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2024年12月6日、厚労省の薬事審議会医薬品第二部会にて、「先天性血友病患者における出血傾向の抑制」を効能・効果とするヒムペブジ皮下注(マルスタシマブ)の承認可否が審議される予定です!
ファイザー|申請のニュースリリース
基本情報
製品名 | ヒムペブジ皮下注150mgペン |
一般名 | マルスタシマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | |
製造販売 | ファイザー(株) |
効能・効果 | 血液凝固第VIII因子または第IX因子に対するインヒビターを保有しない先天性血友病患者における出血傾向の抑制 |
用法・用量 | 週1回皮下注投与? |
収載時の薬価 | |
発売日 |
ヒムペブジは国内2製品目となるTFPIを選択的に阻害するモノクローナル抗体薬です!
既に同様の作用機序を有するアレモ皮下注(コンシズマブ)が血友病に対して使用されていますね。
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アレモ皮下注(コンシズマブ)の作用機序・特徴【血友病A/B】
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血友病には血友病Aと血友病Bがあり、いずれも血液凝固因子の補充が基本です。
ヒムペブジは血友病A/Bを問わずに出血傾向を抑制することができる新薬です(インヒビター非保有のみ)。
今回は止血のメカニズムと先天性血友病、そしてヒムペブジ皮下注(マルスタシマブ)の作用機序とエビデンスついてご紹介します。
止血のメカニズム
我々が怪我などをした際に出血すると、体内では血を止めようとする機構(止血機構)が働きます。
止血には、血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血があります。
出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。
これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいます。
次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。
二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。
二次血栓に関与するフィブリンは様々な「凝固因子」が血液凝固反応(カスケード)を引き起すことで生成されます。
二次止血時の血液凝固反応(カスケード)とは
血液凝固反応では、全部で14種類の凝固因子が活性化することで引き起こされます。
一般的に凝固因子はローマ数字(例:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)で表され、活性化した凝固因子はローマ数字の後ろに“a”を付けて(例:Ⅴa、Ⅶa、Ⅸa、Ⅹa)表されます。
体内の血液凝固反応は、反応の引き金となる因子の違いから「外因系」と「内因系」に分けられているものの、最終的には第Ⅹ因子を活性化(Ⅹa)し、トロンビン→フィブリンが産生されることで二次血栓を形成します。
外因系と内因系は共に第Ⅹ因子を活性化することができますが、その強さは内因系の方が約50倍強い1)と言われているため、外因系は補助的な役割です。
この理由として、外因系に存在するTFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor:組織因子経路インヒビター)の関与が知られています。
TFPIは第Ⅶa因子と第Ⅹa因子に結合することで、その活性化を阻害しているタンパク質です。
血友病とは
血友病は先天的に血液凝固因子が欠損している疾患です。
第Ⅷ因子が欠損している場合を「血友病A」、第Ⅸ因子が欠損している場合を「血友病B」と分類しています。
血友病は染色遺体の伴性劣性遺伝のため、男性の患者がほとんどを占めます。
国内での発症率は男児出生1万人に約1人で、現在では6,000名程の患者さんがいらっしゃると推測されています。
血友病の病態と症状
血友病では血液凝固因子が欠損していることから、二次止血における内因系の血液凝固反応(カスケード)がうまく働きません。
その結果、二次止血に重要な「フィブリン」が生成されないため、様々な出血の症状が現れます。
特徴的な出血症状は、関節内や筋肉内の出血(深部出血)です。その他、抜歯後に血が止まらなかったり、頭蓋内で出血することもあります。
血友病の治療
血友病の治療は、欠損している血液凝固因子を補充する治療が基本です。
血友病による出血を予防するため、上記因子の「定期補充療法」を行います。また、出血してしまった際には適宜、「オンデマンド補充療法」を行います。
参考オンデマンド(on-demand)とは、「必要に応じて」を意味します。
血液凝固因子製剤は在宅でも安全に静脈内投与ができることから、上記の定期補充療法を中心として、出血時には必要に応じてオンデマンド補充療法を行うことが一般的です。
最近では補充療法以外の治療法として、バイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)のヘムライブラ(エミシズマブ)が血友病Aの治療薬として使用されることが多くなってきました。
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ヒムペブジは、後述のインヒビターを保有していない血友病A・血友病Bに対して初回治療から使用可能です!
