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2019年9月20日、「慢性心不全」を対象疾患とするコララン錠(一般名:イバブラジン)が承認されました!
小野薬品工業|ニュースリリース
基本情報
製品名 | コララン錠2.5mg/5mg/7.5mg |
一般名 | イバブラジン塩酸塩 |
製品名の由来 | 心拍数を減少させる薬剤をイメージ「COR(英語で心臓を意味するheart より)」+「LAN(フランス語で遅いを意味するlent より)」 |
製造販売 | 小野薬品工業(株) |
効能・効果 | 洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全。 ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る |
用法・用量 | 1日2回経口投与。詳細は記事内参照。 |
収載時の薬価 | 2.5mg 1錠:82.90円 5mg 1錠:145.40円 7.5mg 1錠:201.90円(1日薬価:403.80円) |
コラランは既に海外では承認・販売されていて、HCNチャネルを遮断することで心拍数を低下させる選択的洞結節抑制薬です!
今回は心不全とコララン(イバブラジン)の作用機序を解説します。
心臓と血液循環
ご存知の通り、心臓は大きく4つの部位(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれていて、通常、成人の心臓は以下の図のような流れで血液が循環しています。
- 右心房に血液が流入(大静脈)
- 右心室から肺に血液を送る(肺動脈)
- 肺で酸素を受け取る
- 左心房に血液が流入(肺静脈)
- 左心室から全身に血液を送る(大動脈)
このように心臓は血液を肺や全身に送る際のポンプとしての役割を担っています。
心不全の症状と分類
心臓の器質的もしくは機能的な障害によって、心臓のポンプ機能が低下して十分な血液を送り出すことができなくなった状態を「心不全」と呼んでいます。
その結果、肺や全身の静脈に血が溜まり、うっ血による症状が主体となります。従って、心不全のことを「うっ血性心不全」と呼ぶこともあります。
用語解説:静脈に血が溜まることを「うっ血」と呼びます。
心不全は進行速度や緊急性に応じて以下に分類されますが、薬物治療が関係するには慢性心不全ですので、今回は慢性心不全を中心に解説します。
- 急性心不全:急激に進行し、治療に緊急性を要する
- 慢性心不全:無症状状態が長期間続き、徐々に進行する
このような心不全の原因のほとんどは心室(左心室and/or右心室)の異常です。
左心不全と症状
原因が左心室にあるものを左心不全と呼びます。
左心室から大動脈に血液を送りにくくなるため、大動脈血流量が低下し、
- 低血圧
- 冷汗
- 乏尿(尿量の低下)
- チアノーゼ
といった症状が現れます。
また、肺静脈からの血液が溜まってしまい、肺静脈うっ血を呈するため、
- 労作時の息切れ
- 呼吸困難
といった症状も現れます。
左心不全はそのまま放置しておくと、続いて右心不全が起こることもあると言われています(両心不全)。
右心不全と症状
原因が右心室にあるものを右心不全と呼びます。
右心室から肺動脈に血液を送りにくくなるため、肺動脈血流量が低下し、二酸化炭素と酸素の交換がうまくいかなくなります。
また、大静脈からの血液が溜まってしまい、大静脈うっ血を呈するため、
- 浮腫
- 腹水(腹部膨満感)
といった症状が現れます。
心不全の分類
多くの場合、左心不全(左心室機能障害)が関与していて、治療や評価も左心機能がどうかによって変わってきます。
従って、国内のガイドラインでは左室駆出率(LVEF)に応じた分類が行われています。1)
参考
- 左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)
⇒左心室の機能に関する指標。「(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積」で計算する。
分類 | LVEF |
LVEFの低下した心不全(HFrEF) | 40%未満 |
LVEFの保たれた心不全(HFpEF) | 50%以上 |
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF) | 40%以上 50%未満 |
略語解説
- HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction
- HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction
- HFmrEF:heart failure with midrange ejection fraction
多くの場合はHFrEF(LVEFの低下した心不全)とHFpEF(LVEFの保たれた心不全)ですね。
心不全の治療
心不全の治療1)は、
- HFrEF(LVEFの低下した心不全)
- HFpEF(LVEFの保たれた心不全)
で分かれていますが、基本は体液量を減らしたり、血圧を低下させたりすることで心臓への負荷を軽減させます。
HFrEFの場合、
が最も推奨されていて、単剤もしくは適宜併用した治療が基本です。最近ではここにSGLT2阻害薬を併用することもありますね。
-
フォシーガ(ダパグリフロジン)の作用機序【糖尿病/心不全/CKD】
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また、HFrEF患者さんでは洞調律での安静時心拍数が70拍/分を超えると死亡や入院のリスクが高まることが知られています。2)
そのため、国内・海外のガイドライン1-2)では、ACE阻害薬(またはARB)、MRAを行っても安静時心拍数が70~75拍/分を超えている場合、心拍数を低下するためにコラランが推奨されています。
心拍数が正常(70拍/分未満)の場合にはACE阻害薬(またはARB)から、ARNIとしてエンレスト(サクビトリルバルサルタン)への切り替えが推奨されていますね。
-
エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序【心不全】
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最近では、β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4つの薬剤は、早期に適切に導入することで、生命予後を伸ばし、心不全入院を減らすことが期待されています。そのため、今後の心不全治療の中心となる「素晴らしい4剤」という意味を込めて、「fantastic four」と言われていますね。
Rapid evidence-based sequencing of foundational drugs for heart failure and a reduced ejection fraction|Eur J Heart Fail. 2021 Jun;23(6):882-894.
