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ビラフトビ/メクトビ併用療法の作用機序【悪性黒色腫・大腸がん】

2020年11月27日、「BRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」に対する以下の薬剤の適応拡大が承認されました!

  • ビラフトビ(エンコラフェニブ)
  • メクトビ(ビニメチニブ)

小野薬品|ニュースリリース

基本情報

製品名(一般名) ビラフトビカプセル(エンコラフェニブ)
メクトビ錠(ビニメチニブ)
製品名の由来 ビラフトビ:BRAF(薬理作用)+ TOVI(ヘブライ語由来で“good”の意味)から命名
メクトビ:MEK(薬理作用)+ TOVI(ヘブライ語由来で“good”の意味)から命名
製薬会社 製造販売:小野薬品工業(株)
提携:ARRAY
効能・効果 〇BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫
〇BRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん

 

ビラフトビはBRAF阻害薬メクトビはMEK阻害薬に分類され、2019年1月8日に悪性黒色腫の適応で承認されています。

 

木元 貴祥
基本的に両薬剤は併用して用いますね。

 

今回は悪性黒色腫・大腸がんとビラフトビとメクトビの作用機序についてご紹介していきます。

 

悪性黒色腫と治療

悪性黒色腫(メラノーマ)は皮膚がんの1つであり、ほくろのような黒色のがんができることからこのような名前が付けられています。

発生部位は足底(足のうら)が最も多く、体幹、顔面、爪が続きます。

 

悪性黒色腫は早期発見できれば手術で取り除くことができますが、発見時に他臓器に転移のあるような進行した場合は手術の適応とならず、抗がん剤や分子標的治療薬による治療が行われます。

 

主に使用される薬剤は以下があります。

 

 

今回ご紹介するビラフトビとメクトビはBRAF遺伝子変異あり(陽性)の場合に使用できる薬剤です。

 

大腸がんと治療

早期に発見された場合は手術によってがんを取り除くことができ、場合によっては術後の抗がん剤治療(術後補助化学療法)が行われます。

 

一方、発見時に他の臓器に転移(StagrⅣ)があったり、再発している場合、手術はできないため、抗がん剤(化学療法)による治療が基本です。

 

大腸がんの一次化学療法では抗がん剤(2〜3種)+分子標的薬(ベバシズマブなど)を用いた以下のいずれかの治療法が行われます。

  • FOLFOX+アバスチン/ベクティビクス/アービタックス
  • FOLFIRI+アバスチン/ベクティビクス/アービタックス
  • FOLFOXIRI+アバスチン
  • CAPOX+アバスチン
  • SOX+アバスチン
  • IRIS+アバスチン

 

参考:使用薬剤

 

アバスチン(ベバシズマブ)の詳細については以下の記事をご参考くださいませ。

アバスチン(ベバシズマブ)の作用機序とバイオシミラー【大腸がん】

続きを見る

 

なお、MSI-highが確認された場合、キイトルーダ(ペムブロリズマブ)が初回から単剤で使用可能です。MSI-highとキイトルーダについては以下で解説しています♪

キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】

続きを見る

 

一次化学療法に抵抗・不応の場合には二次化学療法としてサイラムザ(一般名:ラムシルマブ)ザルトラップ(一般名:アフリベルセプトベータ)を用いた治療等が行われます。

サイラムザ(ラムシルマブ)の作用機序【胃/大腸/肝細胞/肺がん】

続きを見る

 

また、大腸がんの約5%前後にはBRAF遺伝子変異が認められることがあり、この場合、上記の化学療法は効きが悪く、予後不良とされていました。

 

今回ご紹介するビラフトビとメクトビはBRAF遺伝子変異あり(陽性)の大腸がんの二次化学療法以降に使用されます。

 

BRAF遺伝子変異陽性の悪性黒色腫/大腸がん

がん細胞が増殖するメカニズムは様々な仕組みが存在していますが、がん細胞はしばしばEGFRと呼ばれるタンパク質を発現していることあります。

因子であるEGFが、がん細胞のEGFRに結合すると、その刺激が細胞内を伝達(シグナル伝達)し、核内に刺激が届けられます。

 

このシグナル伝達の中継点としてBRAFビーラフMEKメックが存在することが知られており、BRAFに伝わったシグナルはMEKに届けられ、核内まで届けられます。

がんの増殖とEGFR

 

核内まで刺激が伝達すると、増殖・活性化が促進され、がん細胞の増殖に繋がります。

ただし、因子であるEGFが存在しない場合、刺激が核に伝達しないため、がん細胞は増殖しません

 

