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パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序と副作用【乳がん/大腸がん】

2022年3月28日パージェタ点滴静注(一般名:ペルツズマブ)の効能・効果に「がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」を追加することが承認されました!

中外製薬|ニュースリリース

 

パージェタは既に「HER2陽性の乳がん」の適応を有していて、切除不能例や術前・術後に使用することができます。

 

木元 貴祥
今後は大腸がんにも期待ですね!

 

今回は乳がん・大腸がんとパージェタ(ペルツズマブ)の作用機序、エビデンスについてご紹介します。

 

乳がんの概要

2011年の女性乳がんの罹患数は、約72,500人と、女性のがんの中では最も多く、約20%を占めると言われています。

最近では、北斗晶さんや、小林麻央さんが記憶に新しいと思います。

手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。

 

ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。

 

従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!

また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。

 

その他、乳がんの15%~25%は「HER2(“ハーツー”と読みます)」と呼ばれるタンパク質が細胞膜に発現していることもあり、従来は予後不良と言われていました。

 

早期の乳がんの治療

早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。

早期乳がんの中でも術後に再発リスクが高いと診断された患者さんでは、術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える薬物療法(初期治療)が行われることがあります。

 

  1. ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬)±CDK4/6阻害薬
  2. HER2陽性の乳がん:パージェタ(ペルツズマブ)+ハーセプチン(トラスツズマブ)±抗がん剤
  3. ホルモンもHER2も陰性の乳がん:抗がん剤

 

パージェタはHER2陽性の早期乳がんの場合、術後のハーセプチン+抗がん剤に上乗せすることで再発抑制効果が期待されています。

 

また、HER2陽性の早期乳がんで、がんが大きい場合、手術の前に術前薬物療法としてパージェタ+ハーセプチン+抗がん剤を行い、がんを小さくしてから手術が行われることもあります。

 

転移のある乳がんの治療(手術不能)

発見時に転移がある乳がんの場合、手術はできませんので、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)が基本となります。

 

転移のある乳がんの場合も、がん細胞の性質によって薬物療法の種類が異なります。

  1. ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法±CDK4/6阻害薬
  2. HER2陽性の乳がん:ハーセプチン±パージェタ±抗がん剤
  3. ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん):抗がん剤±免疫チェックポイント阻害薬

 

最も多いとされるのが、「ホルモン陽性」の乳がんで、この場合はホルモン療法が基本です。

パージェタは転移のある②「HER2陽性の乳がん」の場合、ハーセプチン+抗がん剤に上乗せすることで生存期間の延長が認められています。

ハーセプチン(トラスツズマブ)の作用機序と副作用【胃がん】

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大腸がんと治療

早期に発見された場合は手術によってがんを取り除くことができ、場合によっては術後の抗がん剤治療(術後補助化学療法)が行われます。

 

一方、発見時に他の臓器に転移(StagrⅣ)があったり、再発している場合、手術はできないため、抗がん剤(化学療法)による治療が基本です。

 

大腸がんの一次化学療法では抗がん剤(2〜3種)+分子標的薬(ベバシズマブなど)を用いた以下のいずれかの治療法が行われます。

  • FOLFOX+アバスチン/ベクティビクス/アービタックス
  • FOLFIRI+アバスチン/ベクティビクス/アービタックス
  • FOLFOXIRI+アバスチン
  • CAPOX+アバスチン
  • SOX+アバスチン
  • IRIS+アバスチン

 

参考:使用薬剤

 

アバスチン(ベバシズマブ)の詳細については以下の記事をご参考くださいませ。

アバスチン(ベバシズマブ)の作用機序とバイオシミラー【大腸がん】

続きを見る

 

なお、MSI-highが確認された場合、キイトルーダ(ペムブロリズマブ)が初回から単剤で使用可能です。MSI-highとキイトルーダについては以下で解説しています♪

キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】

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一次化学療法に抵抗・不応の場合には二次化学療法としてサイラムザ(一般名:ラムシルマブ)ザルトラップ(一般名:アフリベルセプトベータ)を用いた治療等が行われます。

サイラムザ(ラムシルマブ)の作用機序【胃/大腸/肝細胞/肺がん】

続きを見る

 

HER2陽性の大腸がんは2~3%に認められるとされていて、今回ご紹介するパージェタは二次治療以降にハーセプチンと併用します。

 

参考までにBRAF遺伝子変異(5%前後)が認められる場合に使用できるのはビラフトビ(エンコラフェニブ)とメクトビ(ビニメチニブ)ですね。

ビラフトビ/メクトビ併用療法の作用機序【悪性黒色腫・大腸がん】

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HER2/HER3によるがん細胞の増殖

がんの増殖に関わるタンパク質(受容体)としてHERファミリーが知られており、以下の種類があります。

  • HER1(別名:EGFR)
  • HER2
  • HER3
  • HER4

 

乳がんでは特にHER2が重要で、HER2を有するがん細胞では増殖シグナルが活性化されているため、予後不良とされていました。

HER2/HER3によるがん細胞の増殖

 

