4.消化器系 12.悪性腫瘍

ビロイ点滴静注用(ゾルベツキシマブ)の作用機序【胃がん】

2024年3月26日、「CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん」を効能・効果とするビロイ点滴静注用100mg(ゾルベツキシマブ)が承認されました。

アステラス製薬|ニュースリリース

基本情報

製品名 ビロイ点滴静注用100mg
一般名 ゾルベツキシマブ(遺伝子組換え)
製品名の由来 VYLOY=VY はラテン語で“生命”を意味する“vit”から生命を伸ばす可能性を表している。
LOY は“alloy(合金)”に由来し、強さと耐久性を表している。
製薬会社 アステラス製薬(株)
効能・効果 CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん
用法・用量 他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはゾルベツキシマブ(遺伝子組換え)として、
初回は800 mg/m2(体表面積)を、2 回目以降は600 mg/m2(体表面積)を
3 週間間隔又は400 mg/m2(体表面積)を2 週間間隔で2 時間以上かけて点滴静注する。
収載時の薬価
発売日

 

ビロイは、国内初のクローディン18.2(Claudin 18.2)の阻害抗体です!

CLDN18.2と略されます

 

木元 貴祥
近年、胃がんはどんどん新薬が登場しますね。

 

今回は胃がんの概要とビロイ(ゾルベツキシマブ)の作用機序、エビデンスについてご紹介します。

 

胃がんの概要・治療

胃がんの治療は発見時のStageによって異なります。

最近では胃がん検診受診率の向上により、より早期で発見できることが多いとされています。

 

発見時に遠隔臓器に転移がある場合(StageⅣ)や、再発した胃がんの場合、手術によって取り除くことができないため、抗がん剤併用(化学療法)による治療が原則です。

StageⅣや再発の胃がんの場合、乳がんと同様に約20%はHER2受容体が発現していることが知られています。

 

HER2が陽性の場合、HER2を阻害するハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)を併用した以下のような化学療法が行われます。

  • XP(カペシタビン+シスプラチン)+トラスツズマブ
  • SP(S-1+シスプラチン)+トラスツズマブ
  • SOX(S-1+オキサリプラチン)+トラスツズマブ
  • XELOX(カペシタビン+オキサリプラチン)+トラスツズマブ

 

ハーセプチンの作用機序については以下の記事をご確認ください。

ハーセプチン(トラスツズマブ)の作用機序と副作用【胃がん】

続きを見る

 

一方、HER2が陰性の場合、以下のような化学療法が行われます。特に、PD-L1発現率が5%以上(CPS5以上)の場合、オプジーボやキイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬が使用可能です。

キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】

続きを見る

 

今回ご紹介するビロイは、

  • HER2陰性 かつ
  • クローディン18.2陽性(腫瘍細胞の75%以上で中等度から強度の染色強度を示す)

の場合に、一次治療からFOLFOXもしくはCAPOXと併用で使用します。

 

なお、臨床試験1-2)の結果によると、HER2陰性のうち、約38%がクローディン18.2陽性とのことでした。

 

木元 貴祥
HER2陽性ならハーセプチン、陰性ならCPSとクローディンを検査して免疫チェックポイント阻害薬かビロイか、って感じですかね。

 

上記の初回治療(一次化学療法)で増悪が認められた場合、二次治療としてはタキソール+サイラムザ(ラムシルマブ)による併用療法が行われます。

サイラムザ(ラムシルマブ)の作用機序【胃/大腸/肝細胞/肺がん】

続きを見る

 

二次治療で増悪した場合、三次治療として

がありますね。

エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の作用機序【乳/胃/肺がん】

続きを見る

 

木元 貴祥
それではここから、ビロイが関係するクローディンについて解説していきます。

 

Claudin 18.2とタイトジャンクション

Claudin 18.2(クローディン18.2)は、正常細胞同士の隙間(タイトジャンクション)を埋める役割を担っているタンパク質です。

癌細胞におけるClaudin 18.2(クローディン18.2)とタイトジャンクションの役割

 

木元 貴祥
正常細胞はぎっしりと詰まっているため、通常状態ではクローディンは細胞膜表面には出現していません。

 

しかし、がん細胞は、正常細胞から独立して増殖するため、細胞の結合状態が崩れてしまってクローディンが細胞表面に出現していると考えられています。

 

ビロイ(ゾルベツキシマブ)の作用機序

ビロイはClaudin 18.2(クローディン18.2)を特異的に認識する抗体薬です。

クローディンに結合し、抗体依存性細胞障害や補体依存性細胞毒性を介して胃がん細胞の増殖を抑制すると考えられています。

ビロイ(ゾルベツキシマブ)の作用機序:Claudin 18.2(クローディン18.2)を特異的に認識する抗体薬

 

正常細胞のクローディンは、細胞表面に出現していないため、影響は少ないといった特徴もありますね!

