5.内分泌・骨・代謝系

イベニティ皮下注(ロモソズマブ)の作用機序と副作用【骨粗鬆症】

骨折の危険性の高い骨粗鬆症」を効能・効果とするイベニティ皮下注(一般名:ロモソズマブ)2019年1月8日に承認されました!

基本情報

製品名 イベニティ皮下注105mgシリンジ
一般名 ロモソズマブ(遺伝子組換え)
製品名の由来 海外における製品名「Evenity」に準じた
製薬会社 製造販売:アムジェン(株)
発売:アステラス製薬(株)
提携:ユーシービージャパン(株)
効能・効果 骨折の危険性の高い骨粗鬆症
用法・用量 ロモソズマブ(遺伝子組換え)として210mgを1ヵ月に1回、12ヵ月皮下投与する。
収載時の薬価 イベニティ皮下注105mgシリンジ:24,720円(1日薬価:1,625円)

 

イベニティは初の「抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤」に分類されている薬剤です。

今回は骨粗鬆症とイベニティ(ロモソズマブ)の作用機序・エビデンスについてご紹介します。

 

骨の代謝(リモデリング)

骨には大きく以下の2つの役割があります。

  • 体の骨格維持
  • 電解質バランス(特にカルシウム)の維持

 

これらの役割を果たすために、骨は「リモデリング」と呼ばれる代謝を繰り返して、常に丈夫な骨が保たれています。

 

リモデリングに関わる細胞には、骨を壊す「破骨細胞」と骨を作る「骨芽細胞」が知られています。

破骨細胞が古くなった骨を壊し(“骨吸収”と呼びます)、壊された部分に骨芽細胞が新しい骨を作ります(“骨形成”と呼びます)。

 

このようなリモデリングがバランス良く行われることで、約2年で全身の骨が作り替えられと言われています。

 

骨粗鬆症とは

骨粗鬆症は、加齢やホルモンバランス等により、このリモデリングのバランスが崩れ、破骨細胞による骨吸収が過剰になって引き起こされます。

その原因の一つと言われているのが、骨細胞から分泌される糖タンパク質である「スクレロスチン」です。

 

スクレロスチンは加齢・閉経・糖尿病などによってその分泌量が増えると考えられており、主な働きとしては、

  1. 破骨細胞(骨吸収)の活性化
  2. 骨芽細胞(骨形成)の抑制

です。

スクレロスチンの働き・作用

 

即ち、スクレロスチンによって破骨細胞が活性化され、骨吸収が過剰に引き起こされることで、骨はどんどんと脆くなり、骨折しやすくなります。

これが骨粗鬆症です。

 

骨粗鬆症の治療

治療の中心は薬物療法ですが、並行して運動療法や食事療法も行われます。

 

主に使用されている薬剤の分類は以下の通りです。

【骨粗鬆症】PTH製剤一覧:オスタバロ・テリボン・フォルテオ

続きを見る

 

主に用いられるのは骨吸収抑制薬でしょうか。

今回ご紹介するイベニティは骨吸収抑制作用骨形成促進作用を併せ持つといった特徴があります!

 

イベニティ皮下注(ロモソズマブ)の作用機序・特徴:抗スクレロスチン抗体

イベニティはスクレロスチンを特異的に阻害するヒト抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤です。

 

スクレロスチンの作用が抑制されることで、

  1. 破骨細胞(骨吸収)の抑制
  2. 骨芽細胞(骨形成)の活性化

によって骨形成が促進され、リモデリングのバランスが保たれると考えられます。

イベニティ(ロモソズマブ)の作用機序

 

エビデンス紹介

根拠となった臨床試験は以下の2つがあります。共に骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者さんを対象にしています。

  1. 閉経後女性の骨粗鬆症を対象にした試験:FRAME試験1)
  2. 男性の骨粗鬆症を対象にした試験:BRIDGE試験2)

 

FRAME試験:閉経後女性の骨粗鬆症

本試験は閉経後の女性の骨粗鬆症患者さんを対象にイベニティとプラセボを比較した第Ⅲ相臨床試験です。1)

イベニティとプラセボの月1回投与を12か月間行い、その後は両群共にプラリア(一般名:デノスマブ)の半年投与を12か月間行います。

 

本試験の主要評価項目は「新規脊椎骨折累積発生率(12か月時点および24か月時点)」です。

試験群 イベニティ
→プラリア群
プラセボ
→プラリア群
12か月時点の
新規脊椎骨折累積発生率
0.5% 1.8%
risk ratio=0.27, p<0.001
24か月時点の
新規脊椎骨折累積発生率
0.6% 2.5%
risk ratio=0.25, p<0.001

 

