5.内分泌・骨・代謝系

アムヴトラ皮下注(ブトリシラン)の作用機序【TTR-FAP】

2022年9月26日、「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)」を対象疾患とするアムヴトラ皮下注(ブトリシラン)が承認されました。

Alnylam Japan|ニュースリリース

基本情報

製品名 アムヴトラ皮下注25mgシリンジ
一般名 ブトリシランナトリウム
製品名の由来 アムヴトラ(Amvuttra)の名称は、
Am[アミロイドーシス(Amyloidosis)との関連性]、
vut[有効成分であるブトリシラン(vutrisiran)]、
ttr[疾患の原因となるトランスサイレチン(TTR)との関連性]に由来する。
製造販売 Alnylam Japan(アルナイラム・ジャパン)(株)
効能・効果 トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー
用法・用量 通常、成人にはブトリシランとして25mgを3カ月に1回皮下投与する。
収載時の薬価 7,810,923円
発売日 2022年11月18日(HP

 

アムヴトラはRNA干渉(RNAi:RNA interference)を利用した「siRNA治療薬」に分類されていて、国内ではオンパットロ(パチシラン)に次いで2製品目ですね。

読み方:siRNA=エスアイアールエヌエー

 

木元 貴祥
siRNAやRNAiはあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、作用機序等が非常に画期的で他の疾患やがん治療への応用も期待されています。

 

オンパットロは3週間毎の点滴静注が必要でしたが、アムヴトラはそれを改良し、3か月毎の皮下注で治療可能です。

 

今回はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)とアムヴトラ(ブトリシラン)の作用機序、そしてsiRNA治療薬の特徴などについて解説します。

 

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)とは

家族性アミロイドポリニューロパチー(Familial Amyloid Polyneuropathy:FAP)とは、異常なタンパク質(アミロイド)が末梢神経等に沈着することによって様々な障害を引き起こす疾患で、難病に指定されています。1)

 

沈着する異常なタンパク質(アミロイド)の種類によっていくつかに分類されていますが、その原因タンパク質が「トランスサイレチン(TTR:Transthyretin)」のものをTTR-FAP(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)と呼んでいます。

 

参考:言葉の意味

  • トランスサイレチン型:TTRと呼ばれるタンパク質が原因。
  • 家族性:遺伝が関係している。
  • アミロイド:異常なタンパク質の凝集体。
  • ポリニューロパチー:様々な末梢神経に障害が起きる。

 

初期症状としては、末梢神経や自律神経にアミロイド沈着が起こることによって、手足のしびれや痛み、温感が鈍くなる、などの症状が現れます。

 

その後、進行していくと、心臓、消化管、腎臓、眼も障害されていきます。

 

TTR-FAPの原因

正常な場合、TTRは肝臓で合成され、安定な四量体として存在しています。その後、血中に放出されますが、血中でも四量体のまま安定化しているため、特に悪さはしません。

 

しかしTTR-AFPでは何らかの遺伝子異常によって、肝臓で異常なTTRが合成されます。異常なTTRは血中に放出されると不安定な状態になり、異常な単量体として存在するようになります。

異常なTTRの単量体が凝集することでアミロイドを形成し、神経や臓器に沈着することでTTR-AFPを発症すると考えられています。

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)の原因:アミロイドの凝集・沈着

 

TTR-FAPの治療

治療法としては以下があります。

  • 肝移植:異常なTTRを合成している肝臓を取り換える。唯一の根治療法2)
  • 薬物療法:ビンダケル(一般名:タファミジスメグルミン)によって進行を抑制させる。
  • 対症療法:種々の症状を緩和させる

 

ビンダケルは2013年に初のTTR-AFP治療薬として登場し、経口で治療できる薬として使用されていますね。最近では、ビンダケルを改良したビンマックが登場しています。

ビンマック(タファミジス)の作用機序:ビンダケルとの違い【ATTR-CM】

続きを見る

 

2019年には国内初のsiRNA治療薬のオンパットロ(パチシラン)が登場し、治療選択肢が広がっています。

 

木元 貴祥
それではここからアムヴトラの構造や作用機序等について解説していきます。

 

アムヴトラ(ブトリシラン)の構造と特徴

アムヴトラの有効成分はsiRNAと呼ばれる二本鎖のRNA構造で、標的となる遺伝子(この場合、異常なTTR遺伝子)と同じ配列を有しています。

 

siRNAは非常に不安定な構造のため、そのまま体内に投与されると分解酵素等によって速やかに分解されてしまい薬効が発揮できません。

 

