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オンパットロとは、2019年6月18日に「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)」を効能・効果として承認された新薬で、RNA干渉(RNAi:RNA interference)を利用した国内初の「siRNA治療薬」に分類されています。
読み方:siRNA=エスアイアールエヌエー
Alnylam Japan|ニュースリリース
基本情報
製品名 | オンパットロ点滴静注2mg/mL |
一般名 | パチシランナトリウム |
製品名の由来 | トランスサイレチン(TTR)のアミロイドタンパク質であるATTRが引き起こす疾患に対して投与(ON)するパチシラン(PATisiran)を組み合わせて「ONPATTRO(オンパットロ)」とした。 |
製造販売 | Alnylam Japan(アルナイラム・ジャパン)(株) |
効能・効果 | トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー |
用法・用量 | 通常、成人には3週に1回パチシランとして0.3mg/kgを点滴静注する。 体重が104kg以上の患者には、3週に1回パチシランとして31.2mgを点滴静注する。 いずれの場合にも、70分間以上(投与開始後15分間は約1mL/分、その後は約3mL/分)かけて投与すること。 |
収載時の薬価 | 1瓶:986,097円 |
今回はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)とオンパットロ(パチラシン)の作用機序、そしてsiRNA治療薬の特徴などについて解説します。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)とは
家族性アミロイドポリニューロパチー(Familial Amyloid Polyneuropathy:FAP)とは、異常なタンパク質(アミロイド)が末梢神経等に沈着することによって様々な障害を引き起こす疾患で、難病に指定されています。1)
沈着する異常なタンパク質(アミロイド)の種類によっていくつかに分類されていますが、その原因タンパク質が「トランスサイレチン(TTR:Transthyretin)」のものをTTR-FAP(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)と呼んでいます。
参考:言葉の意味
- トランスサイレチン型:TTRと呼ばれるタンパク質が原因。
- 家族性:遺伝が関係している。
- アミロイド:異常なタンパク質の凝集体。
- ポリニューロパチー:様々な末梢神経に障害が起きる。
初期症状としては、末梢神経や自律神経にアミロイド沈着が起こることによって、手足のしびれや痛み、温感が鈍くなる、などの症状が現れます。
その後、進行していくと、心臓、消化管、腎臓、眼も障害されていきます。
TTR-FAPの原因
正常な場合、TTRは肝臓で合成され、安定な四量体として存在しています。その後、血中に放出されますが、血中でも四量体のまま安定化しているため、特に悪さはしません。
しかしTTR-AFPでは何らかの遺伝子異常によって、肝臓で異常なTTRが合成されます。異常なTTRは血中に放出されると不安定な状態になり、異常な単量体として存在するようになります。
異常なTTRの単量体が凝集することでアミロイドを形成し、神経や臓器に沈着することでTTR-AFPを発症すると考えられています。
TTR-FAPの治療
治療法としては以下があります。
- 肝移植:異常なTTRを合成している肝臓を取り換える。唯一の根治療法。2)
- 薬物療法:ビンダケル(一般名:タファミジスメグルミン)によって進行を抑制させる。
- 対症療法:種々の症状を緩和させる
ビンダケルは2013年に初のTTR-AFP治療薬として登場し、経口で治療できる薬として使用されていますね。
-
ビンマック(タファミジス)の作用機序:ビンダケルとの違い【ATTR-CM】
続きを見る
オンパットロは注射剤ですが、ビンダケルと同様にTTR-AFPの進行抑制効果が期待されています。
オンパットロ(パチラシン)の構造と特徴
オンパットロの有効成分はsiRNAと呼ばれる二本鎖のRNA構造で、標的となる遺伝子(この場合、異常なTTR遺伝子)と同じ配列を有しています。
siRNAの配列・構造が気になる方はこちら>>オンパットロのsiRNAの配列・構造
siRNAは非常に不安定な構造のため、そのまま体内に投与されると分解酵素等によって速やかに分解されてしまい薬効が発揮できません。
そこでオンパットロは有効成分のsiRNAを脂質ナノ粒子に封入し、体内での安定性が高められているといった特徴があります!
オンパットロ(パチラシン)の作用機序:RNA干渉とsiRNA
siRNAが肝臓の細胞内に到達すると、速やかに一本鎖RNAになり、Argonauteと呼ばれるタンパク質と複合体(RISC)を形成します。
このRISCが標的である異常なTTR遺伝子のRNA配列を認識し、切断していきます。
その結果、異常なTTR遺伝子のRNAが翻訳されなくなり、異常なTTRの合成・産生が抑制されます。
オンパットロは上記の作用機序によって異常なTTRの合成を抑制し、結果的にTTRアミロイドの産生も抑制されるため、TTR-FAPの進行抑制効果を発揮すると考えられています。
オンパットロのmRNAへの結合領域はTTR遺伝子の非翻訳部分のため、TTR遺伝子変異の種類によらず効果が期待されています。
エビデンス紹介:APOLLO試験
根拠となった臨床試験(APOLLO試験)を紹介します。4)
本試験はTTR-FAPの患者さんを対象に、プラセボとオンパットロを比較する国際共同(日本人含む)の第Ⅲ相臨床試験です。
主要評価項目は「18か月時点のmNIS+7のベースラインからの変化量*」とされました。
試験群 | プラセボ群 | オンパットロ群 |
18か月時点の mNIS+7のベースラインからの変化量 |
28.0±2.6 | -6.0±1.7 |
差:-34.0, P<0.001 |
*mNIS+7(補正神経障害スコア):運動力、反射、感覚、神経伝導および体位性血圧を評価する修正ニューロパチー障害スコア
このようにオンパットロ群ではプラセボ群と比較して有意に神経障害のスコアを改善していることが示されました!
