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フェスゴ配合皮下注(ペルツズマブ/トラスツズマブ)の作用機序【乳がん/大腸がん】

2023年9月25日ペルツズマブトラスツズマブの固定用量による配合皮下注製剤「フェスゴ配合皮下注」が承認されました!

中外製薬|ニュースリリース

基本情報

製品名 フェスゴ配合皮下注MA/IN
一般名 ペルツズマブ(遺伝子組換え)
トラスツズマブ(遺伝子組換え)
ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)
製品名の由来 Perjeta Herceptin EaSy to GO=PHESGO
製造販売 中外製薬(株)
効能・効果 ●HER2陽性の乳がん
●がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん
用法・用量 初回投与時には8分以上、2回目以降は5分以上かけて3週間間隔で皮下投与する。
収載時の薬価 配合皮下注 MA:268,695円
配合皮下注 IN:471,565円
発売日 2023年11月22日

 

海外では「PHESGO」として既に承認されていて、乳がんや大腸がんに使用されている以下の2種類の抗体を配合させた固定用量の皮下注製剤ですね。

 

両薬剤を併用する場合、60~150分ほどの投与時間を要していましたが、フェスゴは約5~8分で投与が可能になります。

 

木元 貴祥
時間短縮がすごいですね!医療従事者側も患者さん側にもメリットがありそうです。製品名の由来もEasy to GO!!

 

今回は乳がん・大腸がんと共に、フェスゴの作用機序・特徴について解説していきます。

 

乳がんの概要

2011年の女性乳がんの罹患数は約72,500人と、女性のがんの中では最も多く、約20%を占めると言われています。

 

手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。

 

ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。

 

従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!

また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。

 

その他、乳がんの15%~25%は「HER2(“ハーツー”と読みます)」と呼ばれるタンパク質が細胞膜に発現していることもあり、従来は予後不良と言われていました。

HER2陽性の乳がんの割合頻度は約15~25%

 

早期の乳がんの治療

早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。

早期乳がんの中でも術後に再発リスクが高いと診断された患者さんでは、術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える薬物療法(初期治療)が行われることがあります。

 

  1. ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬)±CDK4/6阻害薬
  2. HER2陽性の乳がん:パージェタ(ペルツズマブ)+ハーセプチン(トラスツズマブ)±抗がん剤
  3. ホルモンもHER2も陰性の乳がん:抗がん剤

 

フェスゴはHER2陽性の早期乳がんの場合、術後の抗がん剤に上乗せすることで再発抑制効果が期待されています。

 

また、HER2陽性の早期乳がんで、がんが大きい場合、手術の前に術前薬物療法としてフェスゴ+抗がん剤を行い、がんを小さくしてから手術が行われることもあります。

 

転移のある乳がんの治療(手術不能)

発見時に転移がある乳がんの場合、手術はできませんので、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)が基本となります。

 

転移のある乳がんの場合も、がん細胞の性質によって薬物療法の種類が異なります。

  1. ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法±CDK4/6阻害薬
  2. HER2陽性の乳がん:ハーセプチン±パージェタ±抗がん剤
  3. ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん):抗がん剤±免疫チェックポイント阻害薬

 

最も多いとされるのが、①「ホルモン陽性の乳がん」で、この場合はホルモン療法が基本です。

 

木元 貴祥
適宜CDK4/6阻害薬も併用しますね。
ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】

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フェスゴは転移のある②「HER2陽性の乳がん」の場合、抗がん剤に上乗せすることで生存期間の延長が認められています。

ハーセプチン(トラスツズマブ)の作用機序と副作用【胃がん】

続きを見る

 

大腸がんと治療

早期に発見された場合は手術によってがんを取り除くことができ、場合によっては術後の抗がん剤治療(術後補助化学療法)が行われます。

 

一方、発見時に他の臓器に転移(StagrⅣ)があったり、再発している場合、手術はできないため、抗がん剤(化学療法)による治療が基本です。

 

