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2024年12月27日、「肥満症」を対象疾患とするゼップバウンド皮下注(チルゼパチド)が承認されました!
日本イーライリリー|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ゼップバウンド皮下注 2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス |
一般名 | チルゼパチド(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | 特になし |
製薬会社 | 製造販売:日本イーライリリー(株) 販売:田辺三菱製薬(株) |
効能・効果 | 肥満症 ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、 食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。 ・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する ・BMIが35kg/m2以上 |
用法・用量 | 通常、成人には、チルゼパチドとして週1 回2.5mg から開始し、 4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射する。 なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回5mg まで減量、 又は4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mg まで増量できる。 |
収載時の薬価 | 2.5mg:3,067円 5mg:5,797円 7.5mg:7,721円 10mg:8,999円 12.5mg:10,180円 15mg:11,242円 |
発売日 | 2025年4月11日(HP) |
最適使用推進ガイドライン | 対象(PMDAリンク) |
肥満症の医療用医薬品としては、既にサノレックス(マジンドール)がありますが、「高度肥満症(肥満度が+70%以上又はBMIが35kg/m2以上)」にしか使用できませんでした。
ダイレクトOTCでは、2023年2月にアライ(一般名:オルリスタット)が承認されています(ニュースリリース)。
その後、2023年3月27日にはGLP-1受容体作動薬(GLP-1アナログ製剤)であるウゴービ(セマグルチド)が肥満症治療薬として登場しました。
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ウゴービ(セマグルチド)の作用機序:サノレックスとの違い【肥満症】
続きを見る
今回ご紹介するゼップバウンドは、既に糖尿病治療薬として使用されているマンジャロ皮下注(チルゼパチド)の有効成分と同じです。

今回は肥満症とゼップバウンド(チルゼパチド)の作用機序について解説していきます。
肥満症
まずは「肥満」と「肥満症」の定義についてです。
BMI(体格指数=体重kg/身長m2)と呼ばれる数値が25kg/m2以上の場合、「肥満」に分類されます。1-2)
肥満の中でも、肥満による11種の健康障害(合併症)が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に初めて「肥満症」と診断されます。
【出典】日本肥満学会|肥満と肥満症
また、BMIが35kg/m2以上の場合、高度肥満症に分類されます。
治療
肥満症治療の基本は食事療法・運動療法による減量です。
通常の肥満症の場合は現体重の3%以上、高度肥満症の場合は現体重の5~10%を目標とした減量を行います。
減量目標が達成できない場合、食事療法を強化したり、薬物療法が検討されます。
【出典】日本肥満学会|肥満と肥満症
国内で使用可能な薬物療法としては、サノレックス(マジンドール)がありますが、「高度肥満症(肥満度が+70%以上又はBMIが35kg/m2以上)」にしか使用できませんでした。
2023年に登場したGLP-1受容体作動薬のウゴービは、以下の場合の肥満症に使用できます。ゼップバウンドも同じです!
高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。
- BMIが27kg/m2以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
- BMIが35kg/m2以上
ウゴービは既にガイドライン2)において、推奨グレード表記はないものの、「糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬のなかに、体重減少作用をもつものがある」と書かれています(エビデンスレベルⅠ)。

ここからは、ゼップバウンドの関連するGLP-1やGLP-1について、体内のインスリン作用と共に解説していきます。
インスリンの作用とGLP-1/GLP-1
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。
分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きがあります。

