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2024年1月18日、「全身性重症筋無力症」を対象疾患とするヒフデュラ配合皮下注(エフガルチギモド /ボルヒアルロニダーゼ)が承認されました!
アルジェニクスジャパン|ニュースリリース
有効成分のエフガルチギモドは、2022年1月20日に「全身性重症筋無力症」を対象疾患とするウィフガート(エフガルチギモド)として承認・販売されていましたが、投与時間が1時間かかることがネックでした。
なお、ウィフガートは2024年3月26日に「慢性特発性血小板減少性紫斑病」に対する適応拡大が承認されています(ニュースリリース)。
基本情報
製品名 | ヒフデュラ配合皮下注 | ウィフガート点滴静注400mg |
一般名 | エフガルチギモド アルファ/ ボルヒアルロニダーゼアルファ |
エフガルチギモド アルファ |
効能・効果 | 全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る) | ●全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る) ●慢性特発性血小板減少性紫斑病 |
用量 | 固定用量(体重によらず一定)※ 1回5.6mLを1週間間隔で4回点滴静注する。 これを1 サイクルとし、投与を繰り返す。 |
〈全身型重症筋無力症〉 1回10mg/kgを1週間間隔で4回点滴静注する。 これを1 サイクルとし、投与を繰り返す。 〈慢性特発性血小板減少性紫斑病〉 1回10mg/kgを週1回又は2週に1回1時間かけて点滴静注する。 週1回投与で開始し、投与開始後4週以降は血小板数及び 臨床症状に基づき2週に1回投与に調節することができる。 |
投与時間 | 30~90秒 | 1時間 |
製造販売 | アルジェニクスジャパン(株) |
※1回5.6 mL:エフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)として1,008mg及びボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として11,200単位
国内では既に「ボルヒアルロニダーゼアルファ」を用いて、点滴静注から皮下注投与を可能とした製品が承認されています。いずれも投与時間の大幅な削減が可能ですね。
ヒフデュラとウィフガートは、胎児性Fc受容体(FcRn)に結合することで、疾患の原因とされるIgG(自己抗体)のリサイクリングを抑制するといったユニークな作用機序を有していますよ~!
今回は重症筋無力症とヒフデュラ(エフガルチギモド)の作用機序、エビデンスについて解説していきます。
慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)については、タバリス(ホスタマチニブ)の記事をご参照ください。
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タバリス(ホスタマチニブ)の作用機序【ITP】
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重症筋無力症とは
重症筋無力症(MG:myasthenia gravis)は難病に指定されている疾患で、神経と筋肉の境目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体(IgG)により破壊される自己免疫疾患です。
男女比は1:1.15でやや女性に多いのが特徴で、有病率は人口10万人あたり23.1人、患者数は29,210人とされています(2018年時点)。1)
症状としては、全身の筋力低下、易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂(まぶたが下がってくる)、複視などの眼の症状をおこしやすいことが特徴です。
また、嚥下が上手く出来なくなる場合もあり、重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともあります。
重症筋無力症の原因
通常、我々が筋肉を動かそうとする場合、神経筋接合部の運動神経の末端から「アセチルコリン」が放出され、これが筋肉の「アセチルコリン受容体」に結合することで筋肉が収縮します。
しかし、重症筋無力症の多くの患者さんでは何らかの原因でアセチルコリン受容体に対する自己抗体(IgG)が産生されていることが知られています。
この自己抗体がアセチルコリン受容体に結合することで、アセチルコリンが結合できなくなってしまい、筋肉が収縮できなくなってしまいます(筋力の低下)。
重症筋無力症の治療
対症療法としてコリンエステラーゼ阻害薬が使用されることもありますが、治療の基本は免疫療法で、この病気の原因である自己抗体の産生を抑制したり、取り除く治療です。2)
第1選択は自己抗体の産生を抑制するステロイド薬、第2選択は免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン)、第3選択は免疫グロブリン静注療法または血漿交換療法です。
今回ご紹介するウィフガートは少なくとも1剤以上(コリンエステラーゼ阻害薬、ステロイド薬、免疫抑制薬)の治療が行われている場合、その後に使用することで治療効果が期待されています!
