5.内分泌・骨・代謝系

ゾルトファイ配合注(インスリンデグルデク/リラグルチド)の作用機序【糖尿病】

ゾルトファイ配合注とは、2019年6月18日に「インスリン療法が適応となる2型糖尿病」を効能・効果として承認された新薬で、国内初のインスリン製剤とGLP-1受容体作動薬(GLP-1アナログ製剤)の配合剤です!

ノボ ノルディスク ファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 ゾルトファイ配合注フレックスタッチ
一般名 ●インスリン デグルデク(遺伝子組換え)
●リラグルチド(遺伝子組換え)
製品名の由来 特になし
製造販売 ノボ ノルディスク ファーマ(株)
効能・効果 インスリン療法が適応となる2型糖尿病
用法・用量 記事中参照
収載時の薬価 5,293円

 

配合されているインスリン製剤GLP-1受容体作動薬(GLP-1アナログ製剤)は以下ですね!

  • トレシーバ注 フレックスタッチ(インスリン デグルデク):持続型インスリン製剤
  • ビクトーザ皮下注(リラグルチド):GLP-1受容体作動薬

 

木元 貴祥
2型糖尿病ではしばしばインスリン製剤とGLP-1受容体作動薬が併用されることがありますので、合剤にすることで簡便性が向上しそうです。

 

今回は体内の血糖調節システムと糖尿病、そしてゾルトファイの作用機序等について解説します。

 

生体内の血糖調節システム

通常、生体内では以下のいくつかのホルモン等によって血糖が一定に保たれています。

 

<血糖を上昇させる生体内物質>

  • グルカゴン
  • アドレナリン
  • ノルアドレナリン
  • コルチゾール
  • 成長ホルモン

<血糖を下降させる生体内物質>

  • インスリン

 

このように、血糖を上昇させる物質は数種類存在していますが、血糖を下降する物質はインスリンしかありません。

 

インスリンの作用とGLP-1

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。

分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きがあります。

インスリンの働き

 

木元 貴祥
この働きによって、血中のブドウ糖を下げる(血糖値の降下)作用を発揮します。

 

 

また、インスリンの分泌を促進させる物質の一つに「GLP-1」と呼ばれるホルモンがあります。

GLP-1は食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、以下のような働きを有します。

  • インスリン分泌促進(血糖依存的)
  • グルカゴン分泌抑制(血糖依存的)
  • 胃排泄遅延
  • 食欲抑制

血糖値が低い時にはインスリンの分泌を促進しないため、過剰に分泌されても低血糖になる恐れがありません

しかし、GLP-1は「DPP-4」と呼ばれるタンパク質によって半減期1~2分ほどの早さで速やかに分解され、効果はすぐ失われます。

GLP-1の働きとDPP-4

 

糖尿病とは

平成29年の厚労省調査(3年に1度)によると、糖尿病の総患者数は約328万人超であり、前回の調査から12万人以上増加しています。

厚生労働省平成29年(2017)患者調査の概況

 

糖尿病はその名の通り、血中ブドウ糖濃度が高い状態が慢性的に継続している病態です。

 

健康診断等で

  • 空腹時血糖値が126mg/dL以上
  • HbA1cが6.5%以上

の場合に疑われ、数回の検査を経て確定診断されます。

 

糖尿病にはその原因や病態によって

  • 1型糖尿病
  • 2型糖尿病

に分類されています。

 

日本人では約95%が「2型糖尿病」に分類されており、遺伝因子と食生活・運動不足・肥満等の生活習慣が原因で、以下の理由で引き起こされると考えられています。

  • インスリンの分泌低下:インスリン量が減っている
  • インスリンの抵抗性増大:インスリンの効きが悪くなっている

2型糖尿病の発症要因

主にはインスリンの抵抗性増大によると考えられています。(インスリン分泌低下は軽度~中等度と様々)

 

 

一方、1型糖尿病遺伝因子自己免疫等によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が欠損・破壊されている状態です。(インスリンの分泌低下

従って、治療の基本はインスリンの補充療法です。

 

木元 貴祥
1型・2型、いずれも遺伝因子が関与していますが、その関与の程度は1型糖尿病の方が強いと言われています。

 

2型糖尿病の治療

2型糖尿病治療は

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 薬物療法

を基本としますが、最も大切なのは食事療法運動療法です。1)

 

食事/運動療法を2~3カ月続けても血糖値が下がらない場合、薬物療法が開始されます。

 

2型糖尿病治療薬

2型糖尿病治療薬にはいくつかの種類があり、年齢や肥満の程度、合併症、肝・腎機能等によって使い分けられます。

まずは経口血糖降下薬の少量から開始されることが多いです。1)

 

経口血糖降下薬には以下の種類があり、糖尿病の原因(インスリン分泌低下、抵抗性増大)によって使い分けられます。

 

<インスリン分泌低下を改善>

  • スルホニル尿素(SU)薬:インスリン分泌促進
  • グリニド薬:より速やかなインスリン分泌促進
  • DPP-4阻害薬:GLP-1分解抑制によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制

 

<インスリン抵抗性を改善>

  • ビグアナイド薬:糖新生の抑制
  • チアゾリジン薬:インスリンの感受性を向上

 

加えて、ブドウ糖の吸収を抑制する「α-グルコシダーゼ阻害薬」や、ブドウ糖の排泄を促進する「SGLT2阻害薬」等も使用されます。

 

これら経口血糖降下薬を使用しても血糖値が下がらない場合、経口薬の増量や併用、そして注射剤(GLP-1受容体作動薬、インスリン製剤)の使用が検討されます。

 

