5.内分泌・骨・代謝系

イスツリサ(オシロドロスタット)の作用機序【クッシング症候群】

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2021年3月23日、「クッシング症候群」を対象疾患とするイスツリサ(オシロドロスタット)が承認されました!

基本情報

製品名 イスツリサ錠1mg/5mg
一般名 オシロドロスタットリン酸塩
製品名の由来 特になし
製造販売 レコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン
効能・効果 クッシング症候群
用法・用量 通常、成人にはオシロドロスタットとして1 回1 mg を1 日2 回経口投与から開始する。
なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、最高用量は1 回30 mgを1 日2 回までとする。
収載時の薬価 1mg:3,335.90円
5mg:13,249.00円

 

クッシング症候群は治療薬が少ないため、新たな選択肢として朗報ではないでしょうか。

 

今回はクッシング症候群(クッシング病)とイスツリサ(オシロドロスタット)の作用機序について解説していきます!

 

木元 貴祥
木元 貴祥
まずは生体内のコルチゾールのメカニズムについてです。

 

コルチゾール分泌のメカニズム

通常、我々の体内のホルモンバランスは様々な因子によって調整されています。

クッシング症候群やクッシング病で関与している「コルチゾール」は副腎で合成されるホルモンです。

 

コルチゾールの分泌は、脳下垂体で合成される「副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)」によって促進されています。

コルチゾール分泌のメカニズム:ACTH

 

即ち、脳下垂体のACTH⇒副腎(皮質)⇒コルチゾールの分泌、といった流れで分泌量が調整されているということですね。

 

具体的な生合成経路ですが、コレステロールを基にして、こちらの図のようなプロセスで合成されていきます。

 

コルチゾールは最終的にはCYP11B1と呼ばれる酵素によって11-デオキシコルチゾールから変換されますね。

コルチゾールの生合成経路:コレステロール→プレグネノロン→11-デオキシコルチゾール

 

 

また、別経路では11-デオキシコルチコステロンからCYP11B2によってアルドステロンも合成されています。

アルドステロンは以下の記事でも解説していますが、高血圧の原因となる物質です。

ミネブロ(エサキセレノン)の作用機序・特徴:セララとの違い【高血圧】

続きを見る

 

クッシング症候群とクッシング病の違い

さて、ここは非常にややこしいのですが・・・・

クッシング症候群クッシング病の違いについて簡単に解説していきます。

 

何らかの原因でコルチゾールが過剰になった状態のことを「クッシング症候群」と呼んでいます。そのうち、ACTHの過剰分泌によってコルチゾールが過剰になっているものが「クッシング病」です。1)

  • クッシング症候群:コルチゾール過剰な状態の総称
    • クッシング病(40%):ACTH過剰によるコルチゾールの過剰分泌
    • 副腎性クッシング症候群(50%):副腎の異常でコルチゾールが過剰分泌
    • 異所性ACTH症候群(10%):下垂体以外からACTHが過剰分泌

 

木元 貴祥
木元 貴祥
クッシング症候群の中にクッシング病が含まれているイメージですね!

 

クッシング病についてはそのほとんどが脳下垂体の良性腫瘍によりACTHが過剰分泌されています。詳しくは以下の記事で解説していますので是非ご覧ください。

シグニフォー(パアシレオチド)の作用機序【クッシング病】

続きを見る

 

一方、クッシング症候群はクッシング病の他、副腎腫瘍によって直接コルチゾールが過剰分泌されていることもあります(副腎性)。

 

症状としては、コルチゾールの過剰分泌による

  • 満月様顔貌(ムーンフェイス):むくんだ赤ら顔
  • 肥満
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 骨粗鬆症
  • うつ病

などがよく見られます。

 

治療

クッシング病の場合、ほとんどが脳下垂体の良性腫瘍が原因のため、基本は手術によって取り除く治療が行われます。

また、クッシング症候群では副腎自体の腫瘍があることもありますので、同じく手術によって取り除くのが基本です。

 

しかし、画像診断等で発見しずらかったり、脳の手術のため、手技が困難であったり、と手術ができないことも少なくありません。

 

今回ご紹介するイスツリサは、手術で効果不十分または手術が困難な場合に使用できる薬剤です!

 

イスツリサ(オシロドロスタット)の作用機序

イスツリサはコルチゾールの合成に関与しているCYP11B1を阻害する薬剤です!

 

CYP11B1が阻害されることで11-デオキシコルチゾールからコルチゾールへの変換が阻害され、コルチゾール量が減少するといった作用機序ですね。

イスツリサ(オシロドロスタット)の作用機序:CYP11B1とCYP11B2阻害

 

また、メイン作用ではありませんが、アルドステロン経路に関与しているCYP11B2阻害作用も有することから、アルドステロンの合成抑制作用も期待されています。

 

エビデンス紹介:LINC 3試験

根拠となった臨床試験を一つご紹介します。2)

本試験は持続性または再発性のクッシング病患者さんを対象に、プラセボとイスツリサを比較する第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は「34週時点の正常コルチゾール値達成割合*」とされ、結果は以下の通りでした。

プラセボ群 イスツリサ群
34週時点の
正常コルチゾール値達成割合
29% 86%
オッズ比13.7 [95%CI:3.7-53.4]
p<0.0001

*試験は4つの期間から構成されており、第3期間が無作為化期間とされています。第3期間開始時点(26週時点)で無作為にリスツリサ群またはプラセボ群に選ばれた患者のうち、8週間の無作為化離脱期間終了時(34週目=第3期間終了時)に平均尿中遊離コルチゾール値が正常値上限を超えず、かつこの期間中に投与を増量しなかった患者の割合

 

プラセボと比較して有意に正常コルチゾール値が達成できていますね!

 

また、日本においてはクッシング病以外のクッシング症候群患者さんを対象にした第Ⅱ相試験も行われていた、結果は良好とのことでした。3)

 

副作用

5~30%未満に認められる副作用として、低カリウム血症、食欲減退、浮動性めまい、頭痛、低血圧、悪心、嘔吐、下痢、男性型多毛症、ざ瘡、血中コルチコトロピン増加、血中テストステロン増加、浮腫、けん怠感などがあります。

 

重大な副作用としては、

  • 低コルチゾール血症(53.9%)
  • QT延長(3.6%)

が挙げられていますので特に注意が必要です。

 

用法・用量

通常、成人にはオシロドロスタットとして1回1mgを1日2回経口投与から開始します。

なお、患者さんの状態に応じて適宜増減可能ですが、最高用量は1回30mgを1日2回までとされています。

 

収載時の薬価

収載時(2021年5月19日)の薬価は以下の通りです。

  • イスツリサ錠1mg:3,335.90円
  • イスツリサ錠5mg:13,249.00円

 

算定根拠については以下をご覧ください。

【新薬:薬価収載】13製品+再生医療等製品(2021年5月19日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

イスツリサはこんな薬

  • クッシング症候群に対して使用する
  • CYP11B1を阻害することでコルチゾール値を低下させる

 

これまでクッシング症候群やクッシング病は治療選択肢が少なかったのですが、新たな治療選択肢の登場は朗報ですね!

 

以上、今回はクッシング症候群(クッシング病)とイスツリサ(オシロドロスタット)の作用機序・エビデンスについて解説しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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