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2021年6月23日、新規の慢性心不全治療薬であるベリキューボ(ベルイシグアト)が承認されました!
バイエル薬品|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg |
一般名 | ベルイシグアト |
製品名の由来 | 「Vericiguat」および「Improved Quality of Life」に由来する造語 |
製造販売 | バイエル薬品(株) |
効能・効果 | 慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。* |
用法・用量 | 通常、成人にはベルイシグアトとして、1 回2.5 mg を1 日1 回食後経口投与から開始し、 2 週間間隔で1 回投与量を5 mg 及び10 mg に段階的に増量する。 なお、血圧等患者の状態に応じて適宜減量する。 |
収載時の薬価 | 2.5mg:131.50円 5mg:230.40円 10mg:403.80円 |
*効能又は効果に関連する注意
- 左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。
- 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。
ベリキューボは慢性心不全治療薬としては初の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬に分類されています。
-
アデムパス(リオシグアト)の作用機序【肺動脈性肺高血圧症】
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今回は、慢性心不全とベリキューボ(ベルイシグアト)の作用機序についてご紹介します。
心臓と血液循環
ご存知の通り、心臓は大きく4つの部位(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれていて、通常、成人の心臓は以下の図のような流れで血液が循環しています。
- 右心房に血液が流入(大静脈)
- 右心室から肺に血液を送る(肺動脈)
- 肺で酸素を受け取る
- 左心房に血液が流入(肺静脈)
- 左心室から全身に血液を送る(大動脈)
このように心臓は血液を肺や全身に送る際のポンプとしての役割を担っています。
心不全の症状と分類
心臓の器質的もしくは機能的な障害によって、心臓のポンプ機能が低下して十分な血液を送り出すことができなくなった状態を「心不全」と呼んでいます。
その結果、肺や全身の静脈に血が溜まり、うっ血による症状が主体となります。従って、心不全のことを「うっ血性心不全」と呼ぶこともあります。
用語解説:静脈に血が溜まることを「うっ血」と呼びます。
心不全は進行速度や緊急性に応じて以下に分類されますが、薬物治療が関係するには慢性心不全ですので、今回は慢性心不全を中心に解説します。
- 急性心不全:急激に進行し、治療に緊急性を要する
- 慢性心不全:無症状状態が長期間続き、徐々に進行する
このような心不全の原因のほとんどは心室(左心室and/or右心室)の異常です。
同時に血管の収縮による循環障害も心不全を悪化させる要因です。
例えば、血管の収縮や拡張を担う機構として、
- プロスタグランジンI2(PGI2)経路
- 一酸化窒素(NO)経路
- エンドセリン経路
が知られています。
慢性心不全では特に「一酸化窒素(NO)経路」のNOの利用能障害が起こっていると考えられ、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)が十分に刺激されないため、cGMPが産生できずに血管収縮が引き起こされます。
PGI2経路やエンドセリン経路については別記事にて解説していますので併せてご参考くださいませ~。
-
【肺動脈性高血圧症】エンドセリン受容体拮抗薬の作用機序と一覧・使い分け
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また、NOは心筋でも重要な因子です。
NOがsGCを刺激することでcGMPが産生され、心収縮能の維持、心筋保護、心臓リモデリングの活性化を担っていると考えられています。慢性心不全ではこの経路も障害されるため、心機能の低下が引き起こされます。
左心不全と症状
原因が左心室にあるものを左心不全と呼びます。
左心室から大動脈に血液を送りにくくなるため、大動脈血流量が低下し、
- 低血圧
- 冷汗
- 乏尿(尿量の低下)
- チアノーゼ
といった症状が現れます。
また、肺静脈からの血液が溜まってしまい、肺静脈うっ血を呈するため、
- 労作時の息切れ
- 呼吸困難
といった症状も現れます。
左心不全はそのまま放置しておくと、続いて右心不全が起こることもあると言われています(両心不全)。
右心不全と症状
原因が右心室にあるものを右心不全と呼びます。
右心室から肺動脈に血液を送りにくくなるため、肺動脈血流量が低下し、二酸化炭素と酸素の交換がうまくいかなくなります。
また、大静脈からの血液が溜まってしまい、大静脈うっ血を呈するため、
- 浮腫
- 腹水(腹部膨満感)
といった症状が現れます。
心不全の分類
多くの場合、左心不全(左心室機能障害)が関与していて、治療や評価も左心機能がどうかによって変わってきます。
従って、国内のガイドラインでは左室駆出率(LVEF)に応じた分類が行われています。1)
参考
- 左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)
⇒左心室の機能に関する指標。「(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積」で計算する。
分類 | LVEF |
LVEFの低下した心不全(HFrEF) | 40%未満 |
LVEFの保たれた心不全(HFpEF) | 50%以上 |
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF) | 40%以上 50%未満 |
略語解説
- HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction
- HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction
