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今回は肺動脈性高血圧症(PAH)に使用されるエンドセリン受容体拮抗薬の作用機序や一覧表について、疾患解説と共にご紹介します。
2021年3月現在までにエンドセリン受容体拮抗薬は以下の3種類が承認・販売されています。
- トラクリア錠(一般名:ボセンタン)
- ヴォリブリス錠(一般名:アンブリセンタン)
- オプスミット錠(マシテンタン)
記事の後半では各薬剤の特徴や一覧表、そして使い分け等について考察しています!
心臓と血液循環
ご存知の通り、心臓は大きく4つの部位(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれています。
通常、成人の心臓は以下の図のような流れで血液が循環しています。
- 右心房に血液が流入(大静脈)
- 右心室から肺に血液を送る(肺動脈)
- 肺で酸素を受け取る
- 左心房に血液が流入(肺静脈)
- 左心室から全身に血液を送る(大動脈)
このように心臓は血液を肺や全身に送る際のポンプとしての役割を担っています。
肺動脈性肺高血圧症とは
心臓から肺に血液を送るための血管を「肺動脈」といいますが、この肺動脈の血圧が異常に上昇するのが「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」と呼ばれる疾患です。
肺高血圧症になると肺への血液循環が悪くなり、肺から血液に取り込まれる酸素の量が減ってしまいます。
そのため、軽い動作で息切れや呼吸困難といった症状が現れます。
しかし、何故このような病気が起こるのかは解明されていません。
この病気の原因解明が必要であり、有効な治療法の研究開発のため、肺動脈性肺高血圧症(PAH)は「難治性呼吸器疾患(指定難病)」に認定されています。
肺高血圧症に関わる因子
肺高血圧症に関わる因子として、以下の3つの経路があります。
- プロスタグランジンI2(PGI2)経路
- 一酸化窒素(NO)経路
- エンドセリン経路
PGI2経路で合成されるcAMPや、NO経路で合成されるcGMPは血管拡張作用を有しています。
一方、エンドセリン経路ではエンドセリン受容体が刺激されることで血管収縮作用があります。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療
根本的な治療薬はありませんが、肺動脈の血管を拡張させ、血圧を下げることが出来ればPAHの症状が軽減できます。
先ほどの3つの経路を標的にした以下のような薬剤が使用されています。
経路 | 分類 | 代表薬 |
PGI2経路 | PGI2製剤 | 静注用フローラン(エポプロステノール)、 ベンテイビス吸入(イロプロスト)、 トレプロスト注射用・吸入液(トレプロスチニル) |
PGI2受容体作動薬 | ウプトラビ(セレキシパグ) | |
NO経路 | PDE5阻害薬 | レバチオ(シルデナフィル)、 アドシルカ(タダラフィル) |
可溶性 グアニル酸シクラーゼ刺激薬 |
アデムパス(リオシグアト) | |
エンドセリン経路 | エンドセリン受容体拮抗薬 | オプスミット(マシテンタン)、 トラクリア(ボセンタン)、 ヴォリブリス(アンブリセンタン) |
重症度に応じ、これらを適宜単剤もしくは併用して治療が行われています。
今回ご紹介するのは「エンドセリン受容体拮抗薬」で、エンドセリン経路に関与しています!
エンドセリン受容体拮抗薬の作用機序
エンドセリン受容体拮抗薬は、血管収縮作用のあるエンドセリンが結合するエンドセリン受容体を遮断する薬剤です。
エンドセリンが作用しなくなりますので、血管が拡張し、PAHの症状改善効果が得られると考えられています。
エンドセリン受容体にはAとBの2種類がありますが、
- オプスミット(マシテンタン)とトラクリア(ボセンタン)はAとB、
- ヴォリブリス(アンブリセンタン)はAのみ
を遮断するといった違いがあります。
PAHの発症にはエンドセリン受容体Aが重要だと考えられていますが、Aのみを抑制すると、受容体Bから末梢血管透過性が亢進して浮腫を生じる可能性もあります。1)
1)Am J Respir Crit Care Med 187: A1716, 2013
トラクリア、ヴォリブリス、オプスミットの比較・使い分け
2021年3月時点の3剤の一覧表を掲載しています。
適応・用法の違い
小児に適応があるのはトラクリア(1歳以上)とヴォリブリス(8歳以上)ですが、トラクリアには禁忌や併用注意薬が多数あることに注意が必要です。またトラクリアは1日2回の投与です。
禁忌・併用薬の違い
ヴォリブリスとオプスミットは1日1回の投与であり、禁忌や併用注意薬が少ないといった特徴があります。オプスミットは特にCYP3A4阻害・誘導関連薬との併用に注意が必要ですね。
PAHでは単剤で治療効果不十分な場合、プロスタグランジン系薬剤やPDE5阻害薬と併用することもありますので、それを考慮するとヴォリブリスやオプスミットが使いやすそうな印象を受けます。
副作用の違い
主な重大な副作用については、
- トラクリア⇒肝機能障害
- ヴォリブリス⇒体液貯留(浮腫)、貧血
- オプスミット⇒貧血
などが知られています。
特にオプスミットは3番目に登場した薬剤であり、
- 組織移行性と組織親和性が高い。副作用が少なく効果が高い2)
- トラクリアに比し肝機能検査値異常の発現が少ない3)
- ヴォリブリスに比して浮腫に関連する有害事象の発現が少ない3)
という特徴が示唆されています。
上記考察等について、3剤の直接比較は行われていませんので、あくまで「可能性が示唆される」程度とお考えください。
以上より、使い分けを考慮する点として以下にまとめました。
エンドセリン受容体拮抗薬の使い分けのポイント
- 小児の適応有無
- 禁忌の対象、併用薬等の相互作用
- 副作用のプロファイル
2)肺高血圧症治療ガイドライン(2017 年改訂版)
3)オプスミット錠:審査報告書より
まとめ・あとがき
エンドセリン受容体拮抗薬
- エンドセリン受容体を遮断することで血圧を低下させる
- 受容体A/B共に作用する薬剤と、受容体Aにのみ作用する薬剤がある
- 3剤は相互作用や副作用が異なる
現時点では3剤の比較試験等がないため、治療効果や副作用の違いが実際にどの程度あるのかは不明です。
実際には相互作用が少なく、副作用も少ない印象のオプスミット錠がよく使用されていると思われます。
2024年にはオプスミット(マシテンタン)とアドシルカ(タダラフィル)を配合したユバンシ配合錠も登場しました。以下の記事で解説しています。
-
ユバンシ配合錠(マシテンタン/タダラフィル)の作用機序【肺動脈性高血圧症】
続きを見る
以上、今回は肺動脈性高血圧症(PAH)に使用されるエンドセリン受容体拮抗薬の作用機序や一覧表について、疾患解説と共にご紹介しました!
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