大腸がんの一次化学療法では抗がん剤(2〜3種)+分子標的薬(ベバシズマブなど)を用いた以下のいずれかの治療法が行われます。

  • FOLFOX+アバスチン/ベクティビクス/アービタックス
  • FOLFIRI+アバスチン/ベクティビクス/アービタックス
  • FOLFOXIRI+アバスチン
  • CAPOX+アバスチン
  • SOX+アバスチン
  • IRIS+アバスチン

 

参考:使用薬剤

 

アバスチン(ベバシズマブ)の詳細については以下の記事をご参考くださいませ。

アバスチン(ベバシズマブ)の作用機序とバイオシミラー【大腸がん】

続きを見る

 

なお、MSI-highが確認された場合、キイトルーダ(ペムブロリズマブ)が初回から単剤で使用可能です。MSI-highとキイトルーダについては以下で解説しています♪

キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】

続きを見る

 

一次化学療法に抵抗・不応の場合には二次化学療法としてサイラムザ(一般名:ラムシルマブ)ザルトラップ(一般名:アフリベルセプトベータ)を用いた治療等が行われます。

サイラムザ(ラムシルマブ)の作用機序【胃/大腸/肝細胞/肺がん】

続きを見る

 

HER2陽性の大腸がんは2~3%に認められるとされていて、今回ご紹介するフェスゴは二次治療以降に使用可能です。

 

木元 貴祥
大腸がんでは乳がんよりもHER2陽性の頻度は低いのですね。

 

参考までにBRAF遺伝子変異(5%前後)が認められる場合に使用できるのはビラフトビ(エンコラフェニブ)とメクトビ(ビニメチニブ)ですね。

ビラフトビ/メクトビ併用療法の作用機序【悪性黒色腫・大腸がん】

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HER2/HER3によるがん細胞の増殖

がんの増殖に関わるタンパク質(受容体)としてHERファミリーが知られており、以下の種類があります。

  • HER1(別名:EGFR)
  • HER2
  • HER3
  • HER4

 

乳がんでは特にHER2が重要で、HER2を有するがん細胞では増殖シグナルが活性化されているため、予後不良とされていました。

HER2/HER3によるがん細胞の増殖:HER2とHER3の二量体が重要

 

HER2は単独でも増殖シグナルを活性化しますが、HER3と二量体を形成することでより強固なシグナル伝達が活性化され、がん細胞の増殖を促進します。

 

HER2/HER3は共にドメインⅠ~Ⅳから成り立っていますが、二量体形成に関与しているのは「ドメインⅡ」であることが知られています。

 

フェスゴ(ペルツズマブ/トラスツズマブ)の作用機序

フェスゴはペルツズマブとトラスツズマブの配合薬です。

ペルツズマブは、HER2とHER3の二量体形成に関与しているHER2のドメインⅡを選択的に阻害するモノクローナル抗体製剤で、トラスツズマブはHER2のドメインⅣを選択的に阻害するモノクローナル抗体製剤です。

フェスゴ(ペルツズマブ/トラスツズマブ)の作用機序:HER2とHER3の二量体形成を抑制する

 

つまり、フェスゴはこれら2つのモノクローナル抗体を配合することによって、がん細胞のシグナル伝達をより強固に阻害することができます!

 

木元 貴祥
これまではそれぞれの製品(パージェタとハーセプチン)を併用していましたが、フェスゴは1剤で2つの有効成分を投与可能ですね。

 

乳がんにおいては抗がん剤(タキサン系など)と併用し、大腸がんにおいてはフェスゴ単剤として使用します。

ハーセプチン(トラスツズマブ)の作用機序と副作用【胃がん】

続きを見る

 

ボルヒアルロニダーゼの特徴:皮下注投与かつ投与時間の短縮

フェスゴは有効成分以外にも「ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)」が配合されています。

 

通常、抗体薬のような高分子タンパク製剤を皮下注投与しても、吸収率が悪く、なかなか思い通りの作用を発揮させることが困難です。

 

木元 貴祥
そのため、多くの抗体薬は静脈内投与で行われていますよね。

 

フェスゴに配合されているボルヒアルロニダーゼは皮下組織のヒアルロン酸を分解する酵素です。

皮下組織に抗体薬が投与された際の抵抗を減少させ、さらに抗体薬の浸透・吸収を促進すると考えられます。

ボルヒアルロニダーゼがヒアルロン酸を分解し、抗体薬の浸透を助ける

 

また、フェスゴは固定用量のため、患者さんの体重などによって投与量を計算する必要もありませんし、投与時間も大幅に削減されています!