悪性黒色腫の約20~30%、大腸がんの約5%前後の患者さんではBRAFの遺伝子に変異のあることが知られています。

 

BRAF遺伝子変異陽性の場合、因子であるEGFが存在しないにも関わらず、恒常的にBRAFから下流のシグナル伝達が核へと伝達されています。

 

そのため、MEKも間接的に活性化していると考えられます。

がんのBRAF遺伝子変異とMEKの活性化

 

木元 貴祥
このようにBRAF遺伝子に変異があると、常にがん細胞の増殖が活性化されています。

 

BRAF遺伝子に変異のある患者さんではがん細胞の増殖速度や転移が促進されており、更には薬剤が効きにくいことから予後不良とされていました。

 

ビラフトビ(エンコラフェニブ)とメクトビ(ビニメチニブ)の作用機序

ビラフトビは、BRAF遺伝子変異のあるBRAFを特異的に阻害する薬剤です!

変異したBRAFを阻害することでシグナル伝達を阻害させ、がん細胞の増殖を抑制するといった作用機序を有しています。

 

また、間接的にMEKも活性化しているため、MEKを特異的に阻害するメクトビを併用して用いることでシグナル伝達をより強固に阻害することが可能となります。

ビラフトビ(エンコラフェニブ)とメクトビ(ビニメチニブ)の作用機序

 

このように「ビラフトビ」と「メクトビ」は、BRAF遺伝子変異の悪性黒色腫に対して原則併用して使用されます。

 

BRAF遺伝子変異陽性の大腸がんの場合には、EGFRを選択的に阻害するモノクローナル抗体薬のアービタックス(一般名:セツキシマブ)と併用して用います。

 

副作用

主な副作用として、は悪心(30.7%)、下痢(27.1%)、疲労(25.0%)、血中CK(CPK)増加(21.4%)などが報告されています。

 

その他、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用に関して特に注意すべき副作用として、発疹、発熱、網膜色素上皮剥離、光線過敏症などがあります。

 

悪性黒色腫のエビデンスと類薬との違い

同様の作用機序(BRAF阻害/MEK阻害)を有する併用治療は以下があります。

  • タフィンラー(一般名:ダブラフェニブ):BRAF阻害薬
  • メキニスト(一般名:トラメチニブ):MEK阻害薬
タフィンラー/メキニストの作用機序【悪性黒色腫/肺がん/臓器横断】

続きを見る

 

服用方法・回数は、以下の通りです。1日1回と1日2回服用する薬剤があるのは共通していますね。

治療法 タフィンラー/メキニスト
併用療法
ビラフトブ/メクトビ
併用療法
薬剤(規格) タフィンラー
カプセル
(50mg/75mg)
メキニスト錠
(0.5mg/2mg)
ビラフトビ
カプセル
(50mg)
メクトビ錠
(15mg)
作用機序 BRAF阻害薬 MEK阻害薬 BRAF阻害薬 MEK阻害薬
併用時の通常用法
(進行・再発悪性黒色腫)
1回150mgを
1日2回
1回2mgを
1日1回
1回450mgを
1日1回
1回45mgを
1日2回
効能・効果(一部略) 進行・再発悪性黒色腫
悪性黒色腫の術後補助療法
進行・再発非小細胞肺がん
進行・再発悪性黒色腫

 

 

 

効能・効果的にはタフィンラー/メキニストの方が幅広いですし、服用錠剤(カプセル)数もタフィンラー/メキニストの方が少ないですね。

 

ビラフトビ/メクトビとタフィンラー/メキニストは共に海外の第Ⅲ相臨床試験1-3)において、ゼルボラフ(一般名:ベムラフェニブ)と比較して治療効果が優れていることが示されています。

 

しかし、ビラフトビ/メクトビとタフィンラー/メキニストを直接比較した臨床試験はありません

 

参考までに両臨床試験を見て使い分けについて検討したいと思います。

臨床試験名 COLUMBUS試験1)2) COMBI-V試験3)
試験群 ゼルボラフ ビラフトビ/
メクトビ
ゼルボラフ タフィンラー/
メキニスト
PFS中央値 7.3か月 14.9か月 7.3か月 11.4か月
HR=0.54, p=0.0001 HR=0.56, p<0.001
全生存期間中央値 16.9か月 33.6か月 17.2か月 未到達
HR=0.61, p<0.0001 HR=0.69, p=0.005
奏効率 40% 63% 51% 64%

