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厚労省は2018年11月21日、トレムフィア皮下注100mgシリンジ(一般名:グセルクマブ)に「既存治療で効果不十分な掌蹠膿疱症」を追加することを承認しました。
製薬会社
- 製造販売元:ヤンセンファーマ(株)
- 販売元:大鵬薬品工業(株)
トレムフィアは既に「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬」を効能・効果として2018年3月23日に承認されています!
今回は乾癬・掌蹠膿疱症とトレムフィア(グセルクマブ)の作用機序についてご紹介します。
皮膚のターンオーバー
通常、皮膚は外からの刺激・乾燥等を防御したり、細菌・ウイルスの侵入を防ぐといった免疫機能を司っています。
構造としては、表面から順に、
- 表皮
- 真皮
- 皮下組織
の3層に分かれています。
また、表皮はさらに
- 角質層
- 顆粒層
- 有棘層
- 基底層
の4層から構成されています。
皮膚はその機能を保つため、基底層で常に新しい細胞が作られています。
基底層で新しくできた細胞は徐々に角層へと押し上げられ、最終的には垢となって剥がれ落ちます。
このような皮膚の細胞サイクルを「ターンオーバー(分化)」と呼び、通常、約28~40日サイクルで繰り返されています。
乾癬とは
乾癬の患者さんでは、慢性の炎症を伴う何らかの原因で上記のターンオーバーのサイクルが4~5日と極端に短くなっています。
そのため、皮膚が盛り上がったような状態(“肥厚”と呼びます)になり、赤い発疹(“紅斑”と呼びます)を伴うことを特徴とします。
また、皮膚の一部がかさかさになって剥げ落ちる(“落屑”と呼びます)こともあります。
乾癬の分類
乾癬は5つの種類に分類されていますが、約9割は「尋常性乾癬」です
- 尋常性乾癬
- 関節症性乾癬
- 滴状乾癬
- 乾癬性紅皮症
- 膿疱性乾癬
乾癬性紅皮症や膿疱性乾癬は非常に稀ですが、発症すると症状が厳しいため、重症になることが多いです。
乾癬の原因
明確な原因は不明確ですが、
- 遺伝的素因
- 環境要因(ストレス、食生活、肥満等)
などによって、免疫機能が異常になることで発症すると考えられています。
何らかの原因によって、マクロファージ等が産生する炎症性サイトカイン(IL-12、IL-23、TNFα)等によって炎症が引き起こされ、乾癬の症状が発現します。
IL-23はヘルパーT細胞の一種であるTh17を活性化し、Th17が産生する「IL-17A」も乾癬の発症と維持に重要であると考えられています。
乾癬の重症度と治療
乾癬の重症度は皮膚の症状や状態、患者さんが感じる不便さ、等を指標に「軽症」、「中等症」、「重症」の3つに分けられています。
重症度に応じて、以下の4つの治療が単独もしくは組み合わせて行われますが、中心となるのは外用療法です。
- 外用療法(塗り薬)
- 光線療法(紫外線照射)
- 内服療法(経口薬)
- 生物学的製剤治療(注射薬)
外用療法(塗り薬)には、ステロイド外用薬や活性型ビタミンD3外用薬が用いられます。
内服療法(経口薬)には、チガソン(一般名:エトレチナート)等のビタミンA誘導体の他、免疫抑制薬やPDE4阻害薬のオテズラ(一般名:アプレミラスト)が重症度に応じて使用されます。
そして生物学的製剤治療は基本的には、以下のような患者さんにしか使用することができません。
- 外用療法、光線療法、内服療法で改善しない患者さん
- 乾癬性関節炎で痛みが激しい患者さん
- 乾癬性紅皮症や膿疱性乾癬等の重症な患者さん
また、生物学的製剤治療は日本皮膚科学会で定められた病院でのみ治療ができます。
今回ご紹介するトレムフィアも生物学的製剤に分類されています。
掌蹠膿疱症とは
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は手のひらや足の裏に無菌性膿疱(感染ではない)が繰り返し起こる慢性の難治性皮膚疾患です。
発症原因は明らかにはされていませんが、炎症性のサイトカイン(例:IL-23)が関与していると考えられています。
治療の基本は薬物療法ですが、主にはステロイドの外用剤(塗り薬)が使用されます。
ステロイドで効果不十分な場合、免疫抑制薬の経口投与や光線療法が行われることもありますが、選択肢は限られていました。
トレムフィアは既存治療で効果不十分な掌蹠膿疱症に効果が期待されている初の生物学的製剤です!
ただし、使用に当たっては以下の注意事項が添付文書に記載されています。
掌蹠膿疱症患者では、本剤の治療を開始する前に、光線療法を含む既存の療法の適用を十分に勘案すること。
トレムフィア(一般名:グセルクマブ)の作用機序
IL-23はp40サブユニットとp19サブユニットと呼ばれるタンパク質から構成されています。
トレムフィアは、マクロファージ等の産生するIL-23のp19サブユニットを特異的に阻害するヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤です!
