12.悪性腫瘍

トルカプ(カピバセルチブ)の作用機序【乳がん】

2024年3月26日、「乳がん」を対象疾患とするトルカプ錠(カピバセルチブ)が承認されました。

アストラゼネカ|ニュースリリース

基本情報

製品名 トルカプ錠160mg/200mg
一般名 カピバセルチブ
製品名の由来 Trust (信頼) やTruth (真実) の第一音節の「tru」を用いることで、
薬剤と科学への信頼を表現し、
後半の「qap」は、一般名のcapivasertibの第一音節と同じ発音の
綴りとを組み合わせてTruqap (トルカプ) と命名した。
製造販売 アストラゼネカ(株)
効能・効果 内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1 又はPTEN 遺伝子変異を有する
ホルモン受容体陽性かつHER2 陰性の手術不能又は再発乳がん
用法・用量 フルベストラントとの併用において、
通常、成人にはカピバセルチブとして1回400mgを1日2回、
4日間連続して経口投与し、その後3日間休薬する。
これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
収載時の薬価
発売日

 

木元 貴祥
トルカプは、国内初のAKT阻害薬ですね!

 

ホルモン陽性乳がんの二次治療以降として、フェソロデックス(一般名:フルベストラント)と併用します。

 

今回は乳がんと共に、トルカプの作用機序・エビデンスについて解説していきます。

 

乳がんの概要

2011年の女性乳がんの罹患数は約72,500人と、女性のがんの中では最も多く、約20%を占めると言われています。

 

手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。

 

ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。

 

従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!

また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。

 

その他、乳がんの15%~25%は「HER2(“ハーツー”と読みます)」と呼ばれるタンパク質が細胞膜に発現していることもあり、従来は予後不良と言われていました。

HER2陽性の乳がんの割合頻度は約15~25%

 

早期の乳がんの治療

早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。

早期乳がんの中でも術後に再発リスクが高いと診断された患者さんでは、術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える薬物療法(初期治療)が行われることがあります。

 

治療法については、以下の記事をご参照ください。

フェスゴ配合皮下注(ペルツズマブ/トラスツズマブ)の作用機序【乳がん/大腸がん】

続きを見る

 

転移のある乳がんの治療(手術不能)

発見時に転移がある乳がんの場合、手術はできませんので、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)が基本となります。

 

転移のある乳がんの場合も、がん細胞の性質によって薬物療法の種類が異なります。

  1. ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬など)±CDK4/6阻害薬
  2. HER2陽性の乳がん:ハーセプチン±パージェタ±抗がん剤
  3. ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん):抗がん剤±免疫チェックポイント阻害薬

 

最も多いとされるのが、①「ホルモン陽性の乳がん」で、この場合はホルモン療法が基本で、可能であればCDK4/6阻害薬を併用します。

なお、ホルモン療法は、閉経前であればタモキシフェンが使用され、閉経後であればアロマターゼ阻害薬が使用されます。

 

しかし、近年ではCDK4/6阻害薬を併用する場合、閉経前であってもアロマターゼ阻害薬が使用されるケースがありますね(アロマターゼ阻害薬の添付文書上は適応外に該当)。1)

 

今回ご紹介するトルカプは、以下の場合の二次治療以降として、フェソロデックスと併用で使用します。

  • ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん
  • PIK3CA、AKT1 又はPTEN 遺伝子変異を有する
  • アロマターゼ阻害薬による治療歴を有する
  • 閉経有無やCDK4/6阻害薬の治療歴は問わない

 

PIK3CA、AKT1、PTENの遺伝子変異については、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」によって検査可能です(2024年3月27日承認取得)。

 

トルカプ(カピバセルチブ)の作用機序

アロマターゼ阻害薬等で治療抵抗性・耐性が認められると、別経路によってがんの増殖が促進されていると考えられています。

その代表例が「PI3K-AKT-mTOR経路」で、この経路に関係するタンパク質の遺伝子が変異することによって、恒常的に活性化されてしまいます。

 

