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2020年5月7日、高脂血症に使用するプラルエント皮下注(アリロクマブ)の製造販売元であるサノフィ(株)より、販売停止のニュースリリースがありました。
サノフィ|販売停止のニュースリリース
プラルエントは2016年7月4日に承認されており、剤形としては「シリンジ製剤」と「ペン製剤」がありましたが、シリンジ製剤は2018年11月に発売中止されました。
その後、2018年11月21日に効能・効果である「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症(ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る)」に「HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない患者」を追加することが承認されていました。
プラルエントは抗PCSK9抗体薬に分類されており、国内ではレパーサ(一般名:エボロクマブ)に次いで、二番目に登場した薬剤ですが、今回の販売停止はレパーサの特許侵害とのことだそうです。
従って、現在国内で使用可能な抗PCSK9抗体薬はレパーサのみになりますね。詳しくは以下の記事をご参考ください。
-
レパーサ(エボロクマブ)の作用機序と副作用【高脂血症】
続きを見る
販売停止となりましたが、高脂血症(高コレステロール血症)とプラルエント(アリロクマブ)の作用機序やエビデンス等について紹介しています。
高脂血症(脂質異常症)について
高脂血症は、現在では「脂質異常症」と呼ばれている疾患です。
厚生労働省の「平成26年(2014)患者調査の概況」によると、脂質異常症の患者さんの総数は206万2000人と推計されており、その数は年々増えているようです。
やはり、その理由として食生活の欧米化、運動不足などが関与していると考えられます。
このような脂質異常症に関連する生体内の脂質には以下の3つの種類があります。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
- 中性脂肪(トリグリセライド)
- HDLコレステロール(善玉コレステロール)
脂質異常症とは、
- LDLコレステロールもしくは中性脂肪が基準値以上に増えた場合、
または、
- HDLコレステロールが基準値未満に減った場合、
に診断されます。
今回ご紹介するプラルエントは「高LDLコレステロール血症」に使用できる薬剤です。
高脂血症(脂質異常症)の治療
高脂血症(脂質異常症)の治療は、
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
です。
高脂血症は多くの場合、食事や運動などの生活習慣が大きく関係しています。
従って、治療の基本は食事療法と運動療法で、長期的に継続する必要があります。
食事療法と運動療法で脂質が改善しない場合、もしくは緊急を要する場合(心筋梗塞、脳梗塞)には薬物療法を行います。
高コレステロール血症の薬物療法では、HMG-CoA還元酵素阻害薬(例:クレストールやリピトールなどのスタチン系薬剤)が用いられます。
HMG-CoA還元酵素阻害薬が無効、もしくは適さない場合、今回ご紹介するプラルエントが使用できます。
これではここからプラルエントが関与するPCSK9とLDLコレステロール代謝についてご説明します。
PCSK9とLDLコレステロール
血中に存在しているLDLコレステロール(LDL-C)が増えすぎた場合、それを低下させる機構があります。
それを担うのが肝臓の「LDL受容体」です。
肝臓のLDL受容体にLDL-Cが結合することで、LDL-Cは肝細胞内に取り込まれ、血中のLDL-C値が下がります。
その後、LDL受容体は再利用されます。
しかし、このLDL受容体の分解を促進する働きを持つタンパク質が「PCSK9」です。
PCSK9と結合したLDL受容体がLDL-Cと結合すると、肝細胞内に取り込まれ、LDL受容体ごと分解されてしまいます。
つまり、PCSK9がLDL受容体に結合することで、LDL受容体の分解が促進され、結果として血中のLDL-Cを取り込めなくなってしまいます。
プラルエント(一般名:アリロクマブ)の作用機序
プラルエントはPCSK9を特異的に阻害する完全ヒト型抗PCSK9モノクローナル抗体製剤です!
