5.内分泌・骨・代謝系

メフィーゴ(ミフェプリストン/ミソプロストール)の作用機序【経口妊娠中絶薬】

2023年4月28日、「人工妊娠中絶」を対象疾患とするメフィーゴパック(ミフェプリストン/ミソプロストール)が承認されました。

ラインファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 メフィーゴパック
一般名 ミフェプリストン/ミソプロストール
製品名の由来
製造販売 ラインファーマ(株)
効能・効果 子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9週0日)以下の者に対する人工妊娠中絶
用法・用量 ミフェプリストン錠1錠(ミフェプリストンとして200mg)を経口投与し、
その36~48時間後の状態に応じて、
ミソプロストールバッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800μg)を
左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置する。
30分間静置した後、口腔内にミソプロストールの錠剤が残った場合には飲み込む。
収載時の薬価 母体保護法の指定医師のもと、保険適用外

 

WHOのガイドライン等では、妊娠12週未満に対する人工妊娠中絶の選択肢として「外科的処置」と「薬剤」が推奨1)されていますが、これまで日本国内では「外科的処置」のみしか選択肢がありませんでした。2)

妊娠12週以降については、プレグランディン腟坐剤(ゲメプロスト)による人工妊娠中絶が承認されています。

 

木元 貴祥
妊娠12週未満に対する国内初の人工妊娠中絶薬となります!

 

第二部で了承されましたが、メフィーゴは社会的関心が高く、より慎重な審議を行う必要があると判断され、パブリックコメントの意見募集が開始されました(2023年2月28日まで)。

その後、パブコメの結果も参考に、2023年4月21日の薬事分科会でも了承されています。

「メフィーゴパック」の医薬品製造販売承認等に関する御意見の募集について

 

今回は人工妊娠中絶とメフィーゴ(ミフェプリストン/ミソプロストール)の作用機序・エビデンスについて解説していきます。

 

妊娠とホルモンの働き

受精卵が子宮内膜に着床すると、以下のような様々なホルモン分泌が促進されます。

  • hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)
  • プロゲステロン(黄体ホルモン)

 

この中でも、着床の維持や妊娠を維持するために重要な役割を担っているホルモンがプロゲステロンです。プロゲステロンが子宮の受容体に作用することで、子宮内膜が厚くなって胎盤が安定化します。また、流産を抑制する作用も有しています。

 

人工妊娠中絶

人工妊娠中絶は母体保護法において、「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出すること。」と定義されています。

また、実施できるのは母体保護法により指定された「指定医師」のみです。

 

本人の希望によってできるものではなく、母体保護法で適応条件が定められているため、これに該当しない限り実施できません。

第三章 母性保護

(医師の認定による人工妊娠中絶)

第十四条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。

一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの

二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫かんいんされて妊娠したもの

2 前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなつたときには本人の同意だけで足りる。

 

妊娠12週未満に対する人工妊娠中絶の選択肢として、海外ではWHOのガイドラインにもあるように「外科的処置」と「薬剤(メフィーゴ等)」が推奨1)されています。しかし、日本国内では「外科的処置(掻爬そうはや吸引法など)」のみしか選択肢がありませんでした。2)

 

木元 貴祥
今回ご紹介するメフィーゴは、国内初の経口妊娠中絶薬です。

 

ちなみに国内の人工妊娠中絶数は約145,000件(令和2年度集計)で、年々減少傾向にあります。

 

妊娠中絶薬と緊急避妊薬(アフターピル)との違い

少し話が脱線しますが、ニュースなどで聞く機会がある緊急避妊薬(アフターピル)との違いについてです。

 

緊急避妊薬は着床(妊娠)を阻害する目的で使用するため、例えばノルレボ錠(レボノルゲストレル)なら性交後72時間以内に服用します。

一方、妊娠中絶薬は着床(妊娠)後の堕胎を目的として使用するため、妊娠後に服用します。

目的 服用タイミング 代表薬
緊急避妊薬(アフターピル) 着床(妊娠)の阻害 着床(妊娠)の ノルレボ錠
妊娠中絶薬 堕胎 着床(妊娠)の メフィーゴ

 

メフィーゴ(ミフェプリストン/ミソプロストール)の作用機序

メフィーゴは2つの有効成分(ミフェプリストン、ミソプロストール)から構成されています。

まずミフェプリストンを経口投与しますが、ミフェプリストンはプロゲステロン受容体拮抗薬で、プロゲステロンの働きを抑制することで妊娠継続を中断させ、流産を促進させる働きがあります。

 

その36~48時間後に2剤目としてミソプロストールをバッカル投与(歯と歯茎の間に挟み、口腔粘膜から吸収させる方法)します。

ミソプロストールはNSAIDsによる胃潰瘍・十二指腸潰瘍治療薬としてサイトテック錠が承認されていますね。NSAIDsはCOXを阻害することで炎症性のプロスタグランジンの産生を抑制しますが、同時に胃粘膜保護作用のあるプロスタグランジンの産生も抑制してしまいます。

ジョイクル関節注(ジクロフェナク結合ヒアルロン酸)の作用機序【変形性関節症】

続きを見る

 

ミソプロストールはプロスタグランジン作用のある薬剤のため、NSAIDsによる胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療薬として使用されていますが、プロスタグランジンには子宮収縮作用(流産促進)もあります。

 

木元 貴祥
そのため、サイトテック錠は「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」に対して投与禁忌とされています。

 

メフィーゴは、ミソプロストールの子宮収縮作用(流産促進)を妊娠中絶に応用しているのですね!

