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2024年6月24日、スキリージ(リサンキズマブ)の効能・効果に「中等症から重症の潰瘍性大腸炎」を追加することが承認されました。
それに伴い、皮下注180mgオートドーザーの新用量製剤が追加されました。
アッヴィ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | スキリージ皮下注 ①75mgシリンジ0.83mL/150mgシリンジ0.83mL/150mgペン1mL ②皮下注360mg/180mgオートドーザー ③点滴静注600mg |
一般名 | リサンキズマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | アッヴィ合同会社 |
効能・効果 | ①既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬、掌蹠膿疱症 ②中等症から重症の活動期クローン病の寛解導入療法(既存治療で効果不十分な場合に限る) 中等症から重症の潰瘍性大腸炎の維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る) ③中等症から重症の活動期クローン病の維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る) 中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入療法(既存治療で効果不十分な場合に限る) |
用法・用量 | 記事内参照 |
収載時の薬価 | 75mgシリンジ:239,374円 150mgシリンジ:474,616円 150mgペン:474,761円 皮下注180mgオートドーザー:259,358円 皮下注360mgオートドーザー:192,321円 点滴静注600mg:508,169円 |
スキリージは、2019年3月26日に「乾癬」を対象疾患として承認された新薬で、インターロイキン(IL)-23を選択的に阻害するモノクローナル抗体製剤(生物学的製剤)に分類されています。
2022年9月26日にはクローン病、2023年5月25日には掌蹠膿疱症 の適応拡大が承認されました。
掌蹠膿疱症に対しては、トレムフィア(グセルクマブ)に次ぐ生物学的製剤ですね。
-
トレムフィア(グセルクマブ)の作用機序と副作用【乾癬/掌蹠膿疱症】
続きを見る
潰瘍性大腸炎では、スキリージと同様の作用機序(IL-23のp19サブユニット阻害)を有するオンボー(ミリキズマブ)が承認されていますので、以下の記事をご参照ください。
-
オンボー(ミリキズマブ)の作用機序【潰瘍性大腸炎】
続きを見る
今回は乾癬・クローン病とスキリージ(リサンキズマブ)の作用機序・特徴、そしてエビデンスについてご紹介します。
皮膚のターンオーバー
通常、皮膚は外からの刺激・乾燥等を防御したり、細菌・ウイルスの侵入を防ぐといった免疫機能を司っています。
構造としては、表面から順に、
- 表皮
- 真皮
- 皮下組織
の3層に分かれています。
また、表皮はさらに
- 角質層
- 顆粒層
- 有棘層
- 基底層
の4層から構成されています。
皮膚はその機能を保つため、基底層で常に新しい細胞が作られています。
基底層で新しくできた細胞は徐々に角層へと押し上げられ、最終的には垢となって剥がれ落ちます。
このような皮膚の細胞サイクルを「ターンオーバー(分化)」と呼び、通常、約28~40日サイクルで繰り返されています。
乾癬とは
乾癬の患者さんでは、慢性の炎症を伴う何らかの原因で上記のターンオーバーのサイクルが4~5日と極端に短くなっています。
そのため、皮膚が盛り上がったような状態(“肥厚”と呼びます)になり、赤い発疹(“紅斑”と呼びます)を伴うことを特徴とします。
また、皮膚の一部がかさかさになって剥げ落ちる(“落屑”と呼びます)こともあります。
乾癬の分類
乾癬は5つの種類に分類されていますが、約9割は「尋常性乾癬」です
- 尋常性乾癬
- 関節症性乾癬
- 滴状乾癬
- 乾癬性紅皮症
- 膿疱性乾癬
乾癬性紅皮症や膿疱性乾癬は非常に稀ですが、発症すると症状が厳しいため、重症になることが多いです。
乾癬の原因
明確な原因は不明確ですが、
- 遺伝的素因
- 環境要因(ストレス、食生活、肥満等)
などによって、免疫機能が異常になることで発症すると考えられています。
何らかの原因によって、マクロファージ等が産生する炎症性サイトカイン(IL-12、IL-23、TNFα)等によって炎症が引き起こされ、乾癬の症状が発現します。
IL-23はヘルパーT細胞の一種であるTh17を活性化し、Th17が産生する「IL-17A」も乾癬の発症と維持に重要であると考えられています。
