5.内分泌・骨・代謝系 7.炎症・免疫・アレルギー

メトジェクト(メトトレキサート)の作用機序:リウマトレックスとの違い【関節リウマチ】

 

2022年9月26日、「関節リウマチ」を対象疾患とするメトジェクト皮下注シリンジ(メトトレキサート)が承認されました!

その後、2024年2月15日には自動注入器注射剤のペン製剤の剤形追加も承認されています。

エーザイ|ニュースリリース

基本情報

製品名 メトジェクト皮下注シリンジ/ペン 7.5mg/10mg/12.5mg/15mg
一般名 メトトレキサート
製品名の由来 Meto-(Methotrexate:有効成分の一般名)、-ject(Injection:注射)に由来
製薬会社 製造販売元:日本メダック(株)
販売元:エーザイ(株)
効能・効果 関節リウマチ
用法・用量 通常、成人にはメトトレキサートとして7.5mgを週に1回皮下注射する。
なお、患者の状態、忍容性等に応じて適宜増量できるが、15mgを超えないこと。
収載時の薬価 シリンジ7.5mg0.15mL1筒:1,797円
シリンジ10mg0.20mL1筒:2,189円
シリンジ12.5mg0.25mL1筒:2,551円
シリンジ15mg0.30mL1筒:2,890円
発売日 2022年11月16日新発売(HP

 

メトジェクトは関節リウマチの標準治療に位置付けられているメトトレキサート(MTX)の初の皮下注製剤です!

 

木元 貴祥
既存のMTXは経口剤のリウマトレックスカプセルしかありませんでしたが、用法・用量が煩雑で、しばしば過量投与による医療事故が発生していました。

 

メトジェクトは週1回の皮下注投与のため、過量投与のリスクが低く、さらにリウマトレックスと比較して副作用の軽減が期待されています!

 

今回は関節リウマチとメトジェクト(メトトレキサート)の作用機序・特徴、エビデンスについて解説していきます。

 

関節リウマチとは

一般に、骨や関節、筋肉などが全身的な炎症を伴って侵される病気を総称して「リウマチ性疾患」といいます。

 

このうち、関節に炎症が続いて、関節が徐々に破壊され、やがて機能障害を起こす疾患のことを「関節リウマチ」と呼んでいます。

 

関節リウマチの特徴的な症状は「関節の腫れ」で、最も発現しやすい部位は、手首や手足の指の関節です。

また、関節リウマチの症状は「対称性」といって、左右両側の関節に発現することが多いのが特徴です。

 

木元 貴祥
“関節”と聞くと、関節だけに発症しそうなイメージですが、全身に症状が現れることもあります。

 

全身症状としては、貧血症状、倦怠感(体がだるい)、微熱等があり、これが現れると症状が悪化していくと言われています。1)

 

関節リウマチの原因

関節リウマチの明確な発症原因は不明確ですが、

  • 遺伝的素因
  • 環境要因(ストレス、食生活、肥満等)

などによって、免疫機能が異常になることで発症すると考えられています。

 

免疫系が異常に活動する結果として、関節滑膜組織にリンパ球、マクロファージなどの白血球がでてきます。

このリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞が産生するサイトカイン(TNFα、IL-6など)と呼ばれる物質の作用により関節内に炎症反応が引き起こされると考えられています。

 

関節リウマチとIL-6、TNF

 

関節リウマチの治療

治療には通常、痛みを抑えるNSAIDsや炎症を抑えるステロイド抗リウマチ薬(DMARD:“ディーマード”と読みます)が使用されます。2)

近年では、経口JAK阻害薬などの分子標的型DMARD(tsDMARD)、抗TNFα抗体薬などの生物学的製剤(bDMARD)も登場しました。

DMARDの種類 具体的な薬剤
従来型DMARD(csDMARD) MTX、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、
タクロリムス、イグラチモド、
分子標的型DMARD(tsDMARD) JAK阻害薬
生物学的製剤(bDMARD) 抗TNFα抗体や抗IL-6受容体抗体などの生物学的製剤

 