PCSK9がLDL受容体に結合できなくなるため、肝細胞内に取り込まれたLDL受容体は分解されることなく再利用(リサイクル)されます。
その結果、血中のLDL-Cの取り込みが促進され、血中LDL-C濃度が低下すると考えらえます。
エビデンス紹介:HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合(ODYSSEY試験)
承認の根拠となった国内第Ⅲ相試験についてご紹介します。1-2)
本試験は、HMG-CoA還元酵素阻害剤で治療を受けていて、かつ「心血管イベント(冠動脈性疾患、非心原性脳梗塞、慢性腎疾患、2型糖尿病の既往等)」の発現リスクが高い高コレステロール血症患者さんを対象としています。
対象患者さんは、HMG-CoA還元酵素阻害剤との併用にて、プラルエントまたはプラセボを2週間に1回投与する群に無作為に割り付けられました。
主要評価項目は「24週時点のベースラインからのLDL-C変化率」でした。
全体集団における24週時点の結果は以下の通りでした。
試験群 | プラルエント群 | プラセボ群 |
LDL-Cのベースラインからの変化率 | -62.5% | 1.6% |
差:-64.1%, p<0.0001 | ||
トリグリセライドのベースラインからの変化率 | -15.3% | 6.7% |
差:-22.0%, p<0.0001 | ||
HDL-Cのベースラインからの変化率 | 7.9% | 2.1% |
差:5.8%, p=0.0020 | ||
Non-HDL-Cのベースラインからの変化率 | -54.9% | 2.6% |
差:-57.5, p<0.0001 |
このようにプラルエントはプラセボと比較して有意にLDL-Cを減少させることが分かりました。
その他にも、HDL-C増加やトリグリセライド減少効果も示唆されていますね。
エビデンス紹介:HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合(ODYSSEY NIPPON試験)
HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合の根拠となった第Ⅲ相試験についてご紹介します。2)
本試験は、HMG-CoA還元酵素阻害剤の治療が適さないかつ「心血管イベント(冠動脈性疾患、非心原性脳梗塞、慢性腎疾患、2型糖尿病の既往等)」の発現リスクが高い高コレステロール血症患者さんを対象としています。
対象患者さんは、プラルエント群(2週毎群もしくは4週毎群)またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。
主要評価項目は「12週時点のベースラインからのLDL-C変化率」でした。
試験群 | プラセボ群 | プラルエント 2週毎群 |
プラルエント 4週毎群 |
12週時点の ベースラインからのLDL-C変化率 |
-4.3% | -70.1% | -43.8% |
プラセボ群との差 | - | -65.8% p<0.0001 |
-39.5% p<0.0001 |
用法・用量、自己注射
それぞれの効能・効果別の用法・用量は以下の通りです。
効能・効果* | HMG-CoA還元酵素阻害剤で 効果不十分な場合 |
HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が 適さない場合 |
通常用法・用量 | 75mgを2週間間隔で投与 | 150mgを4週間間隔で投与 |
効果不十分な場合 | 150mgを2週に1回投与に増量できる | |
HMG-CoA還元酵素 阻害剤との併用 |
〇 | - |
*心血管イベントの発現リスクが高い場合に限る
このように、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分なのか、治療が適さないか、に応じて治療間隔が異なりますので注意が必要です。
また、HMG-CoA還元酵素阻害剤との併用の必要性も異なっています。
なお、皮下注ペン製剤のため、患者さん自身による在宅自己注射が可能です。
副作用
主な副作用には注射部位反応(紅斑、発赤、腫脹、疼痛、圧痛、かゆみ)などが報告されています。
まとめ・類薬
プラルエントはこんな薬
- PCSK9を特異的に阻害する
- LDL-Cを減少させる
- 類薬にはレパーサ(一般名:エボロクマブ)がある
- 自己注射可能
- 2020年5月に販売停止(特許侵害のため)
PCSK9阻害薬はレパーサ(一般名:エボロクマブ)に次いで2番目の登場です。レパーサについても2019年に「HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合」に対して使用可能となりました。
-
レパーサ(エボロクマブ)の作用機序と副作用【高脂血症】
続きを見る
2020年にプラルエントは販売停止となりましたので、今後はレパーサが使用されていくことになりますね。
引用文献・資料等
- ODYSSEY試験:Circ J. 2016 Aug 25;80(9):1980-7.
- プラルエント 添付文書
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