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2020年1月23日、「手術不能または再発乳がん」に使用するイブランス(パルボシクリブ)の錠剤が承認されました!
ファイザー|ニュースリリース
基本情報
製品名 | イブランスカプセル25mg/125mg イブランス錠25mg/125mg |
一般名 | パルボシクリブ |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | ファイザー(株) |
効能・効果 | <カプセル剤> 手術不能又は再発乳がん(※本剤の投与を行う場合にはホルモン受容体陽性/HER2陰性の患者を対象とする) <錠剤> ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん |
用法・用量 | <カプセル剤> 内分泌療法剤との併用において、通常、成人にはパルボシクリブとして 1日1回125mgを3週間連続して食後に経口投与し、その後1週間休薬する。 これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。 <錠剤> 内分泌療法剤との併用において、通常、成人にはパルボシクリブとして 1日1回125mgを3週間連続して経口投与し、その後1週間休薬する。 これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。 |
錠剤とカプセルで効能・効果の書き方が変わっていますが、同義です。また、カプセル剤は2023年6月で発売中止です。
イブランスは2017年9月27日に国内初のCDK4/6阻害作用としてカプセル剤が承認されていますが、今回新たに錠剤が追加されました!
本記事では乳がん治療とイブランス(パルボシクリブ)の作用機序についてご紹介します☆
乳がんの概要
2011年の女性乳がんの罹患数は、約72,500人と、女性のがんの中では最も多く、約20%を占めると言われています。
最近では、北斗晶さんや、小林麻央さんが記憶に新しいと思います。
手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。
ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。
従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!
また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。
早期の乳がんの治療
早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。
場合によっては、術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える治療が行われることもあります。
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パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序と副作用【乳がん/大腸がん】
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転移のある乳がんの治療(手術不能)
乳がんは、がん細胞の性質によって、薬物療法が異なります。
- ホルモン(エストロゲン受容体/プロゲステロン受容体)陽性の乳がん:ホルモン療法±CDK4/6阻害薬
- HER2陽性の乳がん:ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)±パージェタ(一般名:ペルツズマブ)±抗がん剤
- ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん):抗がん剤
最も多いとされるのが、「①ホルモン陽性の乳がん」で、この場合はホルモン療法が基本です。
ホルモン陽性の乳がんに対しては
- イブランス(一般名:パルボシクリブ)
- ベージニオ(一般名:アベマシクリブ)
といったCDK4/6阻害薬が使用できます。
ちなみに「③ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん)」でPD-L1陽性の場合、初回治療としてテセントリク(アテゾリズマブ)とアブラキサン(nab-パクリタキセル)の併用療法も使用可能です。
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テセントリク(アテゾリズマブ)の作用機序【肺がん/乳がん/肝がん】
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それではここから、ホルモン陽性乳がんの増殖メカニズムとイブランスの作用機序について説明します。
ホルモン陽性乳がんの増殖メカニズム
正常な細胞では、S期→G2期→M期→G1期という順番で細胞分裂が繰り返されています。
一方、乳がん細胞では、G1期からS期への移行が「E2F」と呼ばれる転写因子によって過剰に活性化されています。
このE2Fを活性化させている因子として、
- サイクリンD
- サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)
が知られています。
サイクリンDはエストロゲンが、がん細胞に結合することで合成が促進されています。
これらサイクリンDとCDK4/6が複合体を形成することで、E2Fが活性化され、がん細胞のG1期からS期への移行が活性化されています。
その結果、がん細胞は無限に増殖が活性化されている状態です。
従って、ホルモン陽性乳がん治療は、エストロゲンの分泌を抑制させたり、受容体への結合を抑制させたりするホルモン療法薬が中心でした。
イブランス(パルボシクリブ)の作用機序
今回ご紹介するイブランスは、CDK4/6を選択的に阻害する新規作用機序を有する薬剤です!
