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2022年3月28日、「心不全における体液貯留」を対象疾患とするサムタス点滴静注用(トルバプタンリン酸エステルナトリウム)が承認されました!
大塚製薬|ニュースリリース
基本情報
製品名 | サムタス点滴静注用8mg/16mg |
一般名 | トルバプタンリン酸エステルナトリウム |
製品名の由来 | バソプレシン V2-受容体拮抗薬の経口剤「Samsca®(サムスカ®)」のプロドラッグとして、 点滴静注用製剤が新たに加わる(足す、+)ことに由来する |
製造販売 | 大塚製薬(株) |
効能・効果 | ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留 |
用法・用量 | 通常、成人にはトルバプタンリン酸エステルナトリウムとして 16mgを1日1回1時間かけて点滴静注する。 |
収載時の薬価 | 8mg:1,160円 16mg:2,169円 |
発売日 | 2022年5月30日新発売(HP) |
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サムスカ(トルバプタン)の作用機序と副作用【心不全】
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サムスカをリン酸エステル化することで水溶性を向上させ、静脈内注射用製剤としたものがサムタスとお考えください。プロドラッグの位置付けです。
サムスカはOD錠・顆粒剤のみでしたからねー。後発品対策でしょうか・・・?
今回は慢性心不全の疾患とサムタスの作用機序・特徴について解説していきます!
心臓と血液循環
ご存知の通り、心臓は大きく4つの部位(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれていて、通常、成人の心臓は以下の図のような流れで血液が循環しています。
- 右心房に血液が流入(大静脈)
- 右心室から肺に血液を送る(肺動脈)
- 肺で酸素を受け取る
- 左心房に血液が流入(肺静脈)
- 左心室から全身に血液を送る(大動脈)
このように心臓は血液を肺や全身に送る際のポンプとしての役割を担っています。
心不全の症状と分類
心臓の器質的もしくは機能的な障害によって、心臓のポンプ機能が低下して十分な血液を送り出すことができなくなった状態を「心不全」と呼んでいます。
その結果、肺や全身の静脈に血が溜まり、うっ血による症状が主体となります。従って、心不全のことを「うっ血性心不全」と呼ぶこともあります。
用語解説:静脈に血が溜まることを「うっ血」と呼びます。
心不全は進行速度や緊急性に応じて以下に分類されますが、薬物治療が関係するには慢性心不全ですので、今回は慢性心不全を中心に解説します。
- 急性心不全:急激に進行し、治療に緊急性を要する
- 慢性心不全:無症状状態が長期間続き、徐々に進行する
このような心不全の原因のほとんどは心室(左心室and/or右心室)の異常です。
左心不全と症状
原因が左心室にあるものを左心不全と呼びます。
左心室から大動脈に血液を送りにくくなるため、大動脈血流量が低下し、
- 低血圧
- 冷汗
- 乏尿(尿量の低下)
- チアノーゼ
といった症状が現れます。
また、肺静脈からの血液が溜まってしまい、肺静脈うっ血を呈するため、
- 労作時の息切れ
- 呼吸困難
といった症状も現れます。
左心不全はそのまま放置しておくと、続いて右心不全が起こることもあると言われています(両心不全)。
右心不全と症状
原因が右心室にあるものを右心不全と呼びます。
右心室から肺動脈に血液を送りにくくなるため、肺動脈血流量が低下し、二酸化炭素と酸素の交換がうまくいかなくなります。
また、大静脈からの血液が溜まってしまい、大静脈うっ血を呈するため、
- 浮腫
- 腹水(腹部膨満感)
といった症状が現れます。
心不全の分類
多くの場合、左心不全(左心室機能障害)が関与していて、治療や評価も左心機能がどうかによって変わってきます。
従って、国内のガイドラインでは左室駆出率(LVEF)に応じた分類が行われています。1)
参考
- 左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)
⇒左心室の機能に関する指標。「(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積」で計算する。
分類 | LVEF |
LVEFの低下した心不全(HFrEF) | 40%未満 |
LVEFの保たれた心不全(HFpEF) | 50%以上 |
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF) | 40%以上 50%未満 |
略語解説
- HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction
- HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction
- HFmrEF:heart failure with midrange ejection fraction
多くの場合はHFrEF(LVEFの低下した心不全)とHFpEF(LVEFの保たれた心不全)ですね。
心不全の治療
心不全の治療1)は、
- HFrEF(LVEFの低下した心不全)
- HFpEF(LVEFの保たれた心不全)
で分かれていますが、基本は体液量を減らしたり、血圧を低下させたりすることで心臓への負荷を軽減させます。
HFrEFの場合、
が最も推奨されていて、単剤もしくは適宜併用した治療が行われます(標準治療)。
最近ではSGLT2阻害薬のフォシーガ(ダパグリフロジン)やジャディアンス(エンパグリフロジン)をこれら標準治療に上乗せすることで、糖尿病合併の有無に関わらず心血管死や心不全の悪化を防ぐことが示されていますよ!
参考までに、HFrEF患者さんでは洞調律での安静時心拍数が70拍/分を超えると死亡や入院のリスクが高まることが知られています。2)
そのため、国内・海外のガイドライン1-2)では、ACE阻害薬(またはARB)、MRAを行っても安静時心拍数が70拍/分を超えている場合、心拍数を低下するためにコララン(イバブラジン)が推奨されています。
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コララン(イバブラジン)の作用機序・特徴【心不全】
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心拍数が正常(70拍/分未満)の場合にはACE阻害薬(またはARB)から、ARNIとしてエンレスト(サクビトリルバルサルタン)への切り替えが推奨されていますね。
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エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序【心不全】
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β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4つの薬剤は、早期に適切に導入することで、生命予後を伸ばし、心不全入院を減らすことが期待されています。そのため、今後の心不全治療の中心となる「素晴らしい4剤」という意味を込めて、「fantastic four」と言われていますね。
Rapid evidence-based sequencing of foundational drugs for heart failure and a reduced ejection fraction|Eur J Heart Fail. 2021 Jun;23(6):882-894.
