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2026年ASCO(米国臨床腫瘍学会年次総会)で大きな話題となった、膵臓がんの期待の新薬であるダラクソンラシブ(daraxonrasib)について解説しています。
現時点では未申請・未承認です。
基本情報
| 製品名 | |
| 一般名 | ダラクソンラシブ(開発コード:RMC-6236) |
| 製造販売元 | Revolution Medicines Japan(株) |
| 効能・効果 | がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な膵がん? |
| 用法・用量 | 300mgを1日1回経口投与? |
| 収載時の薬価 |
ダラクソンラシブは、遺伝子変異を有するRAS(KRASやNRASなど)の活性型(ON型)を選択的に阻害するRAS阻害薬に分類されています。
類薬のKRAS阻害薬であるルマケラス(ソトラシブ)は、KRAS G12C変異の不活性型(OFF型)のみにしか作用できませんでしたが、ダラクソンラシブは遺伝子変異の種類によらず、ON型を選択的に阻害することが可能です!
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ルマケラス(ソトラシブ)の作用機序【KRAS変異陽性の肺がん/大腸がん】
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二次治療以降に使用可能となる見込みですが、現時点で日本では申請すら行われていませんので、使用できるまでにはあと1~2年ほどかかるかもしれません。
今回は膵臓がんとダラクソンラシブの特徴・作用機序についてご紹介します。
膵臓の働きと膵臓がん
膵臓は胃の後ろにある細長い臓器で、主な役割としては以下の2つです。1)
- 食物の消化酵素の分泌(外分泌)
- インスリン等のホルモンの産生(内分泌)
膵臓がんは膵臓にできる悪性腫瘍(がん)のことで、極めて予後の悪い代表的ながんですね。
初期にはほとんど症状がないため、早期発見は困難とされています。
しかし進行すると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感、黄疸、腰背部痛、糖尿病といった症状が現れてきます。
膵臓がんの治療
発見時の進行具合(Stage)に応じて治療が行われますが、早期の場合は手術によってがんを取り除く治療が原則です。
手術の後には再発を抑えるためにTS-1やジェムザール(一般名:ゲムシタビン)が行われます。2)
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ティーエスワン(TS-1)と5-FUの作用機序と特徴【抗がん剤】
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しかし、発見時に他の臓器に転移のある場合(StageⅣ)や、遠隔転移は無いものの切除不能な場合(StageⅢ)は抗がん剤治療(化学療法)が原則です。2)
現在、膵臓がんの初回に使用できる化学療法(一次化学療法)の選択肢としては以下の通りです。2)
- ジェムザール+アブラキサン(ナノアルブミン化パクリタキセル)
- FOLFIRINOX療法(エルプラット+カンプト+5-FU+アイソボリン併用療法)
- NALIRIFOX療法(ガイドライン掲載時点では未承認)
- 全身状態や年齢などから上記治療が適さない場合は、ジェムザール単剤またはTS-1単剤
アブラキサンについては以下の記事で作用機序等を解説していますのでご確認くださいませ。
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アブラキサン(パクリタキセル)の作用機序と副作用【膵臓がん】
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FOLFIRINOX療法については以下をご覧ください。
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エルプラット(オキサリプラチン)の作用機序【各癌腫とレジメン】
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国内では、ジェムザール+アブラキサンとFOLFIRINOX療法を比較した臨床試験の結果(JCOG1611試験:J Clin Oncol. 2025 Nov;43(31):3345-3354. )に鑑み、ジェムザール+アブラキサンがよく使用されています。
また、2026年中には、一次治療のNALIRIFOX療法も使用可能となる見込みです(現在、申請中)。
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オニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)の作用機序【膵臓がん】
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一次治療に抵抗性を示した場合、その後の二次治療としては、上記のオニバイドを用いた治療法などが行われるものの、選択肢は非常に限られています。
膵臓がんにおけるRAS遺伝子変異割合は90%
がん細胞が増殖するメカニズムは様々な仕組みが存在していますが、がん細胞はしばしばEGFRと呼ばれるタンパク質を発現していることあります。
因子であるEGFが、がん細胞のEGFRに結合すると、その刺激が細胞内を伝達(シグナル伝達)し、核内に刺激が届けられます。
このシグナル伝達の中継点としてRAS(KRASやNRASなど)が存在することが知られており、RASに伝わったシグナルはいくつかのタンパク質を経由して核内まで届けられます。
核内まで刺激が伝達すると、増殖・活性化が促進され、がん細胞の増殖に繋がります。ただし、通常、因子であるEGFが存在しない場合、刺激が核に伝達しないため、がん細胞は増殖しません。
しかし、膵臓がんの約90%にはRAS遺伝子変異(KRAS G12D/V/R変異など)があることが知られています。3)
RAS遺伝子変異陽性の場合、因子であるEGFが存在しないにも関わらず、恒常的にシグナル伝達が核へと伝達されています。
つまり、RAS遺伝子に変異があると、常にがん細胞の増殖が活性化されるというわけです。

