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2023年9月25日、エンタイビオ(ベドリズマブ)の皮下注製剤の適応症に「クローン病の維持療法」が追加されました!
武田薬品工業|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ①エンタイビオ点滴静注用300mg ②エンタイビオ皮下注108mgペン/シリンジ |
一般名 | ベドリズマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売元 | 武田薬品工業(株) |
効能・効果 | ●中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る) ●中等症から重症のクローン病の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る) |
用法・用量 | ①通常、成人にはベドリズマブ(遺伝子組換え)として1回300mgを点滴静注する。 初回投与後、2週、6週に投与し、以降8週間隔で点滴静注する。 ②通常、成人にはベドリズマブ(遺伝子組換え)として1回108mgを 2週間隔で皮下注射する。 |
収載時の薬価 | 点滴静注用300mg:274,490円(1日薬価:4,902円) 皮下注108mgペン/シリンジ:69,888円(1日薬価:4,992円) |
2023年3月27日に皮下注製剤の剤形追加が承認されましたが、当初は「潰瘍性大腸炎の維持療法」のみでした。今回、「クローン病の維持療法」も使用可能となっていますね!
今回は潰瘍性大腸炎やクローン病とエンタイビオ(ベドリズマブ)の作用機序、根拠となったエビデンスについてご紹介します。
潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患(炎症を伴う腸疾患)の1つであり、大腸の粘膜に炎症が起き、ただれたり、潰瘍が発生する疾患です。
好発年齢は10歳代後半~30代前半で、比較的若年者にみられます。
主な自覚症状としては、粘血便、下痢、腹痛などの症状が持続的かつ反復的にみられ、症状が悪化すると体重減少や発熱など、全身の症状が起こることもあるようです。
特に初期症状としては粘血便が多いとされています。
潰瘍性大腸炎の多くは、寛解(症状が落ち着いている状態)と再燃(症状が悪化している状態)を繰り返します。
長い経過のなかでは、徐々に病気が進行し、重大な合併症を引き起こすこともあり、さらに、長期間罹患していると、大腸がんの発現率も高くなると言われています!!
潰瘍性大腸炎の原因
明確な原因は未だ不明とされていますが、
- 免疫異常等の遺伝因子
- 食習慣等の環境因子
- ストレス等の心理学的因子
が複雑に関与して発症すると考えられています。
何らかの自己免疫異常によって、免疫細胞(白血球)が自分自身の大腸粘膜を「異物」としてみなして攻撃してしまうことで大腸粘膜に炎症が引き起こされます。
このような持続的な自己免疫異常が潰瘍性大腸炎の発症と炎症の持続に関与すると言われています。
白血球(マクロファージ、顆粒球、T細胞)が大腸粘膜を攻撃する際、血中の白血球は以下のプロセスで大腸粘膜まで移動し、攻撃を行います。
- 血管内皮細胞に接着する
- 組織内に入る(浸潤)
- 攻撃する部位(この場合、大腸粘膜)に移動する(“遊走”と呼びます)
- 大腸粘膜を攻撃し、炎症を引き起こす
白血球の中でもリンパ球のT細胞が上記プロセスを行う場合、まずT細胞に発現している「α4β7インテグリン」と呼ばれるタンパク質が血管内皮細胞上にある「MAdCAM-1」と結合することで「接着」が起こります。
その後、接着した部位から組織内に浸潤が起こり、大腸粘膜に遊走していきます。
大腸粘膜に到達したT細胞が粘膜を攻撃することで炎症を引き起こします。
潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎は、その病状により、「軽症」「中等症」「重症」に分類されております。
潰瘍性大腸炎は原因が不明であるため、腸管の炎症を抑えて症状を鎮め寛解に導くこと、そして炎症のない状態を維持(寛解状態)することが治療の主な目標になります。
治療は薬物療法が主体となりますが、薬物療法が有効でない場合や腸閉塞、穿孔などの合併症では外科治療や血球成分除去療法などが行われることもあります。
初期に行う主な薬物療法は、以下の薬剤があり、重症度によって適宜併用して用います。1)
- 5-ASA製剤:メサラジン、サラゾスルファピリジン
- 副腎皮質ホルモン:ブレドニゾロン、ブデソニド
- 免疫調整薬:アザチオプリン、6-メルカプトプリン
これらの標準治療薬剤を使用しても症状が改善しない場合、「難治」とされ、以下のような生物学的製剤(抗TNFα抗体製剤)の使用が検討されます。
- レミケード点滴静注(一般名:インフリキシマブ)
- ヒュミラ皮下注(一般名:アダリムマブ)
- シンポニー皮下注(一般名:ゴリムマブ)
今回ご紹介するエンタイビオは標準治療薬剤に抵抗性、もしくは抗TNFα抗体製剤に抵抗性を示す中等症から重症の潰瘍性大腸炎に対して治療効果が認められている薬剤です。
クローン病と治療
大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といい、クローン病もこの疾患の一種とされています。
ちなみに、この疾患を最初に見つけたのが、アメリカのクローン先生であったことから、クローン病と名付けられています。
クローン病は主として若年者にみられ、口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こりえますが、小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。
非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とし、それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。
そしてこのクローン病の発生原因は未だ不明とされていますが、潰瘍性大腸炎と同様の炎症反応が起因していると考えられています。
また、初期に行う主な薬物療法は潰瘍性大腸炎と同じです。1)
エンタイビオ(ベドリズマブ)の作用機序
エンタイビオは、前述のT細胞の接着に関与する「α4β7インテグリン」を特異的に阻害するモノクローナル抗体薬です!
