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2021年8月25日、「全身性ALアミロイドーシス」を対象疾患とするダラキューロ配合皮下注(ダラツムマブ・ボルヒアルロニダーゼアルファ)の適応拡大が承認されました!
ヤンセンファーマ|ニュースリリース
ダラキューロは2021年3月23日に「多発性骨髄腫」を効能・効果として承認されています。
有効成分のダラツムマブは既に多発性骨髄腫を効能・効果とした製品名「ダラザレックス点滴静注」として承認・販売されていましたが、投与時間が最大6時間半程度かかることがネックでした。それを解消した新規配合剤がダラキューロですね!まとめて解説していきます。
基本情報
製品名 | ダラキューロ配合皮下注 | ダラザレックス点滴静注100mg/400mg |
一般名 | ダラツムマブ/ ボルヒアルロニダーゼアルファ |
ダラツムマブ |
効能・効果 | ●多発性骨髄腫 ●全身性ALアミロイドーシス |
多発性骨髄腫 |
用量 | 固定用量(体重によらず一定)* | 1回16mg/kg |
投与時間 | 3~5分 | 3~6時間半 |
製造販売 | ヤンセンファーマ(株) |
*1回15mL(ダラツムマブとして1,800mg及びボルヒアルロニダーゼ アルファとして30,000単位(2,000単位/mL))
元々、ダラザレックスは「再発又は難治性の多発性骨髄腫」を効能・効果として2017年9月27日に承認されています。
その後、以下の未治療(初回)を含んだ多発性骨髄腫に対して適応拡大が行われてきました。
- MPB療法との併用(初回):2019年8月22日承認
- Ld療法との併用(初回):2019年12月20日承認
- Cd療法(再発・難治):2020年11月27日承認
MPB療法(メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ)、Ld療法(レナリドミド+デキサメタゾン)、Cd療法:カイプロリス(カルフィルゾミブ)+デキサメタゾン
今回は多発性骨髄腫とダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序についてご紹介します。
多発性骨髄腫について
通常、人の体内では、異物(ウイルス・細菌など)が侵入した際、B細胞から免疫グロブリン(抗体)が作られることで体を異物から守って感染症等を抑えてくれています。
多発性骨髄腫では、この抗体を産生するB細胞が異常増殖(腫瘍化)することで引き起こされる疾患で、血液腫瘍に分類されています。
がん化したB細胞(“骨髄腫細胞”と呼ばれます)は、健康な血液の産生を妨げたり、骨をもろくするなどのさまざまな障害を引き起こします。
その結果、症状として、
- 骨痛
- 腎機能障害
- 貧血
- 易感染性
- 出血傾向
などがみられます。
またこの骨髄腫細胞の表面には、「CD38」と呼ばれるシグナル伝達分子が過剰に発現していることも知られています。
多発性骨髄腫の治療
多発性骨髄腫の治療は造血幹細胞移植が可能かどうか、によって選択肢が異なります。1)
- 移植が可能:ボルテゾミブ+デキサメタゾン等を3~4回施行し、奏効すれば造血幹細胞移植
- 移植が不能:Ld療法*やMPB療法*が標準治療。その他、MPT療法*等もある。
*参考
- Ld療法:レナリドミド+デキサメタゾン
- MPB療法:メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ
- MPT療法:メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド
ダラツムマブは移植が不能な場合の初回治療として、Ld療法やMPB療法と併用して使用することが可能です!
