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2022年8月24日、キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)の効能・効果に「腎細胞がんにおける術後補助療法」を追加することが承認されました!
MSD|ニュースリリース
キイトルーダは、2019年12月20日に「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」の一次治療として、以下の治療法と共に適応拡大されています。
- バベンチオ(一般名:アベルマブ)+インライタ(一般名:アキシチニブ):ファイザーニュースリリース
- キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)+インライタ(一般名:アキシチニブ):MSDニュースリリース
キイトルーダのその他の適応症については以下の記事をご覧ください。
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キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】
続きを見る
また、キイトルーダはレンビマ(レンバチニブ)とも一次治療から併用可能です。その根拠等については以下の記事で解説しています!
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レンビマ(レンバチニブ)の作用機序【肝細胞/甲状腺/子宮体/腎細胞がん】
続きを見る
今回は腎細胞がんと各薬剤の作用機序、エビデンスについてご紹介します。
腎臓とは
腎臓は、ちょうど背骨の両側の、腰の高さのところに左右1つずつある臓器で、大きさは握りこぶしくらいのソラマメのような形をしています。
主な働きはご存知の通り、原尿の生成です。
原尿は「腎実質」と呼ばれる部位で血液を濾過(糸球体で濾過される)して生成されます。
その後、原尿は腎盂に集められた後に、尿管、膀胱を通っていきます。
腎細胞がんと治療薬
腎臓の中でも、腎実質の細胞から発生するのが腎細胞がんです。
腎細胞がんは初期では手術で取り除くことが可能で、再発低リスクの場合には無治療で経過観察します。しかし、手術で取り除いたとしても、再発リスクが高い場合、再発の危険性があります。
キイトルーダは、再発リスクが高い腎細胞がんの術後療法として使用することで、再発抑制効果が期待されていますよー!
また、発見時に肝臓や他臓器に転移が認められる場合、手術で取り除くことが困難です。
一般的に、他の臓器のがんでは、手術により切除できない場合や他の臓器に転移が見られた場合には、抗がん剤による化学療法が行われます。
しかし、腎細胞がんの場合、これまでの抗がん剤ではがんに対する感受性が低く、一般的に化学療法が行われることはありませんでした。
かつて、薬物治療として唯一行われてきたのが、インターフェロンα(IFN-α)製剤やインターロイキン2(IL-2)製剤を用いたサイトカイン療法でした。
その後、分子標的治療薬として以下の薬剤が登場し、現在ではこれらの薬剤が一次治療の中心です。
- オプジーボ(一般名:ニボルマブ)とヤーボイ(一般名:イピリムマブ)併用療法
- スーテント(一般名:スニチニブ):チロシンキナーゼ阻害薬
- ヴォトリエント(一般名:パゾパニブ):チロシンキナーゼ阻害薬
- ネクサバール(一般名:ソラフェニブ):チロシンキナーゼ阻害薬
- トーリセル(一般名:テムシロリムス):mTOR阻害薬
- アフィニトール(一般名:エベロリムス):mTOR阻害薬
これら薬剤の使い分けですが、下記のIMDCリスク分類(低・中・高リスク)による使い分けがよく行われています。
予後予測の6因子 | 何項目当てはまるか | ||
0個 | 1-2個 | 3個以上 | |
|
低リスク | 中リスク | 高リスク |
低リスクにはスーテントやネクサバールなどの分子標的治療薬単剤、中・高リスクにはオプジーボ+ヤーボイ併用療法が用いられることが多いです。
そして今回ご紹介するバベンチオ or キイトルーダ+インライタ併用療法は根拠となった臨床試験の結果から、低・中・高リスクいずれの一次治療として用いられることが想定されます。
がんと免疫チェックポイント
通常、がんができると生体内の免疫反応が活性化され、がん細胞を死に導こうとしますが、がん細胞はヒトの免疫機構から逃れる術をいくつか持っています。
その一つに、がん細胞ではヒトの免疫反応を抑制する「PD-L1(“ピーディーエルワン”と読みます)」を大量に発現し、免疫反応(T細胞からの攻撃)から逃れています。
PD-L1はT細胞のPD-1(ピーディーワン)と結合することで、T細胞の活性を抑制させる働きがある、いわば、ブレーキのような働きを担っています。