乾癬の重症度と治療
乾癬の重症度は皮膚の症状や状態、患者さんが感じる不便さ、等を指標に「軽症」、「中等症」、「重症」の3つに分けられています。
重症度に応じて、以下の4つの治療が単独もしくは組み合わせて行われますが、中心となるのは外用療法です。
- 外用療法(塗り薬)
- 光線療法(紫外線照射)
- 内服療法(経口薬)
- 生物学的製剤治療(注射薬)
外用療法(塗り薬)には、ステロイド外用薬や活性型ビタミンD3外用薬が用いられます。
内服療法(経口薬)には、チガソン(一般名:エトレチナート)等のビタミンA誘導体の他、免疫抑制薬やPDE4阻害薬のオテズラ(一般名:アプレミラスト)が重症度に応じて使用されます。
そして生物学的製剤治療は基本的には、以下のような患者さんにしか使用することができません。1)
- 外用療法、光線療法、内服療法で改善しない患者さん
- 乾癬性関節炎で痛みが激しい患者さん
- 乾癬性紅皮症や膿疱性乾癬等の重症な患者さん
また、生物学的製剤治療は日本皮膚科学会で定められた病院でのみ治療ができます。1)
今回ご紹介するスキリージも生物学的製剤に分類されています。
クローン病と治療
大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といい、クローン病もこの疾患の一種とされています。
ちなみに、この疾患を最初に見つけたのが、アメリカのクローン先生であったことから、クローン病と名付けられています。
クローン病は主として若年者にみられ、口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こりえますが、小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。
非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とし、それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。
そしてこのクローン病の発生原因は未だ不明とされていますが、乾癬と同様の炎症反応が起因していると考えられています。
クローン病は原因が不明であるため、腸管の炎症を抑えて症状を鎮め寛解に導くこと、そして炎症のない状態を維持(寛解状態)することが治療の主な目標になります。
治療は薬物療法が主体で、薬物療法が有効でない場合や腸閉塞、穿孔などの合併症では外科治療や血球成分除去療法などが行われることもあります。
初期に行う主な薬物療法は、以下の薬剤があり、重症度によって適宜併用して用います。
- 5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤):メサラジン、サラゾスルファピリジン
⇒寛解導入療法・寛解維持療法共に使用可能 - 副腎皮質ホルモン:プレドニゾロン、ブデソニド
⇒寛解導入療法に使用可能 - 免疫調整薬:アザチオプリン、6-メルカプトプリン
⇒寛解維持療法に使用可能(いずれも保険適応外)
これらの標準治療薬剤を使用しても症状が改善しない場合、「難治」とされ、以下のような生物学的製剤の使用が検討されます。
- レミケード点滴静注(一般名:インフリキシマブ)
- ヒュミラ皮下注(一般名:アダリムマブ)
- シンポニー皮下注(一般名:ゴリムマブ)
- エンタイビオ皮下注(ベドリズマブ)
- スキリージ皮下注(リサンキズマブ)
今回ご紹介するスキリージは、標準治療薬に抵抗性、もしくは抗TNFα抗体製剤に抵抗性を示す中等症から重症のクローン病に対して治療効果が認められている薬剤です。
掌蹠膿疱症とは
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は手のひらや足の裏に無菌性膿疱(感染ではない)が繰り返し起こる慢性の難治性皮膚疾患です。
発症原因は明らかにはされていませんが、炎症性のサイトカイン(例:IL-23)が関与していると考えられています。
治療の基本は薬物療法ですが、主にはステロイドの外用剤(塗り薬)が使用されます。
ステロイドで効果不十分な場合、免疫抑制薬の経口投与や光線療法が行われることもありますが、選択肢は限られていました。
既存治療で効果不十分な掌蹠膿疱症に対しては、既に生物学的製剤のトレムフィア(グセルクマブ)が使用できますが、今後はスキリージも期待できますね。
スキリージ(リサンキズマブ)の作用機序と特徴
IL-23はp40サブユニットとp19サブユニットと呼ばれるタンパク質から構成されています。
スキリージは、マクロファージ等の産生するIL-23のp19サブユニットを特異的に阻害する抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤です!