また、最近では経口血糖降下薬でコントロール不十分な場合、BOTBPTと呼ばれれる治療が行われることもあります。

  • 持続型インスリン製剤+経口血糖降下薬:BOT(Basal Supported Oral Therapy)
  • 持続型インスリン製剤+GLP-1受容体作動薬:BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 therapy)2)

 

まずはBOTを行い、次いでBPTを行うといった流れですね。

 

木元 貴祥
いずれもインスリン製剤は持続型の1日1回投与が主流ですので、簡便で外来治療でも導入しやすいと言われています。

 

今回ご紹介するゾルトファイは持続型インスリン製剤+GLP-1受容体作動薬の配合剤のため、BPTに該当しますね。

 

ゾルトファイ(インスリンデグルデク+リラグルチド)の作用機序

ゾルトファイは以下のインスリン製剤GLP-1受容体作動薬(GLP-1アナログ製剤)を配合した初の薬剤です。

  • トレシーバ注 フレックスタッチ(インスリン デグルデク):持続型インスリン製剤
  • ビクトーザ皮下注(リラグルチド):GLP-1受容体作動薬

 

インスリンデグルデクは持続的なインスリン作用を有し、1日1回の投与で特にピークもなく持続的に緩やかな血糖降下作用を示します。

 

また、リラグルチドはGLP-1のアミノ酸配列を改変させてDPP-4の分解を受けにくくしたGLP-1受容体作動薬に分類されています。

別名、「GLP-1アナログ製剤」とも呼ばれています(アナログとは“類似の”という意味です)。

 

従って、投与されると生体内で長時間作用するのが特徴です。

GLP-1は血糖値が低い時にはインスリンの分泌を促進しないため、生体内に長時間滞留しても低血糖になる恐れがありません。

 

このようにゾルトファイは持続的インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の作用を併せ持ち、BPTとして血糖降下作用を示す薬剤ですね。

ゾルトファイ(インスリンデグルデク+リラグルチド)の作用機序:BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 therapy)

 

ちなみに、GLP-1受容体作動薬は胃排泄遅延と食欲抑制によって、体重減少効果も示唆されています。

 

余談:GLP-1の発見

アメリカドクトカゲと呼ばれるトカゲが、小動物を大量に捕食しても血糖値が全然上昇しないことがきっかけで、体内を調べたところ、ヒトのGLP-1によく似たGLP-1アナログが発見されたようです。

 

エビデンス紹介:DUALⅠ試験

根拠となった臨床試験はいくつかありますが、代表的なDUALⅠ試験をご紹介します。3)

本試験は成人の2型糖尿病患者さん(メトホルミン±ピオグリタゾンによる既治療歴あり)を対象に、トレシーバとビクトーザとゾルトファイを比較する海外の第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は「26週時点のHbA1cのベースラインからの平均変化量」とされ、トレシーバに対するゾルトファイの非劣性ビクトーザに対するゾルトファイの優越性を検証しました。

試験群 トレシーバ ゾルトファイ ビクトーザ
26週時点のHbA1cの
ベースラインからの平均変化量
-1.4% -1.9% -1.3%
差:-0.47%, 95% CI -0.58 to -0.36
非劣性が証明(p<0.0001)
-
- 差:-0.64%, 95% CI -0.75 to -0.53
優越性が証明(p<0.0001)

 

木元 貴祥
ゾルトファイはトレシーバに対して非劣性、ビクトーザに対して優越性が証明されていますね。

 

副作用

重大な副作用として

  • 低血糖(頻度不明)
  • アナフィラキシーショック(頻度不明)
  • 膵炎(頻度不明)
  • 腸閉塞(頻度不明)

が挙げられていますので注意が必要です。これはGLP-1アナログ製剤やインスリン製剤と同じですね。

 

用法・用量、在宅自己注射

通常、成人では、初期は1日1回10ドーズ(インスリンデグルデク/リラグルチドとして10単位/0.36mg)を皮下注射します。

投与量は患者さんの状態に応じて適宜増減しますが、1日50ドーズを超えないこととされています。

なお、注射時刻は原則として毎日一定とされています。

 

ちなみにインスリン デグルデク 1単位あたりにリラグルチド0.036mgが固定比率で配合されていて、インスリン デグルデク 1~50単位/リラグルチド0.036~1.8mgの範囲で患者さんの状態に応じた用量調節が可能です!

 

また、2019年8月28日の中医協総会にて在宅自己注射が了承されていますので、新発売から自己注射可能ですね。

 

収載時の薬価

収載時(2019年9月4日)の薬価は以下の通りです。

  • ゾルトファイ配合注フレックスタッチ:5,293円(1日薬価:882円)

 

薬価算定の根拠は以下の記事をご参考ください。

【新薬:薬価収載】12製品+再生医療等製品(2019年9月4日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

ゾルトファイはこんな薬

  • 持続型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬を配合した初の薬剤
  • BPT治療として期待
  • 1日1回の投与で治療が可能

 

実地臨床でもしばしば持続型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の併用が行われるため、ゾルトファイによって1剤にまとめられることは患者さんにとっても簡便化に繋がるのではないでしょうか。

 

以上、今回は糖尿病とゾルトファイ配合注フレックスタッチの作用機序、エビデンス等について解説しました!

 

2020年には2製品目のソリクア配合注(インスリングラルギン/リラグルチド)も登場しましたね。

ソリクア配合注(インスリングラルギン/リキシセナチド)の作用機序【糖尿病】

続きを見る

 

糖尿病治療薬関連の以下のまとめ記事もありますので是非ご覧くださいませ☆

 

引用文献・資料等

  1. 日本糖尿病学会|糖尿病治療ガイド
  2. Pharm Med 2014; 32: 101-11
  3. DUALⅠ試験:Lancet Diabetes Endocrinol. 2014 Nov;2(11):885-93.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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