本来、PD-L1やPD-1はT細胞が自己を攻撃しない(自己免疫抑制作用)のために体内に存在していますが、がん細胞はそれを逆手に取っています。
これを“免疫チェックポイント”と呼んでいます。
- バベンチオ(一般名:アベルマブ):がん細胞の「PD-L1」を阻害
- キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ):T細胞の「PD-1」を阻害
バベンチオ(アベルマブ)の作用機序:抗PD-L1抗体
バベンチオはがん細胞の「PD-L1」を抑制することで、がん細胞のブレーキを解除させ、ヒト本来の免疫反応を活性化させます。
その結果、T細胞が、がん細胞を攻撃することでがん細胞を死に導く、といった作用機序を有しています☆
キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序:抗PD-1抗体
キイトルーダは「ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体薬」と呼ばれる、がん免疫療法薬(免疫チェックポイント阻害薬)です。
キイトルーダはT細胞の「PD-1」を特異的に抑制することで、がん細胞からのブレーキを解除させ、ヒト本来の免疫反応を活性化させます。
その結果、T細胞が、がん細胞を攻撃することでがん細胞を死に導く、といった作用機序を有しています。
インライタ(アキシチニブ)の作用機序
バベンチオやキイトルーダと併用するインライタは「血管内皮増殖因子受容体(VEGFR-1・2・3)」をターゲットとした選択的キナーゼ阻害剤に分類されています。
がん全般的に言えることですが、がん細胞が大きくなるためには多くの栄養素や酸素が必要となります。
そこでがん細胞は、自分のところに血管を無理やり作らせようとし、それに関与する因子として、がん細胞はVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、PIGFなどの血管内皮増殖因子を放出することが知られています。
この因子が、血管の受容体(VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3)に結合すると、がん細胞に対して異常な血管が作られ(これを“血管新生”といいます)、この血管を通じてがん細胞は大量の栄養と酸素を得ることができます。
そうすることでがん細胞はどんどんと成長し、他臓器へ転移もしやすくなってしまいます。
インライタはVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3を選択的に阻害することでがん細胞の血管新生を抑制し、増殖を抑制できると考えられています。
基礎の動物実験において、VEGF経路とPD-1経路を共に阻害することで腫瘍増殖活性が増強することが知られています。1)
そこで今回のようなVEGF阻害薬(インライタ)+PD-1経路阻害薬(バベンチオやキイトルーダ)の併用療法の開発が行われてきました。
JAVELIN Renal 101試験(アベルマブ+インライタ)、KEYNOTE-426試験(キイトルーダ+インライタ)
アベルマブ+インライタの根拠は第Ⅲ相試験のAVELIN Renal 101試験2)、キイトルーダ+インライタの根拠は第Ⅲ相試験のKEYNOTE-426試験3)ですが、共に試験デザインが似ているため併せて紹介します。
両試験共に切除不能または転移を有する未治療の腎細胞がん患者さんを対象に、スーテント(一般名:スニチニブ)に対するアベルマブ or キイトルーダ +インライタの優越性を検証した臨床試験です。
両試験共にPD-L1陽性/陰性、IMDCリスク分類(低・中・高リスク)いずれの患者さんも対象です。
主要評価項目は若干違っていて、以下の通りでした。
- JAVELIN Renal 101試験:PD-L1陽性患者さんにおけるOSとPFS
- KEYNOTE-426試験:全例におけるOSとPFS
- OS:全生存期間(死亡するまでの期間)
- PFS:無増悪生存期間(がんが増悪もしくは死亡するまでの期間)
結果は下表にまとめてみました。
患者背景は両試験で異なるため、両試験間の比較はできません。
JAVELIN Renal 101試験 | KEYNOTE-426試験 | |||
スーテント群 | アベルマブ+ インライタ群 |
スーテント群 | キイトルーダ+ インライタ群 |
|
全例におけるOS | ? | ? | 12か月時点の OS率:78.3% |
12か月時点の OS率:89.9% |
? | HR=0.53, p<0.0001 | |||
PD-L1陽性例におけるOS | ? | ? | 12か月時点の OS率:78.4% |
12か月時点の OS率:90.1% |
HR=0.82, p=0.38 | HR=0.54 | |||