IL-23の作用が阻害されることでIL-23の下流にあるTh17へのシグナル伝達を抑制します。
その結果、Th17関連の炎症反応が抑制され、乾癬やクローン病、掌蹠膿疱症の症状緩和が得られると考えられます。
同様の作用機序(IL-23のp19サブユニットを阻害)を有する生物学的製剤としてはトレムフィア(グセルクマブ)があります。
トレムフィアは8週間毎の投与ですが、スキリージは12週毎の投与と、乾癬に使用する生物学的製剤としては最も投与頻度が少ないといった特徴があります!
他の生物学的製剤との違い
乾癬に用いる他の生物学的製剤には以下の種類があり、それぞれ作用機序が異なります。
- レミケード(一般名:インフリキシマブ):TNFα阻害
- ヒュミラ(一般名:アダリムマブ):TNFα阻害
- ステラーラ(一般名:ウステキヌマブ):IL-12とIL-23阻害
- トレムフィア(一般名:グセルクマブ):IL-23阻害(p19サブユニットを阻害)
- コセンティクス(一般名:セクキヌマブ):IL-17A阻害
- トルツ(一般名:イキセキズマブ):IL-17A阻害
- ルミセフ(一般名:ブロダルマブ):IL-17受容体A阻害
投与間隔や自己注射について詳しくは以下の記事にまとめていますのでご参照ください。
-
【乾癬】生物学的製剤の一覧と作用機序/特徴のまとめ
続きを見る
乾癬のエビデンス紹介:ultIMMa-1試験・ultIMMa-2試験
根拠となった臨床試験はいくつかありますが、その中でもスキリージとステラーラ(一般名:ウステキヌマブ)を直接比較した第Ⅲ相臨床試験(ultIMMa-1試験およびultIMMa-2試験)をご紹介します。2)
両試験共、スキリージ群、ステラーラ群、プラセボ群の3群を比較した試験で、主要評価項目は以下とされました。
- 16週時点におけるPASI 90の達成率*
- 16週時点におけるsPGA 0/1の達成率†
試験群 | ultIMMa-1試験 | ultIMMa-2試験 | ||
PASI 90の達成率 | sPGA 0/1の達成率 | PASI 90の達成率 | sPGA 0/1の達成率 | |
スキリージ群 | 75.3%※ | 87.8%※ | 74.8%※ | 83.7%※ |
ステラーラ群 | 42.0%※ | 63.0%※ | 47.5%※ | 61.6%※ |
プラセボ群 | 4.9%※ | 7.8%※ | 2.0%※ | 5.1%※ |
※スキリージ vs. ステラーラおよびプラセボのp<0.0001
*PASI(Psoriasis Area and Severity Index):乾癬の面積と重症度の指標でPASI 90は「90%以上の改善」と定義される
†sPGA(医師による静的総合評価):sPGA 0/1とは、スコア0「消失」とスコア1「ほぼ消失」の達成と定義される
クローン病のエビデンス紹介:ADVANCE試験・MOTIVATE試験
根拠となった以下の代表的な臨床試験をご紹介します。3)
- ADVANCE試験:既存治療または生物学的製剤で効果不十分または不耐容の患者さんが対象
- MOTIVATE試験:生物学的製剤で効果不十分または不耐容の患者さんが対象
いずれもプラセボと比較し、主要評価項目は「12週時の臨床的寛解および内視鏡的改善」とされ、両試験において主要評価項目が達成されていました!