なお、免疫グロブリン大量静注療法・血液浄化療法による症状の管理が困難な場合にはソリリス(エクリズマブ)が使用できます。
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ソリリス(エクリズマブ)の作用機序【重症筋無力症】
続きを見る
ヒフデュラ/ウィフガートの作用機序:FcRnに結合するFcフラグメント
重症筋無力症の原因とされている抗アセチルコリン受容体抗体(自己抗体=IgG)は、通常、細胞内に取り込まれるとリソソームによる分解を受けてしまいます。
しかし、IgGが細胞内のFcRn(胎児性Fc受容体)と結合することで、リソソームの分解が回避でき、そのまま再利用(リサイクル)することが可能です。
これをIgGの“リサイクリング”と呼んでいます。
さて、少し話が変わって、抗体薬の構造について紹介します。
通常、生体内の抗体や抗体薬(例:アバスチン等)は「定常領域(Fc)」と、抗原と結合する「可変領域(Fab)」から成り立っています。現在、承認されている抗体薬はほとんど完全な抗体構造ですね。
【参考】Wikipedia|List of therapeutic monoclonal antibodies
このうち、ヒフデュラはFc領域のみを有する構造で、FcRnに親和性が高いといった特徴がある薬剤です。つまり、IgGとFcRnの結合が阻害され、FcRnに結合できないIgGはリサイクルできずに分解されていきます。
その結果、IgGの半減期が短縮し、症状緩和・病状進行抑制効果が得られると考えられています。
ちなみに、Fab領域のみを製品化したのがルセンティス(ラニビズマブ)、さらに短くしたのがベオビュ(ブロルシズマブ)です。
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ベオビュ(ブロルシズマブ)の作用機序・特徴【加齢黄斑変性】
ボルヒアルロニダーゼの特徴:皮下注投与かつ投与時間の短縮
ヒフデュラは有効成分以外にも「ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)」が配合されています。
通常、抗体薬のような高分子タンパク製剤を皮下注投与しても、吸収率が悪く、なかなか思い通りの作用を発揮させることが困難です。
ヒフデュラに配合されているボルヒアルロニダーゼは皮下組織のヒアルロン酸を分解する酵素です。
皮下組織に抗体薬が投与された際の抵抗を減少させ、さらに抗体薬の浸透・吸収を促進すると考えられます。
また、ヒフデュラは固定用量のため、患者さんの体重などによって投与量を計算する必要もありませんし、投与時間は「30~90秒」と大幅に削減されていますよ~!
エビデンス紹介:ADAPT試験
根拠となった臨床試験をご紹介します(ADAPT試験)。3)
本試験は、少なくとも1剤以上(コリンエステラーゼ阻害薬、ステロイド薬、免疫抑制薬)の治療が行われている全身型重症筋無力症患者さんを対象に、ウィフガートとプラセボを比較する国際共同第Ⅲ相試験です(日本を含む)。
抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体の陽性・陰性は問わない。
主要評価項目はAChR抗体の陽性例における「MG-ADL奏効割合*」とされ、結果は以下の通りでした。
ウィフガート | プラセボ | |
MG-ADL奏効割合 (AChR抗体陽性例) |
68% | 30% |
オッズ比:4.95 (95% CI 2.21-11.53, p<0.0001) |
*MG-ADL奏効割合:MG-ADLスコアが2点以上改善し、その効果が少なくとも連続4週間持続した患者割合
ChR抗体陰性例を含んだとしてもウィフガートで有意にMG-ADL奏効割合が高いという結果も得られています!
副作用
5%未満に認められる副作用として、浮動性めまい、悪心、嘔吐、処置による頭痛、リンパ球数減少、好中球数増加、疲労、帯状疱疹、発疹などが報告されています。
重大な副作用としては
- 感染症(6.8%)
が挙げられていますので、特に注意が必要です。
用法・用量
通常、成人にはエフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)として1回10mg/kg を1週間間隔で4回1時間かけて点滴静注します。これを1 サイクルとして、投与を繰り返していきます。
ヒフデュラ皮下注については、固定用量で以下の通りです。
1回5.6mL(エフガルチギモド アルファとして1,008mg及びボルヒアルロニダーゼ アルファとして11,200単位)を1週間間隔で4回点滴静注します。これを1 サイクルとして、投与を繰り返していきます。
なお、薬剤投与時の注意の項では「本剤5.6mLを通常、30~90秒かけて投与すること。」と書かれています。
ヒフデュラについては、中医協総会において在宅自己注射指導管理料の対象薬剤とすることも了承されたため、2024年4月17日から在宅自己注射が可能になりました!
収載時の薬価
収載時(2022年4月20日)の薬価は以下の通りです。
- ウィフガート点滴静注400mg:421,455円
算定根拠については以下をご参考ください。
-
【新薬:薬価収載】8製品+再生医療等製品(2022年4月20日)
続きを見る
ヒフデュラ皮下注の収載時(2024年4月17日)の薬価は以下の通りです。
- ヒフデュラ皮下注:604,569円(1日薬価:86,367円)
算定根拠については、以下で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】10製品(2024年4月17日)
続きを見る
まとめ・あとがき
ヒフデュラ/ウィフガートはこんな薬
- FcRnに親和性が高いFcフラグメント製剤
- 自己抗体(IgG)のリサイクリングを抑制し、半減期を短縮させる
- ヒフデュラはウィフガートにボルヒアルロニダーゼを配合させた皮下注製剤で30~90秒で投与可能
最近ではソリリスも使用されますが、臨床試験の結果を見る限り、ヒフデュラの方がより早期に使用しやすいのではないでしょうか。
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ソリリス(エクリズマブ)の作用機序【重症筋無力症】
続きを見る
以上、今回は重症筋無力症とヒフデュラ/ウィフガート(エフガルチギモド)の作用機序、エビデンスについて解説しました~!
参考資料・論文等
- 難病情報センター|重症筋無力症(指定難病11)
- 日本神経学会|重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022
- ADAPT試験:Lancet Neurol. 2021 Jul;20(7):526-536.
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