 

木元 貴祥
他疾患ですが、クローディンに作用を及ぼす薬剤も登場してきていますよ~。
フォゼベル(テナパノル)の作用機序【高リン血症】

続きを見る

 

エビデンス紹介:SPOTLIGHT試験、GLOW試験

根拠となった臨床試験は以下の2つです。いずれもHER2陰性かつクローディン18.2陽性の切除不能胃がん患者さんを対象に行われましたが、併用する化学療法レジメンが異なります。

  • SPOTLIGHT試験1):mFOLFOX6療法 vs. mFOLFOX6+ビロイ療法
  • GLOW試験2):CAPOX療法 vs. CAPOX+ビロイ療法

 

今回は代表として、胃がんで既によく使用されているCAPOX療法と併用したGLOW試験を紹介します。

 

本試験の主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)」とされ、結果は以下の通りでした。

CAPOX療法 CAPOX+ビロイ療法
PFS中央値 6.80か月 8.21か月
HR=0.687(95%CI:0.544-0.866)
p=0.0007
生存期間(OS)中央値 12.16か月 14.39か月
HR=0.771(95%CI:0.615-0.965)
p=0.0118
奏効率
(測定可能病変ありの場合)
48.8% 53.8%

 

木元 貴祥
PFSもOSもビロイ群で有意に延長していましたね!

 

副作用

10%以上に認められる副作用として、好中球減少症、貧血、血小板減少症、白血球減少症、食欲減退、悪心(64.9%)、嘔吐(59.1%)、下痢、疲労、無力症、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加などが報告されていました。

 

クローディンは消化管の細胞にも多く発現していることから、臨床試験では消化器関連の有害事象の発現が高い傾向でしたね。

 

重大な副作用としては、

  • 過敏症(16.9%)
  • Infusion reaction(44.3%)
  • 重度の悪心・嘔吐(15.9%)

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

添付文書にも以下の記載があるため、基本的には高度催吐性リスクとして、NK1受容体拮抗薬+5-HT3受容体拮抗薬+ステロイドによる予防投与がよいかと考えます。

悪心、嘔吐が高頻度にあらわれるので、本剤投与前に制吐剤の予防投与を検討すること。

 

催吐性リスクとNK1受容体拮抗薬については、以下をご参照ください。

アロカリス(ホスネツピタント)の作用機序・特徴【抗がん剤に伴う悪心・嘔吐】

続きを見る

 

用法・用量

他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはゾルベツキシマブとして、初回は800mg/m2を、2回目以降は600mg/m2を3週間間隔又は400mg/m2を2週間間隔で2時間以上かけて点滴静注します。

 

初回の投与量は800mg/m2ですね。

 

あとは併用するレジメンのスケジュールに応じて、3週間(CAPOX療法)または2週間(FOLFOX療法)毎の投与です。

 

胃がんでFOLFOXを使用するケースはまだまだ少ないため、まずはCAPOX療法と併用して3週毎に治療するケースが多くなりそうです。

 

収載時の薬価

現時点では薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

ビロイはこんな薬

  • 国内初の抗クローディン18.2抗体薬
  • がん細胞表面に出現しているクローディン18.2を阻害する
  • 消化器毒性には注意が必要
  • 併用するレジメンに応じて、3週毎または2週毎に点滴静注にて投与する

 

近年、胃がん領域は免疫チェックポイント阻害薬や抗HER2抗体薬を中心に、治療開発が進んでいます。

 

木元 貴祥
ビロイは国内初の抗クローディン18.2抗体薬であることから、新たな治療選択肢として期待できますね!

 

以上、今回は胃がんの概要とビロイ(ゾルベツキシマブ)の作用機序、エビデンスについてご紹介しました。

 

参考文献・資料等

  1. SPOTLIGHT試験:Lancet. 2023 May 20;401(10389):1655-1668. 
  2. GLOW試験:Nat Med. 2023 Aug;29(8):2133-2141.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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