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2022年9月26日、「2型糖尿病」を対象疾患とするマンジャロ(チルゼパチド)が承認されました!
日本イーライリリー|ニュースリリース
基本情報
製品名 | マンジャロ皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス |
一般名 | チルゼパチド |
製品名の由来 | 特になし |
製薬会社 | 製造販売:日本イーライリリー(株) 販売:田辺三菱製薬(株) |
効能・効果 | 2型糖尿病 |
用法・用量 | 通常、成人には、チルゼパチドとして週1回5mgを維持用量とし、皮下注射する。 ただし、週1回2.5mgから開始し、4週間投与した後、週1回5mgに増量する。 なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量できる。 ただし、最大用量は週1回15mgまでとする。 |
収載時の薬価 | 2.5mg:1,924円 5mg:3,848円 7.5mg:5,772円 10mg:7,696円 12.5mg:9,620円 15mg:11,544円 |
発売日 | 2.5mg/5mg:2023年4月18日新発売(HP) その他の規格:2023年6月12日新発売(HP) |
マンジャロは、
- GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)と
- GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)
の両インクレチンの作用を単一分子に統合した国内初のGIP/GLP-1受容体作動薬に分類されています!
GLP-1については馴染みがあると思いますが、GIPはあまり馴染みがないのではないでしょうか。
今回は2型糖尿病と共に、GIPやGLP-1の作用、そしてマンジャロ(チルゼパチド)の作用機序やエビデンスについて解説していきます!
ちなみに、製品名の由来は「特になし」とされていますが、そんなわけないジャロと思ってしまいます…。キービジュアルはキリマンジャロっぽいですし…。
生体内の血糖調節システム
通常、生体内では以下のいくつかのホルモン等によって血糖が一定に保たれています。
<血糖を上昇させる生体内物質>
- グルカゴン
- アドレナリン
- ノルアドレナリン
- コルチゾール
- 成長ホルモン
<血糖を下降させる生体内物質>
- インスリン
このように、血糖を上昇させる物質は数種類存在していますが、血糖を下降する物質はインスリンしかありません。
インスリンの作用とGIP/GLP-1
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。
分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きがあります。
また、インスリンの分泌を促進させる物質の一つに「GIP」や「GLP-1」と呼ばれる生体内ホルモンがあります。
- GIP:グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド
- GLP-1:グルカゴン様ペプチド-1
いずれも食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、膵臓や全身の臓器に対して図のような働きを有します。
主な作用としては、膵臓におけるインスリンの分泌による血糖降下作用ですね。その他にも、GIPはインスリン感受性亢進、食欲減退などの作用が示唆されています。1)
血糖値が低い時にはインスリンの分泌を促進しないため、過剰に分泌されても低血糖になる恐れがありません。しかし、GIP/GLP-1は「DPP-4」と呼ばれるタンパク質によって半減期1~2分ほどの早さで速やかに分解され、効果はすぐ失われます。
糖尿病とは
平成29年の厚労省調査(3年に1度)によると、糖尿病の総患者数は約328万人超であり、前回の調査から12万人以上増加しています。
糖尿病はその名の通り、血中ブドウ糖濃度が高い状態が慢性的に継続している病態です。
健康診断等で
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
の場合に疑われ、数回の検査を経て確定診断されます。
糖尿病にはその原因や病態によって
- 1型糖尿病
- 2型糖尿病
に分類されています。
日本人では約95%が「2型糖尿病」に分類されており、遺伝因子と食生活・運動不足・肥満等の生活習慣が原因で、以下の理由で引き起こされると考えられています。
- インスリンの分泌低下:インスリン量が減っている
- インスリンの抵抗性増大:インスリンの効きが悪くなっている
主にはインスリンの抵抗性増大によると考えられています。(インスリン分泌低下は軽度~中等度と様々)
一方、1型糖尿病は遺伝因子や自己免疫等によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が欠損・破壊されている状態です。(インスリンの分泌低下)
従って、治療の基本はインスリンの補充療法です。
2型糖尿病の治療
