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2024年6月24日、「インスリン療法が適応となる糖尿病」を対象疾患とするアウィクリ注フレックスタッチ(インスリン イコデク)が承認されました!
ノボ ノルディスクファーマ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/総量700単位 |
一般名 | インスリン イコデク(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | ノボ ノルディスクファーマ(株) |
効能・効果 | インスリン療法が適応となる糖尿病 |
用法・用量 | 通常、成人では、1週間に1回皮下注射する。 初期は通常1回30~140単位とし、患者の状態に応じて適宜増減する。 他のインスリン製剤を併用することがあるが、 他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、 通常1週間あたり30~560単位である。 ただし、必要により上記用量を超えて使用することがある。 |
収載時の薬価 | |
発売日 |
アウィクリは、国内初となる週1回皮下投与の基礎インスリン製剤です!!
既存の基礎インスリン製剤は1日1回または2回の皮下注射が必要でしたので、かなり画期的だと思います。
製品名の由来は、特になしとのことですが…、「A Weekly」?ですかね?(笑)
今回は体内の血糖調節システムと糖尿病、そしてアウィクリ注(インスリン イコデク)の作用機序等について解説します。
生体内の血糖調節システム
通常、生体内では以下のいくつかのホルモン等によって血糖が一定に保たれています。
<血糖を上昇させる生体内物質>
- グルカゴン
- アドレナリン
- ノルアドレナリン
- コルチゾール
- 成長ホルモン
<血糖を下降させる生体内物質>
- インスリン
このように、血糖を上昇させる物質は数種類存在していますが、血糖を下降する物質はインスリンしかありません。
インスリンの作用とGLP-1
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。
分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きがあります。
また、インスリンの分泌を促進させる物質の一つに「GLP-1」と呼ばれるホルモンがあります。
GLP-1は食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、以下のような働きを有します。
- インスリン分泌促進(血糖依存的)
- グルカゴン分泌抑制(血糖依存的)
- 胃排泄遅延
- 食欲抑制
血糖値が低い時にはインスリンの分泌を促進しないため、過剰に分泌されても低血糖になる恐れがありません。
しかし、GLP-1は「DPP-4」と呼ばれるタンパク質によって半減期1~2分ほどの早さで速やかに分解され、効果はすぐ失われます。
糖尿病とは
平成29年の厚労省調査(3年に1度)によると、糖尿病の総患者数は約328万人超であり、前回の調査から12万人以上増加しています。
糖尿病はその名の通り、血中ブドウ糖濃度が高い状態が慢性的に継続している病態です。
健康診断等で
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
の場合に疑われ、数回の検査を経て確定診断されます。
糖尿病にはその原因や病態によって
- 1型糖尿病
- 2型糖尿病
に分類されています。
日本人では約95%が「2型糖尿病」に分類されており、遺伝因子と食生活・運動不足・肥満等の生活習慣が原因で、以下の理由で引き起こされると考えられています。
- インスリンの分泌低下:インスリン量が減っている
- インスリンの抵抗性増大:インスリンの効きが悪くなっている
主にはインスリンの抵抗性増大によると考えられています。(インスリン分泌低下は軽度~中等度と様々)
一方、1型糖尿病は遺伝因子や自己免疫等によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が欠損・破壊されている状態です。(インスリンの分泌低下)
