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エルレフィオ(エルラナタマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

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2024年3月26日、「多発性骨髄腫」を対象疾患とするエルレフィオ皮下注(エルラナタマブ)が承認されました。

ファイザー|ニュースリリース

基本情報

製品名 エルレフィオ皮下注44mg/76mg
一般名 エルラナタマブ(遺伝子組換え)
製品名の由来 海外に準じた
製造販売 ファイザー(株)
効能・効果 再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
用法・用量 通常、成人にはエルラナタマブ(遺伝子組換え)として、
1日目に12mg、4日目に32mgを1回皮下投与する。
8日目以降は1回76mgを1週間間隔で皮下投与する。
なお、24週間以上投与し、奏効が認められている場合は、
投与間隔を2週間間隔とすること。
収載時の薬価 44mg:558,501円
76mg:957,222円
発売日 2024年5月22日(HP

 

エルレフィオは、CD3とBCMAに共に結合可能な二重特異性抗体に分類されています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
通常、抗体は1種類の抗原にしか結合できませんが、エルレフィオは2種類の抗原と結合可能です!

 

二重特異性抗体は既に何製品か承認されていますが、多発性骨髄腫では初でしょうか。

 

 

今回は多発性骨髄腫の概要と共に、エルレフィオの作用機序・特徴について解説します。

 

多発性骨髄腫について

通常、人の体内では、異物(ウイルス・細菌など)が侵入した際、B細胞から免疫グロブリン(抗体)が作られることで体を異物から守って感染症等を抑えてくれています。

 

多発性骨髄腫では、この抗体を産生するB細胞が異常増殖(腫瘍化)することで引き起こされる疾患で、血液腫瘍に分類されています。

がん化したB細胞(“骨髄腫細胞”と呼ばれます)は、健康な血液の産生を妨げたり、骨をもろくするなどのさまざまな障害を引き起こします。

 

その結果、症状として、

  • 骨痛
  • 腎機能障害
  • 貧血
  • 易感染性
  • 出血傾向

などがみられます。

 

またこの骨髄腫細胞の表面には、「BCMA」と呼ばれるシグナル伝達分子が過剰に発現していることも知られています。

BCMA:B Cell Maturation Antigen(B細胞成熟抗原)

BCMAとは、多発性骨髄腫の骨髄腫細胞が有している細胞表面抗原である。

 

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療は造血幹細胞移植が可能かどうか、によって選択肢が異なります。1)

  • 移植が可能:ボルテゾミブ+デキサメタゾン等を3~4回施行し、奏効すれば造血幹細胞移植
  • 移植が不能:Ld療法*やMPB療法*が標準治療。その他、MPT療法*等もある。

 

*参考

  • Ld療法:レナリドミド+デキサメタゾン
  • MPB療法:メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ
  • MPT療法:メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド

 

移植が不能な場合、上記の治療と併用して抗CD38抗体のダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)が使用可能ですね。

ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

造血幹細胞移植やその後の維持療法については以下の記事をご覧ください。

血液
ニンラーロ(イキサゾミブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

移植が成功したとしても一定数の患者さんは残念ながら再発してしまいます。また、移植が不能でMPB療法やMPT療法を行ったとしても不応(難治性)となる場合もあります。

その場合、プロテアソーム阻害薬(例:ボルテゾミブイキサゾミブ)もしくは免疫調整薬(例:レナリドミド、ポマリドミド)を単独または併用した治療法が行われますが、抗CD38抗体のサークリサ(イサツキシマブ)を併用することも可能です。

サークリサ(イサツキシマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

今回ご紹介するエルレフィオは、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体を含むレジメンを少なくとも3種類以上受けたことのある多発性骨髄腫に対して治療効果が期待されています。

 

同様の治療治療ラインに対しては、CAR-T細胞療法のアベクマ(イデカブタジェン ビクルユーセル)も使用可能です。

アベクマ(イデカブタジェン ビクルユーセル)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

エルレフィオ(エルラナタマブ)の構造・作用機序

体内の腫瘍細胞を除去する免疫細胞としてT細胞やNK細胞がありますが、T細胞は細胞膜表面に「CD3」と呼ばれるタンパク質を発現していることが知られています。

 

エルレフィオは骨髄腫細胞のBCMAを認識する抗BCMA抗体と、T細胞のCD3を認識する抗CD3抗体を組み合わせた構造を有しています。

 

エルレフィオ(エルラナタマブ)の構造:BCMAとCD3と共に結合可能な二重特異性抗体薬

 

T細胞は体内の白血病細胞を発見して除去してくれる免疫細胞ですが、骨髄腫細胞はそれから逃れようとしています。

 

エルレフィオは骨髄腫細胞のBCMAとT細胞のCD3を共に認識することで、骨髄腫細胞とT細胞に架け橋を形成します。骨髄腫細胞とT細胞が連結することで、骨髄腫細胞は逃げられなくなります。

