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2024年2月9日、ジャディアンス(エンパグリフロジン)の効能・効果に「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)」を追加することが承認されました!
日本ベーリンガーインゲルハイム|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ジャディアンス錠10mg/25mg |
一般名 | エンパグリフロジン |
製品名の由来 | Ja(ポジティブ,ドイツ語の”Yes”)と Radiance(輝き)から2 型糖尿病の患者さんに未来への ポジティブな輝きを与える薬剤という意味。 |
製薬会社 | 製造販売:日本ベーリンガーインゲルハイム(株) 販売提携:日本イーライリリー(株) |
効能・効果 | 〇2型糖尿病 〇慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。 〇慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く) |
用法・用量 | 1日1回朝食前又は朝食後に経口投与 |
ジャディアンスは糖尿病治療薬として、2014年12月に国内6成分7製品目のSGLT2阻害薬として承認されました。その後、2021年11月25日に慢性心不全の適応を取得しています。
類薬のフォシーガも慢性心不全と慢性腎臓病に適応を有していますね。使い分けが気になるところ。
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フォシーガ(ダパグリフロジン)の作用機序【糖尿病/心不全/CKD】
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今回は、糖尿病・慢性心不全・慢性腎臓病とジャディアンス(エンパグリフロジン)の作用機序についてご紹介します。
糖尿病とは
平成29年の厚労省調査(3年に1度)によると、糖尿病の総患者数は約328万人超であり、前回の調査から12万人以上増加しています。
糖尿病はその名の通り、血中ブドウ糖濃度が高い状態が慢性的に継続している病態です。
健康診断等で
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
の場合に疑われ、数回の検査を経て確定診断されます。
糖尿病にはその原因や病態によって
- 1型糖尿病
- 2型糖尿病
に分類されています。
日本人では約95%が「2型糖尿病」に分類されており、遺伝因子と食生活・運動不足・肥満等の生活習慣が原因で、以下の理由で引き起こされると考えられています。
- インスリンの分泌低下:インスリン量が減っている
- インスリンの抵抗性増大:インスリンの効きが悪くなっている
主にはインスリンの抵抗性増大によると考えられています。(インスリン分泌低下は軽度~中等度と様々)
一方、1型糖尿病は遺伝因子や自己免疫等によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が欠損・破壊されている状態です。(インスリンの分泌低下)
従って、治療の基本はインスリンの補充療法です。
糖尿病の治療:1型と2型
2型糖尿病治療は
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
を基本としますが、最も大切なのは食事療法と運動療法です。
食事/運動療法を2~3カ月続けても血糖値が下がらない場合、薬物療法が開始されます。
一方、1型糖尿病ではインスリンの補充療法が中心的です。
インスリン補充療法によって基本的にはコントロール可能ですが、
- 低血糖症のリスク
- コントロール不良な場合の治療法
- 体重増加
などが課題として懸念されています。
類薬のフォシーガは1型糖尿病に対しても使用可能です!
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フォシーガ(ダパグリフロジン)の作用機序【糖尿病/心不全/CKD】
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2型糖尿病の薬物療法
糖尿病治療薬にはいくつかの種類があり、年齢や肥満の程度、合併症、肝・腎機能等によって使い分けられます。
まずは経口血糖降下薬の少量から開始されることが多いです。
経口血糖降下薬には以下の種類があり、糖尿病の原因(インスリン分泌低下、抵抗性増大)によって使い分けられます。
<インスリン分泌低下を改善>
- スルホニル尿素(SU)薬:インスリン分泌促進
- グリニド薬:より速やかなインスリン分泌促進
- DPP-4阻害薬:インクレチン分解抑制によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制
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【糖尿病】DPP-4阻害薬の作用機序と一覧まとめ(単剤と配合剤)
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<インスリン抵抗性を改善>
- ビグアナイド薬:糖新生の抑制
- チアゾリジン薬:インスリンの感受性を向上
加えて、ブドウ糖の吸収を抑制する「α-グルコシダーゼ阻害薬」や、ブドウ糖の排泄を促進するジャディアンスなどの「SGLT2阻害薬」も使用されます。
心臓と血液循環
ご存知の通り、心臓は大きく4つの部位(右心房・右心室・左心房・左心室)に分かれていて、通常、成人の心臓は以下の図のような流れで血液が循環しています。
- 右心房に血液が流入(大静脈)
- 右心室から肺に血液を送る(肺動脈)
- 肺で酸素を受け取る
- 左心房に血液が流入(肺静脈)
- 左心室から全身に血液を送る(大動脈)
このように心臓は血液を肺や全身に送る際のポンプとしての役割を担っています。
心不全の症状と分類
心臓の器質的もしくは機能的な障害によって、心臓のポンプ機能が低下して十分な血液を送り出すことができなくなった状態を「心不全」と呼んでいます。
その結果、肺や全身の静脈に血が溜まり、うっ血による症状が主体となります。従って、心不全のことを「うっ血性心不全」と呼ぶこともあります。
用語解説:静脈に血が溜まることを「うっ血」と呼びます。
