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2022年3月28日、ジセレカ(フィルゴチニブ)の効能・効果に「中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を追加することが承認されました。
ギリアド・サイエンシズ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ジセレカ錠100mg/200mg |
一般名 | フィルゴチニブマレイン酸塩 |
製品名の由来 | フィルゴチニブマレイン酸塩の選択的JAK阻害プロファイルに由来 (JYSELECA:JAK と selective の造語) |
製薬会社 | 製造販売:ギリアド・サイエンシズ(株) 販売:エーザイ(株) |
効能・効果 | ●既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む) ●中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る) |
用法・用量 | 1日1回経口投与 |
収載時の薬価 | 100mg:2,550.90円 200mg:4,972.80円(1日薬価:4,972.80円) |
ジセレカは2020年9月25日に「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」を効能・効果として承認された新規JAK阻害薬です。
関節リウマチに使用するJAK阻害薬としては以下に次いで5製品目となりました。
また、ゼルヤンツ(トファシチニブ)に次いで2製品目の潰瘍性大腸炎の適応です!
-
ゼルヤンツ(トファシチニブ)の作用機序【関節リウマチ/潰瘍性大腸炎】
続きを見る
今回は関節リウマチ・潰瘍性大腸炎とジセレカ(フィルゴチニブ)の作用機序とエビデンスについてご紹介します☆
関節リウマチとは
一般に、骨や関節、筋肉などが全身的な炎症を伴って侵される病気を総称して「リウマチ性疾患」といいます。
このうち、関節に炎症が続いて、関節が徐々に破壊され、やがて機能障害を起こす疾患のことを「関節リウマチ」と呼んでいます。
関節リウマチの特徴的な症状は「関節の腫れ」で、最も発現しやすい部位は、手首や手足の指の関節です。
また、関節リウマチの症状は「対称性」といって、左右両側の関節に発現することが多いのが特徴です。
全身症状としては、貧血症状、倦怠感(体がだるい)、微熱等があり、これが現れると症状が悪化していくと言われています。1)
関節リウマチの原因
関節リウマチの明確な発症原因は不明確ですが、
- 遺伝的素因
- 環境要因(ストレス、食生活、肥満等)
などによって、免疫機能が異常になることで発症すると考えられています。
免疫系が異常に活動する結果として、関節滑膜組織にリンパ球、マクロファージなどの白血球がでてきます。
このリンパ球やマクロファージが産生するサイトカイン(TNFα、IL-6など)と呼ばれる物質の作用により関節内に炎症反応が引き起こされると考えられています。
特に、IL-6は関節リウマチ患者の血清中および滑液中に最も多く認められるサイトカインで、IL-6のレベルは疾患活動性および関節破壊と相関すると言われています。
関節リウマチの治療
治療には通常、痛みを抑えるNSAIDsや炎症を抑えるステロイド、抗リウマチ薬(DMARD:“ディーマード”と読みます)が使用されます。2)
これらの薬剤を使用しても進行が抑えられない場合、生物化学的製剤や今回ご紹介するジセレカが使用されます。
生物学的製剤は細胞の外で作用するのに対し、ジセレカは細胞の中(細胞内)で作用する薬剤です。
生物学的製剤についてはまとめ記事をご参考ください。
-
【関節リウマチ】生物学的製剤の作用機序・副作用・特徴のまとめ
続きを見る
潰瘍性大腸炎と治療
潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患(炎症を伴う腸疾患)の1つであり、大腸の粘膜に炎症が起き、ただれたり、潰瘍が発生する疾患です。
好発年齢は10歳代後半~30代前半で、比較的若年者にみられます。
主な自覚症状としては、粘血便、下痢、腹痛などの症状が持続的かつ反復的にみられ、症状が悪化すると体重減少や発熱など、全身の症状が起こることもあるようです。
特に初期症状としては粘血便が多いとされています。
潰瘍性大腸炎の多くは、寛解(症状が落ち着いている状態)と再燃(症状が悪化している状態)を繰り返します。
長い経過のなかでは、徐々に病気が進行し、重大な合併症を引き起こすこともあり、さらに、長期間罹患していると、大腸がんの発現率も高くなると言われています!!