HER2は単独でも増殖シグナルを活性化しますが、HER3と二量体を形成することでより強固なシグナル伝達が活性化され、がん細胞の増殖を促進します。

 

HER2/HER3は共にドメインⅠ~Ⅳから成り立っていますが、二量体形成に関与しているのは「ドメインⅡ」であることが知られています。

 

パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序

パージェタはHER2とHER3の二量体形成に関与しているHER2のドメインⅡを選択的に阻害するモノクローナル抗体製剤です。

 

また、HER2のドメインⅣを選択的に阻害するハーセプチンを併用することで、がん細胞のシグナル伝達をより強固に阻害することができます。

パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序

 

乳がんにおいてはパージェタ+ハーセプチン+抗がん剤(タキサン系など)として使用し、大腸がんにおいてはパージェタ+ハーセプチンとして使用します。

ハーセプチン(トラスツズマブ)の作用機序と副作用【胃がん】

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乳がんのエビデンス紹介(術後の初期治療):APHINITY試験

早期乳がんの術後初期治療としてパージェタの有用性が示された第Ⅲ相試験(APHINITY試験)をご紹介します。1)

本試験はリンパ節転移陽性もしくは再発リスクの高いリンパ節転移陰性のHER2陽性早期乳がん患者さんを対象に、ハーセプチン+化学療法(ドセタキセルを含む)、もしくはパージェタ+ハーセプチン+化学療法を投与する群を比較した試験です。投与期間は「1年間」とされています。

 

本試験の主要評価項目は3年の「iDFS(浸潤病変の無い生存期間)*」でした。

試験名 APHINITY試験
試験群 ハーセプチン+化学療法 パージェタ+
ハーセプチン+化学療法
3年のiDFS率* 93.2% 94.1%
HR=0.81, p=0.045
リンパ節転移陽性例の
3年のiDFS率*
90.2% 92.0%
HR=0.77, p=0.02

*iDFS(浸潤病変の無い生存期間):いずれかの部位での浸潤性乳がんの再発、または死亡を認めない生存時間

 

このように、これまでの標準治療であったハーセプチン+化学療法にパージェタを上乗せすることで再発率を抑制できることが示されています。

特にリンパ節に転移のあった患者さんではより効果が期待できそうな印象です。

 

今回は割愛しますが、術前のパージェタの根拠となった臨床試験は以下の海外の2試験(いずれも第Ⅱ相試験)です。

 

乳がんのエビデンス紹介(転移のある乳がんの一次治療):CLEOPATRA試験

転移のある乳がん(手術不能)の一次治療としてパージェタの有用性が示された第Ⅲ相試験(CLEOPATRA試験)をご紹介します。2-3)

本試験はHER2陽性の手術不能乳がん患者さんを対象に、ハーセプチン+ドセタキセル、もしくはパージェタ+ハーセプチン+ドセタキセルを投与する群を比較した試験です。

 

本試験の主要評価項目は「PFS(無増悪生存期間)*」でした。

試験名 CLEOPATRA試験
試験群 ハーセプチン+ドセタキセル パージェタ+
ハーセプチン+ドセタキセル
PFS中央値* 12.4か月 18.5か月
HR=0.62, p<0.001
生存期間中央値 40.8か月 56.5か月
HR=0.68, p<0.001
奏効率 69.3% 80.2%

*PFS(無増悪生存期間):治療を開始してからがんが大きく(増悪)するまでの期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合

 

このようにハーセプチン+ドセタキセルにパージェタを上乗せすることでPFSや生存期間の延長効果が示されています。

 

大腸がんのエビデンス:TRIUMPH試験

大腸がんの根拠となったTRIUMPH試験をご紹介します。4)

本試験は標準治療(5-FU、イリノテカン、オキサリプラチン、抗EGFR抗体薬など)に抵抗性となった治癒切除不能な進行・再発のHER2陽性大腸がん患者さんを対象に、ペルツズマブとトラスツズマブの併用療法の有効性と安全性を評価する多施設共同第Ⅱ相試験(医師主導治験)です。

 

主要評価項目は「治験責任医師による全奏効割合」とされ、HER2の評価によって以下の結果でした。

  • 腫瘍組織遺伝子パネル検査でHER2陽性の患者さん:30%(27例中、部分奏効以上が8例)
  • リキッドバイオプシーでHER2陽性の患者さん:28%(25例中、部分奏効以上が7例)

 

以上の結果より、主要評価項目は達成とされています!

 

副作用

主な副作用として下痢、脱毛、倦怠感、好中球減少症、悪心、爪の異常、神経障害、発疹などが認められています。

 

乳がんではハーセプチンとドセタキセル等と併用するため、これらの薬剤の副作用にも要注意です。

 

稀にアナフィラキシーショックや間質性肺炎の発現もあるため、注意が必要です。

 

あとがき

パージェタはHER2陽性の手術不能乳がん、術前・術後の治療選択肢として広く使用されています。

 

木元 貴祥
大腸がんにも適応拡大されましたので、注目ですね。

 

以上、今回は乳がん治療とパージェタ(ペルツズマブ)の作用機序とエビデンスについてご紹介しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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