T細胞の「α4β7インテグリン」と血管内皮細胞上の「MAdCAM-1」との結合を阻害することでT細胞の接着と浸潤、そして遊走を抑制することができます。
その結果、T細胞による炎症反応が抑制でき、潰瘍性大腸炎やクローン病の症状緩和効果を発揮すると考えられます。
副作用
主な副作用として、寒気、頭痛、関節痛、悪心、発熱、感染症などがあります。
稀に肺炎、敗血症、結核等の重篤な感染症が報告されているため、特に注意が必要です。
エビデンス紹介①:潰瘍性大腸炎(GEMINIⅠ試験)
潰瘍性大腸炎の根拠となった臨床試験の一つである海外のGEMINIⅠ試験をご紹介します。2)
本試験は少なくとも1つ以上の従来の薬物療法または抗TNFα抗体薬による治療にも関わらず、中程度から重度の活動期潰瘍性大腸炎患者さんを対象に、エンタイビオ群とプラセボ群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。
本試験は導入期と維持療法期から構成されています。
<導入期>
1日目と15日目にエンタイビオもしくはプラセボを投与する群を比較します。
<維持療法期>
治療開始6週時点でエンタイビオに反応した患者さんをエンタイビオ継続投与(4週毎 or 8週毎)もしくはプラセボを投与する3群を比較します。
導入期の主要評価項目は「6週時点の改善率」で、結果は以下の通りでした。
試験名 | GEMINIⅠ試験(導入期) | |
試験群 | エンタイビオ群 | プラセボ群 |
6週時点の 改善率* |
47.1% | 25.5% |
p<0.001 | ||
6週時点の 寛解率† |
16.9% | 5.4% |
p=0.001 | ||
6週時点の 粘膜治癒率※ |
40.9% | 24.8% |
p=0.001 |
*Mayoスコアがベースラインから3ポイント以上かつ30%以上低下した患者さんの割合
†Mayoスコアが2以下かつ他のサブスコアで1を超えるものが無い患者さんの割合
※Mayo内視鏡サブスコアが1以下の患者さんの割合
維持療法期の主要評価項目は「52週時点の寛解率」で、結果は以下の通りでした。
試験名 | GEMINIⅠ試験(維持療法期) | ||
試験群 | エンタイビオ 4週毎群 |
エンタイビオ 8週毎群 |
プラセボ群 |
52週時点の 寛解率 |
44.8% | 41.8% | 15.9% |
p<0.001 | |||
52週時点の 粘膜治癒率 |
56.0% | 51.6% | 19.8% |
p<0.001 |
このようにエンタイビオは、導入期と維持療法期、共にプラセボと比較して良好な治療成績が得られています。
エビデンス紹介②:クローン病(GEMINIⅡ試験)
クローン病の根拠となった臨床試験の一つは海外のGEMINIⅡ試験です。3)
本試験は少なくとも1つ以上の従来の薬物療法または抗TNFα抗体薬による治療にも関わらず、中程度から重度の活動期クローン病患者さんを対象に、エンタイビオ群とプラセボ群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。
本試験は寛解導入期と寛解維持期から構成されています。
<寛解導入期>
1日目と15日目にエンタイビオもしくはプラセボを投与する群を比較します。
<寛解維持期>
治療開始6週時点でエンタイビオに反応した患者さんをエンタイビオ継続投与(4週毎 or 8週毎)もしくはプラセボを投与する3群を比較します。
寛解導入期の主要評価項目は「6週時点の臨床的寛解達成率*」と「6週時点のCDAI-100達成率†」で、結果は以下の通りでした。
試験名 | GEMINIⅡ試験(寛解導入期) | |
試験群 | エンタイビオ群 | プラセボ群 |
6週時点の 臨床的寛解達成率* |
14.5% | 6.8% |
P=0.02 | ||
6週時点の CDAI-100達成率† |
31.4% | 25.7% |
P=0.23 |
*CDAI(クローン病活動指数)スコアが150点以下の割合
†CDAI(クローン病活動指数)スコアが100点以上減少した割合
寛解維持期の主要評価項目は「52週時点で臨床的寛解*」で、結果は以下の通りでした。
試験名 | GEMINIⅡ試験(寛解維持期) | ||
試験群 | エンタイビオ 4週毎群 |
エンタイビオ 8週毎群 |
プラセボ群 |
52週時点の 臨床的寛解 |
