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シムツーザ配合錠(DRV/COBI/FTC/TAF)の作用機序【HIV】

シムツーザ配合錠2019年6月18日、「HIV-1感染症」を効能・効果として承認された新医療用配合剤です。

ヤンセンファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 シムツーザ配合錠
一般名 ●ダルナビルエタノール付加物(DRV)
●コビシスタット(COBI)
●エムトリシタビン(FTC)
●テノホビルアラフェナミドフマル酸塩(TAF)
製品名の由来 ラテン語の「Simitu」に由来し、「一緒に(together)」の意味をもつ。
製造販売 ヤンセンファーマ(株)
効能・効果 HIV-1感染症
用法・用量 通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、
1回1錠を1日1回食事中又は食直後に経口投与する。
収載時の薬価 1錠:4,751.00円

 

シムツーザ配合錠は既存の以下の2製品を配合した医薬品ですね。

  • プレジコビックス配合錠(ダルナビル+コビシスタット)
  • デシコビ配合錠(エムトリシタビン+テノホビル)

 

参考

  • ダルナビル(DRV):プロテアーゼ阻害薬
  • コビシスタット(COBI):CYP3A4阻害薬(DRVの血中濃度を高めるブースターの役割)
  • エムトリシタビン(FTC):核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
  • テノホビル(TAF):核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)

 

木元 貴祥
即ち、4剤を配合したHIV治療薬です。ガイドラインでも上記の組み合わせは初回治療の一つとして記載されていますね。

 

今回はHIV感染症とシムツーザ配合錠の作用機序などについてご紹介します。

 

AIDSとHIV

木元 貴祥
AIDS(エイズ)という言葉は一度は耳にしたことがあると思います。

 

正式名称は「後天性免疫不全症候群(Acquired immune deficiency syndrome:AIDS)」と呼ばれ、体内の免疫細胞が破壊されて後天的に免疫不全を引き起こす疾患です。

 

AIDSを引き起こす原因とされているウイルスが「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」です。

HIVに感染して数年の潜伏期間(無症状)を経た後にAIDSが発症すると言われています。

 

AIDSを発症すると全身倦怠感、体重の急激な減少、咳、発熱、発疹、といった風邪のような症状を呈します。

その後、普通では感染しないような日和見感染症(例:ニューモシスチス肺炎、カポジ肉腫、サイトメガロウイルス感染症)を合併し、生命に危機を及ぼします。

 

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染と増殖メカニズム

HIVの感染経路には以下の3つが知られています。

  • 性的感染
  • 血液感染
  • 母子感染

 

HIVは一本鎖RNAを持つレトロウイルスで、単体では増殖できません。従って、ヒト等の動物の細胞内に感染して増殖を行います。

 

木元 貴祥
それではここから増殖メカニズムについてご説明します。

 

HIVの構造と吸着・膜融合・脱殻

HIVはエンベロープと呼ばれる外膜の中にカプシドがあり、その中にRNAが封入された構造を有しています。

HIVの構造

 

HIVがヒト細胞に感染すると、
吸着⇒膜融合⇒脱殻というプロセスを経てヒト細胞内にウイルスRNAが放出されます。

HIVの吸着・膜融合・脱殻

 

ウイルスRNAの逆転写

ヒトの細胞内に放出されたウイルスRNAは「逆転写酵素」と呼ばれるウイルス酵素によって二本鎖DNAが合成されます。

 

合成されたウイルス二本鎖DNAはヒト細胞の核内へと運ばれていきます。

HIVのRNAの逆転写と逆転写酵素

 

ヒトDNAへの組み込み(インテグラーゼ)とタンパク質合成(プロテアーゼ)

核内に運ばれたウイルスDNAは、そのままでは複製や転写・翻訳ができません。

 

そのためウイルスDNAは「インテグラーゼ」と呼ばれるウイルス酵素によって、ヒトDNAの中にウイルスDNAを組み込みます

 

ウイルスDNAがヒトDNAに組み込まれることで、HIVに感染したヒト細胞が増殖する際にはウイルスDNAも一緒に増殖していってしまいます。

 

そしてウイルスDNAの遺伝情報を元に、転写・翻訳が行われ、ウイルスに必要なタンパク質も勝手に合成されていってしまいます。

 

合成されたタンパク質は「プロテアーゼ」と呼ばれる酵素によって適切な大きさに切断され、HIVの増殖が完了します。

 

木元 貴祥
以上がHIVの感染・増殖のメカニズムです。

 

HIV感染症の治療

HIV感染症は早期に行うことで、AIDSの発症までの期間を延長することができます。

ただし、HIVを完治させることは現代医学では難しいとされています。

 

主に使用される薬剤には以下の種類があり、これらを適宜併用した多剤併用療法が基本です。1)

  • 核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
  • 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
  • プロテアーゼ阻害剤(PI)
  • 膜融合阻害剤
  • インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

 

組み合わせ方としては、HIV抑制効果が強い「キードラッグ」と、キードラッグを補足してHIV抑制効果を高める働きのある「バックボーン」を併用します。

 

