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2022年2月25日、「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」の一次治療を対象疾患とするレンビマ(レンバチニブ)+キイトルーダ(ペムブロリズマブ)併用療法の適応拡大が承認されました!
エーザイ|ニュースリリース
キイトルーダは免疫チェックポイント阻害薬に分類されていて、両剤の併用療法は2021年12月に承認された子宮体がんに次いで2つ目ですね。キイトルーダについては下記記事で解説しています。
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キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】
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レンビマカプセルは2規格あり、それぞれ適用が異なっていますのでご注意ください。
4mg | 10mg | |
根治切除不能な甲状腺がん (2015年3月承認) |
〇 | 〇 |
切除不能な肝細胞がん (2018年3月承認) |
〇 | - |
切除不能な胸腺がん (2021年3月承認) |
〇 | 〇 |
がん化学療法後に増悪した切除不能な子宮体がん (2021年12月承認、キイトルーダ併用) |
〇 | 〇 |
根治切除不能又は転移性の腎細胞がん (キイトルーダ併用) |
〇 | 〇 |
今回は甲状腺がん・肝細胞がん・子宮体がん・腎細胞がんと共に、レンビマ(レンバチニブ)の作用機序についてご紹介します。
肝細胞がんと治療薬
肝細胞がんの最も重要な原因は「肝炎ウイルスの持続感染」です。
肝炎ウイルスにはA、B、C、D、Eなど色々な種類が存在していますが、肝細胞がんと関係があるのは、C型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスです。
肝細胞がんの約60%がC型肝炎ウイルス、約15%がB型肝炎ウイルスの持続感染に起因すると言われています。
C型肝炎ウイルスの治療薬については、近年、続々と新薬が登場しているため、治癒が期待できるようになってきました。
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マヴィレット(ピブレンタスビル/グレカプレビル)の作用機序【C型肝炎】
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そして肝細胞がんの発見時に既に転移が認められている場合や再発の場合、薬物治療が基本となります。一次治療としては分子標的薬の単剤治療が主です。
主に使用される分子標的薬としては、
- ネクサバール(一般名:ソラフェニブ)
- レンビマ(一般名:レンバチニブ)
などがあります。
最近では一次治療において、テセントリク(アテゾリズマブ)+アバスチン(ベバシズマブ)も承認され、治療選択肢が広がってきていますね。
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テセントリク(アテゾリズマブ)の作用機序【肺がん/乳がん/肝がん】
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また、上記治療に抵抗・不耐の場合、二次治療が行われます。具体的な治療法としては、以下ですね。
甲状腺がんと治療
甲状腺がんは、気管の付近、頸部の前面に位置する甲状腺の組織に生じるがんの一種です。
最も多く見られる甲状腺がんの種類である乳頭がんと濾胞がんは、分化型甲状腺がんとして分類され、甲状腺がんのおよそ95%を占めます。その他、未分化がん(頻度:3~5%)、髄様がん(頻度:1~2%)があります。
分化型甲状腺がん患者様の多くは、手術および放射性ヨウ素療法で治療できる一方、これらの治療に適さない少数の患者さんもいます。
今回ご紹介するレンビマは、切除不能(手術ができない)で、放射性ヨウ素療法にも抵抗を示した患者さんに対して使用することが可能です。
子宮体がんと治療
子宮は下部の筒状の「子宮頸部」と、上部の袋状の「子宮体部」に分けられますが、子宮体部から発生するがんを「子宮体がん」と呼んでいます(子宮内膜から発生するので子宮内膜がんとも呼ぶ)。
子宮体がんの治療の基本は手術です。手術後は進行度(ステージ)の決定を行い、再発リスクが高い場合にはプラチナ製剤を含んだ術後補助化学療法が行われることもあります。
また、手術が不可能であったり、全身に転移している場合や、再発した場合には化学療法を行います。
主に使用される化学療法としては、
- ドキソルビシン+シスプラチン
- パクリタキセル+カルボプラチン
などです。