従って、治療の基本はインスリンの補充療法です。
2型糖尿病の治療
2型糖尿病治療は
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
を基本としますが、最も大切なのは食事療法と運動療法です。1)
食事/運動療法を2~3カ月続けても血糖値が下がらない場合、薬物療法が開始されます。
2型糖尿病治療薬
2型糖尿病治療薬にはいくつかの種類があり、年齢や肥満の程度、合併症、肝・腎機能等によって使い分けられます。
まずは、インスリンの適応かどうかが判断され、絶対的適応または相対的適応の場合、インスリン製剤による治療が開始されます。1-3)
【絶対的適応】
- 1型糖尿病
- インスリン依存状態
- 高血糖性の昏睡
- 重症感染症
- 全身麻酔を要する外科手術
- 食事療法だけでは良好な血糖コントロールが得られない妊娠糖尿病など
【相対的適応】
- インスリン非依存状態であっても著明な高血糖を示す場合や経口薬療法のみでは良好な血糖コントロールが得られない場合
- 糖毒性を積極的に解除する場合など
インスリン製剤は、その作用持続時間によって超速効型、速効型、中間型、持効型溶解インスリン製剤に分類されています。さらに、異なる2種類のインスリン製剤が混合された混合型、配合溶解インスリン製剤もあります。
最近では、持効型溶解インスリンとGLP-1 受容体作動薬の配合注射薬であるゾルトファイ配合注(インスリンデグルデク/リラグルチド)やソリクア配合注(インスリングラルギン/リキシセナチド)も登場しました。
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ゾルトファイ配合注(インスリンデグルデク/リラグルチド)の作用機序【糖尿病】
続きを見る
アウィクリの作用持続時間は約1週間のため、現在の分類からは外れていますが、恐らく「超・持効型溶解インスリン製剤」に分類されるでしょう(私見です)。
糖尿病診療ガイドライン2024にも、こんな記述がありましたので、アウィクリは新たな治療選択肢として非常に期待されているのではないでしょうか。1)
現在,半減期が約1週間の長時間持続性基礎インスリンアナログ「 インスリン イコデク」 の臨床試験が進んでいる.週1 回の投与による基礎インスリンの補充が可能となれば,インスリン療法の満足度やアドヒアランスが高まるだけでなく,インスリン療法に対する患者の抵抗感が軽減し,より早期からインスリン導入が進めやすくなるものと期待される.さらに自己管理が困難な患者( 特に1型糖尿病患者) の介助者の負担軽減にもつながる可能性がある.
【出典】糖尿病診療ガイドライン2024>6章インスリンによる治療
さて、インスリン製剤の適応とならない場合、少量の経口血糖降下薬から開始されますが、その使い分けについては、色々な考え方があります。1-3)
ビグアナイド薬(例:メトホルミン)単独で治療を開始3)する場合や、肥満(インスリン抵抗性)か非肥満(インスリン分泌能不足)かを判断の上、additional benefitを考慮して使い分ける2)場合などがあります。
慢性腎臓病や慢性心不全を合併している場合、それらにも適応を有するSGLT2阻害薬のフォシーガ(ダパグリフロジン)やジャディアンス(エンパグリフロジン)などがよい適応となるでしょう。
最近では、メトホルミンを改良した新規の経口薬であるツイミーグ(イメグリミン)も登場しました。1つでインスリン抵抗性改善とインスリン分泌促進作用を有している新薬です。
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ツイミーグ(イメグリミン)の作用機序・特徴【糖尿病】
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これら経口血糖降下薬を使用しても血糖値が下がらない場合、経口薬の増量や併用、そして注射剤(GLP-1受容体作動薬、インスリン製剤)の使用が段階的に検討されます。
アウィクリ(インスリン イコデク)の作用機序・特徴
アウィクリは、インスリンを改変してアルブミンとの結合能を高めた薬剤です。4)
投与後、速やかに血中アルブミンと結合し、徐々に放出されていきます。そのため、ヒトにおける半減期は約1週間(196時間)4)と超・長時間!!