最近では可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬であるベリキューボ(ベルイシグアト)も登場していますよ~。
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ベリキューボ(ベルイシグアト)の作用機序【心不全】
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上記の治療薬の他、心不全によってうっ血(体液貯留)が見られる場合には、ループ利尿薬等の利尿薬を併用します。しかしながら、利尿薬を使用してもしばしば効果不十分な場合があり、この場合にサムタスが使用可能となります。
腎における水の再吸収とバソプレシンV2受容体
腎臓の尿細管は、近位尿細管、ヘンレループ、遠位尿細管、集合管から成り立っていますが、主な働きは様々な物質の「再吸収」です。
電解質であるナトリウムやカリウム、またブドウ糖(糖分)や水分も尿細管で再吸収されます。
その中でも集合管では多量の水分が再吸収されますが、これに関わるホルモンとして「バソプレシン」が知られています。
バソプレシンが集合管の「V2受容体」に作用(刺激)することで水の再吸収が促進されます。
サムタス(トルバプタンリン酸エステルNa)の作用機序
サムタスはトルバプタンのベンザゼピン環のヒドロキシル基をリン酸化し、水溶性を向上させたプロドラッグ製剤です!3)
これまでは経口投与のみでしたが、水溶性の向上によって点滴静注製剤とすることが可能となりました。
体内に投与されたサムタスはホスファターゼによって加水分解され、有効成分トルバプタンへと変換されます。
トルバプタンが集合管のバソプレシンV2受容体を遮断することで水の再吸収が阻害され、体液量が減少し、うっ血性心不全の症状緩和効果が得られるといった作用機序ですね!
サイアザイド系やループ系利尿薬では低ナトリウム血症や低カリウム血症の副作用があり、効果不十分な場合になかなか投与量を増やすことが困難でした。
サムスカはV2受容体を介することからナトリウムやカリウム排泄に関与しないため、これらの副作用は起こりにくいと考えられています。
エビデンス紹介:国内第Ⅲ相試験
根拠となった臨床試験は、国内の心性浮腫患者さんを対象とし、サムスカ錠15mgに対するサムタスの非劣性を検証した国内第Ⅲ相試験です。4-5)
主要評価項目は「最終投与時の体重のベースラインからの変化量」とされ、結果は以下の通りでした(非劣性マージン=0.48)。
サムタス群 | サムスカ群 | |
最終投与時の体重の ベースラインからの変化量 |
-1.67 | -1.36 |
差:-0.31 (95%CI:-0.68~0.06) |
第Ⅱ相試験3)は既に報告されていて、サムタスとサムスカの安全性・有効性はほぼ同様とのことでした。
用法・用量
通常、成人にはトルバプタンリン酸エステルナトリウムとして16mgを1日1回1時間かけて点滴静注します。
副作用
5%以上に認められる副作用として、口渇や脱水が報告されています。
重大な副作用としては、
- 腎不全(頻度不明)
- 血栓塞栓症(頻度不明)
- 高ナトリウム血症(1~5%未満)
- 急激な血清ナトリウム濃度上昇(1%未満)
- 急性肝不全(頻度不明)、肝機能障害(1~5%未満)
- ショック、アナフィラキシー(頻度不明)
- 過度の血圧低下(頻度不明)、心室細動(頻度不明)、心室頻拍(1~5%未満)
- 汎血球減少、血小板減少(頻度不明)
- 高カリウム血症(1~5%未満)
- 肝性脳症(頻度不明)
が挙げられていますので特に注意が必要です。
特にナトリウム血症やナトリウム上昇は、麻痺、発作、昏睡等に至る危険性もあるため、血清ナトリウム濃度及び体液量の観察を十分に行うことが大切ですね。
収載時の薬価
収載時(2022年5月25日)の薬価は以下の通りです。
- サムタス点滴静注用8mg:1,160円
- サムタス点滴静注用16mg:2,169円(1日薬価:2,169円)
算定根拠については以下をご参考ください。
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【新薬:薬価収載】14製品(2022年5月25日)
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まとめ・あとがき
サムタスはこんな薬
- サムスカ(トルバプタン)の水溶性を向上させた点滴静注製剤
- ソプレシンV2受容体を遮断することで水の再吸収を阻害する
作用機序的には新規性はありませんが、サムスカの新規剤形みたいにお考えいただければいいのではないでしょうか。
ただ、サムスカのような肝硬変・常染色体優性多発性のう胞腎・ナトリウム血症などの適用はサムタスにはありませんので注意が必要です。
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サムスカ(トルバプタン)の作用機序と副作用【心不全】
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以上、今回は慢性心不全の疾患とサムタスの作用機序・特徴について解説しました。
引用文献・資料等
- 日本循環器学会|2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- 2022年 AHA/ACC/HFSA心不全の改訂ガイドライン:Circulation. 2022 May 3;145(18):e895-e1032.
- Circ J. 2022 Mar 25;86(4):699-708.
- サムタス点滴静注用 添付文書
- 国内第Ⅲ相試験:ESC Heart Fail. 2022 Oct;9(5):3275-3286.
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