5.内分泌・骨・代謝系

レパーサ(エボロクマブ)の作用機序と副作用【高脂血症】

2019年6月18日レパーサ皮下注(一般名:エボロクマブ)の効能・効果である「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症」に「HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない患者」が追加されました!

基本情報

製品名 レパーサ皮下注シリンジ/ペン/オートミニドーザー
一般名 エボロクマブ(遺伝子組換え)
製薬会社 製造販売:アムジェン(株)
発売:アステラス製薬(株)
効能・効果 家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症
ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。
・心血管イベントの発現リスクが高い
・ HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない

 

木元 貴祥
HMG-CoA還元酵素阻害剤とは、いわゆる「スタチン」のことですね。

これまでスタチンで効果不十分な場合にのみ使用できましたが、今後は治療が適さない場合にも使用可能です。

 

レパーサは国内初の抗PCSK9抗体薬として2016年1月に承認されました。

その後、2018年7月には新たな第Ⅲ相臨床試験(FOURIER試験)の情報も添付文書に追記されています。

 

なお、同様の抗PCSK9抗体薬であるプラルエント(一般名:アリロクマブ)については2018年11月にスタチンによる治療が適さない場合の適応拡大が既に承認されています。しかし、特許侵害のため、プラルエントは2020年5月より販売停止となりました。

プラルエント(アリロクマブ)の作用機序と副作用【高脂血症】

続きを見る

 

木元 貴祥
従って現在国内で使用可能な抗PCSK9抗体薬はレパーサのみということになりますね。

 

今回は高脂血症(高コレステロール血症)とレパーサ(エボロクマブ)の作用機序について紹介します。

 

高脂血症(脂質異常症)について

高脂血症は、現在では「脂質異常症」と呼ばれている疾患です。

 

厚生労働省の「平成26年(2014)患者調査の概況」によると、脂質異常症の患者さんの総数は206万2000人と推計されており、その数は年々増えているようです。

やはり、その理由として食生活の欧米化、運動不足などが関与していると考えられます。

 

このような脂質異常症に関連する生体内の脂質には以下の3つの種類があります。

  1. LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
  2. 中性脂肪(トリグリセライド)
  3. HDLコレステロール(善玉コレステロール)

 

脂質異常症とは、

  • LDLコレステロールもしくは中性脂肪が基準値以上に増えた場合、

または、

  • HDLコレステロールが基準値未満に減った場合、

に診断されます。

今回ご紹介するレパーサは「高LDLコレステロール血症」に使用できる薬剤です。

 

高脂血症(脂質異常症)の治療

高脂血症(脂質異常症)の治療は、

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 薬物療法
    です。

高脂血症は多くの場合、食事や運動などの生活習慣が大きく関係しています。

従って、治療の基本は食事療法と運動療法で、長期的に継続する必要があります。

 

食事療法と運動療法で脂質が改善しない場合、もしくは緊急を要する場合(心筋梗塞脳梗塞)には薬物療法を行います。

 

高コレステロール血症の薬物療法では、HMG-CoA還元酵素阻害薬(例:クレストールやリピトールなどのスタチン系薬剤)が用いられます。

クレストール(ロスバスタチン)の作用機序【高脂血症】

続きを見る

 

HMG-CoA還元酵素阻害薬が無効であった場合、今回ご紹介するレパーサが使用できます。

これではここからレパーサが関与するPCSK9LDLコレステロール代謝についてご説明します。

 

PCSK9とLDLコレステロール

血中に存在しているLDLコレステロール(LDL-C)が増えすぎた場合、それを低下させる機構があります。

それを担うのが肝臓の「LDL受容体」です。

 

肝臓のLDL受容体にLDL-Cが結合することで、LDL-Cは肝細胞内に取り込まれ、血中のLDL-C値が下がります

その後、LDL受容体は再利用されます。

 

しかし、このLDL受容体の分解を促進する働きを持つタンパク質が「PCSK9」です。

PCSK9と結合したLDL受容体がLDL-Cと結合すると、肝細胞内に取り込まれ、LDL受容体ごと分解されてしまいます。

 

木元 貴祥
つまり、PCSK9がLDL受容体に結合することで、LDL受容体の分解が促進され、結果として血中のLDL-Cを取り込めなくなってしまいます。

 

レパーサ(一般名:エボロクマブ)の作用機序

レパーサはPCSK9を特異的に阻害するヒト抗PCSK9モノクローナル抗体製剤です!