副作用
主な副作用として上咽頭炎(4.2%)、咽頭炎(1.8%)などが報告されています(国内の尋常性乾癬、関節症性乾癬の試験より)。4)
また稀に重篤な副作用として重篤な感染症(敗血症、髄膜炎、腎盂腎炎、細菌性髄膜炎等)(0.7%)や重篤な過敏症(アナフィラキシー等)(0.1%)の発現が認められることがありますので、投与中は経過観察を十分に行う必要があります。4)
用法・用量、自己注射
<乾癬の場合>
リサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。
なお、患者さんの状態に応じて1回75mgとすることができます。
<クローン病の場合>
寛解導入療法
通常、成人にはリサンキズマブとして、600mg を4週間隔で3回(初回、4 週、8 週)点滴静注します。なお、リサンキズマブの皮下投与用製剤による維持療法開始16週以降に効果が減弱した場合、1200mgを単回点滴静注することができます。
維持療法
リサンキズマブの点滴静注製剤による導入療法終了4 週後から、通常、成人にはリサンキズマブとして360mgを8週間隔で皮下投与します。
<潰瘍性大腸炎の場合>
寛解導入療法
通常、成人にはリサンキズマブとして、1200mgを4週間隔で3回(初回、4週、8週)点滴静注します。なお、リサンキズマブ(遺伝子組換え)の皮下投与用製剤による維持療法開始16週以降に効果が減弱した場合、1200mgを単回点滴静注することができます。
維持療法
リサンキズマブの点滴静注製剤による導入療法終了4週後から、通常、成人にはリサンキズマブとして180mgを8週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて、360mgを8週間隔で投与することができます。
<掌蹠膿疱症の場合>
リサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。
現時点では自己注射は不可です。
収載時の薬価
75mg製剤の収載時(2019年5月22日)の薬価は以下の通りです。
- スキリージ皮下注75mgシリンジ:239,374円円(1日薬価:5,699円)
算定方式等については以下の記事をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】11製品+再生医療等製品(2019年5月22日)
続きを見る
その後、2021年11月25日に150mg製剤が薬価収載されました。収載時の薬価は以下の通りです。
- スキリージ皮下注150mgシリンジ:474,616円
- スキリージ皮下注150mgペン:474,761円
また、2022年11月16日には「皮下注360mgオートドーザー」と「点滴静注600mg」が薬価収載されました。
- スキリージ点滴静注600mg:192,321円(1日薬価:6,869円)
- スキリージ皮下注360mgオートドーザー:508,169円
-
【新薬:薬価収載】16製品(2022年11月16日)
続きを見る
2024年11月20日には「皮下注180mgオートドーザー」も薬価収載されました。
- スキリージ皮下注180mgオートドーザー:259,358円
まとめ・あとがき
スキリージはこんな薬
- IL-23(p19サブユニット)を阻害する生物学的製剤(抗体製剤)
- 12週毎の投与(維持投与期間中)
- ステラーラよりも治療効果が高い可能性がある
- 重篤な副作用として結核・肺炎・敗血症を含む重篤な感染症の発現の危険性がある
またステラーラとの直接比較試験が報告されているのもポイントです。
乾癬領域では近年では相次いで新規の生物学的製剤が登場しています。乾癬の生物学的製剤のまとめ記事もありますので、ご参考にしてもらえれば嬉しいです。
-
【乾癬】生物学的製剤の一覧と作用機序/特徴のまとめ
続きを見る
以上、今回は乾癬・クローン病とスキリージの作用機序・特徴についてご紹介しました。
引用文献・資料等
- 日本皮膚科学会:乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版)
- ultIMMa-1試験・ultIMMa-2試験:Lancet. 2018 Aug 25;392(10148):650-661.
- ADVANCE試験・MOTIVATE試験:Lancet. 2022 May 28;399(10340):2015-2030.
- スキリージ皮下注 添付文書
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