このようにプラセボと比較してイベニティでは有意に12か月/24か月時点の新規脊椎骨折累積発生率を減少させることが示されています。

 

BRIDGE試験:男性の骨粗鬆症

本試験は男性の骨粗鬆症患者さんを対象にイベニティとプラセボを比較した第Ⅲ相臨床試験です。2)

イベニティとプラセボの月1回投与を12か月間行います。

 

本試験の主要評価項目は「12か月時点の腰椎の骨密度の変化量」です。

試験群 イベニティ プラセボ
12か月時点の
腰椎の骨密度の変化量
12.1% 1.2%
p<0.001
12か月時点の
全股関節の骨密度の変化量
2.5% -0.5%
p<0.001

 

木元 貴祥
男性においてもイベニティ投与によって骨密度が増加することが示されています。

 

副作用:重篤心血管疾患

主な副作用として、関節痛、注射部位疼痛、注射部位紅斑、鼻咽頭炎が報告されていますが、いずれも1~2%程の発現率でした。

 

参考までに、米国ではARCH試験(イベニティ→アレンドロン酸 vs. アレンドロン酸 →アレンドロン酸)3)の結果を受けて、心血管系の有害事象が懸念されることから申請が一旦取り下げらています。その後、現在は再度申請して審査中とのことです。

 

ただ、国内で発売後3か月間で死亡例を含む重篤な心血管疾患が11例報告されたことを受け、以下の適正使用喚起が発出されました。(2019年7月24日)

  • 適用患者の選択においては、ベネフィットとリスクを慎重に判断してください。
  • 虚血性心疾患又は脳血管障害の徴候や症状を患者に説明し、徴候や症状が認められた場合には速やかに医療機関を受診するよう、患者に指導してください。
  • 患者にイベニティ皮下注 105mg シリンジの患者カードの携帯、提示を指導ください。

【出典】イベニティ適正使用のお願い 虚血性心疾患又は脳血管障害発現のリスクについて

 

これを受けて国内の添付文書の「警告欄」に以下が追加されています。4)

海外で実施されたアレンドロン酸ナトリウムを対照とした比較試験において、心血管系事象(虚血性心疾患又は脳血管障害)の発現割合がアレンドロン酸ナトリウム群に比較して本剤群で高い傾向が認められている。また、市販後において、本剤との関連性は明確ではないが、重篤な心血管系事象を発現し死亡に至った症例も報告されている。

本剤の投与にあたっては、骨折抑制のベネフィットと心血管系事象の発現リスクを十分に理解した上で、適用患者を選択すること。

また、本剤による治療中は、心血管系事象の発現がないか注意深く観察するとともに、徴候や症状が認められた場合には速やかに医療機関を受診するよう指導すること。

 

木元 貴祥
リスクとベネフィットのバランスが難しいですね・・・。少しでも危険性のある患者さん(心血管系既往歴等)には投与し辛い印象です。

 

用法・用量

通常、成人にはロモソズマブとして210mgを1か月に1回、12か月間皮下投与します。

 

薬価

収載時(2019年2月26日)の薬価は以下の通りです。

  • イベニティ皮下注105mgシリンジ:24,720円(1日薬価:1,625円)

 

なお、有用性加算が適用されています。

有用性加算の根拠

  • スクレロスチンに結合することによってWntシグナル伝達の抑制を阻害し、骨形成が促進され、骨吸収が抑制されるという新規の作用機序を有する。
  • 国内で使用される骨形成促進薬よりも半分程度の投与期間で骨折抑制効果が認められている。

 

算定方法等については以下の記事をご参照ください。

>>【新薬:薬価収載】13製品+再生医療等製品(2019年2月26日)

 

まとめ・あとがき

イベニティはこんな薬

  • スクレロスチンを特異的に阻害する抗体薬
  • 骨形成の促進と骨吸収の抑制作用によって骨粗鬆症に効果が期待できる
  • 月1回の皮下注投与
  • 虚血性心疾患、脳血管障害発現には要注意

 

骨粗鬆症治療薬としてよく使用されているビスホスホネート製剤(例:リクラストプラリア(一般名:デノスマブ)などとの使い分けについても今後検討が進めば興味深いと感じます。

 

以上、今回は骨粗鬆症とイベニティ(ロモソズマブ)の作用機序・エビデンスについてご紹介しました☆

 

引用文献・資料等

  1. FRAME試験:N Engl J Med. 2016 Oct 20;375(16):1532-1543.
  2. BRIDGE試験:J Clin Endocrinol Metab. 2018 Sep 1;103(9):3183-3193.
  3. ARCH試験:N Engl J Med. 2017 Oct 12;377(15):1417-1427.
  4. イベニティ皮下注 添付文書

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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