PCSK9がLDL受容体に結合できなくなるため、肝細胞内に取り込まれたLDL受容体は分解されることなく再利用(リサイクル)されます。

その結果、血中のLDL-Cの取り込みが促進され、血中LDL-C濃度が低下すると考えらえます。

 

エビデンス紹介①:高コレステロール血症の国内第Ⅲ相試験

承認の根拠となった国内第Ⅲ相試験についてご紹介します。1-2)

本試験は、HMG-CoA還元酵素阻害剤で治療を受けていて、かつ「心血管イベント冠動脈性疾患、非心原性脳梗塞、慢性腎疾患、2型糖尿病の既往等)」の発現リスクが高い高コレステロール血症患者さんを対象としています。

対象患者さんは、アトルバスタチン5mgまたは20mgとの併用にて、レパーサ140mgまたはプラセボを2週間に1回、もしくはレパーサ420mgまたはプラセボを4週間に1回投与する群に無作為に割り付けられました。

 

主要評価項目は「12週時点のベースラインからのLDL-C変化率」と「10週と12週の平均値のベースラインからのLDL-C変化率」でした。

12週時点の結果は下表の通りです。

試験群 アトルバスタチン5mg併用群 アトルバスタチン20mg併用群
レパーサ2週毎 レパーサ4週毎 レパーサ2週毎 レパーサ4週毎
ベースラインからのLDL-C変化率(プラセボとの差 -74.9%
p<0.001
-69.9%
p<0.001
-75.9%
p<0.001
-66.9%
p<0.001
ベースラインからのHDL-C変化率(プラセボとの差 13.5%
p<0.001
15.2%
p<0.001
16.9%
p<0.001
10.2%
p<0.001
ベースラインからのトリグリセライド変化率(プラセボとの差 -27.6%
p<0.01
-20.0%
p<0.001
-17.2%
p<0.01
-16.9%
p<0.05
LDL-C<70mg/dlを達成した割合 98.0% 96.0% 96.0% 98.0%

 

このようにレパーサはプラセボと比較して有意にLDL-Cを減少させることが分かりました。

その他にも、HDL-C増加やトリグリセライド減少効果も示唆されていますね。

 

エビデンス紹介②:心血管イベント抑制効果をみた第Ⅲ相試験(FOURIER試験)

2018年7月にレパーサの添付文書が改訂され、本試験の結果が新たに掲載されました。2-3)

 

本試験はHMG-CoA還元酵素阻害剤で治療を受けている心血管系疾患を有する患者さん27,564人(日本人429人)を対象とした大規模な試験です。

対象患者さんは、HMG-CoA還元酵素阻害剤との併用にて、レパーサ140mgまたはプラセボを2週間に1回、もしくはレパーサ420mgまたはプラセボを4週間に1回投与する群に無作為に割り付けられました。

 

主要評価項目は「心血管系疾患に起因する死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建又は不安定狭心症による入院のいずれかの発症率」で、結果は以下の通りでした。

試験群 レパーサ群 プラセボ群
主要評価項目(発症率) 9.8% 11.3%
HR=0.85, p<0.001
主要評価項目の主な各構成要素
心血管系疾患に起因する死亡 1.8% 1.7%
HR=1.05, p=0.62
致死性、非致死性の心筋梗塞 3.4% 4.6%
HR=0.73, p<0.001
致死性、非致死性の脳卒中 1.5% 1.9%
HR=0.79, p=0.01
冠動脈血行再建 5.5% 7.0%
HR=0.78, p<0.001

 

以上の結果より、レパーサを使用することで心血管イベントの発症リスクが低減することが示されました。

 

用法・用量、在宅自己注射

レパーサは2週間もしくは4週間毎に投与します。従って、患者さんの希望に合わせてどちらかの投与間隔を選択することができます。

2017年にはレパーサ皮下注用ペンが登場しましたので、2017年5月より患者さん自身による在宅自己注射が可能になっています!

 

また、スタチンで効果不十分な場合にはHMG-CoA還元酵素阻害剤と併用して使用しますが、スタチン不耐の場合にはレパーサは単剤で治療可能です。

 

副作用

主な副作用には糖尿病や注射部位反応、肝酵素異常などが報告されています。

 

まとめ・あとがき

レパーサはこんな薬

  • PCSK9を特異的に阻害し、LDL-Cを減少させる
  • スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害剤)が適さない場合にも使用可能(この場合は単剤)
  • 自己注射可能

 

PCSK9阻害薬は新規作用機序を有する薬剤のため、選択肢の幅が広がり、今後の治療選択にも大きく期待できると考えられます♪

 

在宅自己注射が可能になったことから、利便性も向上したと思います。

 

2018年7月にはレパーサの新たな臨床試験(エビデンス)が添付文書に追記され、2019年にはスタチン不耐の患者さんへの適応も拡大されました。

 

以上、本日は国内新作用機序のレパーサ(一般名:エボロクマブ)を紹介いたしました!

 

引用文献・資料等

  1. Am J Cardiol. 2016 Jan 1;117(1):40-7.
  2. レパーサ皮下注 添付文書
  3. FOURIER試験:N Engl J Med. 2017 May 4;376(18):1713-1722.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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