フェスゴ パージェタ+
ハーセプチンの併用
投与時間1) 初回:8分以上
2回目以降:5分以上
初回:約150分
2回目以降:60~150分
用量 固定
(初回とそれ以降で異なる)
パージェタは固定
ハーセプチンは体重による
(初回とそれ以降で異なる)

 

海外で実施された患者さんの趣向を調査した試験(PHranceSCa試験)では、パージェタ+ハーセプチンの点滴静注製剤による併用療法よりも、フェスゴの皮下注投与の方が好まれたとの結果でした。2)

 

エビデンス紹介:FeDeriCa試験

治療効果のエビデンスについてはパージェタの記事で乳がん・大腸がんの承認根拠となった臨床試験を解説しているので、そちらをご参照ください。

パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序と副作用【乳がん/大腸がん】

続きを見る

 

ここでは乳がん・大腸がん患者さんを対象に、パージェタ+ハーセプチンの静脈内投与(既存品の併用)とフェスゴの有効性・安全性を比較した国際共同第Ⅲ相試験(FeDeriCa試験)をご紹介します。1)

 

本試験の主要評価項目は「7サイクル目におけるペルツズマブの最低血中濃度」とされ、既存品との非劣性が示されました。

 

また、奏効率等の有効性も同程度であったと報告されています。

 

木元 貴祥
効果と安全性が同程度で投与時間が短縮されているなんて素晴らしいですね!

 

用法・用量

IN製剤とMA製剤の含有量は以下の通りです。

  • IN製剤:ペルツズマブ1200mg+トラスツズマブ600mg
  • MA製剤:ペルツズマブ600mg+トラスツズマブ600mg

 

初回投与時にはペルツズマブ1200mgとトラスツズマブ600mgの固定用量として皮下投与し、それ以降はペルツズマブ600mgとトラスツズマブ600mgの固定用量として3週間毎に投与します。

 

つまり、初回のみ「IN製剤」を使用し、その後は「MA製剤」によって治療を継続していきます。

 

パージェタ+ハーセプチンからの切り替えは可能?

海外では既存品からの切り替えは可能とされています。

 

木元 貴祥
日本でも同じになるといいですね!

 

収載時の薬価

収載時(2023年11月22日)の薬価は以下の通りです。

  • フェスゴ配合皮下注 MA:268,695円(1日薬価:12,795円)
  • フェスゴ配合皮下注 IN:471,565円

 

算定根拠については、以下の記事で解説しています。

【新薬:薬価収載】13製品(2023年11月22日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

フェスゴはこんな薬

  • ペルツズマブとトラスツズマブの固定用量による配合皮下注製剤
  • 約5~8分で投与が完了
  • ペルツズマブとトラスツズマブがHER2とHER3の二量体形成を阻害
  • ボルヒアルロニダーゼがヒアルロン酸を分解し、抗体薬の浸透・吸収を促進する

 

これまでパージェタ+ハーセプチンが使用されていた乳がん・大腸がんでは、外来で投与できるものの、その投与時間の長さが懸念点でした。

 

配合薬のフェスゴとすることで、投与時間の大幅な削減が見込めることから、医療従事者・患者さんにとってもより治療しやすくなるのではないでしょうか。

 

木元 貴祥
既存薬で治療中の患者さんであっても切り替え可能だと予想されます!

 

以上、今回は乳がん・大腸がんと共に、フェスゴの作用機序・特徴について解説しました!

 

引用文献・資料等

  1. FeDeriCa試験:Lancet Oncol. 2021 Jan;22(1):85-97.
  2. PHranceSCa試験:Eur J Cancer. 2021 Jul;152:223-232.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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