2型糖尿病治療は
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
を基本としますが、最も大切なのは食事療法と運動療法です。2)
食事/運動療法を2~3カ月続けても血糖値が下がらない場合、薬物療法が開始されます。
2型糖尿病治療薬
2型糖尿病治療薬にはいくつかの種類があり、年齢や肥満の程度、合併症、肝・腎機能等によって使い分けられます。
まずは経口血糖降下薬の少量から開始されることが多いです。2)
経口血糖降下薬には以下の種類があり、糖尿病の原因(インスリン分泌低下、抵抗性増大)によって使い分けられます。
<インスリン分泌低下を改善>
- スルホニル尿素(SU)薬:インスリン分泌促進
- グリニド薬:より速やかなインスリン分泌促進
- DPP-4阻害薬:GLP-1分解抑制によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制
<インスリン抵抗性を改善>
- ビグアナイド薬:糖新生の抑制
- チアゾリジン薬:インスリンの感受性を向上
加えて、ブドウ糖の吸収を抑制する「α-グルコシダーゼ阻害薬」や、ブドウ糖の排泄を促進する「SGLT2阻害薬」等も使用されます。
これら経口血糖降下薬を使用しても血糖値が下がらない場合、経口薬の増量や併用、そして注射剤(GLP-1受容体作動薬、インスリン製剤)の使用が検討されます。
また、最近では経口血糖降下薬でコントロール不十分な場合、BOTやBPTと呼ばれれる治療が行われることもありますね。
- 持続型インスリン製剤+経口血糖降下薬:BOT(Basal Supported Oral Therapy)
- 持続型インスリン製剤+GLP-1受容体作動薬:BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 therapy)2)
-
ゾルトファイ配合注(インスリンデグルデク/リラグルチド)の作用機序【糖尿病】
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マンジャロ(チルゼパチド)の作用機序:GIP/GLP-1受容体作動
マンジャロは、GIP/GLP-1受容体に対する作動薬で、特にGIPに対する作用が強いとされています。また、DPP-4による分解を受けにくいため、長時間血中で作用すると考えられています。
マンジャロのGIP/GLP-1作用によって、血糖降下作用および、食欲減退や満腹感亢進による体重増加抑制作用が期待されています。ただし、美容・痩身・ダイエット等を目的とした使用は適応外のため、日本糖尿病学会より注意喚起(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解)も発出されています。
海外では「肥満症」に対してチルゼパチドが承認されていますが、別の製品名「Zepbound(ゼップバウンド)」として承認されています。日本では2024年5月に申請されています(ニュースリリース)。
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ゼップバウンド(チルゼパチド)の作用機序:ウゴービとの違い【肥満症】
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肥満症に使用するGLP-1受容体作動薬については、ウゴービ(セマグルチド)がありますね。
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ウゴービ(セマグルチド)の作用機序:サノレックスとの違い【肥満症】
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エビデンス紹介:SURPASS試験
マンジャロは日本を含む国際共同臨床開発プログラム「SURPASS」に基づいています。
SURPASSは10個ほどの第Ⅲ相試験から構成されているようですが、今回は代表的なSURPASS-2試験について解説します。3)
SURPASS-2試験は、メトホルミン単剤投与下でコントロール不良の2型糖尿病患者さん(18歳以上、HbA1c 7.0~15.0%、BMI≧25.0 kg/m2)を対象に、以下の4群を比較した第Ⅲ相臨床試験です。
- マンジャロ5mg群
- マンジャロ10mg群
- マンジャロ15mg群
- オゼンピック(セマグルチド)1mg群
主要評価項目は「ベースラインから40週後までのHbA1cの変化量」とされ、結果は以下の通りでした。
マンジャロ | オゼンピック | |||
5mg | 10mg | 15mg | ||
ベースラインから40週後までの HbA1cの変化量 |
-2.01% | -2.24% | -2.30% | -1.86% |
オゼンピックとマンジャロの比較: いずれの群間でも非劣性と優越性が証明 (P<0.001) |
||||
体重減少 (オゼンピックとの差) |
-1.9kg | -3.6kg | -5.5kg | - |
オゼンピックとマンジャロの比較: いずれもP<0.001 |
オゼンピックと比較して有意なHbA1cの低下が認められていますね!体重減少も!
