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マヴィレット(ピブレンタスビル/グレカプレビル)の作用機序【C型肝炎】

2022年6月20日マヴィレット配合錠の効能・効果であるC型慢性肝炎の適応に「3歳以上12歳未満の小児」の用量を追加することが承認されました。また、新たに「配合顆粒小児用」の剤形も追加されました。

アッヴィ|ニュースリリース

基本情報

製品名 ●マヴィレット配合錠
●マヴィレット配合顆粒小児用
一般名 ピブレンタスビル/グレカプレビル
製品名の由来 Multi Active VIRologic Enhancing Treatmentに由来する.
製造販売 アッヴィ合同会社
効能・効果 C型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善

 

マヴィレット配合錠は2017年9月27日に「C型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」を効能・効果として承認されていましたが、この時は成人のみの適応でした。

その後、2019年8月22日には「12歳以上の小児」が追加され、今回3歳以上の小児まで範囲が拡大されました。

 

木元 貴祥
直接作用型抗ウイルス剤(DAA)では初の3歳以上の小児に使用可能となりましたね!

 

マヴィレット配合錠は、

  • NS5A阻害薬のピブレンタスビル
  • NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬のグレカプレビル

を組み合わせた合剤です。

 

今回はC型肝炎ウイルスの増殖機構と、マヴィレット(ピブレンタスビル、グレカプレビル)の作用機序についてご紹介します☆

 

C型肝炎とは

C型肝炎は「C型肝炎ウイルス(HCV)」に感染することで引き起こされます。

一度HCVに感染すると約70%の方はが持続感染者となり、そのまま自覚症状のないまま病気が進行していきます。

 

放っておくと、慢性肝炎→肝硬変→肝がん、と進行してしまうため、HCVに感染した場合、症状が無い状態から治療を開始することが望ましいです。

レンビマ(レンバチニブ)の作用機序【肝細胞/甲状腺/子宮体/腎細胞がん】

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現在では国内に約100万人のHCV感染者の方がいると推定されています。

 

C型肝炎の症状

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、ちょっとやそっとの病気では症状が現れません。

HCV感染でも慢性肝炎の状態ではなかなか症状が現れにくく、肝硬変になってだんだんと症状が現れます。

 

肝硬変の主な症状は以下があります。

  • 手掌紅斑:手のひらが赤くなる
  • 黄疸
  • 浮腫(腹水貯留)
  • 出血傾向(鼻血など)

 

肝硬変でも上記のような症状がいずれもみられない場合を「代償性肝硬変」、いずれかの症状がみられる場合を「非代償性肝硬変」と分類しています。

 

C型肝炎ウイルスの増殖

C型肝炎ウイルスは自分自身の力で増殖することはできません。

 

木元 貴祥
そこで、ウイルスは宿主(ヒトの細胞)の力を借りて、増殖を行います。

 

ヒトの細胞にC型肝炎ウイルスが侵入(感染)すると、ウイルス由来の遺伝子(RNA)を放出します。

その後、ウイルス由来RNAは、ヒト細胞内のタンパク質や因子等を勝手に使用してRNAの複製を行います。

 

この複製過程では、「HCV複製複合体」と呼ばれるものを経由してRNAの複製が行われます。

 

 

その後、ウイルスRNAの情報を元に、ウイルスに必要なタンパク質が合成されます。(この過程を“翻訳”といいます)

 

ウイルスのタンパク質は、最終的に「プロテアーゼ」と呼ばれるヒトのタンパク質によって適切な大きさへと切断され、C型肝炎ウイルスを形作るタンパク質が合成されます。

そうしてヒトの細胞内でC型肝炎ウイルスがどんどんと増殖してしまいます。

 

C型肝炎ウイルスの治療

C型肝炎ウイルスは変異が起こりやすいく、多くの遺伝子変異が確認されています。

そのため、C型肝炎ウイルスは遺伝子型(ジェノタイプ)によって細かく分けられます。

 

その中でも、日本人では

  • ジェノタイプ1b型(約70%)
  • ジェノタイプ2a型(約20%)
  • ジェノタイプ2b型(約10%)

の3種類が多いとされておりますが、その他にも極めて稀なジェノタイプ3~6型も存在しています。

 

昔はインターフェロンを用いた治療が基本でしたが、最近ではインターフェロンを用いない治療法である直接作用型抗ウイルス剤(DAA)によって治癒が見込める時代となってきました。

 

成人のC型肝炎治療ガイドライン(第8.2版)1)で推奨されている主なDAAは以下の通りです。

慢性肝炎(DAAの治療歴なし)
ジェノタイプ1型/2型
代償性肝硬変(DAAの治療歴なし)
ジェノタイプ1型/2型

 

このようにマヴィレット配合錠は慢性肝炎・代償性肝硬変の標準治療の一つとして位置づけられています。

また、マヴィレット配合錠は全てのジェノタイプ型に使用できます。

 

一方、小児の小児C型慢性肝炎の治療ガイドライン2)では未だにインターフェロンしか治療選択肢がありませんでしたが、「C型肝炎治療ガイドライン(第8.2版)」1)では小児に関してもマヴィレットが記載されています。

 

マヴィレット配合錠の作用機序

マヴィレット配合錠は、

  • NS5A複製複合体を阻害する「ピブレンタスビル」
  • NS3/4Aプロテアーゼを阻害する「グレカプレビル」

を配合した薬剤です。

 

木元 貴祥
それぞれの有効成分の作用機序についてご説明します。

 

ピブレンタスビルの作用機序

ピブレンタスビルは、ウイルスRNAの複製過程における「HCV複製複合体」の中でも、「NS5A複製複合体」を阻害する薬剤です。

HCV複製複合体を阻害することでウイルスRNAの複製が抑制され、結果的にウイルスの増殖を抑えることができます!