36.4% | 39.0% | 21.6% |
プラセボとの比較: P=0.004 |
プラセボとの比較: P<0.001 |
- |
寛解導入期では主要評価項目の「6週時点のCDAI-100達成率」を達成することができていませんでしたが、寛解できた患者さんがエンタイビオを継続することで「52週時点で臨床的寛解」はプラセボと比較してエンタイビオ群で有意な改善が得られていますね。
用法・用量、在宅自己注射
点滴静注製剤については、潰瘍性大腸炎もクローン病も同様です。
通常、成人にはべドリズマブとして1回300mgを点滴静注します。初回投与後、2週、6週に投与し、以降8週間隔で点滴静注を行います。
皮下注製剤は潰瘍性大腸炎の維持療法にしか使用できません。
通常、成人にはベドリズマブ(遺伝子組換え)として1回108mgを2週間隔で皮下注射します。
2024年6月1日より、皮下注ペン/シリンジが在宅自己注射可能になりました!
- 本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師によるか、医師の直接の監督のもとで投与を行うこと。自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、投与方法等について十分な教育訓練を実施したのち、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認した上で、医師の管理指導のもとで実施すること。また、適用後、感染症等本剤による副作用が疑われる場合や、自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、直ちに自己投与を中止させ、医師の管理下で慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。ペン又はシリンジの安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みのペン又はシリンジを廃棄する容器を提供すること。
収載時の薬価
薬価収載時点(2018年8月29日)の薬価は以下の通りです。
- エンタイビオ点滴静注用300mg:274,490円(1日薬価:4,902円)
新規作用機序のため有用性加算(Ⅱ)が10%加算されており、根拠は以下の通りです。
- α4β7インテグリンに結合するといった新規作用機序を有する
- 抗TNFα抗体薬の治療歴のある患者さんにも効果がある
算定方式等は以下の記事をご覧ください。
>>【新薬:薬価収載】9製品(2018年8月29日)と用法用量変化再算定
皮下注製剤については以下の通りです。
- エンタイビオ皮下注108mgペン:69,888円(1日薬価:4,992円)
- エンタイビオ皮下注108mgシリンジ:69,888円(1日薬価:4,992円)
算定の根拠については、以下で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】11製品(2023年5月24日)
続きを見る
まとめ・あとがき
エンタイビオはこんな薬
- T細胞の接着に関与する「α4β7インテグリン」を阻害する抗体製剤
- 潰瘍性大腸炎とクローン病に対して効果が認められている
エンタイビオは、T細胞の接着に関与する「α4β7インテグリン」を特異的に阻害するといった新規の作用機序を有する薬剤です。
潰瘍性大腸炎ではヒュミラ(アダリムマブ)とエンタイビオとの直接比較試験(海外第Ⅲ相臨床試験のVARSITY試験)も報告されており、エンタイビオの方が治療効果が高いことが示されています。4)
以上、今回は潰瘍性大腸炎・クローン病とエンタイビオ(ベドリズマブ)の作用機序についてご紹介いたしました♪
引用文献・資料等
- 日本消化器病学会ガイドライン:炎症性腸疾患(IBD)
- GEMINIⅠ試験(潰瘍性大腸炎):N Engl J Med. 2013 Aug 22;369(8):699-710.
- GEMINIⅡ試験(クローン病):N Engl J Med. 2013 Aug 22;369(8):711-21.
- VARSITY試験(潰瘍性大腸炎):N Engl J Med 2019; 381:1215-1226
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