2.循環器系

エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序【心不全】

2024年2月9日エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の「慢性心不全」に対して、小児用量(1歳以上)を追加することが承認されました!

それに伴い、新たに「同粒状錠つぶじょうじょう小児用12.5mg」「同粒状錠小児用31.25mg」の剤形が2024年3月26日に承認されました。

ノバルティスファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 エンレスト錠50mg/100mg/200mg
エンレスト粒状錠小児用12.5mg/31.25mg
一般名 サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物
製品名の由来 Entrust(信頼できる薬剤)に由来
製薬会社 製造販売:ノバルティスファーマ(株)
共同プロモーション:大塚製薬(株)
効能・効果* <50mg・100mg・200mg>
●慢性心不全。ただし、標準的な治療を受けている患者に限る
<100mg・200mg>
●高血圧症
〈粒状錠小児用12.5mg・31.25mg〉
●慢性心不全
用法・用量 慢性心不全:1日2回経口投与
高血圧症:1日1回経口投与
(詳細は記事内参照
収載時の薬価 50mg1錠:65.70円
100mg1錠:115.20円
200mg1錠:201.90円
粒状錠小児用12.5mg:薬価未収載
粒状錠小児用31.25mg:薬価未収載
発売日 2020年8月26日新発売(HP

規格によって適応症が少し異なるので注意が必要です。

*効能又は効果に関連する注意

<成人の慢性心不全>

  • 本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。
  • 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。

<小児の慢性心不全>

  • 本剤投与開始前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を投与されている場合はそれらの薬剤から切り替え、投与されていない場合は患者の状態を観察しながら本剤を慎重に投与すること。
  • 小児の慢性心不全の治療に十分な知識及び経験を有し、「臨床成績」の項の内容及び臨床試験に組み入れられた患者の背景(基礎疾患や心不全の病態、前治療、収縮期血圧等)を十分に理解した医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される患者に対して適用を考慮すること。

<高血圧症>

  • 過度な血圧低下のおそれ等があり、原則として本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこと。

 

エンレストは2020年6月29日に「慢性心不全」を対象疾患として承認されていて、

  • ネプリライシン阻害薬のサクビトリル
  • ARBのバルサルタン

1:1で単結晶構造内に有している薬剤です。

 

木元 貴祥
非常に面白い構造と作用機序ですよ!

 

その後、2021年9月27日には「高血圧症」に対する適応拡大が承認されています。高血圧の疾患概要についてはARBのまとめ記事で解説していますので、併せてご参考ください。

【高血圧】ARB(アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬)の作用機序と薬剤一覧の紹介

続きを見る

 

2024年には小児の慢性心不全の適応拡大が承認され、新たな粒状錠(つぶじょうじょう)の剤形も追加されました。これは、小児でも飲みやすい小さな粒状の錠剤がカプセル型容器に入った製剤です。

エンレスト粒状錠小児用の剤形の写真

 

木元 貴祥
面白い剤形ですよねー!

 

服用時にはカプセル型容器から取り出して、食べ物に混ぜて服用することも可能とのことです。

 

今回は代表疾患として心不全エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序を解説します。

 

心臓と血液循環

ご存知の通り、心臓は大きく4つの部位(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれていて、通常、成人の心臓は以下の図のような流れで血液が循環しています。

 

  1. 右心房に血液が流入(大静脈)
  2. 右心室から肺に血液を送る(肺動脈)
  3. 肺で酸素を受け取る
  4. 左心房に血液が流入(肺静脈)
  5. 左心室から全身に血液を送る(大動脈)

 

このように心臓は血液を肺や全身に送る際のポンプとしての役割を担っています。

 

心不全の症状と分類

心臓の器質的もしくは機能的な障害によって、心臓のポンプ機能が低下して十分な血液を送り出すことができなくなった状態を「心不全」と呼んでいます。

 

その結果、肺や全身の静脈に血が溜まりうっ血による症状が主体となります。従って、心不全のことを「うっ血性心不全」と呼ぶこともあります。

用語解説静脈に血が溜まることを「うっ血」と呼びます。

 

心不全は進行速度や緊急性に応じて以下に分類されますが、薬物治療が関係するには慢性心不全ですので、今回は慢性心不全を中心に解説します。

  • 急性心不全:急激に進行し、治療に緊急性を要する
  • 慢性心不全:無症状状態が長期間続き、徐々に進行する

 