木元 貴祥
どの薬剤がキードラッグかバックボーンなのかの明確な定義はないのですが、「NRTI×2剤」をバックボーンとされることが多いです。

 

従って、初回治療の組み合わせとしては、以下のいずれかが患者さんの適正(服用率を100%に近づけることを最優先)に併せて推奨されています。1)

 

今回ご紹介するシムツーザ配合錠は「NRTI×2剤+PI×1剤+ブースター(COBI)」として使用できる薬剤で、ガイドライン1)にも初回治療の一つとして掲載されています。

 

これらの多剤併用療法を原則、一生涯行うことでAIDSで死亡することはほとんど無くなったと言われています。

 

シムツーザ配合錠の作用機序

シムツーザ配合錠は

  • プレジコビックス配合錠(ダルナビル+コビシスタット):プロテアーゼ阻害剤(PI)+ブースター
  • デシコビ配合錠(エムトリシタビン+テノホビル):核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)2剤

の配合錠です。

 

木元 貴祥
ここからプレジコビックスとデシコビの作用機序について解説していきます。

 

プレジコビックスの作用機序:プロテアーゼ阻害剤+ブースター

ダルナビル(DRV)はウイルスタンパク質の切断を担うプロテアーゼを阻害する薬剤です。

 

プロテアーゼが阻害されることでウイルスの最終タンパク質の合成が阻害され、その結果ウイルスの増殖が抑制できると考えられています。

ダルナビル(DRV)の作用機序:プロテアーゼ阻害薬

また、ダルナビルはCYP3A4によって代謝されてしまい、次第に血中濃度が低下(効果が低下)していきます。

 

そこでCYP3A4阻害作用を有するコビシスタット(COBI)を併用すると、ダルナビルの代謝が抑制され、血中濃度を高めることが可能となります。

その結果、ダルナビルの効果が高まり、作用時間も延長すると考えられています。

 

木元 貴祥
このように併用することで、一方の薬剤の効果を高める役割を担う薬剤を「ブースター」と呼んでいます。

 

その分、他の併用薬剤との相互作用には十分注意が必要になってしまいますが・・・。

シムツーザ配合錠でも併用禁忌(例:リファンピシン、フェイトイン、シルデナフィルリバーロキサバン、エルゴタミン、等)が数多く設定されていますね。主にCYP3A4やP糖タンパク系です。

 

デシコビ配合錠の作用機序:逆転写酵素阻害剤

エムトリシタビン(FTC)とテノホビル(TAF)は前述のウイルスの逆転写酵素を阻害する薬剤です。その結果、二本鎖DNAが合成できなくなり、その後の反応が全てストップします。

逆転写酵素阻害剤の作用機序

 

このようにシムツーザ配合錠は

  • プロテアーゼの阻害+ブースターによる効果増強
  • 逆転写酵素の阻害

によってウイルスの増殖を抑制する薬剤ですね。

 

副作用

主な副作用として、下痢(19.6%)、頭痛(13.0%)、発疹(12.2%)、悪心(7.7%)、疲労(5.2%)などが報告されています。

 

重大な副作用として

  • 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、急性汎発性発疹性膿疱症(頻度不明)
  • 肝機能障害、黄疸(頻度不明)
  • 急性膵炎(0.1%)
  • 腎不全又は重度の腎機能障害(頻度不明)
  • 乳酸アシドーシス(頻度不明)

などが挙げられていますので特に注意が必要です。

 

用法・用量

通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、1回1錠を1日1回食事中又は食直後に経口投与します。

 

木元 貴祥
プレジコビックス配合錠は「食事中または食直後」の服用が必要ですので、シムツーザ配合錠も同じになっていますね。

 

薬価

収載時(2019年7月3日)の薬価は以下の通りです。2)

  • 1錠:4,751.00円(1日薬価4,751.00円)

 

木元 貴祥
シムツーザはHIV治療薬のため、通常の薬価収載時期(2月、5月、8月、11月)ではなく、2019年7月3日に緊急薬価収載されました。

 

算定方式は類似薬効比較方式(Ⅰ) で、プレジコビックス配合錠(2,002.80円)とデシコビ配合錠LT(2,748.20円)の単純な足し算の薬価ですね。

 

まとめ・あとがき

シムツーザ配合錠はこんな薬

  • プレジコビックス配合錠もデシコビ配合錠の配合剤
  • プロテアーゼ阻害薬(PI)+ブースターのコビシスタット(COBI)+核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)×2剤を配合している
  • 1日1回経口投与で治療が可能
  • 併用禁忌や食事の影響には注意が必要

 

HIV治療薬は現在多数の配合錠が承認・販売されています。2018年にはオデフシィ配合錠(既存薬の新配合剤)やジャルカ配合錠(世界初の2剤併用可能)、2019年にはビクタルビ配合錠(新規INSTIを配合)が登場してきています。

ビクタルビ配合錠(BIC/FTC/TAF)の作用機序:トリーメクとの違い・比較【HIV】

続きを見る

 

木元 貴祥
今後は使い分け等が検討されれば興味深いと感じます。

 

以上、今回はHIVとシムツーザ配合錠の作用機序についてご紹介しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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