同様に、トルリシティ(デュラグルチド)と直接比較した国内臨床試験(SURPASS J-mono試験)4)においても、マンジャロの方が有効性が有意に高いという結果でした。
その他、メトホルミンまたはSGLT2阻害薬による治療下(インスリン未投薬)の患者さんを対象に、マンジャロとトレシーバ(インスリン デグルデク)を比較したSURPASS-3試験でも同様にマンジャロの優越性が認められています。5)
副作用
5%以上に認められる副作用として、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退といった消化器症状が報告されています。
重大な副作用としては、
- 低血糖(頻度不明)
- 急性膵炎(0.1%未満)
- 胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸(いずれも頻度不明)
が挙げられていますので、特に注意が必要です。
用法・用量、自己注射
通常、成人には、チルゼパチドとして週1回5mgを維持用量とし、皮下注射します。
ただし、週1回2.5mgから開始し、4週間投与した後、週1回5mgに増量します。
なお、患者の状態に応じて適宜増減しますが、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量可能です。ただし、最大用量は週1回15mgまでとされています。
デバイスは「アテオス」なので、トルリシティ皮下注と同じですね。当てて押す!
イーライリリー|マンジャロ ® (チルゼパチド)
類薬のトルリシティは固定用量(0.75mg)のみのため、減量や増量ができませんでした。マンジャロは治療効果や副作用に応じて、細やかな用量変更が可能なため、より患者さんに合わせた治療が可能になると思います。
ちなみに、自己注射も可能とのことです。2023年3月8日の中医協総会では、在宅自己注射指導管理料の対象薬剤とすることも了承されましたので、発売と同時に在宅自己注射が可能ですね。
収載時の薬価
収載時(2023年3月15日)の薬価は以下の通りです。
- マンジャロ皮下注2.5mgアテオス:1,924円
- マンジャロ皮下注5mgアテオス:3,848円(1日薬価:550円)
- マンジャロ皮下注7.5mgアテオス:5,772円
- マンジャロ皮下注10mgアテオス:7,696円
- マンジャロ皮下注12.5mgアテオス:9,620円
- マンジャロ皮下注15mgアテオス:11,544円
算定根拠等については以下をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】13製品(2023年3月15日)
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GLP-1受容体作動薬(トルリシティなど)との比較・違い
既存の注射のGLP-1受容体作動薬は3製品あります。
ビデュリオン皮下注(エキセナチド)は2022年5月に販売中止(ニュースリリース)、バイエッタ皮下注(エキセナチド)は2024年に販売中止(ニュースリリース)、リキスミア皮下注(リキシセナチド)も2024年に販売中止(ニュースリリース)。
用法・用量やデバイスの違いと、その他の併存疾患に対する有益性についてもまとめてみました。
これまで、体重減少作用はオゼンピックが最も高いとされていましたが、臨床試験においてマンジャロの方が有意に体重減少率が高かったと報告されています。ネットワークメタ解析の報告6)でも同様の結果でした。
肥満症を対象としたSURMOUNT-1試験7)において、プラセボと比較してマンジャロの有意な体重減少も示されていますね。
しかしながら、マンジャロの心血管イベント抑制作用や腎保護作用については、現時点で報告されていません。現在、2型糖尿病の主要心血管イベントにおいて、マンジャロとトルリシティを比較する第Ⅲ相試験のSURPASS-CVOT試験(NCT04255433)が進行中のため、期待したいですね。
まとめ・あとがき
マンジャロはこんな薬
- 国内初のGIP/GLP-1受容体作動薬
- GIP/GLP-1作用によって血糖降下作用を示す
- オゼンピックとの直接比較試験で、有意な血糖降下作用を示した
マンジャロは国内初のGIP/GLP-1受容体作動薬として登場しました。
これまでの糖尿病治療薬で中心的な位置付けであったGLP-1受容体作動薬のオゼンピックよりも治療効果が高いと期待されていることから、より広く使用されるのではないでしょうか。
以上、今回は2型糖尿病と共に、GIPやGLP-1の作用、そしてマンジャロ(チルゼパチド)の作用機序やエビデンスについて解説しました!
引用文献・資料等
- Trends Endocrinol Metab. 2020 Jun;31(6):410-421.
- 日本糖尿病学会|糖尿病治療ガイド
- SURPASS-2試験:N Engl J Med 2021; 385:503-515
- SURPASS J-mono試験:Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 Sep;10(9):623-633.
- SURPASS-3試験:Lancet. 2021 Aug 14;398(10300):583-598.
- BMJ. 2023 Apr 6;381:e074068.
- SURMOUNT-1試験:N Engl J Med 2022; 387:205-216
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