- HFmrEF:heart failure with midrange ejection fraction
多くの場合はHFrEF(LVEFの低下した心不全)とHFpEF(LVEFの保たれた心不全)ですね。
心不全の治療
心不全の治療1)は、
- HFrEF(LVEFの低下した心不全)
- HFpEF(LVEFの保たれた心不全)
で分かれていますが、基本は体液量を減らしたり、血圧を低下させたりすることで心臓への負荷を軽減させます。
HFrEFの場合、
が最も推奨されていて、単剤もしくは適宜併用したものが標準治療です。最近ではこれら標準治療にSGLT2阻害薬のフォシーガ(ダパグリフロジン)を上乗せすることもあります。
-
フォシーガ(ダパグリフロジン)の作用機序【糖尿病/心不全/CKD】
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参考までに、HFrEF患者さんでは洞調律での安静時心拍数が70拍/分を超えると死亡や入院のリスクが高まることが知られています。2)
そのため、国内・海外のガイドライン1-2)では、ACE阻害薬(またはARB)、MRAを行っても安静時心拍数が70拍/分を超えている場合、心拍数を低下するためにコララン(イバブラジン)が推奨されています。
-
コララン(イバブラジン)の作用機序・特徴【心不全】
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心拍数が正常(70拍/分未満)の場合にはACE阻害薬(またはARB)から、ARNIとしてエンレスト(サクビトリルバルサルタン)への切り替えが推奨されていますね。
-
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最近では、β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4つの薬剤は、早期に適切に導入することで、生命予後を伸ばし、心不全入院を減らすことが期待されています。そのため、今後の心不全治療の中心となる「素晴らしい4剤」という意味を込めて、「fantastic four」と言われていますね。
Rapid evidence-based sequencing of foundational drugs for heart failure and a reduced ejection fraction|Eur J Heart Fail. 2021 Jun;23(6):882-894.
ベリキューボ(ベルイシグアト)の作用機序:sGC刺激薬
慢性心不全では前述の通り、NOの利用能障害によってsGCが十分に刺激されずにcGMPが低下している状態です。そのため、血管収縮や心機能の低下が引き起こされています。
ベリキューボは心不全では初の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬に分類されている薬剤です!血管と心臓のsGCが刺激されることでcGMPの産生が促進され、血管拡張作用・心機能改善が得られると考えられています。
エビデンス紹介:VICTORIA試験
根拠となった臨床試験は国際共同で実施されたVICTORIA試験です。3)
本試験は左室駆出率が低下した(LVEF45%未満)慢性心不全患者さん(心不全増悪が認められる)を対象に、標準治療への追加療法としてベリキューボを投与した際の影響を、プラセボとの比較で評価することを目的とした国際共同第Ⅲ相試験です。
主要評価項目(複合アウトカム)は「心血管死または心不全での初回入院」とされ、結果は以下の通りでした。
試験群 | ベリキューボ群 | プラセボ群 |
主要評価項目 (複合アウトカム) |
35.5% | 38.5% |
HR=0.90(95%CI:0.82-0.98) p=0.02 |
||
心不全での初回入院 | 27.4% | 29.6% |
HR=0.90(95%CI:0.81-1.00) | ||
心血管死 | 16.4% | 17.5% |
HR=0.93(95%CI:0.81-1.06) |
用法・用量
通常、成人にはベルイシグアトとして、1回2.5mg を1日1回食後経口投与から開始し、2週間間隔で1回投与量を5mg及び10mgに段階的に増量します。
血圧等患者の状態に応じて適宜減量
副作用
1~10%に認められる副作用として、浮動性めまいが報告されています。
その他、重大な副作用としては
- 低血圧(7.4%)
が挙げられていますので特に注意が必要です。
過量投与時の症状としても血圧低下がありますね。ちなみにタンパク結合率が高いので、血液透析による除去は期待できないとのこと。
収載時の薬価
収載時(2021年8月12日)の薬価は以下の通りです。
- ベリキューボ錠2.5mg:131.50円
- ベリキューボ錠5mg:230.40円
- ベリキューボ錠10mg:403.80円
算定根拠等については以下をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】15製品+再生医療等製品(2021年8月12日)
続きを見る
まとめ・あとがき
ベリキューボはこんな薬
- 慢性心不全初の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬
- sGC刺激によって血管と心臓のcGMPを上昇させ、血管拡張・心機能改善が期待できる
- 1日1回経口投与
近年、慢性心不全治療薬が相次いで承認・登場してきています。
ベリキューボは上記薬剤とは異なる作用機序を有するため、慢性心不全の予後向上に寄与できることを期待したいですね!
以上、今回は慢性心不全初のsGC刺激薬であるベリキューボ(ベルイシグアト)の作用機序について解説しました。
引用文献・資料等
- 日本循環器学会|2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- 2022年 AHA/ACC/HFSA心不全の改訂ガイドライン:Circulation. 2022 May 3;145(18):e895-e1032.
- VICTORIA試験:N Engl J Med 2020; 382:1883-1893
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