定期補充療法のデメリット(インヒビターの出現)
定期補充療法は、出血を予防するために常に体内に一定量の凝固因子を存在させておく必要があります。
従って、血中濃度を一定量維持するため、週に3回程投与する必要があります。最近では半減期を延長し、週に1回の投与で治療が可能な製剤もあります。
また、定期補充療法を繰り返していると、補充している凝固因子を「異物(非自己)」と認識し、凝固因子に対して抗体が産生されてしまうことがります。
このような抗体のことを「インヒビター」と呼び、血友病A患者さんの約30%、血友病B患者さんの約1~3%に認められます。
インヒビターが出現してしまうと、当然、補充した凝固因子が働くことができないため、止血能力が失われてしまいます。
インヒビターが出現してしまった場合の治療法には「インヒビター中和療法」や「バイパス止血療法」がありますが、選択肢は限られていました。
今回ご紹介するヒムペブジは、インヒビター保有の血友病には使用できません。今後の適応拡大が望まれますね。
ヒムペブジ(マルスタシマブ)の作用機序:抗TFPI抗体薬
血友病では内因系の血液凝固反応がほぼ停止してしまっている状態です。つまり、血友病Aでは第Ⅷa因子を産生することができず、血友病Bでは第Ⅸa因子を産生することができない状態になっています。
そこで、外因系の経路の登場です。外因系ではTFPIによってその活性化が抑制されていましたが、ヒムペブジはTFPIを選択的に阻害するモノクローナル抗体薬です。2)
TFPIの働きが抑制されることで、外因系の血液凝固反応が活性化し、第Ⅶa因子による第Ⅹa因子の産生が促進されます。その結果、フィブリンの産生も促進することから、二次止血が正常に働くことができるようになります。
作用機序的には、インヒビターを保有していたとしても効きそうですが、今後の開発が期待されますね。なお、類薬のアレモ皮下注(コンシズマブ)はインヒビターの有無に関わらず使用することができます。
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アレモ皮下注(コンシズマブ)の作用機序・特徴【血友病A/B】
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エビデンス紹介:BASIS試験
インヒビター非保有の血友病の根拠となった臨床試験(BASIS試験)をご紹介します。3)
本試験はインヒビターを保有していない12歳以上75歳未満の血友病A/Bの患者さんを対象とし、登録後6か月間の「観察期間」に定期補充療法またはオンデマンド補充療法を行い、その後、12か月間の「投与期間」にヒムペブジを週1回投与し、「観察期間」と「投与期間」の年間出血率を比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本人を含む)。
主要評価項目は「治療を要する年間出血率(ABR)」とされ、結果は以下の通りでした。
観察期間 (定期補充療法またはオンデマンド補充療法) |
ヒムペブジ投与期間 | |
定期補充療法における 治療を要する年間出血率(ABR) |
7.85回 | 5.08回 |
減少率=35.2% [5.6-55.6%]、 P=0.0376 |
||
オンデマンド補充療法における 治療を要する年間出血率(ABR) |
38.00回 | 3.18回 |
減少率=91.6% [88.1-94.1%]、 P<0.001 |
用法・用量、在宅自己注射
後日更新予定です。
臨床試験では週1回の固定用量での皮下注投与とされていました。
類薬のアレモ皮下注(コンシズマブ)は毎日投与かつ体重に応じた投与量のため、ヒムペブジの方が簡便化もしれません。
なお、ヒムペブジはプレフィルドのペン製剤のため、在宅自己注射も期待できると思いますね。
副作用
後日更新予定です。
収載時の薬価
現時点では未承認かつ薬価未収載です。
まとめ・あとがき
ヒムペブジはこんな薬
- 国内2製品目の抗TFPI抗体薬
- TFPIを阻害することで外因系を活性化し、二次止血を促進させる
- 週1回の固定用量で皮下注投与
- インヒビター非保有の血友病Aまたは血友病Bに使用可能
ヒムペブジは血液凝固反応のうち、内因系とは無関係な外因系のカスケードを促進させるため、インヒビター非保有の血友病A・血友病Bに対して出血傾向を抑制することができますね。
また、週1回の固定用量の皮下注投与というのもよいポイントではないでしょうか。
既存の定期補充療法は連日または週1回の静注ですし、類薬のアレモは皮下注ですが連日ですので…。
参考までに、国内においてはインヒビター保有/非保有の血友病A・血友病Bの患者さんを対象とした臨床試験(jRCT2080225164)が進行中のため、今後の適応拡大も期待できると思います!4)
近年、血友病領域では新薬の開発が活発化していますので、今後の治療開発にも期待しましょう!
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ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】
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以上、今回は止血のメカニズムと先天性血友病、そしてヒムペブジ皮下注(マルスタシマブ)の作用機序等についてご紹介しました。
引用文献・資料等
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