このような心不全の原因のほとんどは心室(左心室and/or右心室)の異常です。

 

木元 貴祥
様々な原因(心疾患、肺疾患、代謝異常、アルコール多飲、等)によって心室の機能が低下することで心不全を発症すると考えられています。

 

左心不全と症状

原因が左心室にあるものを左心不全と呼びます。

左心室から大動脈に血液を送りにくくなるため、大動脈血流量が低下し、

  • 低血圧
  • 冷汗
  • 乏尿(尿量の低下)
  • チアノーゼ

といった症状が現れます。

 

また、肺静脈からの血液が溜まってしまい、肺静脈うっ血を呈するため、

  • 労作時の息切れ
  • 呼吸困難

といった症状も現れます。

 

左心不全はそのまま放置しておくと、続いて右心不全が起こることもあると言われています(両心不全)。

 

右心不全と症状

原因が右心室にあるものを右心不全と呼びます。

右心室から肺動脈に血液を送りにくくなるため、肺動脈血流量が低下し、二酸化炭素と酸素の交換がうまくいかなくなります。

 

また、大静脈からの血液が溜まってしまい、大静脈うっ血を呈するため、

  • 浮腫
  • 腹水(腹部膨満感)

といった症状が現れます。

 

心不全の分類

多くの場合、左心不全(左心室機能障害)が関与していて、治療や評価も左心機能がどうかによって変わってきます。

従って、国内のガイドラインでは左室駆出率(LVEF)に応じた分類が行われています。1)

 

参考

  • 左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)
    ⇒左心室の機能に関する指標。「(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積」で計算する。

 

分類 LVEF
LVEFの低下した心不全(HFrEF) 40%未満
LVEFの保たれた心不全(HFpEF) 50%以上
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF) 40%以上
50%未満

略語解説

  • HFrEFヘフレフ:heart failure with reduced ejection fraction
  • HFpEFヘフペフ:heart failure with preserved ejection fraction
  • HFmrEF:heart failure with midrange ejection fraction

 

多くの場合はHFrEF(LVEFの低下した心不全)とHFpEF(LVEFの保たれた心不全)ですね。

 

今回ご紹介するエンレストはPARADIGM-HF試験においてHFrEで臨床効果が認められていますが、HFpEFでは効果が認められていません(PARAGON-HF試験)。

 

木元 貴祥
ただ、日本では適応上、HFrEFとHFpEFを区別することなく使用可能となっています。ちなみに海外ではHFrEFのみですね。

 

心不全の治療

心不全の治療1)は、

  • HFrEF(LVEFの低下した心不全)
  • HFpEF(LVEFの保たれた心不全)

で分かれていますが、基本は体液量を減らしたり、血圧を低下させたりすることで心臓への負荷を軽減させます。

 

HFrEFの場合、

が最も推奨されていて、単剤もしくは適宜併用した治療が行われます。

 

代表的なMRAについては以下の記事で解説していますのでご参考にしてみてください。

ミネブロ(エサキセレノン)の作用機序・特徴:セララとの違い【高血圧】

続きを見る

 

また、HFrEF患者さんでは洞調律どうちょうりつでの安静時心拍数が70拍/分を超えると死亡や入院のリスクが高まることが知られています。5)

 

参考

<洞調律とは>

洞結節で発生した電気的興奮が正しく心臓全体に伝わり、心臓が正常なリズムを示している状態

【出典】日本心臓財団|心臓病用語集>洞調律

 

木元 貴祥
安静時の心拍数が高いと死亡・入院のリスクになる、ということですね。

 

そのため、国内1)・海外のガイドライン5)では、ACE阻害薬(またはARB)、MRAを行っても安静時心拍数が70~75拍/分を超えている場合、心拍数を低下するためにコラランが推奨されています。

コララン(イバブラジン)の作用機序・特徴【心不全】

続きを見る

 

心拍数が正常(70拍/分未満)の場合にはACE阻害薬(またはARB)から、エンレスト(サクビトリルバルサルタン)への切り替えが推奨されていますね。

エンレストの添付文書では「本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。」との記載がありますので、基本的にはARBやACE阻害薬からの切り替えで使用できます。

 

木元 貴祥
ちなみに、小児の慢性心不全ではACE阻害薬(またはARB)からの切り替えは必須ではありません。その場合、慎重に投与することとされています。

 

最近では、β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4つの薬剤は、早期に適切に導入することで、生命予後を伸ばし、心不全入院を減らすことが期待されています。そのため、今後の心不全治療の中心となる「素晴らしい4剤」という意味を込めて、「fantastic four」と言われていますね。

Rapid evidence-based sequencing of foundational drugs for heart failure and a reduced ejection fraction|Eur J Heart Fail. 2021 Jun;23(6):882-894.