主に使用されるのはプラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)、タキサン系(パクリタキセルやドセタキセル)、ドキソルビシンで、非常に選択肢が少なく新たな治療法が望まれていました。
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タキソールとタキソテールの作用機序と副作用【抗がん剤】
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腎細胞がんと治療薬
腎臓の中でも、腎実質の細胞から発生するのが腎細胞がんです。
腎細胞がんは初期では手術で取り除くことが可能ですが、肝臓や他臓器に転移が認められる場合、手術で取り除くことが困難になります。
一般的に、他の臓器のがんでは、手術により切除できない場合や他の臓器に転移が見られた場合には、抗がん剤による化学療法が行われます。
しかし、腎細胞がんの場合、これまでの抗がん剤ではがんに対する感受性が低く、一般的に化学療法が行われることはありませんでした。
かつて、薬物治療として唯一行われてきたのが、インターフェロンα(IFN-α)製剤やインターロイキン2(IL-2)製剤を用いたサイトカイン療法でした。
その後、分子標的治療薬として以下の薬剤が登場し、現在ではこれらの薬剤が一次治療の中心です。
- オプジーボ(一般名:ニボルマブ)とヤーボイ(一般名:イピリムマブ)併用療法
- スーテント(一般名:スニチニブ):チロシンキナーゼ阻害薬
- ヴォトリエント(一般名:パゾパニブ):チロシンキナーゼ阻害薬
- ネクサバール(一般名:ソラフェニブ):チロシンキナーゼ阻害薬
- トーリセル(一般名:テムシロリムス):mTOR阻害薬
- アフィニトール(一般名:エベロリムス):mTOR阻害薬
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オプジーボとヤーボイ併用療法の作用機序【悪性黒色腫/腎/大腸/肺/食道がん】
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これら薬剤の使い分けですが、下記のIMDCリスク分類(低・中・高リスク)による使い分けがよく行われています。1)
予後予測の6因子 | 何項目当てはまるか | ||
0個 | 1-2個 | 3個以上 | |
|
低リスク | 中リスク | 高リスク |
低リスクにはスーテントやネクサバールなどの分子標的治療薬単剤、中・高リスクには免疫チェックポイント阻害薬を用いた併用療法が使用されることが多いです。
最近では一次治療として以下のような免疫チェックポイント阻害薬+分子標的治療薬も承認されましたので、今後様々な使い分けが検討されていくと思われます。
今回ご紹介するレンビマも一次治療としてキイトルーダとの併用が可能です!
がんの血管新生と増殖機構
がん全般的に言えることですが、がん細胞が大きくなるためには多くの栄養素や酸素が必要となります。
そこでがん細胞は、自分のところに血管を無理やり作らせようとし、それに関与する因子として、がん細胞はVEGF(血管内皮細胞増殖因子)やFGF(線維芽細胞増殖因子)などを放出することが知られています。
これらの因子が、血管のVEGF受容体(VEGFR)やFGF受容体(FGFR)に結合すると、がん細胞に対して異常な血管が作られ(これを“血管新生”といいます)、この血管を通じてがん細胞は大量の栄養と酸素を得ることができます。
そうすることでがん細胞はどんどんと成長し、他臓器へ転移もしやすくなってしまいます。
また、がん細胞の細胞膜にはしばしばRETやFGF受容体(FGFR)が存在していて、特にRET遺伝子に変異があると、RETが恒常的に活性化している状態になります。
これらRETやFGFRからのシグナル伝達が、がん細胞の核内に到達すると、がん細胞の増殖が活性化されます。
レンビマ(レンバチニブ)の作用機序
レンビマはVEGFR、FGFR、RETを特異的に阻害するマルチキナーゼ阻害薬です。
がんの血管新生に関与しているVEGFRとFGFRを阻害することで、がんの血管新生が抑制され、がんの成長を抑制することができます。
また、がん細胞のRETやFGFRを阻害することで、シグナル伝達が阻害され、がんの増殖活性を抑制することができます。
この他にも血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)αや幹細胞因子受容体(KIT)を阻害する作用も有しています。
レンビマは上記のように、がん細胞の増殖に関与する様々な受容体を阻害する作用機序によって、がん細胞の増殖・成長・活性化を抑制します。
ちなみにPD-1やPD-L1を阻害する免疫チェックポイント阻害薬とレンビマを併用することで抗腫瘍効果が高まることがマウスの研究等2)で報告されていますよ~。
ではここから各がんに対するエビデンスということで、代表的な肝細胞がんと子宮体がんを紹介していきましょう!