関節リウマチの薬物治療は、進行度に応じてフェーズⅠ~Ⅲがあり、フェーズⅠでは禁忌等に該当しない場合、MTXが最も推奨されています(MTXは“アンカードラッグ”とも呼ばれます)。

MTXで効果不十分な場合、MTXの増量(最大16mg/週)を検討したり、他のcsDMARDとの併用も考慮します。

 

しかしながらMTXを増量すると、骨髄抑制や悪心、肝機能障害などの副作用のリスクが高まるため、なかなか増量できないといった問題点がありました。

さらに、MTXの経口剤であるリウマトレックスは、用法・用量が煩雑で、医療事故が絶えなかったことから厚労省から通知が何度も発出されています(2007年1月2010年8月2020年10月)。

リウマトレックス(経口メトトレキサート)の投与法は煩雑

MTX(経口剤)の投与例:抗リウマチ剤(メトトレキサート)の過剰投与に伴う骨髄抑制

 

今回ご紹介するメトジェクトは、週1回の皮下注投与製剤のため、服薬アドヒアランスの向上と共に、MTX過剰投与の回避も期待されています。

 

木元 貴祥
さらに、後述しますが、リウマトレックスと比較して副作用の軽減も期待されていますよ~♪

 

さて、フェーズⅠで効果不十分な場合、フェーズⅡではMTX併用・非併用において、bDMARD(MTX非併用では抗IL-6受容体抗体が推奨)とJAK阻害薬が同列で推奨されています。

フェーズⅢでは、フェーズⅡで使用しなかったbDMARDまたはJAK阻害薬に変更します。2)

 

関節リウマチに使用する生物学的製剤については以下の記事でまとめています。

【関節リウマチ】生物学的製剤の作用機序・副作用・特徴のまとめ

続きを見る

 

JAK阻害薬については以下のまとめ記事をご覧ください。

JAK阻害薬の一覧表(経口7製品)と作用機序のまとめ

続きを見る

 

メトジェクト(MTX)の作用機序

メトジェクトはMTX製剤のため、既存のリウマトレックスの作用機序と同じです。

関節リウマチは自己免疫疾患のため、各種免疫細胞が活性化している状態です。メトジェクトは、核酸合成過程に必要なジヒドロ葉酸還元酵素を阻害することで、免疫細胞の増殖を抑制すると考えられていますね。

メトジェクト(MTX)の作用機序

 

木元 貴祥
なお、正常細胞の核酸合成も抑制するため、代表的な副作用として肝機能障害、消化器症状(悪心・嘔吐)、口内炎があります。

 

そのため、高用量のMTXを投与する場合や、高齢者、腎機能低下例では副作用の軽減と治療継続を目的としたフォリアミン(葉酸製剤)の投与が推奨されています。

症状を伴う血球減少症のような重篤な副作用発現時には、ただちにMTXを中止し、活性型葉酸製剤のロイコボリン(ホリナート)を投与します。3)

 

エビデンス紹介:MC-MTX.17/RA試験

根拠となった臨床試験をご紹介します(MC-MTX.17/RA試験)。4)

本試験は、MTX未治療の関節リウマチ患者さんを対象に、リウマトレックス(8mg/週)とメトジェクト(7.5mg/週)を比較した国内第Ⅲ相試験です。

 

主要評価項目は「投与12週時におけるACR20%達成率*」とされ、結果は以下の通りでした。

リウマトレックス群 メトジェクト群
投与12週時における
ACR20%達成率
51.0% 59.6%
非劣性が証明
副作用(全体) 34.0% 25.0%
胃腸障害 22.0% 7.7%
悪心 12.0% 3.8%

*米国リウマチ学会の関節リウマチの診断基準で、20%以上改善した割合

 

木元 貴祥
リウマトレックスと同程度の有効性が示され、悪心などの胃腸障害の頻度も低いという結果でした!