 

一方、HFpEFの場合、体液量を減少させる利尿薬が最も推奨されていますが、状態に応じてACE阻害薬、ARB、β遮断薬、MRAも使用可能です。

 

利尿薬としてはいずれの場合にもループ利尿薬がよく用いられますが、ループ利尿薬で効果不十分な場合にはバソプレシンV2受容体拮抗薬も検討されます。

サムタス(トルバプタンリン酸エステルNa)の作用機序【心不全】

続きを見る

 

エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の構造・作用機序・特徴

エンレストは

  • サクビトリル:ネプリライシン阻害薬
  • バルサルタン:ARB

がモル比1:1で含まれる単結晶構造を有していて、ARNI(Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor)と呼ばれる新しいタイプの治療薬です。2)

読み方ARNI=「アーニィ」

 

木元 貴祥
エンレストは投与されると、速やかにサクビトリルとバルサルタンに分離されます。

 

生体内には利尿作用や血管拡張作用を有するホルモンとして「内因性ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)」が存在していますが、これはネプリライシンと呼ばれる酵素によって分解されてしまいます。

 

略語解説

  • ANP(atrial natriuretic peptide):心房性ナトリウム利尿ペプチド
  • BNP(brain natriuretic peptide):脳性ナトリウム利尿ペプチド
  • CNP(C type natriuretic peptide):C型ナトリウム利尿ペプチド

 

サクビトリルは体内で活性体(LBQ657)に変換され、ネプリライシンを阻害します。その結果、内因性ナトリウム利尿ペプチドの量が増加し、利尿作用や血管拡張作用によって体液量が減少して心負荷が軽減されると考えられます。

 

続いてバルサルタンについてです。

 

木元 貴祥
バルサルタン(製品名:ディオバン)は代表的なARBですよね。

 

ARBの作用機序やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)のメカニズムについては、一覧も掲載した記事がありますのでご参考ください。

【高血圧】ARB(アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬)の作用機序と薬剤一覧の紹介

続きを見る

 

簡単に説明すると、アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠ⇒アンジオテンシンⅡが合成されますが、これが血管のAT1受容体に作用することで血圧が上昇します。

 

また、アンジオテンシンⅡは前述のネプリライシンで分解されてしまうことが知られています。そのため、サクビトリルの活性体によって、逆にアンジオテンシンⅡの働きが活性化され、血圧上昇作用も有してしまうことに。

 

そこで、バルサルタンがアンジオテンシンⅡが作用するAT1受容体を遮断することで、サクビトリルによるアンジオテインシンⅡの作用を打ち消し、血管拡張作用・血圧低下作用が期待されています。

ARBの作用機序

 

以上より、エンレストの作用機序をまとめると下図のようになります。

エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序・特徴:ネプリライシン阻害とAT1受容体阻害

 

サクビトリルによるネプリライシン阻害作用と、バルサルタンによるAT1受容体遮断作用によって、体液量と血圧が低下することで心負荷を軽減し、心不全による症状・進行を抑制できると考えられます。

 

エビデンス紹介:PARADIGM-HF試験

根拠となった臨床試験をご紹介します。

 

PARADIGM-HF試験は、HFrEF(LVEFの低下した心不全)の患者さんを対象に、推奨される治療に加えて、エンレスト(1日2回投与)群と、ACE阻害薬のエナラプリル(1日2回投与)群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。3)

対象患者さんは試験治療開始前にエナラプリルの2週間投与、次いでエンレストの4~6週投与による慣らし期間を設け、副作用等がないことを確認していました。

 