そのため類薬のオンパットロは、有効成分のsiRNAを脂質ナノ粒子に封入し、体内での安定性を高めていました。

 

今回ご紹介するアムヴトラは、有効成分は同じsiRNAですが、GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)を結合させた構造です。GalNAcは、肝臓にて高発現しているアシアロ糖タンパク受容体(ASPGR)と結合する性質があるため、肝臓に対して選択的に運ばれます。3)

アムヴトラ(ブトリシラン)の構造と特徴:siRNAとGalNAcを結合させたDDS

 

木元 貴祥
GalNAcによって分解も抑えられると考えられていますね。

 

GalNAcで修飾することで、皮下注でも投与可能になるという特徴も!いいこと尽くし!

 

アムヴトラ(ブトリシラン)の作用機序:RNA干渉とsiRNA

siRNAが肝臓の細胞内に到達すると、速やかに一本鎖RNAになり、Argonauteと呼ばれるタンパク質と複合体(RISC)を形成します。

 

このRISCが標的である異常なTTR遺伝子のRNA配列を認識し、切断していきます。

アムヴトラ(ブトリシラン)の作用機序:RNA干渉とsiRNA

 

その結果、異常なTTR遺伝子のRNAが翻訳されなくなり、異常なTTRの合成・産生が抑制されます。

 

アムヴトラは上記の作用機序によって異常なTTRの合成を抑制し、結果的にTTRアミロイドの産生も抑制されるため、TTR-FAPの進行抑制効果を発揮すると考えられています。

アムヴトラのmRNAへの結合領域はTTR遺伝子の非翻訳部分のため、TTR遺伝子変異の種類によらず効果が期待されています。

 

木元 貴祥
このように、特定の遺伝子発現をノックダウン(発現抑制)する手法を「RNA干渉(RNAi)」と呼んでいます。

 

エビデンス紹介:HELIOS-A試験

根拠となった臨床試験(HELIOS-A)を紹介します。4)

本試験はTTR-FAPの患者さんを対象に、アムヴトラとオンパットロを比較する第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は少し変わっていて、オンパットロとプラセボを比較した第Ⅲ相試験(APOLLO試験)のプラセボ群に対する「9か月時点のmNIS+7のベースラインからの変化量*」とされました。

APOLLO試験についてはオンパットロの記事で解説しています。

 

試験群 プラセボ群 アムヴトラ群
18か月時点の
mNIS+7のベースラインからの変化量
+14.8±2.0 -2.2±1.4
差:-17.0、p=3.5×10-12

*mNIS+7(補正神経障害スコア):運動力、反射、感覚、神経伝導および体位性血圧を評価する修正ニューロパチー障害スコア

 

この他、本試験内でオンパットロ群に対する血清中トランスサイレチン(TTR)値減少の非劣性も認められていました。

 

副作用

3%以上に認められる副作用として、注射部位反応、ビタミンA減少が報告されています。

 

重大な副作用は特にありません。

 

ちなみに、類薬のオンパットロは点滴静注のため、重大な副作用として「Infusion reaction」がありましたが、アムヴトラは皮下注製剤のため、特に記載されていませんね。

 

木元 貴祥
アムヴトラは皮下注製剤のため、軽減されているでしょうか!

 

用法・用量

通常、成人にはブトリシランとして25mgを3カ月に1回皮下投与します。

 

収載時の薬価

収載時(2022年11月16日)の薬価は以下の通りです。

  • アムヴトラ皮下注25mgシリンジ:7,810,923円

 

算定根拠については以下をご確認ください。

【新薬:薬価収載】16製品(2022年11月16日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

アムヴトラはこんな薬

  • 国内で2製品目のsiRNA治療薬
  • RNA干渉によって標的の遺伝子をノックアウトさせる
  • GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)で修飾している
  • 3か月毎の皮下注で治療が可能

 

siRNAは1998年には発見されており、ノーベル賞の受賞にも繋がっていますが、その不安定さから臨床応用がなかなか進みませんでした。

 

オンパットロは脂質ナノ粒子を利用することで、そして、アムヴトラはGalNAc(N-アセチルガラクトサミン)で修飾することによって、分解されることなく目的の臓器に到達できるといった特徴があります(いわゆる、DDS)。

 

木元 貴祥
今後も様々なsiRNAの開発が進行中ですので、他疾患やがんへの応用も期待したいと思います!

 

以上、今回はTTR-FAPとアムヴトラ皮下注(ブトリシラン)の作用機序、そしてsiRNAの特徴などについて解説しました!

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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