PFS(無増悪生存期間):薬を投与してから、がんが大きく(増大)するまでの期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合

 

上記を比較すると、全体的にはビラフトビ/メクトビとタフィンラー/メキニストの治療効果にあまり差が無いように見受けられます。

 

もう少し詳しく見ていくと、PFSでは両試験のサブグループ解析において興味深い点がありました。

 

BRAF変異にはV600E変異V600K変異がありますが、

  • V600E変異ではタフィンラー/メキニスト(HR=0.56)が、
  • V600K変異ではビラフトビ/メクトビ(HR=0.27)が

ゼルボラフと比較してより良好な傾向でした。

 

その他、進行具合(Stage)についても両治療で違いがありました。

  • StageⅢ/ⅣM1a/ⅣM1bではタフィンラー/メキニスト(HR=0.39)が、
  • StageⅣM1cではビラフトビ/メクトビ(HR=0.48)が

ゼルボラフと比較してより良好な傾向でした。

 

即ち、より進行している患者さんではビラフトビ/メクトビの方が治療効果が高い可能性があります。

 

使い分けのポイント

以上より私の考える使い分けのポイントとしては、

  • BRAF遺伝子変異の違い
  • Stage(進行具合)の違い

でしょうか。

 

ただ、現状では効能・効果服用錠剤(カプセル)数を考えるとタフィンラー/メキニストで十分なのでは?と個人的に感じています。

 

あくまで個人的な意見であり、直接比較試験がない限り、両治療法の使い分けは明確ではないことにご注意ください。

 

大腸がんのエビデンス:BEACON CRC試験

BRAF遺伝子変異の大腸がんの根拠となった臨床試験をご紹介します(BEACON CRC試験)。4)

 

本試験は一次化学療法もしくは二次化学療法で不応・不耐となった大腸がん患者さんを対象に、以下の3群間を比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です。

  • FOLFIRI(もしくはカンプト単剤)+アービタックス(対象群)
  • ビラフトビ+メクトビ+アービタックス(3剤併用群)
  • ビラフトビ+アービタックス(2剤併用群)

 

主要評価項目は対象群に対する3剤併用群の「全生存期間」と「奏効率」の優越性を検証することとされ、結果は以下の通りでした。

試験群 対象群 3剤併用群 2剤併用群
全生存期間中央値 5.4か月 9.0か月 8.4か月
- 対象群との差
HR=0.52, p<0.001
対象群との差
HR=0.60, p<0.001
奏効率 2% 26% 20%
- 対象群との差
p<0.001
対象群との差
p<0.001

 

2剤併用も3剤併用も有意に対象群と比較して全生存期間の延長が認められていますね。

 

収載時の薬価

収載時(2019年2月26日)の薬価は以下の通りです。

  • ビラフトビカプセル50mg:3,180.70円(1日薬価:28,626.30円)
  • メクトビ錠15mg:4,836.80円(1日薬価:29,021.80)

 

算定方法等については以下の記事をご参照ください。

【新薬:薬価収載】13製品+再生医療等製品(2019年2月26日)

続きを見る

 

木元 貴祥
現在はビラフトビカプセル75mgも承認されていますよ~。

 

まとめ・あとがき

ビラフトビ/メクトビはこんな薬

  • ビラフトビはBRAFを特異的に阻害する
  • メクトビはMEKを特異的に阻害する
  • 原則併用して用いる(大腸がんの場合にはアービタックスも併用)

 

木元 貴祥
悪性黒色腫には近年様々な治療が登場してきています。

 

2018年には免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法も登場しました。

オプジーボとヤーボイ併用療法の作用機序【悪性黒色腫/腎/大腸/肺/食道がん】

続きを見る

 

BRAF遺伝子変異は悪性黒色腫だけでなく、様々ながんでも認められています。

今後はBRAF遺伝子変異の大腸がんに対してもビラフトビ/メクトビの使用が期待できますね。

 

以上、今回は悪性黒色腫と大腸がん、そしてビラフトビ(エンコラフェニブ)/メクトビ(ビニメチニブ)の作用機序についてご紹介しました!

 

引用文献・資料等

  1. COLUMBUS試験(主解析):Lancet Oncol. 2018 May;19(5):603-615.
  2. COLUMBUS試験(追加解析):Lancet Oncol. 2018 Oct;19(10):1315-1327.
  3. COMBI-V試験:N Engl J Med. 2015 Jan 1;372(1):30-9.
  4. BEACON CRC試験:N Engl J Med 2019; 381:1632-1643

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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