主要評価項目は「心血管死亡または心不全による入院」の複合アウトカムとされ、結果は下表の通りです。

試験群 エンレスト群 エナラプリル群
主要評価項目
(複合アウトカム)
21.8% 26.5%
HR=0.80(95%CI:0.73-0.87)
P<0.001
心血管死亡割合 13.3% 16.5%
HR=0.80(95%CI:0.71-0.89)
P<0.001
心不全による入院割合 12.8% 15.6%
HR=0.79(95%CI:0.71-0.89)
P<0.001

 

このようにHFrEFにおいては、ACE阻害薬のエナラプリル(製品名:レニベース)と比較してエンレストで有意に死亡率や入院割合の低下が認められています。

 

HFpEFには使用できる?:PARAGON-HF試験より

一方、HFpEF(LVEFの保たれた心不全)では、日本を含む国際共同のPARAGON-HF試験が行われていましたが、有意差を示すことができず、結果はネガティブでした。4)

 

エンレストの効能・効果は「慢性心不全。ただし、標準的な治療を受けている患者に限る」となっていますが、HFpEF(LVEFの保たれた心不全)には有効性が示されていないとの判断がなされています。

 

以下は審査報告書の抜粋です。6)

HFpEF 患者を対象とした PARAGON-HF 試験に関する以下の点を踏まえると、現時点で日本人 HFpEF 患者に対する本薬の有効性が示されたとは判断できない

  • 検証仮説とされた主要評価項目(心血管系死又は心不全による入院(初回及び再入院))における本薬群のバルサルタン群に対する優越性は検証されていないこと
  • 上記に加え、下記の点から PARAGON-HF 試験に基づき日本人 HFpEF 患者に対する有効性を解釈することは極めて困難であること
    • 対照薬とされたバルサルタンは本邦において慢性心不全に対する効能・効果を有していないこと
    • PARAGON-HF 試験に参加した日本人部分集団における主要評価項目、その構成要素及び全死亡に関する本薬群の対照群に対するハザード比の点推定値は全体集団の点推定値を大きく上回る結果であったこと
  • 以上より、本薬は、慢性心不全の標準治療がなされ、ACE 阻害薬又は ARB の前治療により忍容性が確認された HFrEF 患者で、ACE 阻害薬又は ARB から切替えて用いることが適切であり、効能・効果及び効能・効果に関連する注意は以下のようにすることが適切と判断する。

 

上記の審議の結果、添付文書には以下の注意事項が記載され、臨床成績の項にはHFrEFに関する結果しか掲載されていませんので注意が必要ですね。

効能又は効果に関連する注意

  • 本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。
  • 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。

 

木元 貴祥
効能効果上は区別することなく使用できますが、現時点では海外と同様、まずはHFrEFに使用されていくと予想されます。

 

副作用

0.3%以上に認められる副作用として、浮動性めまい、 起立性低血圧、咳嗽が報告されています。

 

重大な副作用としては、

  • 血管浮腫(0.2%)
  • 腎機能障害(2.9%)、腎不全(0.8%)
  • 低血圧(10.4%)
  • 高カリウム血症(4.7%)
  • ショック(0.1%未満)、失神(0.2%)、意識消失(0.1%未満)
  • 無顆粒球症 、白血球減少 、血小板減少 (いずれも頻度不明)
  • 間質性肺炎(0.1%未満)
  • 低血糖(頻度不明)
  • 横紋筋融解症(頻度不明)
  • 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑(いずれも頻度不明)
  • 天疱瘡、類天疱瘡(いずれも頻度不明)
  • 肝炎(頻度不明)

が挙げられていますので特に注意が必要です。

 

ネプリライシンはアルツハイマー型認知症に関与しているアミロイドβ(Aβ)の分解にも関与しています。

 

木元 貴祥
サクビトリルによってネプリライシンが阻害されるとAβの蓄積が促されるのではないかと危惧していましたが・・・審査報告書を見る限り大丈夫そうですね。

 

本薬のサルを用いたアミロイド β の代謝に関する反復投与毒性試験では CSF 中アミロイド β 濃度の増加が認められたものの、脳中アミロイド β 濃度に変化は認められず(「5.1.7.1 アミロイド β 代謝に関する試験」の項参照)、サルを用いた反復投与毒性試験において臨床最大用量(本薬 200 mg BID)投与時の LBQ の曝露量(AUC0-12h)の 1.9~2.2 倍に相当する用量で脳内のアミロイド β 沈着及びアミロイド斑の形成は認められなかった。

