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カービクティ(シルタカブタゲン オートルユーセル)の作用機序【多発性骨髄腫】

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2022年9月26日、「多発性骨髄腫」を対象疾患とする新規CAR-T細胞療法のカービクティ(シルタカブタゲン オートルユーセル)が承認されました!

ヤンセンファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 カービクティ点滴静注
一般名 シルタカブタゲン オートルユーセル(cilta-cel)
製造販売 ヤンセンファーマ(株)
効能・効果 再発または難治性の多発性骨髄腫。
ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。
・BCMA抗原を標的としたキメラ抗原受容体発現T細胞輸注療法の治療歴がない
・免疫調節薬、プロテアソーム阻害剤及び抗CD38モノクローナル抗体製剤を含む3つ以上の前治療歴を有し、
かつ直近の前治療歴に対して病勢進行が認められた又は治療後に再発した
収載時の薬価

 

カービクティは、キムリア・イエスカルタ・ブレヤンジ・アベクマに次いで5製品目の「CAR-Tカーティー細胞(キメラ抗原受容体T細胞)療法」に分類されており、患者さん自身の“生きたT細胞”によって治療効果を発揮するといった作用機序ですね!

キムリア(チサゲンレクルユーセル)の作用機序・特徴と副作用【急性リンパ性白血病】

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木元 貴祥
木元 貴祥
多発性骨髄腫では、アベクマに次ぐCAR-T細胞療法です。作用機序も適応症も同様ですね。

 

今回は多発性骨髄腫とカービクティの作用機序(CAR-T細胞療法)について解説していきます。

 

多発性骨髄腫について

通常、人の体内では、異物(ウイルス・細菌など)が侵入した際、B細胞から免疫グロブリン(抗体)が作られることで体を異物から守って感染症等を抑えてくれています。

 

多発性骨髄腫では、この抗体を産生するB細胞が異常増殖(腫瘍化)することで引き起こされる疾患で、血液腫瘍に分類されています。

がん化したB細胞(“骨髄腫細胞”と呼ばれます)は、健康な血液の産生を妨げたり、骨をもろくするなどのさまざまな障害を引き起こします。

 

その結果、症状として、

  • 骨痛
  • 腎機能障害
  • 貧血
  • 易感染性
  • 出血傾向

などがみられます。

 

またこの骨髄腫細胞の表面には、「BCMA」と呼ばれるシグナル伝達分子が過剰に発現していることも知られています。

BCMA:B Cell Maturation Antigen(B細胞成熟抗原)

BCMAとは、多発性骨髄腫の骨髄腫細胞が有している細胞表面抗原である。

 

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療は造血幹細胞移植が可能かどうか、によって選択肢が異なります。1)

  • 移植が可能:ボルテゾミブ+デキサメタゾン等を3~4回施行し、奏効すれば造血幹細胞移植
  • 移植が不能:Ld療法*やMPB療法*が標準治療。その他、MPT療法*等もある。

 

*参考

  • Ld療法:レナリドミド+デキサメタゾン
  • MPB療法:メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ
  • MPT療法:メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド

 

移植が不能な場合、上記の治療と併用して抗CD38抗体のダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)が使用可能ですね。

ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

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造血幹細胞移植やその後の維持療法については以下の記事をご覧ください。

血液
ニンラーロ(イキサゾミブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

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移植が成功したとしても一定数の患者さんは残念ながら再発してしまいます。また、移植が不能でMPB療法やMPT療法を行ったとしても不応(難治性)となる場合もあります。

その場合、プロテアソーム阻害薬(例:ボルテゾミブイキサゾミブ)もしくは免疫調整薬(例:レナリドミド、ポマリドミド)を単独または併用した治療法が行われますが、抗CD38抗体のサークリサ(イサツキシマブ)を併用することも可能です。

サークリサ(イサツキシマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

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今回ご紹介するカービクティはプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体を含むレジメンを少なくとも3種類以上受けたことのある多発性骨髄腫に対して治療効果が期待されています。

 

CAR-T細胞療法とは:カービクティの治療概念

カービクティは「CAR-T細胞療法」と呼ばれる新たな治療法です。

参考CAR(Chimeric Antigen Receptor):キメラ抗原受容体

 

木元 貴祥
木元 貴祥
作用機序の前にまずはCAR-T細胞療法の治療概念について説明します。

 

ヒトの体内には異物やがん細胞を排除する機構(免疫機構)が存在しており、その中心を担う細胞として「T細胞」が知られています。このT細胞を改変するのがCAR-T細胞療法です。