元々、RAS遺伝子に変異のある患者さんではがん細胞の増殖速度や転移が促進されており、更には薬剤が効きにくいことから予後不良とされていました。
RASを標的とした薬剤開発
RASを標的とした治療開発はこれまでことごとく失敗していました。
その理由として、変異したRASタンパク質は特徴的な構造・ポケットなどを有さないためです。つまり、取っ掛かりがないので、そこに入り込めるような低分子化合物の開発は困難で、多くの新薬開発が失敗してきています。

そんな中、ついにRASを阻害する薬剤として登場したのがダラクソンラシブです!!
KRASについては、先行してルマケラス(ソトラシブ)が登場し、非小細胞肺がんや大腸がん領域で使用されています。
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ルマケラス(ソトラシブ)の作用機序【KRAS変異陽性の肺がん/大腸がん】
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ダラクソンラシブ(daraxonrasib)の作用機序:シクロフィリンAを介したRAS阻害
上記のように、RASを選択的に阻害する低分子化合物の開発は困難だったため、別のアプローチによって開発されました。
そこで注目されたのが、タンパク質の三次元構造を整える役割を担うシャペロンタンパク質の「シクロフィリンA」です。
シクロフィリンA自体は自然に生体内に十分量が存在していますが、そのままの状態でRASに結合することはありません。
投与されたダラクソンラシブは、シクロフィリンAと複合体を形成することで、シクロフィリンAとの構造や相互作用を変化させ、RAS(ON型)選択的に結合しやすい状態へと導きます。4)

ダラクソンラシブ、シクロフィリンA、両者ともに単独ではRASに立ち向かうことはできませんが、協力して複合体を形成するとで、初めてRASを選択的に阻害することが可能になるといった作用機序ですね!
なお、RASには不活性型(OFF型)も一部存在していますが、不活性型には影響を与えないようです。
二次治療のエビデンス紹介:RASolute 302試験
二次治療以降の根拠となった臨床試験(RASolute 302試験)をご紹介します。3)
本試験は、既治療の転移性膵管腺がん患者さんを対象に、医師選択の化学療法群またはダラクソンラシブ群の有用性を比較検証した国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本も参加)。
主要評価項目は、RAS G12変異を有する集団における「全生存期間(OS)」と「無増悪生存期間(PFS)」とされ、結果は以下の通りでした。
| 試験群 | 医師選択の化学療法群 | ダラクソンラシブ群 |
| OS中央値 (RAS G12変異集団) |
6.6か月 | 13.2か月 |
| HR=0.4(95%CI:0.30-0.54) P<0.001 |
||
| OS中央値 (全集団) |
6.7か月 | 13.2か月 |
| HR=0.40(95%CI:0.30-0.53) P<0.001 |
||
| PFS中央値 (RAS G12変異集団) |
3.5か月 | 7.3か月 |
| HR=0.45(95%CI:0.34-0.59) P<0.001 |
||
| PFS中央値 (全集団) |
3.6か月 | 7.2か月 |
| HR=0.49(95%CI:0.38-0.64) P<0.001 |
||
ダラクソンラシブ群で、RAS変異集団および全集団でOSとPFSの有意な延長が認められていますね!
副作用
正式承認後に更新予定です。
臨床試験では、発疹(86.3%)、下痢(67.2%)、口内炎(54.8%)、悪心(52.3%)、嘔吐(42.3%)、疲労(33.6%)、貧血(29.9%)などが報告されていました。
用法・用量
正式承認後に更新予定です。
臨床試験では、300mgを1日1回経口投与とされていました。
収載時の薬価
現時点では未承認かつ薬価未収載です。
まとめ・あとがき
ダラクソンラシブはこんな薬
- シクロフィリンAを介した国内初のRAS(ON型)阻害薬
- 1日1回経口投与
- 膵臓がん二次治療で有効性が期待されている
膵臓がんは非常に予後が悪く、有効な薬剤もなかなか登場していませんでした。
そんな中、
- 一次治療のFOLFIRINOX療法
- 一次治療のGnP療法
- 術後補助療法のS-1療法
- 二次治療のオニバイド(イリノテカンリポソーム製剤)
- MSI-Highに対するキイトルーダ
- 一次治療のNALIRIFOX療法
といった薬剤が登場し、少しづつ治療成績の向上が認められていました。
現在、一次治療として、GnP療法との併用を検証する第Ⅲ相臨床試験(RASolute 303試験:NCT07491445)も実施されているようですので、今後の広がり・治療成績の改善に期待したいと思います!!
以上、今回は膵臓がんとダラクソンラシブ(daraxonrasib)の作用機序・特徴についてご紹介しました!
参考資料・文献等
- がん情報サービス|膵臓がん
- 日本膵臓学会|膵癌診療ガイドライン2025
- RASolute 302試験:N Engl J Med. 2026 May 31. doi: 10.1056/NEJMoa2605555. Online ahead of print.
- Science. 2023 Aug 17;381(6659):794–799.
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