また、インスリンの分泌を促進させる物質の一つに「GIP」や「GLP-1」と呼ばれる生体内ホルモンがあります。
- GIP:グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド
- GLP-1:グルカゴン様ペプチド-1
いずれも食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、膵臓や全身の臓器に対して図のような働きを有します。
主な作用としては、膵臓におけるインスリンの分泌による血糖降下作用ですね。その他にも、GIPはインスリン感受性亢進、食欲減退などの作用が示唆されています。3)
そのため、糖尿病領域で使用されています。
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マンジャロ(チルゼパチド)の作用機序、GLP-1受容体作動薬との比較・違い【糖尿病】
続きを見る
GLP-1はその他にも、食欲減退・満腹感の亢進や胃内容物の排泄といった肥満症に関わる作用も有することが知られています。
しかしながら、GLP-1は「DPP-4」と呼ばれるタンパク質によって半減期1~2分ほどの早さで速やかに分解され、効果はすぐ失われます。
ゼップバウンド(チルゼパチド)の作用機序:GIP/GLP-1受容体作動
ゼップバウンドは、GIP/GLP-1受容体に対する作動薬で、特にGIPに対する作用が強いとされています。
また、DPP-4による分解を受けにくいため、長時間血中で作用すると考えられていますね。
GIP/GLP-1作用によって、血糖降下作用および、食欲減退や満腹感亢進による体重増加抑制作用が期待されています。
ただし、美容・痩身・ダイエット等を目的とした使用は適応外のため、日本糖尿病学会より注意喚起(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解)も発出されています。
エビデンス紹介:SURMOUNT-1試験
根拠となった臨床試験(SURMOUNT-1試験)をご紹介します。4)
本試験は、BMI30kg/m2以上もしくは27kg/m2以上で糖尿病以外の肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸、心血管疾患など)を有する患者さんを対象に、ゼップバウンド群とプラセボ群を比較する国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本人を含む)。
複合主要評価項目は「ベースラインからの体重変化率」と「体重5%以上の減量を達成した患者の割合」とされ、結果は以下の通りでした。
ゼップバウンド群 |
プラセボ群 |
|||
5mg | 10mg | 15mg | ||
ベースラインから72週までの 体重の変化率 |
-15.0% | -19.5% | -20.9% | -3.1% |
プラセボとの差:いずれもP<0.001 | ||||
ベースラインから72週までの 5%以上の体重減少の達成割合 |
85% | 89% | 91% | 35% |
プラセボとの差:いずれもP<0.001 |

副作用
5%以上に認められる副作用として、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退、注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹等)などが報告されています。
重大な副作用としては、
- 低血糖(頻度不明)
- 急性膵炎(0.1%未満)
- 胆嚢炎(頻度不明)、胆管炎(0.1%未満)、胆汁うっ滞性黄疸(頻度不明)
- アナフィラキシー、血管性浮腫(いずれも頻度不明)
が挙げられています。

用法・用量、自己注射
通常、成人には、チルゼパチドとして週1 回2.5mg から開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射します。
なお、患者の状態に応じて適宜増減しますが、週1回5mgまで減量、又は4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mg まで増量できます。

自己注射は現時点では不明です。
最適使用推進ガイドラインの要件
ゼップバウンドは最適使用推進ガイドラインの対象のため、施設・医師・患者要件が定められています。
最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(遺伝子組換え)2025年(令和7年)3月18日
なお、本ガイドラインは、
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
- 一般社団法人日本内分泌学会
- 一般社団法人日本肥満学会
- 日本肥満症治療学会
- 一般社団法人日本糖尿病学会
- 一般社団法人日本循環器学会
- 一般社団法人日本内科学会
の協力のもと作成されました。

施設要件
施設要件は以下の通りです。
- 内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科又は糖尿病内科を標榜している保険医療機関であること。
- 高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病並びに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療(参考:高血圧治療ガイドライン、動脈硬化性疾患予防ガイドライン又は糖尿病診療ガイドライン及び肥満症診療ガイドライン、肥満症の総合的治療ガイド)を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)の指導のもとで本剤の処方が可能な医療機関であること。
- 施設内に、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医いずれかを有する常勤医師が1人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。また、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医のうち、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。
- 以下の<医師要件>に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。
- 常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。

医師要件
医師要件は以下の通りです。
- 医師免許取得後 2 年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症又は 2型糖尿病並びに肥満症の診療に 5 年以上の臨床経験を有していること。
又は
医師免許取得後、満 7 年以上の臨床経験を有し、そのうち 5 年以上は高血圧、脂質異常又は 2 型糖尿病並びに肥満症の臨床研修を行っていること。 - 高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する以下のいずれかの学会の専門医を有していること。
・ 日本内分泌学会日
・ 日本糖尿病学会
・ 本循環器学会
なお、日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい
基本は、上記学会の専門医を常勤で所属している施設に限られるというわけですね。さらに、常勤管理栄養士も必要です。
患者要件
患者要件については、効能・効果を満たすことはもちろんのこと、以下の満たすこととされています。
- 高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病並びに肥満症に関する最新の診療ガイドラインを参考に、適切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、本剤を投与する施設において当該計画に基づく治療を 6 ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であること。また、食事療法について、この間に 2 ヵ月に 1 回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。なお、食事療法・運動療法関しては、患者自身による記録を確認する等により必要な対応が実施できていることを確認し、必要な内容を管理記録等に記録すること。
- 本剤を投与する施設において合併している高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病に対して薬物療法を含む適切な治療が行われている患者であること。本剤で治療を始める前に高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病のいずれか 1 つ以上に対して適切に薬物療法が行われている患者であること。
管理栄養士による2か月に1回以上の栄養指導が行われ、かつ適切な運動療法などを6か月以上実施しても効果不十分な場合ににも使用可能というわけですね。