全例における PFS中央値 |
8.4か月 | 13.8か月 | 11.1か月 | 15.1か月 |
HR=0.69, p<0.001 | HR=0.69, p<0.001 | |||
PD-L1陽性例における PFS中央値 |
7.2か月 | 13.8か月 | 8.9か月 | 15.3か月 |
HR=0.61, p<0.001 | HR=0.62 |
アベルマブ+インライタは主要評価項目のうちPFSは達成しましたが、OSは未達成です。しかし、追跡期間がまだ短いため、OSについては今後の解析を待ちたいところですね。
一方、キイトルーダ+インライタは主要評価項目のOSとPFSを共に達成しています。PD-L1陽性例に限ってもその効果は同程度ですね。
術後のエビデンス:KEYNOTE-564試験
腎細胞がんの術後療法の根拠となった試験をご紹介します(KEYNOTE-564試験)。
本試験は、腎摘除後の再発リスクが高い淡明細胞型腎細胞がんに対する術後補助治療として、キイトルーダ(約1年投与)とプラセボを比較する国際共同第Ⅲ相試験です。
本試験の主要評価項目は「無病生存期間(DFS)*」とされ、結果は以下の通りでした。
キイトルーダ群 | プラセボ群 | |
24か月時点のDFS率 (事前指定中間解析) |
77.3% | 68.1% |
HR=0.68(95%CI:0.53-0.87) P=0.002 |
||
24か月時点の生存率 | 96.6% | 93.5% |
HR=0.54(95%CI:0.30-0.96) |
*DFS(無病生存期間):再発・二次がん発生の無く生存している期間
プラセボと比較して、再発を有意に抑制していることが示されました!生存率についても改善が認められています。
用法・用量
腎細胞がんの一次治療としてインライタと併用する場合、キイトルーダとバベンチオで用法・用量が異なります。
薬剤 | 用法 | 用量 |
キイトルーダ (ペムブロリズマブ) |
1回200mg | 3週間間隔 |
バベンチオ (アベルマブ) |
1回10mg/kg(体重) | 2週間間隔 |
ちなみに、インライタは1回5mg(最大10mg)を1日2回、連日経口投与ですね。
腎細胞がんの術後補助療法として使用する場合、以下の通りです。
通常、成人には、ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)として、1回200mgを3週間間隔又は1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注します。投与期間は12か月間までです。
まとめ・あとがき
記事のまとめ
- 腎細胞がんの一次治療として免疫チェックポイント阻害薬+血管新生阻害薬が期待される。
- バベンチオは抗PD-L1抗体薬、キイトルーダは抗PD-1抗体薬。
- インライタはVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3を選択的に阻害する血管新生阻害薬。
- キイトルーダは単剤で術後療法として期待される。
PMDAからバベンチオとキイトルーダの最適使用推進ガイドラインも発出されていますので、もう少し詳しく知りたい方は是非ご確認ください。
PMDA|最適使用推進ガイドライン(医薬品)
免疫チェックポイント阻害薬を用いた腎細胞がんの一次治療の今後の選択肢としては
- オプジーボ+ヤーボイ併用療法
- バベンチオ+インライタ併用療法
- キイトルーダ+インライタ併用療法
がありますが、明確な使い分けはありません。
臨床試験の結果や副作用、PD-L1発現状況、リスク分類に応じた検討が行われることを期待したいと思います。
オプジーボ+ヤーボイ併用療法については以下の記事で解説していますよ。
-
オプジーボとヤーボイ併用療法の作用機序【悪性黒色腫/腎/大腸/肺/食道がん】
続きを見る
-
カボメティクス(カボザンチニブ)の作用機序【腎細胞/肝細胞がん】
続きを見る
腎細胞がんの術後療法として使用できる薬剤はキイトルーダが初のため、生存予後の改善に大いに期待できるのではないでしょうか。
以上、今回は腎細胞がんと各薬剤の作用機序、そして免疫チェックポイント阻害薬+インライタのエビデンス等について紹介しました!
引用文献・資料等
- Clin Exp Immunol. 2013 Jun; 172(3): 500–506.
- JAVELIN Renal 101試験:N Engl J Med 2019; 380:1103-1115
- KEYNOTE-426試験:N Engl J Med 2019; 380:1116-1127
- KEYNOTE-564試験試験:N Engl J Med 2021; 385:683-694
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