 

用法・用量

通常、成人にはメトトレキサートとして7.5mgを週に1回皮下注射します。

なお、患者さんの状態、忍容性等に応じて適宜増量できますが、15mgを超えないこととされています。

 

ちなみに、既存のリウマトレックスから切り替える場合、対応する用量は以下の通りです。

1週間あたりの
リウマトレックスの投与量

メトジェクトの初回用量

6mg

7.5mg

8又は10mg

7.5又は10mg

12~16mg

10又は12.5mg

 

また、副作用軽減のために葉酸を投与する場合、皮下投与後24~48 時間に葉酸を5mg/週の用量で経口投与します。

 

在宅自己注射:補助具のメトラックを使用

メトジェクトのシリンジ製剤は在宅自己注射も可能ですが、針がむき出しなので最初はなかなか戸惑うかもしれません・・・。

メトジェクトの在宅自己注射の手順

エーザイ|メトジェクトで治療される患者さんへ(自己注射ガイドブック)

 

慣れない場合、補助具のメトラックを使用します。

メトラック

 

木元 貴祥
2024年には自動注入器のペン製剤も承認されましたので、後日更新します。

 

副作用

5%以上に認められる副作用として、白血球数減少、肝機能障害(ALT、AST、AL-Pの上昇等)、悪心、口内炎などが報告されていました。

 

重大な副作用として、

  • ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
  • 骨髄抑制(5%以上)
  • 感染症(0.1〜5%未満)
  • 結核(頻度不明)
  • 劇症肝炎、肝不全(いずれも頻度不明)
  • 急性腎障害、尿細管壊死、重症ネフロパチー(いずれも頻度不明)
  • 間質性肺炎、肺線維症、胸水(いずれも頻度不明)
  • 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(いずれも頻度不明)
  • 出血性腸炎、壊死性腸炎(いずれも頻度不明)
  • 膵炎(頻度不明)
  • 骨粗鬆症(頻度不明)
  • 脳症(白質脳症を含む)(頻度不明)
  • 進行性多巣性白質脳症(PML)(頻度不明)

等が挙げられています。

 

木元 貴祥
こちらはリウマトレックスと同じですね。

 

リウマトレックスとメトジェクトの違い・比較

リウマトレックスとメトジェクトの違いや比較について一覧表にまとめてみました。

リウマトレックスとメトジェクトの違い・比較

 

高齢者や副作用の発現リスクが高いと考えられる場合には、MTXは4~6mg/ 週から開始します。3)

この場合、リウマトレックスは最小2mgから開始できる一方で、メトジェクトは最小7.5mg(リウマトレックス6mgに相当)のため、リウマトレックスの方が適している言えるでしょう。

 

逆に、通常量のMTXで効果不十分な場合、最大16mg/週まで増量しますが、副作用の発現率が高まるため、なかなかリウマトレックスで16mgまで増量することは困難です。

この場合にはメトジェクトの方が適していると考えられますね。

 

まずはリウマトレックスで効果不十分で増量が必要な場合や、副作用で治療継続が困難な場合、メトジェクトがよい選択肢になるのではないでしょうか。

 

まとめ・あとがき

メトジェクトはこんな薬

  • 関節リウマチに使用するMTXで初の皮下注製剤
  • 週1回皮下注投与のため、服薬アドヒアランスの向上が期待(過量投与の回避)
  • リウマトレックスと比較して消化器毒性の軽減が期待されている
  • ペン製剤が承認された

 

海外でも経口MTX製剤による過量投与が問題となり、その解決策としてメトジェクトが開発されました。国内でも海外同様に使用できるようになりましたので、今後は過量投与が減っていくと期待されます。

 

木元 貴祥
近年、関節リウマチでは多数の生物学的製剤が登場し、治療成績が向上してきました。

 

最近では国内初のナノボディを利用した抗TNFα抗体薬のナノゾラ(オゾラリズマブ)も承認されています。

ナノゾラ(オゾラリズマブ)の作用機序・特徴【関節リウマチ】

続きを見る

 

今後の治療開発も期待したいと思います♪

 

以上、今回は国内初の皮下注MTX製剤であるメトジェクト皮下注の作用機序・特徴について解説しました。

 

引用文献・資料等

  1. 日本整形外科学会|関節リウマチ
  2. 日本リウマチ学会|関節リウマチ診療ガイドライン2020
  3. 関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2023年改訂版【簡易版】
  4. MC-MTX.17/RA試験:メトジェクト皮下注インタビューフォーム

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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