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アジンマ(アパダムターゼ/シナキサダムダーゼ)の作用機序【TTP】

2024年3月26日、「先天性血栓性血小板減少性紫斑病」を対象疾患とするアジンマ(アパダムターゼ/シナキサダムダーゼ)が承認されました!

武田薬品工業|ニュースリリース

基本情報

製品名 アジンマ静注用500
一般名 ●アパダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)
●シナキサダムダーゼ アルファ(遺伝子組換え)
製品名の由来 海外に準じた
製造販売 武田薬品工業(株)
効能・効果 後天性血栓性血小板減少性紫斑病
用法・用量 本剤を添付の溶解液5mLで溶解し、2~4mL/分の速度で緩徐に静脈内に注射する。
定期的に投与する場合、通常、成人及び12歳以上の小児には、1回40国際単位/kgを隔週投与するが、
患者の状態に応じて1回40国際単位/kgを週1回投与することができる。
急性増悪時に投与する場合、通常、成人及び12歳以上の小児には、
1日目に1回40国際単位/kg、2日目に1回20国際単位/kg、3日目以降は1日1回15国際単位/kgを投与する。
収載時の薬価
発売日

 

先天性血栓性血小板減少性紫斑病の治療薬はこれまで承認されていませんでしたので、新たな治療として期待できますね!

 

木元 貴祥
アジンマは、欠損した酵素を補充するといった作用機序です。補充療法薬ですね。

 

今回は疾患解説と共に、アジンマの作用機序について解説していきます。

 

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura)は、人口100万人当たり毎年4人(0.0004%)に発症する疾患で、難病に指定されています。1)

 

血小板消費が亢進し、血小板の凝集塊が生じることで、以下のような特徴的な症状(5徴候)を呈します。

  1. 血小板減少症:出血傾向のため、皮膚に紫斑ができる
  2. 溶血性貧血:赤血球の機械的な崩壊がおこる
  3. 腎機能障害:腎臓の毛細血管が血栓で閉塞する
  4. 発熱
  5. 動揺性精神神経症状:症状に大きな幅があり、また著しく変動する

 

先天性と後天性がありますが、先天性は非常に稀なため、ほとんどが後天性です。

 

今回ご紹介するアジンマは「先天性」のTTPに使用する初の薬剤です。

 

原因

TTPの原因は、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)を切断するADAMTS13の欠損(先天性)または活性低下(後天性)によります。

 

木元 貴祥
ここで、VWFとADAMTS13の役割について見ていきましょう。

 

通常、出血した際には、血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血によって止血されます。

 

出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。

この際、血小板と損傷部位の橋渡しの役割を担うのがフォン・ヴィレブランド因子(VWF)です。

 

これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいますので、次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。

 

二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。

一次止血と二次止血のメカニズム:フォン・ヴィレブランド因子(VWF)の働き

 

木元 貴祥
これが一連の止血メカニズムですね!

 

通常、VWFは分子量約25万の単量体(モノマー)が、適度に重合した多量体(マルチマー)として存在しています。

 

モノマーには血小板との結合能がほとんどないことから、止血において重要ではありません。適度な大きさのマルチマーは適度に血小板と結合することで適切な止血を促します。

しかし、先天性TTPではVWFを切断するADAMTS13が欠損しているため、ADAMTS13の活性が低下・消失した状態です。

 

その結果、血中には巨大なマルチマーが存在してしまい、血小板と過度に結合することで、血栓傾向が強まります。これがTTPの原因です。

先天性TTPの原因:ADAMTS13が欠損してVWFのマルチマーが活性化

 

ちなみに、VWFの活性化が低下することで引き起こされる疾患が「フォン・ヴィレブランド病」です。

ボンベンティ(ボニコグ アルファ)の作用機序【VWD】

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また、二次止血に関与しているフィブリンの産生量が低下する疾患には血友病があり、疾患概要・治療薬については以下の記事で解説しています。

ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】

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治療

先天性TTPの場合、これまで有効な治療薬がないことから、新鮮凍結血漿の投与しか選択肢がありませんでした。1-2)

 

木元 貴祥
アジンマは初の補充療法薬として期待されていますね!

 

後天性TTPの場合、以下の治療があります。1-2)

  1. 血漿交換療法:第一選択で、できるだけ早期に血漿交換を開始することが重要
  2. ステロイド療法:血漿交換と併用して実施する
  3. カブリビ(カプラシズマブ):血漿交換と併用して実施する
  4. 抗血小板療法
  5. その他:難治性TTPの場合、リツキサン(リツキシマブ)を使用することもある
カブリビ(カプラシズマブ)の作用機序【TTP】

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アジンマ(アパダムターゼ/シナキサダムダーゼ)の作用機序

アジンマは、ヒトADAMTS13であるアパダムターゼと、ヒトADAMTS13類縁体のシナキサダムダーゼを配合した薬剤です。

 

生体内ではADAMTS13として働くため、巨大なVWFマルチマーを切断し、適度な大きさのマルチマーを生成します。

アジンマ(アパダムターゼ/シナキサダムダーゼ)の作用機序

 

木元 貴祥
ADAMTS13を補充することで、先天性TTPを治療することが可能になるのですね。

 

副作用

2~5%未満に認められる副作用として、悪心、熱感などが報告されていました。

 

重大な副作用としては、

  • ショック、アナフィラキシー(頻度不明)

が挙げられています。

 

収載時の薬価

現時点では薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

アジンマはこんな薬

  • 先天性TTPに対する初の治療薬
  • 欠損しているADAMTS13を補充することで、巨大なVWFマルチマーを切断する

 

木元 貴祥
これまで先天性TTPに対する有効な治療薬はありませんでしたので、アジンマによって治療選択肢が増えることは朗報ではないでしょうか。

 

今回は疾患解説と共に、アジンマの作用機序について解説しました~♪

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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