エルレフィオ(エルラナタマブ)の作用機序:骨髄腫細胞のBCMAと免疫細胞のCD3を架橋することで、骨髄腫細胞を攻撃する

 

木元 貴祥
木元 貴祥
骨髄腫細胞とT細胞の橋渡しをするイメージですね。

 

その結果、骨髄腫細胞に対するT細胞の攻撃が促進され、さらにADCC(抗体依存性細胞障害)活性やDCD(補体依存性細胞障害)活性によって骨髄腫細胞を除去できると考えられます。

 

エビデンス紹介:MagnetisMM-3試験

根拠となった代表的な臨床試験(MagnetisMM-3試験)をご紹介します。2)

 

本試験はプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体のうち、それぞれ1種類以上に対して抵抗性のある多発性骨髄腫患者さんを対象に、エルレフィオの皮下投与の有効性と安全性を評価した第Ⅱ相臨床試験です。

 

BCMAを標的にした治療を受けたことがないコホートAと、抗BCMA抗体薬物複合体かBCMAを標的としたCAR-T細胞療法を受けたことのあるコホートBに分けられていますが、今回はコホートAの結果をご紹介します。

 

主要評価項目は「奏効率」とされ、結果は61.0%という結果で主要評価項目を達成しました。

 

用法・用量

通常、成人にはエルラナタマブ(遺伝子組換え)として、1日目に12mg、4日目に32mgを1回皮下投与します。

8日目以降は1回76mgを1週間間隔で皮下投与します。

なお、24週間以上投与し、奏効が認められている場合は、投与間隔を2週間間隔とすることとされています。

 

最初のサイクルのみ低用量とすることで、サイトカイン放出症候群や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群の発現割合および重症度の低減がすると考えられていますよ~。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
CAR-T細胞療法ではしばしば問題になりますからね!いいですね~♪

 

ただし、サイトカイン放出症候群を軽減させるため、1日目、4日目及び8日目の投与については、本剤投与開始の約1時間前に、解熱鎮痛剤、副腎皮質ホルモン剤及び抗ヒスタミン剤を投与することと規定されていますので、必ず確認するようにしましょう。

 

また、静脈内投与ではなく皮下注投与で治療が可能なため、医療従事者・患者さん双方で簡便に治療ができるのではないでしょうか。

 

副作用

10%以上に認められる副作用として、発疹、皮膚乾燥、下痢、悪心、食欲減退、注射部位反応(36.6%)、疲労などが報告されていました。

 

重大な副作用としては、

  • サイトカイン放出症候群(CRS)(57.9%)
  • 神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)含む):頭痛(9.3%)、末梢性ニューロパチー(7.7%)、ICANS(3.3%)、錯乱状態(3.3%)、ギラン・バレー症候群(0.5%)、浮動性めまい(0.5%)、意識レベルの低下(頻度不明)、失神(頻度不明)等
  • 感染症:上気道感染(12.0%)、肺炎(4.9%)、敗血症(3.8%)、尿路感染(3.3%)、ニューモシスチス・イロベチイ肺炎(1.6%)等
  • 血球減少:好中球減少症(36.1%)、貧血(26.8%)、リンパ球減少症(23.5%)、血小板減少症(18.6%)、白血球減少症(10.4%)、発熱性好中球減少症(2.2%)等
  • 低γグロブリン血症(8.2%)
  • 間質性肺疾患(1.6%)

が挙げられているため、特に注意が必要です。

 

本剤の警告欄にも以下の記載があるため、投与初期には入院での管理が推奨されています。

重度のサイトカイン放出症候群(CRS)及び免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)があらわれることがあるので、特に治療初期は入院管理等の適切な体制下で本剤の投与を行うこと。

 

収載時の薬価

収載時(2024年5月22日)の薬価は以下の通りです。

  • エルレフィオ皮下注44mg:558,501円
  • エルレフィオ皮下注76mg:957,222円

 

算定根拠については、以下をご参考ください。

【新薬:薬価収載】18製品(2024年5月22日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

エルレフィオはこんな薬

  • プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体に対する治療歴を有する多発性骨髄腫に使用する
  • 抗BCMA抗体と抗CD3抗体を組み合わせた構造を有する二重特異性抗体
  • サイトカイン放出症候群と神経毒性症候群には注意が必要

 

多発性骨髄腫は、抗CD38抗体薬のダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)サークリサ(イサツキシマブ)、CAR-T細胞療法のアベクマなど、新規の薬剤が続々と登場しています。

ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

木元 貴祥
木元 貴祥
エルレフィオも新規の治療選択肢として期待されていますね!

 

また、抗体薬では珍しく皮下注投与が可能なため、より簡便で治療が行えると思います♪

 

以上、今回は多発性骨髄腫とエルレフィオ(エルラナタマブ)の作用機序等について解説しました!

 

その他の二重特異性抗体についても、興味があればぜひご確認くださいませ。

 

引用文献・資料等

  1. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版
  2. MagnetisMM-3試験:Nat Med. 2023 Sep;29(9):2259-2267. 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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