 

グレカプレビルの作用機序

グレカプレビルは、ウイルスのタンパク質合成に関わる「プロテアーゼ」の中でも、「NS3/4Aプロテアーゼ」を阻害する薬剤です。

ウイルスタンパク質の合成を阻害することができるため、ウイルスの増殖を抑えることができます!

 

 

マヴィレット配合錠は、

  • ピブレンタスビルによるRNAの複製阻害
  • グレカプレビルによるタンパク質合成阻害

によって、C型肝炎ウイルスを駆除できる新規の薬剤です!

 

成人のエビデンス紹介(CERTAIN-1試験のサブ試験1)

マヴィレット配合錠は全てのジェノタイプ型(1~6)に使用できます!

 

根拠となった臨床試験は多数ありますが、今回はジェノタイプ1型に有効性が示された国内第Ⅲ相試験(CERTAIN-1試験のサブ試験1)をご紹介します。3)

本試験はジェノタイプ1型の未治療慢性肝炎の患者さんを対象に、マヴィレットの8週間投与とヴィキラックス(一般名:オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル)の12週間投与を直接比較した試験です。

ヴィキラックスは国内発売中止

 

主要評価項目はNS5AのY93H変異未検出の患者集団における「SVR12率*」です。当該集団における結果は以下の通りでした。

試験群 マヴィレット
8週間投与
ヴィキラックス
12週間投与
SVR12率* 99.1% 100%
群間差:-0.9, 非劣性が証明
何らかの有害事象 57% 67%
重篤な有害事象 0% 6%

*SVR12率:投与終了後12週時点での持続性ウイルス学的著効

 

このように、マヴィレットの8週間投与は、これまで標準治療であったヴィキラックスの12週間投与と同じ有効性が示されています。

 

小児のエビデンス紹介(DORA試験のパート1/パート2)

小児の根拠となった臨床試験は日本を含む国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験のDORA試験です。

本試験は全てのジェノタイプのHCV小児患者さんを対象に、4つ群から構成されていますが、12歳以上の根拠となっているのは第1群(パート1)部分です。4)

また、3歳以上の根拠である第2~4群はパート2部分とされています。5)

  • 第1群:12歳以上18 歳未満
  • 第2群:9歳以上12歳未満
  • 第3群:6歳以上9歳未満
  • 第4群:3歳以上6 歳未満

 

パート1部分ではマヴィレットの薬物動態、有効性、安全性が検討され、SVR12率は100%であったと報告されています。4)

同様にパート2部分でのSVR12率は96%でした。5)

 

木元 貴祥
成人と同じ有効性が小児でも確認されたという認識ですね。

 

副作用

主な副作用としてそう痒(4.8%)、頭痛(4.2%)、倦怠感(3.0%)、血中ビリルビン増加(2.4%)等が報告されています。

 

マヴィレットの特徴:用法・用量

マヴィレットは成人の全ジェノタイプ型に使用できる薬剤で、小児でも全ジェノタイプ型に使用可能です!

 

また、これまでのDAAではジェノタイプ1型と2型は、最短でも12週間の投与が必要でした。

 

マヴィレットは、ジェノタイプ1型と2型のC型慢性肝炎に対しては8週間の投与と、従来より短い治療期間で治療が可能です。

ジェノタイプ1型と2型のC型代償性肝硬変、ジェノタイプ1型と2型以外のC型慢性肝炎・C型代償性肝硬変は12週間の投与です。

 

木元 貴祥
なお、小児に関しても全てのジェノタイプ型で使用でき、投与期間も成人と同じですね。まとめるとこんな感じです。

 

分類 ジェノタイプ 投与期間(基本)
C型慢性肝炎 1型・2型 8週間
1型・2型以外 12週間
C型代償性肝硬変 1型・2型 12週間
1型・2型以外 12週間

顆粒小児用も同様

 

まとめ・あとがき

マヴィレットはこんな薬

  • ピブレンタスビルによるRNAの複製阻害作用
  • グレカプレビルによるタンパク質合成阻害作用
  • 全てのジェノタイプ型(1~6)に使用できる
  • 最短で8週間の投与で治療が完了できる
  • 小児に対する初のDAAで全ジェノタイプ型に使用できる

 

マヴィレットの登場によって、成人・小児、全てのジェノタイプの治療が短期間で可能になりました!

 

木元 貴祥
これによって、C型肝炎治療薬の開発は終焉したのではないか、とも言われていますね。

 

2019年には初の非代償性肝硬変に効果が期待されているエプクルーサ配合錠(ベルパタスビル/ソホスブビル)も登場しました!

エプクルーサ配合錠(ベルパタスビル/ソホスブビル)の作用機序と特徴【C型肝炎】

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これまでのDAAは全て代償性肝硬変慢性肝炎にしか使用できませんでしたので期待されています。

以上、今回はC型肝炎とマヴィレット配合錠についてご紹介しました☆

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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