 

このように、メフィーゴはミフェプリストンによるプロゲステロン受容体遮断と、ミソプロストールによる子宮収縮作用によって人工妊娠中絶を誘発させるといった作用を有しています。

メフィーゴ(ミフェプリストン/ミソプロストール)の作用機序:妊娠遮断と子宮収縮作用によって人工妊娠中絶を誘発させる

 

エビデンス紹介

根拠となった国内の臨床試験をご紹介します。3-4)

本試験は、妊娠63日(9週0日)以下の18歳から45歳の女性120例を対象に、メフィーゴパックの有効性・安全性を検証した国内第Ⅲ相臨床試験です(単群試験)。

 

主要評価項目は「ミフェプリストン投与からミソプロストール投与後24時間までに、人工妊娠中絶が成功した割合」とされ、結果は93.3% [95%CI: 87.3-97.1]と、事前に定められた95%CI下限値の基準値(50%)を上回っていました。

 

副作用

10%以上に認められる副作用として、下腹部痛、嘔吐、下痢などが報告されています。

 

重大な副作用としては、

  • 重度の子宮出血(0.8%)
  • 感染症(頻度不明)
  • 重度の皮膚障害(頻度不明)
  • ショック(頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)
  • 脳梗塞(頻度不明)、心筋梗塞(頻度不明)、狭心症(頻度不明)

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

重度の子宮出血については、添付文書の警告欄にも記載される予定で、死亡例も報告されていることから、緊急時に適切な対応が望まれます。

【警告】

1.2 本剤投与後に、失神等の症状を伴う重度の子宮出血が認められることがあり、外科的処置や輸血が必要となる場合がある。また、重篤な子宮内膜炎が発現することがあり、海外では、敗血症、中毒性ショック症候群に至り死亡した症例が報告されていることから、緊急時に適切な対応が取れる体制(異常が認められた場合に本剤の投与を受けた者からの連絡を常に受ける体制や他の医療機関との連携も含めた緊急時の体制)の下で本剤を投与すること。

 

用法・用量

ミフェプリストン錠1錠(ミフェプリストンとして200mg)を経口投与し、その36~48時間後の状態に応じて、ミソプロストールバッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800μg)を左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置します。

30分間静置した後、口腔内にミソプロストールの錠剤が残った場合には飲み込みます。

 

木元 貴祥
ミフェプリストンは通常の経口投与、ミソプロストールはバッカル投与ですので、注意が必要ですね!

 

なお、本剤投与後には人工妊娠中絶の成否を確認するために、胎嚢排出に至った可能性のある子宮出血が認められたときに来院してもらい、超音波検査により胎嚢の排出の有無を確認することとされています。

子宮出血が確認されない場合であっても、遅くともミソプロストール投与後1週間を目途に来院してもらい、超音波検査により胎嚢の排出の有無を確認します。

 

また、人工妊娠中絶が達成されなかった場合、追加投与は行わずに、外科的処置を考慮することとされています。

 

なお、本薬の適切な使用体制のあり方が確立されたと判断されるまでの当分の間、2剤目(ミソプロストール)投与後、入院又は外来であっても胎嚢が排出されるまで院内待機が必須です。

 

薬価収載はされず、保険適応外

メフィーゴは母体保護法の指定医師のもと、保険適用外です。

そのため、通常の医薬品のような薬価収載は行われません。

 

まとめ・あとがき

メフィーゴはこんな薬

  • 国内初の経口妊娠中絶薬(WHOでは既に推奨されている)で、妊娠63日(妊娠9週0日)以下に使用する
  • メフィーゴはミフェプリストンによるプロゲステロン受容体遮断と、ミソプロストールによる子宮収縮作用によって人工妊娠中絶を誘発させる
  • ミフェプリストンは経口投与、ミソプロストールはバッカル投与

 

人工妊娠中絶は、倫理観が問われるため、安易に行うべきものではありませんが、望まぬ妊娠によって苦しむ方も少なからずいらっしゃいます。

 

これまで国内の人工妊娠中絶は外科的処置に限られていて、妊婦への負担が非常に大きいといった問題がありました。

 

木元 貴祥
指定医師のもと、メフィーゴが新たな選択肢として適切に届けられることを願いたいと思います。

 

以上、今回は人工妊娠中絶とメフィーゴパックの作用機序について解説しました!

 

引用論文・資料等

  1. 世界保健機関(WHO)|中絶ケアに関するガイドライン
  2. 日本産婦人科医会|早期人工流産(以下,妊娠12 週未満の人工妊娠中絶)について
  3. 国内第Ⅲ相試験:JapicCTI-195008
  4. メフィーゴパック審査報告書

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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