心不全は進行速度や緊急性に応じて以下に分類されますが、薬物治療が関係するには慢性心不全ですので、今回は慢性心不全を中心に解説します。
- 急性心不全:急激に進行し、治療に緊急性を要する
- 慢性心不全:無症状状態が長期間続き、徐々に進行する
このような心不全の原因のほとんどは心室(左心室and/or右心室)の異常です。
左心不全と症状
原因が左心室にあるものを左心不全と呼びます。
左心室から大動脈に血液を送りにくくなるため、大動脈血流量が低下し、
- 低血圧
- 冷汗
- 乏尿(尿量の低下)
- チアノーゼ
といった症状が現れます。
また、肺静脈からの血液が溜まってしまい、肺静脈うっ血を呈するため、
- 労作時の息切れ
- 呼吸困難
といった症状も現れます。
左心不全はそのまま放置しておくと、続いて右心不全が起こることもあると言われています(両心不全)。
右心不全と症状
原因が右心室にあるものを右心不全と呼びます。
右心室から肺動脈に血液を送りにくくなるため、肺動脈血流量が低下し、二酸化炭素と酸素の交換がうまくいかなくなります。
また、大静脈からの血液が溜まってしまい、大静脈うっ血を呈するため、
- 浮腫
- 腹水(腹部膨満感)
といった症状が現れます。
心不全の分類
多くの場合、左心不全(左心室機能障害)が関与していて、治療や評価も左心機能がどうかによって変わってきます。
従って、国内のガイドラインでは左室駆出率(LVEF)に応じた分類が行われています。1)
参考
- 左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)
⇒左心室の機能に関する指標。「(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積」で計算する。
分類 | LVEF |
LVEFの低下した心不全(HFrEF) | 40%未満 |
LVEFの保たれた心不全(HFpEF) | 50%以上 |
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF) | 40%以上 50%未満 |
略語解説
- HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction
- HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction
- HFmrEF:heart failure with midrange ejection fraction
多くの場合はHFrEF(LVEFの低下した心不全)とHFpEF(LVEFの保たれた心不全)ですね。
心不全の治療
心不全の治療1)は、
- HFrEF(LVEFの低下した心不全)
- HFpEF(LVEFの保たれた心不全)
で分かれていますが、基本は体液量を減らしたり、血圧を低下させたりすることで心臓への負荷を軽減させます。
HFrEFの場合、
が最も推奨されていて、単剤もしくは適宜併用した治療が行われます(標準治療)。
ジャディアンスはこれら標準治療に上乗せすることで、糖尿病合併の有無に関わらず心血管死や心不全の悪化を防ぐことが示されていますよ!類薬のフォシーガも同じですね。
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フォシーガ(ダパグリフロジン)の作用機序【糖尿病/心不全/CKD】
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参考までに、HFrEF患者さんでは洞調律での安静時心拍数が70拍/分を超えると死亡や入院のリスクが高まることが知られています。2)
そのため、国内・海外のガイドライン1-2)では、ACE阻害薬(またはARB)、MRAを行っても安静時心拍数が70拍/分を超えている場合、心拍数を低下するためにコララン(イバブラジン)が推奨されています。
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コララン(イバブラジン)の作用機序・特徴【心不全】
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心拍数が正常(70拍/分未満)の場合にはACE阻害薬(またはARB)から、ARNIとしてエンレスト(サクビトリルバルサルタン)への切り替えが推奨されていますね。
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エンレスト(サクビトリルバルサルタン)の作用機序【心不全】
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最近では、β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4つの薬剤は、早期に適切に導入することで、生命予後を伸ばし、心不全入院を減らすことが期待されています。そのため、今後の心不全治療の中心となる「素晴らしい4剤」という意味を込めて、「fantastic four」と言われていますね。
Rapid evidence-based sequencing of foundational drugs for heart failure and a reduced ejection fraction|Eur J Heart Fail. 2021 Jun;23(6):882-894.
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)は、腎障害が慢性的に持続する疾患の全体を意味するもので、以下の場合、CKDと確定診断されます。
- 尿異常(蛋白尿)、画像診断・血液所見・病理所見等で腎障害の存在が明らか
- GFRが60(mL/分/1.73㎡)未満
※GFR:「糸球体ろ過量」のことで、腎機能の指標です。
CKDのリスク因子としては、以下です。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症(高脂血症)
- 喫煙
- メタボリックシンドローム
また、CKDの初期にはほとんど無症状のため徐々に腎機能が低下していきます。
腎臓は老廃物の排泄や骨代謝、造血器機能調節といった様々な役割を担っているので、CKDによって腎機能低下が進行してしまうと、
といった様々な症状が現れます。
従って、早期からリスク因子である原疾患の治療、症状に対する対処療法と共に、生活習慣改善が重要です!
