中の年間出血率 | 中央値:0 平均値:0.71 |
試験開始前に行っていた第Ⅷ因子製剤の 定期補充療法中の年間出血率との患者内比較 |
試験開始前の平均値:2.96 試験中の平均値:0.69 (P<0.001) |
また、症例数は少ないものの、本試験中にインヒビターの発生は報告されていませんでした。
用法・用量
本剤を添付の溶解液全量で溶解し、緩徐に静脈内に投与します。
出血時又は周術期に投与する場合、通常、1回体重1kg当たり50国際単位を投与します(投与量は患者の状態に応じて適宜減量)。
また、定期的に投与する場合、通常、体重1kg当たり50国際単位を週1回投与します。
副作用
10%以上に認められる副作用として、頭痛、関節痛が報告されています。
重大な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
が挙げられていますので、特に注意が必要です。
収載時の薬価
収載時(2023年11月22日)の薬価は以下の通りです。
- オルツビーオ静注用250:49,543円
- オルツビーオ静注用500:99,085円
- オルツビーオ静注用1000:198,171円
- オルツビーオ静注用2000:396,341円
- オルツビーオ静注用3000:594,512円(1日薬価:70,775円)
- オルツビーオ静注用4000:792,683円
算定根拠については、以下の記事で解説しています。
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【新薬:薬価収載】13製品(2023年11月22日)
続きを見る
まとめ・あとがき
オルツビーオはこんな薬
- 修飾を行うことで、VWFによる半減期の上限を克服した製剤
- 週1回の投与で治療可能
- 既存の第Ⅷ因子製剤と比較して効果が高い可能性が示唆されている
血友病は血液凝固因子の補充が基本ですが、これまでの補充療法は週に数回の投与が必要でした。
オルツビーオは週1回の投与で治療が可能なことから、患者さん・医療従事者の負担軽減が期待できるのではないでしょうか。
しかし、血友病Aでは、最大4週間に1回の投与が可能なバイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)のヘムライブラ(エミシズマブ)が既に使用可能のため、使い分けが気になるところです。
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ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】
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ヘムライブラはその作用機序から、血友病の止血モニタリングとして行われている活性化部分トロンボプラスチン時間やFⅧ活性が正確に評価できず、止血モニタリングをどうするのかが検討課題とされています。
近年、血友病領域では新薬の開発が活発化していますので、今後の治療開発にも期待しましょう!
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アレモ皮下注(コンシズマブ)の作用機序・特徴【血友病A/B】
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以上、今回は止血のメカニズムと血友病、そしてオルツビーオ(エフアネソクトコグ)の作用機序等についてご紹介しました。
引用文献・資料等
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