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2024年1月18日、「乳がん」と「去勢抵抗性前立腺がん」を対象疾患とするターゼナカプセル(タラゾパリブ)が承認されました!
ファイザー|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ターゼナカプセル ①0.1mg/②0.25mg/③1mg |
一般名 | タラゾパリブトシル酸塩 |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | ファイザー(株) |
効能・効果 | ①②:BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん ②③:がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん |
用法・用量 | 1日1回経口投与(前立腺がん0.5mg、乳がん1mg) |
収載時の薬価 | 0.1mg:3,920.70円 0.25mg:9,576.00円 1mg:21,547.10円 |
発売日 | 2024年4月23日(HP) |
ターゼナは、国内では3製品目のPARP阻害薬ですね。
今回は乳がん・前立腺がんと、ターゼナの作用機序・エビデンス、そして既存のPARP阻害薬との違いについて解説していきます!
乳がんの概要
2018年の全国がん登録データによると、女性乳がんの罹患数は93,858人と、女性のがんの中では最も多く、全部位のがんの約22%を占めると言われています。1)
手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。
ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。
従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!
また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。
早期の乳がんの治療
早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。
場合によっては、術前や術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える治療(術前・術後補助療法)が行われることもあります。
代表的な術後治療としては以下の記事をご覧ください。
-
パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序と副作用【乳がん/大腸がん】
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基本的には予後良好ですが、BRCA遺伝子陽性や腋窩リンパ節転移が4個以上の患者さんでは再発リスクが高いと言われています。
類薬のリムパーザは、BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんの術後治療として使用できますが、ターゼナは現時点では「術後」に使用することができません。
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リムパーザ(オラパリブ)の作用機序【卵巣/乳/膵/前立腺がん】
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ちなみに、ホルモン陽性HER2陰性で再発リスクが高い場合、ベージニオ(アベマシクリブ)が術後にホルモン療法と併用可能です。
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ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】
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転移のある乳がんの治療(手術不能)
発見時に転移がある乳がんの場合、手術はできませんので、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)が基本となります。
乳がんは、がん細胞の性質によって、薬物療法が異なります。1)
- ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法
- HER2陽性の乳がん:ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)±パージェタ(一般名:ペルツズマブ)±抗がん剤
- ホルモンもHER2も陰性の乳がん:抗がん剤
最も多いとされるのが、「ホルモン陽性」の乳がんで、この場合はホルモン療法が基本です。
ホルモン陽性の乳がんに対しては
といったCDK4/6阻害薬が使用できます。1)
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ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】
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今回ご紹介するターゼナは、BRCA遺伝子に変異のあるHER2陰性(ホルモン陽性もしくは陰性)の場合に使用できる薬剤です!
ちなみに、最近、HER2陽性の乳がんで使用されるハーセプチンとパージェタの配合剤のフェスゴ配合皮下注も登場しました。
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フェスゴ配合皮下注(ペルツズマブ/トラスツズマブ)の作用機序【乳がん/大腸がん】
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前立腺がんの概要と治療
早期の前立腺がん(限局性、局所進行)の場合、
- 手術
- 放射線療法
- ホルモン療法
などを単独もしくは適宜組み合わせた治療が行われます。
中心的に用いられるのはホルモン療法で、前立腺がんはアンドロゲンによって増殖するため、アンドロゲンを除去する治療(androgen deprivation therapy:ADT)を行います。
昔はADTとして精巣を物理的に摘出する「外科的去勢術」が行われていました。
しかし、患者さんによっては精巣がなくなることへの抵抗感が強いため、現在のADTは薬による「内科的去勢術」としてホルモン療法が行われます。
現在、初回のホルモン療法としては、
- LH-RHアゴニスト:アンドロゲン生成抑制
- GnRHアンタゴニスト:アンドロゲン生成抑制
- 抗アンドロゲン製剤:がんのアンドロゲン受容体を阻害
などが行われますが、場合によってはザイティガ(アビラテロン)やイクスタンジ(エンザルタミド)を上記と併用することもあります。
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イクスタンジ(エンザルタミド)の作用機序と副作用【前立腺がん】
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しかしながら、ホルモン療法によるADTを行っていても抵抗性を示して、がんの増殖が抑えられないこともあります。
このような状態を去勢抵抗性前立腺がん(CRPC:castration resistant prostate cancer)と呼んでいます。
他の臓器に転移の無いCRPCでは、その後、約90%の患者さんが骨転移を経験してしまい、予後が不良となります。
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ランマーク(デノスマブ)の作用機序と副作用【がんの骨転移】
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現在、CRPCの治療としては、新規のホルモン製剤である以下の薬剤が使用されています(転移の有無によって若干異なる)。
- ザイティガ(アビラテロン):転移あり/なしに使用可
- イクスタンジ(エンザルタミド):転移あり/なしに使用可
- アーリーダ(アパルタミド):転移なしに使用可
- ニュベクオ(ダロルタミド):転移なしに使用可
-
ニュベクオ(ダロルタミド)の作用機序・類薬との違い【前立腺がん】
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類薬のリムパーザは、BRCA遺伝子変異陽性の転移を有するCRPCの初回治療としてザイティガと併用で使用します。
今回ご紹介するターゼナは、BRCA遺伝子変異陽性の転移を有するCRPCの初回治療としてイクスタンジと併用で使用します。
それではここから、DNAの修復メカニズムとターゼナの作用機序についてご説明します。
DNA修復因子:PARPとBRCA
通常、ヒトの細胞内のDNAが損傷を受けると、「PARP」や「BRCA」と呼ばれる修復因子によって修復されることが知られています。
PARPはDNAの一本鎖が切断された時、BRCAはDNAの二本鎖が切断された時にそれぞれ修復する因子です。
しかしながら、「BRCA」が変異している場合、DNAの修復がうまくできず、がん化する可能性が高くなります。
BRCAの変異は、特に乳がんや卵巣がんで多いとされています。
ターゼナ(タラゾパリブ)の作用機序
ターゼナはDNA修復因子である「PARP」を特異的に阻害する作用機序を有しています!