トルカプは、PI3K-AKT-mTOR経路のAKTを阻害することで、がん細胞の増殖を抑制すると考えられていますね。

トルカプ(カピバセルチブ)の作用機序

 

木元 貴祥
作用機序としては、同経路のmTORを阻害するアフィニトール(エベロリムス)と似ています。

 

エビデンス紹介:CAPItello-291試験

根拠となった臨床試験(CAPItello-291試験)をご紹介します。2)

本試験は、アロマターゼ阻害薬に抵抗となったホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能・再発乳がん患者さんを対象に、トルカプ+フルベストラント療法とプラセボ+フルベストラント療法を比較する国際共同第Ⅲ相臨床試験です。

AKT経路の変異(PIK3CA、AKT1又はPTEN遺伝子変異)有無やCDK4/6阻害薬の使用有無は問わない

 

主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)*」とされ、結果は以下の通りでした。

トルカプ+
フルベストラント療法
プラセボ+
フルベストラント療法
PFS中央値
(全集団)
7.2か月 3.6か月
HR=0.60(95%CI:0.51~0.71)
P<0.001
PFS中央値
(AKT経路変異例)
7.3か月 3.1か月
HR=0.50(95%CI:0.38~0.65)
P<0.001

*PFS(無増悪生存期間):がんが増悪するまでの期間

 

全集団およびAKT経路変異例でも、共にPFSの有意な延長が認められていますね!

 

木元 貴祥
国内ではAKT経路変異例にのみ使用可能となります。

 

また、CDK4/6阻害薬の使用歴有無による治療効果に差異は認められなかったとのことです!

全生存期間(OS)については、まだデータが未成熟とのことで、現在も追跡中とのこと。上記の時点でもOSの改善傾向が認められていました。

 

用法・用量

フルベストラントとの併用において、通常、成人にはカピバセルチブとして1回400mgを1日2回、4日間連続して経口投与し、その後3日間休薬します。

これを1サイクルとして投与を繰り返します。

患者の状態により適宜減量

 

副作用

10%以上に認められる副作用として、食欲減退、下痢(67.3%)、悪心(27.3%)、嘔吐、口内炎、発疹(34.1%)、疲労などが報告されていました。

 

重大な副作用としては、

  • 高血糖(14.1%)
  • 重度の下痢(9.3%)
  • 重度の皮膚障害:多形紅斑(1.7%)、全身性剥脱性皮膚炎(0.6%)等

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

木元 貴祥
同経路を阻害するmTOR阻害薬と同じようなプロファイルですね。

 

収載時の薬価

現時点では薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

トルカプはこんな薬

  • 国内初のAKT阻害薬
  • ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で、アロマターゼ阻害薬による治療歴を有する場合に使用できる
  • フルベストラントとの併用で使用する
  • 消化器症状、皮膚症状の副作用には注意が必要

 

CDK4/6阻害薬が登場して以来、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がんの初回治療としては、CDK4/6阻害薬+ホルモン療法が基本となりました。

しかし、上記の治療でもいずれは抵抗性が認められるため、新たな治療選択肢が望まれていました。

 

木元 貴祥
トルカプは今までになかったAKT阻害薬のため、新たな治療選択肢として期待できますね。

 

ただし、PI3K-AKT-mTOR経路を阻害することによる副作用の懸念もあります。

同経路を阻害するPI3K阻害薬のアルペリシブは、国際共同試験(SOLAR-1試験)3)でポジティブな結果であったものの、日本人のサブ解析において半数以上の患者さんが副作用(主に皮膚症状)によって治療を中止していました。4)

 

そのため、国内で追加の臨床試験が実施されることとなり、現在でも試験継続中とのことです(jRCT2080225342)。

 

トルカプも同様の副作用プロファイルを呈すると予想されるため、副作用のマネジメントが大切かもしれません。

 

以上、今回は乳がんと共に、トルカプの作用機序・エビデンスについて解説しました!

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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