それではコラランに関連する心臓の刺激伝達系と洞結節について解説します。
心臓の刺激伝導系と洞結節
通常、心臓は1分間に60~100回の収縮と拡張(弛緩)を繰り返していますが、このリズムを作り出しているのが洞結節です。
洞結節が自発的に興奮することで電流が発生し、以下の順に刺激が伝道されていきます。
- 洞結節
- ヒス束
- 左脚/右脚
- プルキンエ繊維
プルキンエ繊維に刺激が到達すると、心筋が興奮し、心臓が収縮します。
さて、刺激伝達系の起点となる洞結節ですが、自発的に脱分極を起こして興奮(活動電位の発生)を繰り返しています。
この脱分極の起点となるのが「第4相」と呼ばれる緩やかな脱分極で、洞結節のHCN(環状ヌクレオチド依存性)チャネルにNa+(ナトリウムイオン)等の陽イオンが流入することで生じるペースメーカー電流(If)によって引き起こされます。
心筋では第1相・第2相がありますが、洞結節にはありません。
コララン(イバブラジン)の作用機序・特徴
コラランは洞結節のHCNチャネルを選択的に遮断する薬剤です!
HCNチャネルへのNa+の流入が抑制され、ペースメーカー電流(If)の発生が抑制されます。
その結果、第4相の脱分極の立ち上がり(傾き)が緩やかになり、心拍数が低下します(心臓の収縮と拡張の間隔が空くイメージ)。3)
洞結節のHCNチャネルにのみに作用するため、心臓の伝導性、収縮性、再分極、等、心機能や血圧には影響することなく心拍数を下げるといった特徴があります!
HFrEF(LVEFの低下した心不全)では心拍数が高いことが死亡や入院のリスクでしたので、コラランによってリスク軽減が期待できますね。
エビデンス紹介:SHIFT試験、J-SHIFT試験
根拠となった臨床試験をご紹介します。
海外で行われたSHIFT試験は、HFrEF(LVEFの低下した心不全)で洞調律下での安静時心拍数70拍/分以上の患者さんを対象に、コララン(1日2回投与)群とプラセボ群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。4)
主要評価項目は「心不全悪化による入院」と「心血管による死亡」の複合アウトカムとされ、結果は下表の通りです。
試験群 | コララン群 | プラセボ群 |
主要評価項目 (複合アウトカム) |
24% | 29% |
HR=0.82(95%CI:0.75-0.90) p<0.0001 |
||
心不全悪化による入院割合 | 16% | 21% |
HR=0.74(95%CI:0.66-0.83) p<0.0001 |
||
心血管による死亡割合 | 3% | 5% |
HR=0.74(95%CI:0.58-0.94) p=0.014 |
日本でも同様の臨床試験(J-SHIFT試験:洞調律下での安静時心拍数75拍/分以上が対象)が行われ、同様の結果だったと報告されています。5)
副作用
重大な副作用として、
- 徐脈
- 光視症(2.8%)、霧視(0.4%)
- 房室ブロック(0.6%)
- 心房細動(0.3%)
- 心電図QT延長
が挙げられていますので特に注意が必要です。
光視症や霧視のメカニズムですが、コラランが視細胞のHCN1チャネルを阻害することによって、光刺激を減衰する作用が弱まり、光に対する感受性が亢進し、光視を起こすと考えられています。
【出典】小野薬品工業社内資料(CTD 2.4.2.1.2.1HCNチャネル電流及びIfに対する作用、CTD 2.4.5.2.2眼への影響について)
用法・用量
通常、成人にはイバブラジンとして、1回2.5mgを1日2回食後経口投与から開始します。
開始後は忍容性をみながら、目標とする安静時心拍数が維持できるように、必要に応じ、2週間以上の間隔で段階的に用量を増減します。
1回投与量は2.5、5又は7.5mgのいずれかとし、いずれの投与量においても、1日2回食後経口投与。
収載時の薬価
薬価収載時(2019年11月19日)の薬価は以下の通りです。
- コララン錠2.5mg 1錠:82.90円
- コララン錠 5mg 1錠:145.40円
- コララン錠7.5mg 1錠:201.90円(1日薬価:403.80円)
有用性加算の根拠
- 本剤はHCNチャネルを阻害する新規作用機序医薬品であり、審査報告書において「心拍数を減少させる目的で投与する、新たな治療選択肢として臨床現場に提供する意義はある」とされている。
- また、臨床試験では、既存の薬物治療下でも安静時心拍数の高い患者に対して、心血管死又は心不全悪化による入院の発現割合を低減させることが確認されている。
- 以上を踏まえ、有用性加算(Ⅰ)(A=35%)を適用することが適当と判断した。
収載時の算定根拠については以下の記事で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】14製品と市場拡大再算定(2019年11月19日)
続きを見る
まとめ・あとがき
コラランはこんな薬
- HCNチャネルを選択的に遮断する薬剤
- ペースメーカー電流(If)の発生が抑制されることで心拍数を低下させる
- HFrEF(LVEFの低下した心不全)で心拍数が高い患者さんに対して治療効果が期待される
コラランは海外では2012年から承認されており、海外のガイドライン2)でもHFrEFの標準治療の一つに位置づけられていましたが、日本では使用できませんでした。
慢性心不全の治療薬としては、2020年にエンレストも承認されましたので、今後も注目していきたいと思います。
-
エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序【心不全】
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以上、今回は心不全(特に慢性心不全)とコララン(イバブラジン)の作用機序・特徴、そしてエビデンスについてご紹介しました!
出典論文・資料等
- 日本循環器学会|2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- 2022年 AHA/ACC/HFSA心不全の改訂ガイドライン:Circulation. 2022 May 3;145(18):e895-e1032.
- J Am Coll Cardiol. 2017 Oct 3;70(14):1777-1784.
- SHIFT試験(海外):Lancet. 2010 Sep 11;376(9744):875-85.
- J-SHIFT試験(日本):第83回 日本循環器学会学術集会
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