IL-23の作用が阻害されることでIL-23の下流にあるTh17へのシグナル伝達を抑制します。
その結果、Th17関連の炎症反応が抑制され、乾癬や掌蹠膿疱症の症状緩和が得られると考えられます。
他の生物学的製剤との違い
乾癬に用いる他の生物学的製剤には以下の種類があり、それぞれ作用機序が異なります。
- レミケード(一般名:インフリキシマブ):TNFα阻害
- ヒュミラ(一般名:アダリムマブ):TNFα阻害
- ステラーラ(一般名:ウステキヌマブ):IL-12とIL-23阻害
- コセンティクス(一般名:セクキヌマブ):IL-17A阻害
- トルツ(一般名:イキセキズマブ):IL-17A阻害
- ルミセフ(一般名:ブロダルマブ):IL-17受容体A阻害
詳しくは以下の記事にまとめていますのでご参照ください。
-
【乾癬】生物学的製剤の一覧と作用機序/特徴のまとめ
続きを見る
乾癬のエビデンス:トレムフィア皮下注の特徴(ヒュミラやステラーラとの比較試験)
乾癬の臨床試験では、
ヒュミラ(一般名:アダリムマブ)との比較試験において、トレムフィアでより乾癬の治療効果が高いことが示されています。1)2)
その他、ステラーラ(一般名:ウステキヌマブ)で治療効果の得られなかった乾癬患者さんをトレムフィアに切り替えた場合、そのままステラーラを継続投与するのと比べ、治療効果が高かったことも示されています。3)
今後、トレムフィアを使用する際に参考となる臨床試験結果だと思われます。
掌蹠膿疱症のエビデンス:PPP3001試験
掌蹠膿疱症の根拠となった国内第Ⅲ相臨床試験をご紹介します。4)
本試験は中等度から重度で既治療に抵抗性を示した掌蹠膿疱症患者さんを対象に、トレムフィアとプラセボを直接比較する臨床試験です。
トレムフィアは100mgまたは200mgが0週目と4週目に投与され、以降は8週毎に投与されていました。
本試験の主要評価項目は「16週時点のPPASI*のベースラインからの変化量」とされており、トレムフィア100mg投与群とプラセボ群の結果は下表の通りでした。
トレムフィア 100mg投与群 |
プラセボ | |
16週時点のPPASI*のベースラインからの変化量 | −15.08 | −7.79 |
p<0.001 | ||
16週時点のPPSI†のベースラインからの変化量 | -3.9 | -2.0 |
*PPASI:掌蹠膿疱症による皮疹の面積と重症度指数
†PPSI:掌蹠膿疱症の重症度指数
このようにプラセボと比較してトレムフィアで有意な症状の改善が認められています。
トレムフィア皮下注の副作用
主な副作用として注射部位紅斑、上気道感染が報告されています。
また生物学的製剤は、重篤な副作用として結核・肺炎・敗血症を含む重篤な感染症の発現が認められることがありますので、投与中は経過観察を十分に行う必要があります。
トレムフィア皮下注の用法・用量
用法・用量は乾癬と掌蹠膿疱症で同じです。
通常、成人にはグセルクマブとして、1回100mgを初回、4週後、以降8週間隔で皮下投与します。
薬価
収載時(2018年5月22日)の薬価は以下の予定です。
- 100mg1mL1筒 319,130円
薬価の算定方法については以下の記事をご参照ください。
まとめ・あとがき
トレムフィアはこんな薬
- IL-23を阻害することで乾癬と掌蹠膿疱症に効果が期待できる
- 重篤な副作用として結核・肺炎・敗血症を含む重篤な感染症の発現の危険性がある
乾癬領域では近年では相次いで新規の生物学的製剤が登場しています。
トレムフィアはヒュミラ(一般名:アダリムマブ)やステラーラ(一般名:ウステキヌマブ)との比較試験結果があるため、今後の使い分けの参考となりそうです!
乾癬の生物学的製剤のまとめ記事もありますので、ご参考にしてもらえれば嬉しいです。
-
【乾癬】生物学的製剤の一覧と作用機序/特徴のまとめ
続きを見る
以上、今回は乾癬と掌蹠膿疱症、そしてトレムフィア(グセルクマブ)の作用機序についてご紹介しました。
引用文献・資料等
- VOYAGE 1試験:J Am Acad Dermatol. 2017 Mar;76(3):405-417.
- VOYAGE 2試験:J Am Acad Dermatol. 2017 Mar;76(3):418-431.
- NAVIGATE試験:Br J Dermatol. 2018 Jan;178(1):114-123.
- トレムフィア添付文書
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