収載時の薬価
収載時(2025年3月19日)の薬価は以下の通りです。
- ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス:3,067円
- ゼップバウンド皮下注5mgアテオス:5,797円
- ゼップバウンド皮下注7.5mgアテオス:7,721円
- ゼップバウンド皮下注10mgアテオス:8,999円
- ゼップバウンド皮下注12.5mgアテオス:10,180円
- ゼップバウンド皮下注15mgアテオス:11,242円
算定根拠については、以下の記事で解説しています。
-
-
【新薬:薬価収載】11製品(2025年3月19日)
続きを見る
サノレックス(マジンドール)、ウゴービ(セマグルチド)との違い
現在、国内で肥満症に対して使用できる医療用医薬品は
- サノレックス錠(マジンドール)
- ウゴービ皮下注(セマグルチド)
の2製品です。
主な特徴についてまとめてみましたので、ご参考にしていただければ幸いです。

ゼップバウンドとウゴービの直接比較試験:SURMOUNT-5試験
糖尿病がなく、高血圧・脂質異常症・閉塞性睡眠時無呼吸・心血管疾患のうち少なくとも1つを併発している肥満または過体重の成人を対象に、ゼップバウンド(チルゼパチド)とウゴービ(セマグルチド)の有効性と安全性を検討した非盲検の無作為化第Ⅲb試験(SURMOUNT-5試験)の結果がニュースリリースされました。5)
現時点では論文未公表ですが、結果は以下の通りでした。
ゼップバウンド群 | ウゴービ群 | |
ベースラインから72週までの 体重の変化率 |
-20.2% | -13.7% |
ベースラインから72週までの 25%以上の体重減少の達成割合 |
31.6% | 16.1% |
ゼップバウンド群の方が体重減少の効果が高いという結果ですね!
参考までに、2型糖尿病患者さんを対象に13種の治療薬の死亡リスク軽減効果や腎・心保護作用を検討したネットワークメタアナリシス6)において、GLP-1受容体作動薬の体重減少効果は「チルゼパチド>セマグルチド>デュラグルチド」の順であることが報告されています。

まとめ・あとがき
ゼップバウンドはこんな薬
- 肥満症に使用する初のGIP/GLP-1受容体作動
- 食欲減退や満腹感亢進、胃内容物の排泄抑制による体重増加抑制作用が期待
- 2.5mgから開始し、週1回の皮下注射
ゼップバウンドの有効成分であるチルゼパチドは、元々は糖尿病治療薬マンジャロとして登場しました。
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マンジャロ(チルゼパチド)の作用機序、GLP-1受容体作動薬との比較・違い【糖尿病】
続きを見る
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動は体重減少作用が示唆されていたことから、国内では美容・痩身・ダイエット等を目的とした適応外で使用されていることがしばしばありました。
そのため、日本糖尿病学会からも「GLP-1受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」が発出されています。

ゼップバウンドは美容クリニック等で美容・ダイエット目的の適応外で使用されないことを切に祈ります(マンジャロは既に適応外で使用されているとかいないとか…)。
肥満症の治療薬はこれまでサノレックス(マジンドール)しかなく、新たな治療選択肢が期待されていました。2022年にはウゴービが登場し、さらに今回のゼップバウンドが加わります!
なお、ゼップバウンドは「肥満を伴う心不全(HFpEF)患者」に対して、心不全イベントリスクの有意な低下7)を示すことが報告されていますので、今後の適応拡大にも期待したいと思います。心不全やHFpEFについては以下の記事をご参照ください。
-
-
エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序【心不全】
続きを見る
以上、今回は肥満症とゼップバウンド(チルゼパチド)の作用機序やエビデンスについて解説しました!
引用文献・資料等
- 日本肥満学会|肥満と肥満症
- 肥満症診療ガイドライン2022
- Trends Endocrinol Metab. 2020 Jun;31(6):410-421.3)
- SURMOUNT-1試験:N Engl J Med 2022;387:205-216
- SURMOUNT-5試験:Lilly's Zepbound® (tirzepatide) superior to Wegovy® (semaglutide) in head-to-head trial showing an average weight loss of 20.2% vs. 13.7%
- BMJ. 2023 Apr 6:381:e074068.
- SUMMIT試験:N Engl J Med 2025;392:427-437
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