ジャディアンスは慢性腎臓病の標準治療と併用することで効果が期待されていますよ♪
ちなみに、CKDの症状の一つである腎性貧血に対しては
- エリスロポエチン製剤:ネスプ(ダルベポエチン)等
- HIF-PF阻害薬:エベレンゾ(ロキサデュスタット)等
が使用されます。
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エベレンゾ(ロキサデュスタット)の作用機序:類薬との比較・違い【腎性貧血】
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SGLT2阻害薬の作用機序
通常、血中のブドウ糖は尿中に排泄されません。
その理由として、腎臓の糸球体でろ過された原尿には、血漿と同じ濃度のブドウ糖が含まれていますが、近位尿細管で実に99%以上のブドウ糖が再吸収されます。
ようするに、一旦はブドウ糖は糸球体で原尿へ濾過されるももの、そのほとんどが再吸収されて体内(血中)に戻ってきてしまいます。
この原尿中のブドウ糖再吸収を行うトランスポーターは「SGLT2(Sodium-Glucose Transporter 2)」と呼ばれています。
SGLT2阻害薬はブドウ糖再吸収に関与するトランスポーターのSGLT2を阻害することで、ブドウ糖の再吸収を抑制する薬剤です。
つまり、SGLT2阻害剤は糖の再吸収を抑える(=糖の排泄を促進する)ことで血糖を低下させるといった作用機序を有しています。
このようにSGLT2阻害薬はインスリン作用を介さないため、低血糖や体重増加・肥満といった副作用が発現しにくいといわれています。
SGLT2阻害薬には適度な利尿作用もありますので、それによって体液量の低下・心保護作用が得られるのかもしれませんね。その他にも様々な作用が示唆3)されていますが、まだ詳しくは分かっていないようです。
エビデンス紹介①:HFrEFを対象にしたEMPEROR-Reduced試験
慢性心不全(HFrEF)の根拠となった臨床試験(EMPEROR-Reduced試験)をご紹介します。4)
本試験は糖尿病の合併有無を問わず、左室駆出率が低下した(LVEF40%以下)慢性心不全患者さんを対象に、標準治療への追加療法としてジャディアンス1日1回投与した際の影響を、プラセボとの比較で評価することを目的とした国際共同第Ⅲ相試験です。
主要評価項目(複合アウトカム)は「心血管死または心不全での初回入院」とされました。
試験群 | ジャディアンス群 | プラセボ群 |
主要評価項目 (複合アウトカム) |
19.4% | 24.7% |
HR=0.75(95%CI:0.65-0.86) p<0.001 |
エビデンス紹介②:HFpEFを対象にしたEMPEROR-Preserved試験
続いて、左室駆出率が保たれたHFpEFに対する臨床試験(EMPEROR-Preserved試験)5)の結果をご紹介します。
本試験はLVEFが40%を超える心不全患者さんを対象に、ジャディアンスとプラセボを標準療法に追加して比較検討した国際共同第Ⅲ相試験です。
主要評価項目(複合アウトカム)は「心血管死または心不全での初回入院」とされました。
試験群 | ジャディアンス群 | プラセボ群 |
主要評価項目 (複合アウトカム) |
13.8% | 17.1% |
HR=0.79(95%CI:0.69-0.90) P<0.001 |
HFpEFでもHFrEFと同様にジャディアンス群で有意な改善が認められています!
副作用
代表的な副作用には頻尿、口渇、便秘、体重減少などがあります。
重大な副作用としては、
- 低血糖(1.8%)
- 脱水(0.3%)
- ケトアシドーシス(頻度不明)
- 腎盂腎炎(0.1%未満)、外陰部及び会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)(0.1%未満)、敗血症(0.1%)
が挙げられていて、特に高齢者では脱水症状(口渇等)の認知が遅れて重症化する恐れもありますので注意が必要です!
用法・用量
<糖尿病の場合>
通常、成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与します。
なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら25mg1日1回に増量することが可能です。
<慢性心不全、慢性腎臓病の場合>
通常、成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与します。
まとめ・あとがき
ジャディアンスはこんな薬
- SGLT2を阻害することでブドウ糖の排泄を促進する
- インスリン作用を介さないため、低血糖や肥満のリスクが少ない
- 慢性心不全(HFpEF、HFrEF)に対しても使用可能となった
- 慢性腎臓病(CKD)に対しても期待されている
以上、今回は糖尿病・慢性心不全・慢性腎臓病とジャディアンス(エンパグリフロジン)の作用機序についてご紹介しました!
現在までに承認されているSGLT2阻害薬の一覧については、単剤/配合剤含めて以下の記事にまとめています。
-
【糖尿病】SGLT2阻害薬の作用機序・副作用と一覧まとめ(単剤と配合剤)
続きを見る
引用文献・資料等
- 日本循環器学会|2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- 2022年 AHA/ACC/HFSA心不全の改訂ガイドライン:Circulation. 2022 May 3;145(18):e895-e1032.
- Am J Med 2017; 130: S30-S39
- EMPEROR-Reduced試験:N Engl J Med 2020; 383:1413-1424
- EMPEROR-Preserved試験:N Engl J Med 2021;385:1451-1461
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