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ベルスピティ(エトラシモド)の作用機序【潰瘍性大腸炎】

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2025年6月4日、厚労省の薬事審議会・医薬品第一部会にて「潰瘍性大腸炎」を対象疾患とするベルスピティ錠(エトラシモド)の承認可否が審議される予定です!

ファイザー|申請のニュースリリース

現時点では未承認のためご注意ください。

基本情報

製品名 ベルスピティ錠2mg
一般名 エトラシモド L-アルギニン
製品名の由来
製造販売 ファイザー(株)
効能・効果 中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)?
用法・用量 1日1回経口投与?
収載時の薬価
発売日

 

木元 貴祥
木元 貴祥
ベルスピティはS1P受容体調節薬に分類されていますね。

 

既に潰瘍性大腸炎においては、同様の作用機序を有するゼポジア(オザニモド)が承認されています。

ゼポジア(オザニモド)の作用機序【潰瘍性大腸炎】

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中等症から重症の潰瘍性大腸炎に対して使用できる経口薬ですので、ジセレカ(フィルゴチニブ)リンヴォック(ウパダシチニブ)などのJAK阻害薬と同様の位置付けです。

JAK阻害薬の一覧表(経口7製品)と作用機序のまとめ

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今回は潰瘍性大腸炎とベルスピティ(エトラシモド)の作用機序、根拠となったエビデンスについてご紹介します。

 

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患(炎症を伴う腸疾患)の1つであり、大腸の粘膜に炎症が起き、ただれたり、潰瘍が発生する疾患です。

好発年齢は10歳代後半~30代前半で、比較的若年者にみられます。

 

主な自覚症状としては、粘血便、下痢、腹痛などの症状が持続的かつ反復的にみられ、症状が悪化すると体重減少や発熱など、全身の症状が起こることもあるようです。

特に初期症状としては粘血便が多いとされています。

 

潰瘍性大腸炎の多くは、寛解(症状が落ち着いている状態)と再燃(症状が悪化している状態)を繰り返します。

長い経過のなかでは、徐々に病気が進行し、重大な合併症を引き起こすこともあり、さらに、長期間罹患していると、大腸がんの発現率も高くなると言われています!!

 

潰瘍性大腸炎の原因

明確な原因は未だ不明とされていますが、

  • 免疫異常等の遺伝因子
  • 食習慣等の環境因子
  • ストレス等の心理学的因子

が複雑に関与して発症すると考えられています。

 

何らかの自己免疫異常によって、免疫細胞(リンパ球など)が自分自身の大腸粘膜を「異物」としてみなして攻撃してしまうことで大腸粘膜に炎症が引き起こされます。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
このような持続的な自己免疫異常が潰瘍性大腸炎の発症と炎症の持続に関与すると言われています。

 

リンパ球(T細胞やNK細胞など)は通常、リンパ節・リンパ管内に存在していて、適宜血中や組織に移動することで体内の免疫を維持しています。

 

リンパ節から血中・組織に移動する際には、リンパ球に発現している「S1P受容体」にS1P(スフィンゴシン1-リン酸)が結合することで、リンパ球は血中や組織に移動することができます。

S1P受容体は、リンパ球がリンパ節から血中・組織に移行する際に重要な役割を担う。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
リンパ球の移動(リンパ節→血中)に関わるのがS1P受容体ということですね。

 

潰瘍性大腸炎の治療

潰瘍性大腸炎は、その病状により、「軽症」「中等症」「重症」に分類されています。

 

潰瘍性大腸炎は原因が不明なため、腸管の炎症が活動な状態(活動期)を抑えて症状を鎮め、寛解の状態(寛解期)を維持することが治療の主な目標です。

治療は薬物療法が主体となりますが、薬物療法が有効でない場合や腸閉塞、穿孔などの合併症では外科治療血球成分除去療法などが行われることもあります。

 

潰瘍性大腸炎の薬物療法は、活動期の炎症を抑えて落ち着かせ寛解に持ち込む「寛解導入療法」と、寛解を長期に維持して再燃を防ぐ「寛解維持療法」の2つに分けられます。

 

初期に行う主な薬物療法は、以下の薬剤があり、重症度によって適宜併用して用います。1-2)

  • 5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤):メサラジン、サラゾスルファピリジン
    ⇒寛解導入療法・寛解維持療法共に使用可能
  • 副腎皮質ホルモン:ブレドニゾロン、ブデソニド
    ⇒寛解導入療法に使用可能
  • 免疫調整薬:アザチオプリン、6-メルカプトプリン
    ⇒寛解維持療法に使用可能

 