また、初期に行う主な薬物療法は以下の薬剤があり、重症度によって適宜併用して用います。3)
- 5-ASA製剤:メサラジン、サラゾスルファピリジン
- 副腎皮質ホルモン:ブレドニゾロン、ブデソニド
- 免疫調整薬:アザチオプリン、6-メルカプトプリン
初期治療を使用しても症状が改善しない場合、「難治」とされ、以下のような生物学的製剤(抗TNFα抗体製剤)の使用が検討されます。3)
- レミケード点滴静注(一般名:インフリキシマブ)
- ヒュミラ皮下注(一般名:アダリムマブ)
- シンポニー皮下注(一般名:ゴリムマブ)
最近では新規の作用機序(α4β7インテグリン阻害)を有する生物学的製剤のエンタイビオ(ベドリズマブ)も登場してきました。
-
エンタイビオ(ベドリズマブ)の作用機序【潰瘍性大腸炎/クローン病】
続きを見る
ジセレカ(フィルゴチニブ)の作用機序
炎症性サイトカインであるTNFαやIL-6、IL-2等が炎症を引き起こす際、それらが各受容体に結合して刺激が核に伝えられます。
各受容体には「ヤヌスキナーゼ(JAK:“ジャック”)」と呼ばれるタンパク質が付随していて、JAKを介してシグナルが核へと届けられます。
核内に刺激が到達すると、炎症反応が引き起こされ、関節リウマチが進行してしまいます。
JAKにはJAK1~3までありますが、特にTNFαやIL-6の作用する受容体はJAK-1が関与していることが知られています。
ジセレカはJAKの中でもJAK1を選択的に阻害する薬剤です。
JAK1を阻害することで、TNFαやIL-6による刺激が核に伝わるのを遮断して炎症を抑え、関節リウマチや潰瘍性大腸炎の進行を抑制すると考えられています。
関節リウマチのエビデンス紹介:FINCH試験
関節リウマチの根拠となった臨床試験にはいくつかの第Ⅲ相臨床試験があります。
- FINCH 1試験:メトトレキサート(MTX)で効果不十分な関節リウマチ患者さんを対象に、MTX併用におけるジセレカとアダリムマブの比較試験
- FINCH 2試験:生物学的製剤で効果不十分な関節リウマチ患者さんを対象に、DMARD併用におけるジセレカとプラセボの比較試験3)
- FINCH 3試験:MTX治療歴のない中等症〜重症の関節リウマチ患者さんを対象に、ジセレカ、ジセレカ+MTX、MTX単剤の比較試験
今回は代表例としてFINCH 2試験をご紹介します。本試験は生物学的製剤で効果不十分な中等度から重度の関節リウマチ患者さんに対して、ジセレカ100mg群または200mg群とプラセボ群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。(DMARDを併用)
主要評価項目は投与12週時点の「ACR20%改善率*」でした。
プラセボ群 | ジセレカ 100mg群 |
ジセレカ 200mg群 |
|
投与12週時点の ACR20%改善率 |
31.1% | 57.5% | 66.0% |
- | プラセボとの差: いずれもP<0.001 |
*米国リウマチ学会の関節リウマチの診断基準で、20%以上改善した割合
潰瘍性大腸炎の根拠試験については詳細は割愛しますが、国際共同で実施された第Ⅱb/Ⅲ相試験のSELECTION試験4)が根拠です。
用法・用量
<関節リウマチ>
通常、成人にはフィルゴチニブとして200mgを1日1回経口投与します。なお、患者の状態に応じて100mgを1日1回投与も可能です。
<潰瘍性大腸炎>
通常、成人にはフィルゴチニブとして200mgを1日1回経口投与します。なお、維持療法では、患者の状態に応じて100mgを1日1回投与できます。
副作用
重大な副作用として、
- 感染症:帯状疱疹(0.2%)及び肺炎(0.3%)等
- 消化管穿孔(頻度不明)
- 好中球減少(0.1%)、リンパ球減少(0.1%未満)、ヘモグロビン減少(頻度不明)
- 肝機能障害:ALT上昇(0.8%)、AST上昇(0.7%)等
- 間質性肺炎(頻度不明)
- 静脈血栓塞栓症(頻度不明)
が挙げられていますので特に注意が必要です。
特に結核、肺炎、敗血症、ウイルス感染などの重篤な感染症は他の経口JAK阻害薬も同じですね。
他のJAK阻害薬一覧
関節リウマチ・潰瘍性大腸炎や他疾患に使用するJAK阻害薬を以下の記事で比較・一覧表を作成していますので、是非ご参考くださいませ。
- ゼルヤンツ(一般名:トファシチニブ)
- オルミエント(一般名:バリシチニブ)
- スマイラフ(一般名:ペフィシチニブ)
- リンヴォック(一般名:ウパダシチニブ)
- ジセレカ(一般名:フィルゴチニブ)
- サイバインコ(一般名:アブロシチニブ)
- コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)
- リットフーロカプセル(リトレシチニブ)
-
JAK阻害薬の一覧表(経口7製品)と作用機序のまとめ
続きを見る
収載時の薬価
薬価収載時(2020年11月18日)の薬価は以下の通りです。
- ジセレカ錠100mg:2,550.90円
- ジセレカ錠200mg:4,972.80円(1日薬価:4,972.80円)
算定根拠については以下をご覧ください。
-
【新薬:薬価収載】9製品(2020年11月18日)
続きを見る
まとめ
ジセレカはこんな薬
- JAK1を選択的に阻害するJAK阻害薬
- 1日1回の経口投与
- 類薬にはゼルヤンツ、オルミエント、スマイラフ、リンヴォックがある
- 重篤な感染症には注意が必要
DMARDsで効果不十分な関節リウマチではこれらJAK阻害薬もしくは生物学的製剤の使用が検討されますが、優先順位等は明確に定められていません。
今後は生物学的製剤を含め、JAK阻害薬同士の使い分け等も検討されれば興味深いと感じますね。
以上、今回は関節リウマチに使用する新規のJAK阻害薬のジセレカ(フィルゴチニブ)と類薬の違い・比較についてご紹介しました!
生物学的製剤のまとめも記事も是非ご覧ください。
-
【関節リウマチ】生物学的製剤の作用機序・副作用・特徴のまとめ
続きを見る
他疾患ですが、アトピー性皮膚炎でも外用薬(塗り薬)のJAK阻害薬が2020年に承認されていますので、是非ご確認ください。
-
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)の作用機序【アトピー性皮膚炎】
続きを見る
引用文献・資料等
- 日本整形外科学会|関節リウマチ
- 日本リウマチ学会|関節リウマチ診療ガイドライン2024
- 日本消化器病学会ガイドライン:炎症性腸疾患(IBD)
- FINCH 2 試験:JAMA 2019 Jul 23;322(4):315-325.
- SELECTION試験:Lancet. 2021 Jun 19;397(10292):2372-2384.
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