9.眼疾患

バビースモ(ファリシマブ)の作用機序:類薬との違い・比較【加齢黄斑変性】

2024年3月26日バビースモ硝子体内注射液(ファリシマブ)の「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」に対する適応拡大が承認されました!

中外製薬|ニュースリリース

基本情報

製品名 バビースモ硝子体内注射液120mg/mL
一般名 ファリシマブ(遺伝子組換え)
製品名の由来 VEGF-A、Angiopoietin-2、Bispecific、Molecule に由来する。
製造販売 中外製薬(株)
効能・効果 ●中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性
●糖尿病黄斑浮腫
●網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
用法・用量 維持期は16週毎に1回投与(詳細
収載時の薬価 163,894円
発売日 2022年5月25日新発売(HP

 

バビースモは、2022年3月28日に加齢黄斑変性の新規治療薬として承認されました。

加齢黄斑変性については既に以下の3製品が承認・販売されていますが、バビースモはそれに次ぐ4製品目ですね。

 

ルセンティスとアイリーアは維持期で1~2か月毎の投与間隔、ベオビュは維持期で3か月毎の投与でしたが、バビースモは最大4か月毎の投与で治療可能な薬剤です!

 

また、バビースモは「バイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)」に分類されています。

 

通常の抗体は1種類の抗原としか結合できませんが、バイスペシフィック抗体は2種類の抗原と結合することが可能です。

 

木元 貴祥
バビースモはVEGF-AとAng-2を共に阻害することが可能な抗体薬ですよ~!

 

他疾患では血友病に対して既にバイスペシフィック抗体が登場しています。

ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】

続きを見る

 

今回は代表疾患として「加齢黄斑変性」の解説と共に、バビースモの作用機序、そしてルセンティス・アイリーア・ベオビュとの違い・比較について解説していきます。

 

眼の構造と黄斑(中心窩)

眼の構造は以下のイラストの通りですが、網膜の中心には「黄斑」と呼ばれる部位があります。

黄斑は視細胞が密集しているため、モノを見るための視機能では最も重要な部位とされています。

眼の構造と黄斑(中心窩)

 

黄斑の中心は中心窩(“ちゅうしんか”と読みます)と呼ばれ、ここには視細胞が最も密集しているため特に重要です。

 

加齢黄斑変性の病態と症状

加齢黄斑変性は、黄斑が加齢とともに障害を受け、視力の低下や視力異常をきたす疾患です。

 

50歳以上の男性に好発し、日本では増加傾向にあります。また加齢黄斑変性は失明(中途失明)の原因の上位を占めています(中途失明の第1位は緑内障)。

 

木元 貴祥
緑内障の疾患解説と薬については以下の記事をご覧くださいませ。
エイベリス(オミデネパグ)の作用機序:プロスタグランジンF2α誘導体製剤との違い【緑内障】

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発症のリスク因子としては「喫煙」や「肥満」がありますので、「目の生活習慣病」とも呼ばれています。

 

症状としては

  • 物が歪んで見える
  • 視野の中心が暗くて見えにくくなる
  • 視力が低下する

などがあります。

 

多くの場合、症状は片眼から現れますが、両眼で見ているとなかなか症状に気付かずに、発見が遅れることもあります。

 

加齢黄斑変性の分類と原因

加齢黄斑変性には以下の2種類があり、原因が異なっています。

  • 萎縮型:黄斑組織が加齢によって萎縮していく。進行は遅い
  • 滲出型:脈絡膜新生血管による。進行が速い

 

多くの場合、「滲出型」と言われていますので、滲出型について解説します。

 

網膜のすぐ下には「脈絡膜」が存在していますが、網膜に老廃物が増えていくと、これを除去するために脈絡膜から新たな血管が作成されます。このように新たな血管が作られることを「新生血管」と呼んでいます。

 

木元 貴祥
“新生血管”、と聞くと良さそうな印象がありますが、そうとは限りませんよ。

 

病的で異常な新生血管は非常に脆く、血液成分が漏れ出してしまうことで、水分などが異常に貯まって浮腫となり、黄斑に障害をきたします。

加齢黄斑変性と新生血管:VEGFとAng-2の働き

 

異常な新生血管には「VEGF-A(血管内皮増殖因子A)」と呼ばれる因子や、「Ang-2(アンジオポエチン2)」が関わっていると考えられています。

VEGF-AはVEGFR-2とVEGFR-3に、Ang-2はTie-2に結合して生理活性を示す。

 

これらが過剰に分泌されることで脈絡膜新生血管が引き起こされ、滲出型の加齢黄斑変性が発症します。

 

加齢黄斑変性の治療

萎縮型は進行が遅いことから、特に治療は行われません。

しかし、滲出型に移行することもありますので、定期的な検査によって異常がないかを調べておく必要があります。

 

滲出型では、以下の治療法が行われます。1)

  • 抗VEGF薬:ルセンティス、アイリーア、ベオビュなど
  • レーザーによる光線力学的療法
  • レーザーによる光凝固法

 

今回ご紹介するバビースモも「抗VEGF薬」に分類されていますね。

 

バビースモ(ファリシマブ)の作用機序

通常の抗体は1種類の抗原としか結合できませんが、バビースモは2種類の抗原(VEGF-AとAng-2)に結合することができます。

このような特徴を有する抗体を「バイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)」と呼んでいて、ヘムライブラ(エミシズマブ)に次いで2製品目の登場です。

バビースモ(ファリシマブ)の特徴:バイスペシフィック抗体薬

 

バビースモは、血管新生に関与しているVEGF-AとAng-2を選択的に阻害することで異常な新生血管を抑制し、滲出型の加齢黄斑変性の症状を改善するといった作用機序を有しています!