 

step
1
患者さんのT細胞を取り出す

CAR-T細胞法ではまず患者さん自身のT細胞を取り出します(下図の①)。

 

step
2
CARを導入する

その後、遺伝子改変技術を用いて骨髄腫細胞のBCMAを特異的に認識する受容体である「CAR」をT細胞に導入します(下図の②)。CARは骨髄腫細胞を発見するアンテナのような役割ですね♪

 

step
3
増殖させた後、投与する

CARが導入されたT細胞を「CAR-T細胞」と呼んでいますが、CAR-T細胞を培養・増殖(下図の③)させ、数を増やした後に患者さんの体内に投与します(下図の④)。

カービクティ(CAR-T療法)の概念・手順

 

なお、培養したCAR-T細胞を患者さんの体内に投与する前には「前処置」として免疫抑制薬等が投与されます。これはカービクティの効果を減弱させてしまう“制御性T細胞”の働きを事前に抑制させる目的です。

 

このように患者さんが本来持っているT細胞を改変して、骨髄腫細胞をより認識するように設計されたのがCAR-T細胞療法です。

従って、カービクティは「患者さん自身のCAR-T細胞」を主成分とする医薬品です!

 

木元 貴祥
木元 貴祥
カービクティは患者さん毎に作成されるため、AさんにはAさん専用のCAR-T細胞、BさんにはBさん専用のCAR-T細胞といった具合ですね。

 

カービクティ(シルタカブタゲン オートルユーセル)の作用機序と特徴

体内に投与されたCAR-T細胞は、BCMAを発現した骨髄腫細胞を特異的に認識して攻撃します。また同時にCAR-T細胞自身もBCMAによる刺激を受けて増殖していきます。

その結果、骨髄腫細胞の死滅・増殖抑制効果が得られると考えられています。

カービクティ(シルタカブタゲン オートルユーセル)の作用機序と特徴

 

また、投与されたCAR-T細胞が体内に定着すると、自分自身で増殖することができますので、永久的にBCMAを発現骨髄腫細胞を監視・攻撃することが可能です!

 

そのためカービクティは基本的には1回の投与で治療が完了します。

アベクマの特徴:1回の投与で生着する

 

このようにカービクティは患者さん自身の“生きたT細胞”によって治療効果を発揮する新規の治療法です!

 

エビデンス紹介:CARTITUDE-1試験

根拠となった臨床試験をご紹介します(CARTITUDE-1試験)。

本試験はプロテアソーム阻害薬・免疫調節薬・抗CD38抗体を含むレジメンを少なくとも3種類受けたことのある再発・難治性の多発性骨髄腫患者さんを対象にカービクティの有効性・安全性を検討した第Ⅰb/Ⅱ相臨床試験です。2)

 

本試験の主要評価項目は「奏効率」とされ、結果は97%(95%CI:91.2-99.4%)と達成していました。

 

副作用:サイトカイン放出症候群と対策

前述の臨床試験2)では、以下のような特徴的な副作用が報告されています。

  • サイトカイン放出症候群(悪心、倦怠感、頭痛、発熱、頻脈、など):95%
  • 神経毒性:21%

 

特にサイトカイン放出症候群は他のCAR-T細胞療法(キムリアなど)でも高頻度で認められていて、死に至る可能性もあるため特に注意が必要です!!

 

なお、サイトカイン放出症候群の対処薬として、他のCAR-T細胞療法と同様にアクテムラ点滴静注用(一般名:トシリズマブ(遺伝子組換え))が使用されます。

 

収載時の薬価

現時点では薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

カービクティはこんな薬

  • 多発性骨髄腫ではアベクマに次ぐCAR-T細胞療法
  • BCMAを特異的に認識して骨髄腫細胞を排除する
  • サイトカイン放出症候群には注意が必要

 

カービクティは国内5製品目となるCAR-T細胞療法です!新しい治療概念のため、今後にも期待したいですね。

ただ、CAR-T細胞療法は現時点では血液がん(造血器腫瘍)にしか効果がなく、固形がん(例:大腸がん、肺がん、胃がん、等)には効果が示されていません。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
何かしらの工夫が求められていますので、今後、固形がんへの広がりについても期待したいと思います☆

 

以上、今回は多発性骨髄腫とカービクティの作用機序・エビデンス等について解説しました!

 

引用文献・資料等

  1. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版
  2. CARTITUDE-1試験:Lancet. 2021 Jul 24;398(10297):314-324. 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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