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2022年8月24日、遺伝性血管性浮腫(HAE)の急性発作の治療薬のフィラジル皮下注30mgシリンジ(一般名:イカチバント酢酸塩)の小児に対する適応拡大が承認されました!
武田薬品工業|ニュースリリース
フィラジルは2018年9月21日に承認されたブラジキニンB2受容体拮抗薬ですが、成人への使用に限られていました。
ちなみに、小児のHAE急性発作に対して現在承認されている医薬品はありません。
今回はHAEとフィラジル(イカチバント)の作用機序についてご紹介します☆
遺伝性血管性浮腫(HAE)とは
遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema: HAE)は全身の皮下や粘膜に「浮腫(むくみ)」が起こる疾患で、遺伝的要素が多いとされています。
※HAEの読み方ですが、「ハエ」や「エイチエーイー」と呼ばれます
浮腫が起こる部位によって症状が異なりますが、多い部位としては手足や消化管、咽頭と言われています。
- 手足の皮膚:手や足がむくんでしまう
- 消化管:激しい腹痛と共に悪心・嘔吐・下痢が起こる
- 咽頭:呼吸困難
遺伝性血管性浮腫(HAE)の原因
生体内には「ブラジキニン」と呼ばれる炎症性物質が存在していますが、通常は「C1-インヒビター(別名:C1-インアクチベーター)」と呼ばれる物質によってその産生が抑制(制御)されています。
※上記イラストはカリクレインを例にしていますが、それ以外の経路もC1-インヒビターによって抑えられていると考えられています。
しかしHAEでは遺伝的要因等によってC1-インヒビターが欠損もしくは活性が低下してしまっていることが知られています。
このため、HAEの患者さんではブラジキニンが過剰に産生されてしまっています。
ブラジキニンが血管のブラジキニンB2受容体に結合することで、血管透過性(血管内の水が組織に移行しやすくなること)が亢進し、HAEの急性発作を発症すると考えられています。
遺伝性血管性浮腫(HAE)の治療
HAEの症状が起こった場合(急性発作時)、C1-インヒビター製剤の補充療法しか治療選択肢がありませんでした。
- C1-インヒビター製剤:ベリナート静注用(一般名:ヒトC1-インアクチベーター)
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ベリナート(ヒトC1-インアクチベーター)の作用機序【遺伝性血管性浮腫(HAE)】
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ベリナートは静注製剤のため、自己注射はできず、病院等で投与する必要がありました。
今回ご紹介するフィラジルは急性発作時の新たな治療選択肢として使用できる薬剤で、自己注射も可能です!
その他、侵襲を伴う処置(例:歯科治療、出産、小手術)を行うと、HAEの発作が引き起こされることがあり、その発症抑制としてもC1-インヒビター製剤(ベリナート)が用いられます。
フィラジルに発症抑制の効能・効果はありませんのでご注意ください。
フィラジル(イカチバント)の作用機序
前述のように、HAEの急性発作はブラジキニンがブラジキニンB2受容体に結合することで引き起こされます。
フィラジルはブラジキニンB2受容体に対して選択的かつ競合的な拮抗薬です!
ブラジキニンがブラジキニンB2受容体に結合することを阻害し、HAEの急性発作を抑制すると考えられています。
根拠となった臨床試験:国内第Ⅲ相試験
根拠となった国内第Ⅲ相臨床試験を一つご紹介します。1)
本試験は日本人HAE患者さん8例を対象に、フィラジル投与時の有効性と安全性を検討した臨床試験です。
主要評価項目は「VASスコア*による症状緩和までの時間(TOSR)」とされ、中央値は1.75時間(95%信頼区間:1.00-2.50)という結果でした。
*VAS(Visual Analogue Scale)スコア:痛みの程度を0点から10点までの数値として表現する評価法
なお、同様に海外の第Ⅲ相試験(フィラジル vs. プラセボ)でもTOSR中央値はフィラジル群で2.0時間、プラセボ群で19.8時間と有意にフィラジル群で短いことが報告されています(p<0.001)。2)
このように日本人においてもフィラジル投与によって海外同様に症状緩和が得られると考えられます。
副作用
主な副作用として、注射部位反応が報告されています。
用法・用量、自己注射
通常、成人にはイカチバントとして1回30mgを皮下注射します。
通常、2 歳以上の小児には体重に応じてイカチバントとして1 回10~30 mgを皮下注射します。
効果が不十分な場合または症状が再発した場合は、6時間以上の間隔をあけて同用量を追加投与することができます。
ただし、24時間あたりの投与回数は3回までとされていますので注意が必要です。
また、フィラジルは自己注射が可能です!
在宅や外出先の急な発作時にも自身で投与できるため、静注製剤(ベリナート)よりも簡便に使用が可能となります。
収載時の薬価
収載時(2018年11月20日)の薬価は以下の通りです。
- フィラジル皮下注30mgシリンジ:301,704円(1日薬価:301,704円)
算定方法等については以下の記事をご覧ください。
>>【新薬:薬価収載】12製品(2018年11月20日)と市場拡大再算定
まとめ・あとがき
フィラジルはこんな薬
- ブラジキニンB2受容体に対して選択的かつ競合的な拮抗作用を示す
- HAEの急性発作を抑制する
- 在宅や外出先での自己投与が可能
HAEは稀な疾患ですが、これまで急性発作時にベリナート静注用しか治療選択肢がありませんでした。
ベリナートは注射剤ですので必ず病院で投与する必要があります。
一方、フィラジルは皮下注製剤のため、自己注射も可能のため、より急性発作時には使用しやすくなるのではないでしょうか。
以上、今回は遺伝性血管性浮腫(HAE)とフィラジル皮下注(一般名:イカチバント)の作用機序についてご紹介しました☆
2021年にはHAE初の経口治療薬オラデオ(ベロトラルスタット)も登場しました!
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オラデオ(ベロトラルスタット)の作用機序【遺伝性血管性浮腫(HAE)】
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引用文献・資料等
- 国内第Ⅲ相試験:Arerugi. 2018;67(2):139-147.
- 海外第Ⅲ相試験(FAST-3試験):Ann Allergy Asthma Immunol. 2011 Dec;107(6):529-37.
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