肝細胞がんのエビデンス紹介:REFLECT試験
肝細胞がんの初回治療に使用する類薬にはネクサバール(一般名:ソラフェニブ)があり、転移・再発肝細胞がんの初回の薬物療法として使用できる薬剤は今までネクサバールしかありませんでした。
初回薬物療法としてレンビマとネクサバールを直接比較した臨床試験(REFLECT試験)をご紹介します。3)
本試験は転移・再発肝細胞がん患者さんを対象に初回薬物療法としてレンビマとネクサバールを直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。
本試験は、ネクサバールに対するレンビマの非劣性を検証する試験で、主要評価項目は「全生存期間(OS)」とされました。
試験名 | REFLECT試験 | |
試験群 | レンビマ | ネクサバール |
全生存期間(OS) 中央値 |
13.6か月 | 12.3か月 |
HR=0.92 (非劣性が証明) | ||
無増悪生存期間(PFS) 中央値* |
7.4カ月 | 3.7か月 |
HR=0.66, p<0.0001 | ||
奏効率† | 24.1% | 9.2% |
p<0.0001 |
*無増悪生存期間(PFS):治療開始からがんが増大(増悪)するまでの期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合
上記の結果より、レンビマとネクサバールの生存期間は同程度であることが示されましたね。
また、副作用については、食欲低下、高血圧、蛋白尿、体重減少などはレンビマ群で高く、手足症候群はネクサバール群で高い結果でした。
今後、レンビマとネクサバールの使い分けを考える上では大切な臨床試験結果だと思われます。
子宮体がんのエビデンス:KEYNOTE-775試験
子宮体がんの根拠となった臨床試験を紹介します(KEYNOTE-775試験)。4)
KEYNOTE-775試験は少なくとも1レジメンのプラチナ系抗がん剤による前治療歴のある進行子宮内膜がん患者さんを対象に、レンビマ+キイトルーダ群と医師選択化学療法群(ドキソルビシンまたはパクリタキセル)を比較した第Ⅲ相試験です。
本試験の主要評価項目は「OS」と「PFS」とされ、結果は以下の通りでした。
試験名 | KEYNOTE-775試験 | |
試験群 | レンビマ+ キイトルーダ |
医師選択化学療法 |
OS中央値 | 18.3か月 | 11.4か月 |
HR=0.62(95%CI:0.51-0.75) p<0.0001 |
||
PFS中央値 | 7.2か月 | 3.8か月 |
HR=0.56(95%CI:0.47-0.66) p<0.0001 |
||
奏効率 | 31.9% | 14.7% |
p<0.0001 |
いずれの評価項目でも有意にレンビマ+キイトルーダ群で改善していました!
腎細胞がんのエビデンス:CLEAR試験(KEYNOTE-581試験)
腎細胞がんの根拠となった臨床試験をご紹介します(KEYNOTE-581試験、別名CLEAR試験)。5)
本試験は低・中・高リスクの進行腎細胞がん患者さんを対象に、スーテント(スニチニブ)群、レンビマ+アフィニトール(エベロリムス)群、レンビマ+キイトルーダ群を比較する第Ⅲ相臨床試験です。
主要評価項目は「PFS」とされ、結果は以下の通りでした。
レンビマ+ キイトルーダ群 |
スーテント群 | レンビマ+ アフィニトール群 |
|
PFS中央値 | 23.9か月 | 9.2か月 | 14.7か月 |
HR=0.39(95%CI:0.32-0.49) P<0.001 |
- | ||
- | HR=0.65(95%CI:0.53-0.80) P<0.001 |
レンビマ+キイトルーダ群はスーテント群と比較して有意なPFSの延長が示されていますね!
あとがき
これまで転移・再発肝細胞がんの初回薬物療法はネクサバールしか治療選択肢がありませんでした。
初回薬物療法の薬としては、約10年ぶりの登場です!レンビマが登場したことで治療選択肢が増え、患者さんにとっては朗報ではないでしょうか。
また、今回は割愛しましたが、2021年3月には胸腺がんの適応拡大も承認されています。
これまで切除不能な胸腺がんに対して国内で承認された薬剤は無く、カルボプラチンとパクリタキセルとの併用投与のみが保険適応(未承認ですが、保険償還可能)とされていました。
2021年には子宮体がんで初の分子標的治療薬(レンビマ)かつ初の免疫チェックポイント阻害薬(キイトルーダ)の併用も承認されました。これまで治療選択肢が少なかったのですが、今後の治療成績向上を期待していと思います。
以上、今回は甲状腺がんと肝細胞がん、子宮体がん、腎細胞がんを中心に、レンビマ(レンバチニブ)の作用機序についてご紹介しました!
キイトルーダについては別記事で解説しています♪
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キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】
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参考資料・論文
- 日本泌尿器科学会:腎癌診療ガイドライン 2017年版
- J Clin Oncol. 2020 Sep 10;38(26):2981-2992.
- REFLECT試験:Lancet. 2018 Mar 24;391(10126):1163-1173.
- KEYNOTE-775試験:N Engl J Med 2022; 386:437-448
- KEYNOTE-581試験:N Engl J Med 2021; 384:1289-1300
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