バビースモ(ファリシマブ)の作用機序:VEGF-AとAng-2を共に阻害する二重特異性抗体薬

 

エビデンス紹介:TENAYA試験・LUCERNE試験、YOSEMITE試験・RHINE試験

根拠となった臨床試験は以下の4つの第Ⅲ相臨床試験です。

  • 滲出型加齢黄斑変性を対象:TENAYA試験およびLUCERNE試験2)
  • 糖尿病黄斑浮腫を対象:YOSEMITE試験およびRHINE試験3)

 

いずれの臨床試験もアイリーア(維持期8週間毎投与)に対するバビースモ(維持期8~16週間毎投与)の非劣性を検証しています。

 

主要評価項目はベースラインから1年時点までの「最高矯正視力(BCVA)の平均変化量」とされ、結果は以下の通りでした。

非劣性マージンはいずれも4文字とされています。

 

代表として滲出型加齢黄斑変性を対象としたTENAYA試験およびLUCERNE試験の結果は以下の通りです。

試験名 TENAYA試験 LUCERNE試験
試験群 バビースモ
16週間毎
アイリーア
8週間毎
バビースモ
16週間毎
アイリーア
8週間毎
BCVAの平均変化量
[95%CI]
5.8文字 5.1文字 6.6文字 6.6文字
アイリーアとの差:0.7[−1.1-2.5] - アイリーアとの差:0.0 [–1.7-1.8] -

 

糖尿病黄斑浮腫を対象としたYOSEMITE試験およびRHINE試験でも同様の結果が示されていました!

 

用法・用量

効能・効果によって若干異なりますので注意が必要です。

 

<中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性>

ファリシマブ(遺伝子組換え)として 6.0 mg(0.05 mL)を4週ごとに1回、通常、連続4回(導入期)硝子体内投与しますが、症状により投与回数を適宜減じます。

その後の維持期においては、通常、16週ごとに1回、硝子体内投与します。なお、症状により投与間隔を適宜調節しますが、8週以上あけること。

 

<糖尿病黄斑浮腫>

ファリシマブ(遺伝子組換え)として 6.0 mg(0.05 mL)を4週ごとに1回、通常、連続4回硝子体内投与しますが、症状により投与回数を適宜減じます。

その後は、投与間隔を徐々に延長し、通常、16週ごとに1回、硝子体内投与します。なお、症状により投与間隔を適宜調節しますが、4週以上あけること。

 

<網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫>

ファリシマブ(遺伝子組換え)として1回あたり6.0mg(0.05mL)を硝子体内投与します。投与間隔は、4週以上あけること。

 

副作用

1%未満に認められる副作用として、眼圧上昇、硝子体浮遊物、高眼圧症、角膜擦過傷、眼痛、眼部不快感などが報告されています。

 

重大な副作用としては、

  • 眼障害:眼内炎症(ぶどう膜炎、硝子体炎等)(1.0%)、網膜色素上皮裂孔(0.4%)、眼内炎(頻度不明)、裂孔原性網膜剥離及び網膜裂孔(頻度不明)
  • 脳卒中:虚血性脳卒中(0.05%)、血栓性脳梗塞(0.05%)、ラクナ脳卒中(0.05%)

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

収載時の薬価

収載時(2022年5月25日)の薬価は以下の通りです。

  • バビースモ硝子体内注射液120mg/mL:163,894円(1日薬価:1,805円)

 

算定根拠については以下をご参考ください。

【新薬:薬価収載】14製品(2022年5月25日)

続きを見る

 

バビースモとルセンティス・アイリーア・ベオビュの違い・比較

既に承認・販売されている以下の薬剤との違いや比較について一覧表にしてみました。

バビースモとルセンティス・アイリーア・ベオビュの違い・比較

 

効能・効果についてはルセンティスとアイリーアは同じですが、バビースモとベオビュは今後の適応拡大に期待したいところですね。

 

まとめ・あとがき

バビースモはこんな薬

  • 眼科領域では初のバイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)
  • VEGF-AとAng-2を特異的に阻害することで新生血管を抑制する
  • 維持期では4か月毎の投与で治療が可能

 

前述の臨床試験2-3)ではアイリーアに対して非劣性が認められていましたので、効果としては同程度の印象を受けます。

 

あとは使いやすさや副作用など、今後は使い分け等が検討されれば興味深いと感じます。

 

余談ですが、最近では抗体を改変・改良したような色々な薬剤の開発が進行していますね。承認されている薬剤の例では以下があります。

 

木元 貴祥
もしご興味があれば上記リンクを覗いてみてください。

 

以上、今回は加齢黄斑変性症とバビースモ(ファリシマブ)の作用機序や特徴、そして類薬との違い・比較についてご紹介しました!

 

引用文献・資料等

  1. 日本眼科学会|加齢黄斑変性の治療指針
  2. TENAYA試験およびLUCERNE試験(滲出型加齢黄斑変性):Lancet. 2022 Feb 19;399(10326):729-740.
  3. YOSEMITE試験およびRHINE試験(糖尿病黄斑浮腫):Lancet. 2022 Feb 19;399(10326):741-755.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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