造血幹細胞移植やその後の維持療法については以下の記事をご覧ください。
-
ニンラーロ(イキサゾミブ)の作用機序【多発性骨髄腫】
続きを見る
移植が成功したとしても一定数の患者さんは残念ながら再発してしまいます。また、移植が不能でMPB療法やMPT療法を行ったとしても不応(難治性)となる場合もあります。
ダラツムマブは再発・難治性の多発性骨髄腫に対しても、Cd療法等と併用して使用することが可能です。
ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序
ダラツムマブは、骨髄腫細胞の表面にある「CD38」に特異的に結合する抗体製剤です。
ダラツムマブが目印となって免疫細胞が攻撃しやすくなったりすること(ADCC活性)によって、抗腫瘍効果を発揮すると考えられています。
その他にも以下の作用によって腫瘍細胞を排除すると考えられています。
- CDC(補体依存性細胞傷害)作用:補体系が活性化し、腫瘍細胞が障害される
- ADCP(抗体依存性細胞貪食)作用:貪食細胞が腫瘍細胞を貪食する
ダラザレックス点滴静注に新規成分である「ボルヒアルロニダーゼアルファ」を配合して改良したものがダラキューロ皮下注です。ボルヒアルロニダーゼアルファは皮下組織のヒアルロン酸を脱重合させる作用があり、それによって有効成分ダラツムマブの浸透と分散を促進すると考えられています。
エビデンス紹介①:再発・難治性(CASTOR試験、POLLUX試験、CANDOR試験)
再発・難治性の根拠となった臨床試験(CASTOR試験・POLLUX試験・CANDOR試験)をご紹介します。2-5)
いずれも再発・難治性の多発性骨髄腫患者さんを対象に、以下の治療にダラツムマブを併用した場合の有効性・安全性を検証した第Ⅲ相臨床試験です。
- CASTOR試験2-3):ボルテゾミブ+デキサメタゾン(Bd療法)
- POLLUX 試験4):レナリドミド+デキサメタゾ(Ld療法)
- CANDOR試験5):カイプロリス+デキサメタゾン(Cd療法)
いずれの臨床試験も主要評価項目は「無増悪生存期間」です。代表としてCASTOR試験とPOLLUX試験の結果をお示しします。
試験名 | CASTOR試験 | POLLUX 試験 | ||
試験群 | Bd療法 | ダラツムマブ+ Bd療法 |
Ld療法 | ダラツムマブ+ Ld療法 |
無増悪生存期間中央値 | 7.1か月 | 16.7か月 | 18.4か月 | 未到達 |
HR=0.31、p<0.0001 | HR=0.37、p<0.001 |
このように再発・難治性の多発性骨髄腫患者さんの治療(Bd療法 or Ld療法)にダラツムマブを併用することで増悪までの期間を有意に延長することが示されています。
エビデンス紹介②:初回治療(ALCYONE試験、MAIA試験)
初回治療の根拠となった臨床試験(ALCYONE試験)をご紹介します。6)
移植が不能な多発性骨髄腫患者さんを対象に、標準治療のMPB療法とダラツムマブ+MPB療法を比較した第Ⅲ相臨床試験です。
本試験の主要評価項目は「無増悪生存期間」です。
MPB療法 | ダラツムマブ+ MPB療法 |
|
無増悪生存期間中央値 | 18.1か月 | 未到達 |
HR=0.50、p<0.001 |
同様に初回治療としてLd療法と併用した臨床試験(MAIA試験)7)も報告され、ダラツムマブ併用群で有意な無増悪生存期間の延長が認められています。
副作用
主な副作用として、インフュージョンリアクション、好中球減少、上気道感染、疲労、咳嗽などが報告されています。
インフュージョンリアクションの発現率が高いことから、投与時には以下の対処が必要です。8)
本剤投与によるinfusion reactionを軽減させるために、本剤投与開始1~3時間前に副腎皮質ホルモン、解熱鎮痛剤及び抗ヒスタミン剤を投与すること。
また、遅発性のinfusion reactionを軽減させるために、必要に応じて本剤投与後に副腎皮質ホルモン等を投与すること。
なお、慢性閉塞性肺疾患若しくは気管支喘息のある患者又はそれらの既往歴のある患者には、本剤の投与後処置として気管支拡張薬及び吸入ステロイド薬の投与を考慮すること。
まとめ・あとがき
ダラツムマブはこんな薬
- 腫瘍細胞のCD38を特異的に認識する抗体製剤
- ADCC作用、DCD作用、ADCP作用によって抗腫瘍効果を発揮する
- 初回治療からMPBやLd療法と併用して使用可能
- ダラザレックスにボルヒアルロニダーゼアルファを配合した皮下注製剤がダラキューロ
- ダラキューロは固定用量かつ3~5分の投与が可能!(ダラザレックスは最大6時間半の投与時間)
最近、新規のプロテアソーム阻害剤のニンラーロ(一般名:イキサゾミブ)が承認・発売されていますが、ニンラーロとの併用は現時点ではできません。
-
ニンラーロ(イキサゾミブ)の作用機序【多発性骨髄腫】
続きを見る
また、ダラキューロの登場によって、
- 調製時間の削減(固定用量のため)
- 投与時間の大幅削減(3~5分の皮下注)
が可能となり、患者さんへの負担が益々軽減されました。
2020年には新規の抗CD38抗体薬も承認されていますね。
-
サークリサ(イサツキシマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】
続きを見る
治療選択肢が広がったため、患者さんにとっては朗報ではないかと考えます。今後は各薬剤の使い分け等が検討されれば興味深いと感じます☆
引用文献・資料等
- 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版
- CASTOR試験:N Engl J Med. 2016 Aug 25;375(8):754-66.
- CASTOR試験(追加解析):Haematologica. 2018 Dec;103(12):2079-2087.
- POLLUX試験:N Engl J Med. 2016 Oct 6;375(14):1319-1331.
- CANDOR試験:Lancet. 2020 Jul 18;396(10245):186-197.
- ALCYONE試験:N Engl J Med. 2018 Feb 8;378(6):518-528.
- MAIA試験:N Engl J Med 2019; 380:2104-2115
- ダラザレックス/ダラキューロ 添付文書
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