がん細胞のCDK4/6を阻害することで、E2Fの活性を抑制し、G1期からS期への移行を阻害します。
その結果、がん細胞の増殖を抑制するといった作用機序を有しています。
また、サイクリンDを抑制する目的で、基本的にはホルモン療法(アロマターゼ阻害薬、フルベストラント)と併用して用います。
エビデンス紹介(PALOMA-2試験、PALOMA-3試験)
根拠となった臨床試験は2試験(PALOMA-2試験、PALOMA-3試験)あります。
PALOMA-2試験は、閉経後でホルモン陽性の手術不能乳がんの初回治療を対象にフェマーラ単剤とイブランス+フェマーラを比較した第Ⅲ相臨床試験です。1)
主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)」で、結果は以下の通りでした。
臨床試験名 | PALOMA-2試験1) | |
試験群 | フェマーラ | イブランス+ フェマーラ |
PFS中央値※ | 14.5か月 | 24.8か月 |
HR=0.576, p<0.000001 | ||
奏効率† | 34.7% | 42.1% |
p=0.06 |
PALOMA-3試験は、閉経前後でホルモン陽性の手術不能乳がんの二次治療を対象にフェソロデックス単剤とイブランス+フェソロデックスを比較した第Ⅲ相臨床試験です。2-3)
主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)」で、結果は以下の通りでした。
臨床試験名 | PALOMA-3試験2-3) | |
試験群 | フェソロデックス | イブランス+ フェソロデックス |
PFS中央値※ | 4.6か月 | 9.5か月 |
HR=0.422, p<0.000001 | ||
全生存期間中央値 | 28.0か月 | 34.9か月 |
HR=0.81, p=0.09 | ||
奏効率† | 9% | 19% |
p=0.0019 |
※PFS(無増悪生存期間):薬を投与してから、がんが大きく(増大)するまでの期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合
このようにイブランスの臨床試験では、ホルモン陽性の乳がんに対して、フェマーラ(一般名:レトロゾール)やフェソロデックス(一般名:フルベストラント)などのホルモン療法薬と併用することで治療効果が認められたため、基本的にホルモン療法薬と併用して使用されます。
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【乳がん】アロマターゼ阻害薬の作用機序・副作用と薬剤一覧の紹介
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副作用
代表的な副作用として好中球減少、白血球減少、脱毛、疲労、口内炎などがあります。
特に、好中球減少は発現頻度が高いため、注意する必要がありますし、程度に応じて減量・休薬を行うことが大切です。
用法・用量
カプセル剤の服用方法は、1日1回125mgを3週間連続して食後に経口服用し、その後1週間休薬、とされています。
例として、フェマーラでは「1日1回2.5mgを連日投与」ですので、イブランスと併用する際には、イブランスと同時に服用する日と、フェマーラのみを服用する日が出てきてしまいますので、少し注意が必要かもしれません。
錠剤では食事に左右されることなく投与可能ですね!
あとがき
今後は術後の補助療法としてや、術前の補助療法としての開発も進めば興味深いと感じます!
同系統の薬剤も数種類開発中だそうですので、今後にも期待したいと思います。
代表的なホルモン療法薬のアロマターゼ阻害薬(AI)の作用機序のまとめ記事もありますので、併せてご覧いただければ幸いです。
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【乳がん】アロマターゼ阻害薬の作用機序・副作用と薬剤一覧の紹介
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2018年には新規のCDK4/6阻害薬(ベージニオ)も登場しました!
以下の記事でイブランスとベージニオの違いや比較についても解説していますので是非ご覧ください(一覧表も掲載)。
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ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】
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以上、本日は乳がんの新規作用機序の新薬であるイブランスをご紹介しました★
引用文献・資料等
- PALOMA-2試験:N Engl J Med. 2016 Nov 17;375(20):1925-1936.
- PALOMA-3試験:Lancet Oncol. 2016 Apr;17(4):425-439.
- PALOMA-3試験(生存解析):N Engl J Med. 2018; 379:1926-1936
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