最近では5-ASA製剤の治療歴がある中等症の潰瘍性大腸炎の寛解導入療法にカログラ(カロテグラスト)が使用できるようになりました。

カログラ(カロテグラスト)の作用機序【潰瘍性大腸炎】

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2023年には、軽症~中等症に使用するブデソニドの経口DDS製剤のコレチメント錠も登場しました!軽症から使用できるため、カログラより先行して使用です。

コレチメント(ブデソニド)の作用機序:レクタブルとの違い【潰瘍性大腸炎】

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また、上記の標準治療薬剤を使用しても症状が改善しない場合、「難治」とされ、以下のような生物学的製剤(抗TNFα抗体製剤)や経口JAK阻害薬の使用が検討されます。

 

潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針

 

今回ご紹介するベルスピティは、類薬のゼポジア(オザニモド)や経口JAK阻害薬と同様に、5-ASA製剤やステロイドの治療歴を有する中等症から重症の潰瘍性大腸炎に対して使用が見込まれます。また、難治例の寛解維持療法としても使用可能です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
それではここから、ベルスピティの作用機序について解説していきます♪

 

ベルスピティ(エトラシモド)の作用機序:S1P受容体調整

ベルスピティはリンパ球に発現しているS1P受容体に結合するS1P受容体調節薬です。

ベルスピティがリンパ球のS1P受容体に結合することで、S1P受容体をリンパ球内に内在化させます。そのため、リンパ球はS1Pと結合することができなくなり、血管内および組織への輸送が抑制されると考えられています。

ベルスピティ(エトラシモド)の作用機序:S1P受容体調整

 

木元 貴祥
木元 貴祥
上記の作用によって、大腸組織へのリンパ球の移動も抑制されるため、潰瘍性大腸炎の炎症抑制効果が期待できますね。

 

なお、S1P受容体には、S1P受容体1、2、3、4、5がありますが、ゼポジアは特にS1P受容体1、4、5に高親和性で結合すると考えられています。

 

エビデンス紹介:ELEVATE UC試験

根拠となった臨床試験は以下の2つです。3)

  • ELEVATE UC 52試験:プラセボ対照の最長52週間投与で寛解導入療法と寛解維持療法の有用性を検証(日本人含まず)
  • ELEVATE UC 12試験:プラセボ対照の12週間投与で寛解導入療法の有用性を検証(日本人を含む

 

今回は代表例として、UC 52試験をご紹介します。

本試験は中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎で、1つ以上の承認された潰瘍性大腸炎治療効果が不十分または減弱が認められる、もしくは不耐の成人患者さんを対象に、プラセボとベルスピティを比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は、12週時点および52週時点における「臨床的寛解を示した患者の割合」とされ、結果は以下の通りでした。

プラセボ群 ベルスピティ群
12週時点の
臨床的寛解率
7% 27%
p<0.0001
52週時点の
臨床的寛解率
7% 32%
p<0.0001

 

木元 貴祥
木元 貴祥
いずれもベルスピティ群にて、臨床的寛解率の有意な改善が認められていました。

 

副作用

正式承認後に更新予定です。

類薬のゼポジアでは、重大な副作用として「徐脈性不整脈」などが挙げられていますので、同様の注意が必要だと考えられます。

 

S1P1は心拍数の調節に関与する重要な受容体サブタイプの一つであると考えられていて、ベルスピティなどのS1P受容体調節薬は投与開始後に一過性かつ用量依存的な徐脈性不整脈を引き起こすことが報告されています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
特徴的な副作用ですので、ぜひ覚えておきましょう。

 

用法・用量

正式承認後に更新予定です。

臨床試験では、1日1回経口投与とされていました。

 

収載時の薬価

現時点では未承認かつ薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

ベルスピティはこんな薬

  • 潰瘍性大腸炎ではゼポジアに次ぐS1P受容体調節薬
  • リンパ球のS1P受容体を内在化することで、リンパ節から血中・組織への移動を抑制する
  • 1日1回経口投与
  • 徐脈性不整脈に注意が必要

 

近年、潰瘍性大腸炎の領域は生物学的製剤(例:オンボー)や経口治療薬(JAK阻害薬やカログラ)などの開発が活発です。

オンボー(ミリキズマブ)の作用機序【潰瘍性大腸炎/クローン病】

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これまで治療選択肢が少なかったことから、選択肢が増えることは朗報ではないでしょうか。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
今後は各薬剤の使い分け等が検討されれば興味深いですね!

 

以上、今回は潰瘍性大腸炎とベルスピティ(エトラシモド)の作用機序、根拠となったエビデンスについてご紹介しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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