BRCA変異のがん細胞でPARPを阻害すると、一本鎖切断DNAの修復ができずに、二本鎖が切断されてしまいます。
本来であれば、二本鎖が切断されると、「BRCA」によって修復されますが、BRCA変異のがん細胞はBRCAが元々変異しているため、修復することができません。
従って、がん細胞のDNAが壊れてしまい、「合成致死」と呼ばれるがん細胞死が誘導されると考えられています!
一方、正常のヒト細胞では、PARPが阻害され、二本鎖が切断されたとしても、BRCAは正常ですので、BRCAによって元通りのDNAに修復されます。
従って、副作用も少ないと考えられています。
乳がんのエビデンス紹介:EMBRACA試験
BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんの根拠となった臨床試験(EMBRACA試験)をご紹介します。2)
本試験は、タキサン系もしくはアントラサイクリン系薬剤の治療歴のあるBRCA遺伝子変異かつHER2陰性の乳がん患者さんを対象に、一次~四次治療として標準的な治療(カペシタビン or エリブリン or ゲムシタビン or ビノレルビン)とターゼナを直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。
本試験の主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)」で、結果は以下の通りでした。
試験治療 | 標準的な治療 | ターゼナ |
PFS中央値 | 5.6か月 | 8.6か月 |
HR=0.54, P<0.001 | ||
全生存期間中央値 | 19.5か月 | 22.3か月 |
HR=0.76, P=0.11 |
本試験の結果より、これまで標準であった抗がん剤と比較してターゼナはPFSと奏効率は改善しましたが、生存期間の有意な延長は認められませんでした。
前立腺がんのエビデンス:TALAPRO-2試験
続いて、前立腺がんの根拠となった臨床試験(TALAPRO-2試験)をご紹介します。3)
本試験は、 遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんの患者さんを対象に、イクスタンジ単独群とイクスタンジ+ターゼナ群を比較した第Ⅲ相臨床試験です。
本試験の主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)」で、結果は以下の通りでした。
試験治療 | イクスタンジ単独群 | イクスタンジ+ ターゼナ群 |
PFS中央値 | 21.9か月 | 未到達 |
HR 0.63、P<0.0001 |
ターゼナ併用群で有意なPFSの延長が確認されていました。
その後、BRCA遺伝子変異別の解析が実施され、BRCA遺伝子変異陽性例のPFSのHR=0.2と、イクスタンジ+ターゼナ群で非常に良好な成績でした。4)
副作用
10%以上に認められる副作用として、食欲減退、悪心(24.5%)、脱毛症、疲労・無力症(43.8%)などが報告されています。
重大な副作用としては、
- 骨髄抑制:貧血(57.3%)、好中球減少(35.0%)、血小板減少(24.6%)、白血球減少(20.3%)、リンパ球減少(7.8%)、赤血球減少(1.6%)、汎血球減少(0.3%)
- 間質性肺疾患(0.4%)
- 血栓塞栓症:肺塞栓症(0.6%)、血栓症(0.1%)、深部静脈血栓症(頻度不明)
などが挙げられているため、特に注意が必要です。
用法・用量
効能・効果によって、用法・用量が異なります。
〈BRCA 遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん〉
エンザルタミドとの併用において、通常、成人にはタラゾパリブとして1 日1 回0.5 mg を経口投与します。
患者の状態により適宜減量
〈がん化学療法歴のあるBRCA 遺伝子変異陽性かつHER2 陰性の手術不能又は再発乳がん〉
通常、成人にはタラゾパリブとして1 日1 回1 mg を経口投与します。
患者の状態により適宜減量
また、規格によって、効能・効果も異なるため、注意しましょう。
0.1mg | 0.25mg | 1mg | |
前立腺がん | 〇 | 〇 | × |
乳がん | × | 〇 | 〇 |
収載時の薬価
収載時(2024年4月17日)の薬価は以下の通りです。
- ターゼナカプセル0.1mg:3,920.70円
- ターゼナカプセル0.25mg:9,576.00円(1日薬価:19,152.00円)
- ターゼナカプセル1mg:21,547.10円
算定根拠については、以下で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】10製品(2024年4月17日)
続きを見る
リムパーザ、ゼジューラ、ターゼナの違い・比較
現在、以下の3製品のPARP阻害薬が承認・販売されていますが、適応症などが異なります。
- リムパーザ(オラパリブ)
- ゼジューラ(ニラパリブ)
- ターゼナ(タラゾパリブ)
適応症の幅が広いのはリムパーザですね!
ターゼナの適応症は、全てリムパーザと同じ(前立腺がんの併用薬は異なる)なため、今後の使い分けの検討が気になります…。
まとめ・あとがき
ターゼナはこんな薬
- PARP阻害薬に分類されている
- PARPを阻害すると「合成致死」と呼ばれるがん細胞死が誘導される
- 乳がんや前立腺がんで使用される
- 1日1回経口投与
ターゼナは国内3製品目のPARP阻害薬として登場しました。
以上、今回は乳がん・前立腺がんと、ターゼナの作用機序・エビデンス、そして既存のPARP阻害薬との違いについて解説しました!
引用文献・資料等
- 乳癌診療ガイドライン2022年版
- EMBRACA試験:N Engl J Med 2018; 379:753-763
- TALAPRO-2試験:Lancet. 2023 Jul 22;402(10398):291-303.
- TALAPRO-2試験(BRCA解析):Nat Med. 2024 Jan;30(1):257-264.
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