エビデンス紹介:ONWARDS試験
根拠となった臨床試験は以下のONWARDS試験(いずれも第Ⅲ相試験)などがあります。
- ONWARDS 1試験5):インスリン治療歴のない2型糖尿病患者さんを対象に、インスリンを除く糖尿病治療薬の併用下でのアウィクリの週1回投与とランタス(インスリン グラルギン)の1日1回投与を比較(非劣性を検証)。
- ONWARDS 2試験6):基礎インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者さんを対象に、インスリンを除く糖尿病治療薬の併用/非併用下でのアウィクリの週1回投与とトレシーバ(インスリン デグルデク)の1日1回投与を比較(非劣性を検証)。
- ONWARDS 4試験7):基礎・追加インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者さんを対象に、インスリンを除く糖尿病治療薬の併用/非併用下でノボラピッド(インスリン アスパルト)を併用した場合のアウィクリの週1回投与とランタスの1日1回投与を比較(非劣性を検証)。
- ONWARDS 6試験8):成人1型糖尿病患者さんを対象に、ノボラピッドの併用下でのアウィクリの週1回投与とトレシーバの1日1回投与を比較(非劣性を検証)。
ONWARDS 1試験の主要評価項目は「ベースラインから52週までのHbA1cの変化量」とされ、ランタスに対するアウィクリの非劣性を検証しました。
試験群 | アウィクリ 週1回投与 |
ランタス 1日1回投与 |
ベー スラインから 52週までのHbA1cの変化量 |
−1.55% | −1.35% |
非劣性:P<0.001 優越性:P=0.02 |
その結果、非劣性だけでなく、ランタスに対するアウィクリの優越性も示されました!!有害事象の発現頻度も同程度だったと報告されています。
副作用:投与後2~4日の低血糖に注意
1~5%未満に認められる副作用として、糖尿病網膜症、体重増加などが報告されています。
重大な副作用として、
- 低血糖(頻度不明)
- アナフィラキシーショック(頻度不明)
が挙げられていますので、特に注意が必要です。
低血糖については、「効能又は効果に関連する注意」にも以下の記載があります。既存のインスリン製剤よりも低血糖の発現頻度が高い傾向にあるため、注意が必要ですね。
1型糖尿病患者を対象とした臨床試験において、連日投与のBasalインスリンと比較して本剤で低血糖の発現が多く、また、同一患者において複数回発現した場合も多かった。1型糖尿病患者においては、本剤の有効性及び安全性を十分に理解し、連日投与のBasalインスリン等を用いたインスリン治療を選択することも検討したうえで、本剤の適用を慎重に考慮すること。
また、2型糖尿病患者を対象とした臨床試験においても、1型糖尿病患者と比較すると低血糖が発現した患者の割合は低いものの、対照群との比較においては同様の傾向が認められていることを考慮したうえで、本剤の適用の可否を判断すること。
なお、低血糖の発現時期については、各投与後の「2~4日」に最も多く認められているとのことでした。
用法・用量、在宅自己注射
通常、成人では、1週間に1回皮下注射します。
初期は通常1回30~140単位とし、患者の状態に応じて適宜増減します。
他のインスリン製剤を併用することがあるが、他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1週間あたり30~560単位である。ただし、必要により上記用量を超えて使用することがある。
なお、在宅自己注射も可能です。
デバイスは「フレックスタッチ」ですので、トレシーバ(インスリン デグルデク)、ノボラピッド(インスリン アスパルト)、ライゾデグ配合注(インスリン デグルデク/インスリン アスパルト)、フィアスプ(インスリン アスパルト)と同じです。
収載時の薬価
現時点では薬価未収載です。
まとめ・あとがき
アウィクリはこんな薬
- 国内初の超・長時間作用型のインスリン製剤
- 血中アルブミンと結合することで、半減期が約1週間
- 週1回の皮下投与
- デバイスはフレックスタッチ
糖尿病では、インスリンの絶対的適応または相対的適応の場合、インスリン製剤による治療が基本です。
これまでは1日1回または2回の皮下注射が必要でしたが、アウィクリは週1回の投与で治療効果が得られるため、かなり利便性が向上します!!
以上、今回は糖尿病とアウィクリ注フレックスタッチの作用機序、エビデンス等について解説しました!
糖尿病治療薬関連の以下のまとめ記事もありますので是非ご覧くださいませ☆
あわせて読みたい
引用文献・資料等
- 日本糖尿病学会|糖尿病診療ガイドライン2024
- 日本糖尿病学会|2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
- 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会|糖尿病標準診療マニュアル
- J Med Chem. 2021 Jul 8;64(13):8942-8950.
- ONWARDS 1試験:N Engl J Med 2023;389:297-308
- ONWARDS 2試験:Lancet Diabetes Endocrinol. 2023 Jun;11(6):414-425.
- ONWARDS 4試験:Lancet. 2023 Jun 10;401(10392):1929-1940.
- ONWARDS 6試験:Lancet. 2023 Nov 4;402(10413):1636-1647.
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