 

海外ではエンレストを投与した心不全患者において、投与3年後の認知機能や PETでの脳内アミロイド沈着が評価される臨床試験(PERSPECTIVE試験:NCT02884206)が実施され、Aβの蓄積は認められなかったと報告されました。7)

 

本試験には日本人は含まれていませんが、恐らく問題ないでしょう!安心です。

 

用法・用量

<慢性心不全>

通常、成人にはサクビトリルバルサルタンナトリウムとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与します。

忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量します。

1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与です。

 

通常、1歳以上の小児には、サクビトリルバルサルタンとして下表の通り体重に応じた開始用量を1日2回経口投与します。

忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に目標用量まで増量します。

体重 開始用量 第1漸増用量 第2漸増用量 目標用量
40 kg 未満 0.8 mg/kg 1.6 mg/kg 2.3 mg/kg 3.1 mg/kg
40 kg 以上50 kg 未満 0.8 mg/kg 50 mg 100 mg 150 mg
50 kg 以上 50 mg 100 mg 150 mg 200 mg

 

<高血圧症>

通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回200mgを1日1回経口投与します。なお、年齢、症状により適宜増減しますが、最大投与量は1回400mgを1日1回とします。

 

木元 貴祥
心不全と高血圧で用量および投与回数が異なるので注意が必要ですね。

 

粒状錠の注意点

錠剤と粒状錠はいずれも小児に対して投与可能ですが、粒状錠はこれまでにない剤形のため、以下の注意が必要です。

  • 粒状錠の投与直前に指示された種類及び数のカプセル型容器をPTPシートから取り出すこと。
  • 絶対にカプセル型容器ごと飲ませないこと。
  • 粒状錠をカプセル型容器から取り出す際は、白色(粒状錠小児用12.5mg)又は黄色(粒状錠小児用31.25mg)のキャップを上にして慎重に開封すること。
  • 粒状錠小児用は、1錠単位ではなく1カプセル単位(粒状錠小児用12.5mgは4錠、粒状錠小児用31.25mgは10錠)で含量を管理していることから、1回の投与時にカプセル型容器内の粒状錠はすべて投与することとし、1つのカプセル型容器内の粒状錠を分割して投与しないこと。

 

木元 貴祥
カプセル型容器をそのまま服用しないことや、容器内の粒状錠は全て投与することにはしっかりと指導しておく必要がありますね。

 

メーカーから「エンレスト粒状錠小児用を服用されるお子さまとそのご家族へ」という資材が用意されていますので、ご活用ください。

 

懸濁液の調製

小児で、錠剤や粒状錠が服用できない場合、錠剤を用いて懸濁液とすることも可能です。

具体的な調製方法については、インタビューフォームに掲載されていますので、ご確認くださいませ。

 

収載時の薬価

収載時(2020年8月26日)の薬価は以下の通りです。

 

  • エンレスト錠50mg:65.70円
  • エンレスト錠100mg:115.20円
  • エンレスト錠200mg:201.90円(1日薬価:403.80円)

 

算定根拠については以下の記事で解説しています。

【新薬:薬価収載】13製品(2020年8月26日)

続きを見る

 

粒状錠については、現時点では薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

エンレストはこんな薬

  • ネプリライシン阻害薬のサクビトリルと、ARBのバルサルタンを組み合わせた薬剤
  • ネプリライシンを阻害することで内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制
  • ARBによってAT1受容体を遮断
  • ARNIと呼ばれる新たな治療薬タイプ
  • HFrEF(LVEFの低下した心不全)において治療効果が期待される

 

木元 貴祥
エンレストは結晶構造内にサクビトリルとバルサルタンが1:1で含まれるといった面白い構造を有しています。(単なる合剤ではない)

 

基本的にはHFrEFでACE阻害薬(or ARB)、β遮断薬、MRAが既に投与されている場合の切り替えとして使用されていくと思います。

HFpEFには現時点では推奨できないことにも注意が必要ですね!

 

近年、慢性心不全領域は治療薬の開発が活発ですので、今後も色々期待できると思います♪

ベリキューボ(ベルイシグアト)の作用機序【心不全】

続きを見る

 

以上、今回は心不全(特に慢性心不全)とエンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序・特徴、そしてエビデンスについてご紹介しました!

 

 

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木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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