副作用
主な副作用として、Infusion reaction(27.0%)、下痢(9.5%)、末梢性浮腫(6.8%)及び無力症(6.1%)などが報告されています。
重大な副作用としては、
- Infusion reaction(27.0%)
- 房室ブロック(0.7%)
が挙げられています。
特にInfusion reactionの予防・軽減目的のため、オンパットロの投与前にプレメディケーション(デキサメタゾン、アセトアミノフェン、H1/H2ブロッカー)が推奨されています。
本剤投与によりInfusion reactionが発現する可能性がある。Infusion reactionは主に本剤投与中又は投与開始2時間以内に多く報告されている。それらの症状を軽減させるため、以下の前投薬を本剤投与のたびに、少なくとも投与60分前に投与すること。
- コルチコステロイド(デキサメタゾン10mg又は同等薬)(静脈内投与)
- アセトアミノフェン(500mg)(経口投与)
- H1拮抗薬(クロルフェニラミンマレイン酸塩5mg又は同等薬)(静脈内投与)
- H2拮抗薬(ファモチジン20mg又は同等薬)(静脈内投与)
なお、患者の症状、状態により前投薬の投与量の調整を考慮すること。
※引用:オンパットロ添付文書
用法・用量
通常、成人には3週に1回パチシランとして0.3mg/kgを点滴静注します(体重が104kg以上の患者には、3週に1回パチシランとして31.2mgを点滴静注)。
いずれの場合にも、70分間以上(投与開始後15分間は約1mL/分、その後は約3mL/分)かけて投与することとされています。
収載時の薬価
収載時(2019年9月4日)の薬価は以下の通りです。
- オンパットロ点滴静注2mg/mL(8.8mg 1瓶):986,097円(1日薬価:80,040円)
また、有用性加算(Ⅰ)(A=40%)が加算されています!40%はすごい!
有用性加算の根拠
- 本邦で初めてのsiRNAの核酸医薬品であり、既存の薬剤とは全く異なる新規の薬理作用を有すると認められる。
- 既存治療薬と異なり、遺伝子変異型や疾患の進行程度などに左右されることなく、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者への有効性が示されている。
- 以上より、有用性加算(Ⅰ)A=40%が妥当と判断した。
薬価算定の根拠は以下の記事をご参考ください。
-
【新薬:薬価収載】12製品+再生医療等製品(2019年9月4日)
続きを見る
ビンダケル治療歴に対する効果や併用については?
TTR-AFPでは既にビンダケル(一般名:タファミジスメグルミン)が使用されていますが、ビンダケルの治療歴があってもオンパットロは効果を発揮するのでしょうか?
前述のAPOLLO試験ではビンダケル治療歴の有無別に解析が行われており、どちらも有効性・安全性に差異はなかったとされています。5)
またビンダケルとオンパットロを併用した場合も有効性・薬力学への影響、安全性に大きな差異は認められなかったとされています。5)
まとめ・あとがき
オンパットロはこんな薬
- 国内初のsiRNA治療薬
- RNA干渉によって標的の遺伝子をノックアウトさせる
- Infusion Reactionには注意が必要なため、プレメディケーションが必須
オンパットロは国内初のsiRNAによる治療薬です!
siRNAは1998年には発見3)されており、ノーベル賞の受賞にも繋がっていますが、その不安定さから臨床応用がなかなか進みませんでした。
オンパットロは脂質ナノ粒子を利用することで、分解されることなく目的の臓器に到達できるといった特徴があります(いわゆる、DDS)。
2022年にはオンパットロを改良したアムヴトラ皮下注(ブトリシラン)も承認されていますので、併せてご確認ください。
-
アムヴトラ皮下注(ブトリシラン)の作用機序【TTR-FAP】
続きを見る
以上、今回はTTR-FAPとオンパットロ(パチラシン)の作用機序、そしてsiRNAの特徴などについて解説しました!
引用文献・資料等
- 難病情報センター|全身性アミロイドーシス(指定難病28)
- 日本神経学会|家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン
- Nature. 1998 Feb 19;391(6669):806-11.
- APOLLO試験:N Engl J Med. 2018 Jul 5;379(1):11-21.
- オンパットロ点滴静注 審査報告書
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