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2020年2月21日、ロズリートレク(エヌトレクチニブ)の「ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん」に関する適応拡大が承認されました!
基本情報
製品名 | ロズリートレクカプセル100mg/200mg |
一般名 | エヌトレクチニブ |
製品名の由来 | 標的遺伝子である、ROS1 と NTRK に由来する |
製造販売 | 中外製薬(株) |
効能・効果 | 〇NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん 〇ROS1融合遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん |
用法・用量 | <NTRK陽性の固形がん> 通常、成人にはエヌトレクチニブとして1日1回600mgを経口投与する。 なお、患者の状態による適宜減量する。 通常、小児にはエヌトレクチニブとして1日1回300mg/m2(体表面積)を経口投与する。 ただし、600mgを超えないこと。なお、患者の状態による適宜減量する。 <ROS1陽性の非小細胞肺がん> 通常、成人にはエヌトレクチニブとして1日1回600mgを経口投与する。 なお、患者の状態による適宜減量する。 |
収載時の薬価 | 100mg:5,214.20円 200mg:9,889.90円 |
ロズリートレクとは、2019年6月18日に「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん」を効能・効果として承認された新薬で、新規のROS1/TRK阻害剤に分類されています。
NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに関しては臓器を限定せずに臓器横断的(臓器非特異的)な承認とされています!
今回はROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対しても適応拡大が行われましたね。
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キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】
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またロズリートレクは「先駆け審査指定制度」の対象品目ですので、世界に先駆けて日本が世界初承認です。
今回はNTRK融合遺伝子やROS1融合遺伝子、ロズリートレク(エヌトレクチニブ)の作用機序やエビデンスについて解説しています。
NTRK遺伝子とTRKについて
神経系細胞の増殖や記憶の定着等を担う受容体としてTRK(トロポミオシン受容体キナーゼ:tropomyosin receptor kinase)A/B/Cと呼ばれるタンパク質が知られており、これに増殖因子が結合することで神経系細胞の増殖が促されます。1)
TRKはNTRK(神経栄養受容体チロシンキナーゼ:neurotrophic tyrosine kinase)と呼ばれる遺伝子が転写・翻訳されることで合成されます。1)
参考
- 転写:遺伝子(DNA)からmRNAを合成する過程
- 翻訳:mRNAからタンパク質を合成する過程
またNTRK遺伝子とTRKには以下の3種類が存在しています。
- NTRK1遺伝子⇒TRKA
- NTRK2遺伝子⇒TRKB
- NTRK3遺伝子⇒TRKC
NTRK融合遺伝子とは?
では続いて、NTRK遺伝子が異常になってしまう「NTRK融合遺伝子」について解説します。
何らかの原因でNTRK遺伝子とその他の遺伝子が転座(ひっくり返ってくっつく)してしまうことがあり、この結果、融合してできる異常な遺伝子を「NTRK融合遺伝子」と呼んでいます。
NTRK融合遺伝子から転写・翻訳して合成される異常なTRK融合タンパクは発がんの原因になったり、増殖因子がなくてもがんの増殖活性を促したりします。2)
NTRK1融合遺伝子からはTRKA融合タンパク、NTRK2融合遺伝子からはTRKB融合タンパク、NTRK3融合遺伝子からはTRKC融合タンパクがそれぞれ合成されます。
NTRK融合遺伝子が関与するがんと検査方法
NTRK融合遺伝子は全がんの1%程とされていますので、非常に稀ですが、主ながんの種類には以下があります。2)
- 虫垂がん
- 乳がん
- 胆管がん
- 大腸がん
- 消化管間質腫瘍(GIST)
- 乳児型線維肉腫
- 肺がん
- 悪性黒色腫
- 膵臓がん
- 甲状腺がん
また、NTRK融合遺伝子の検査については遺伝子変異解析プログラムの「FoundationOne CDx」というものを用いて検出できます。
これは324のがん関連遺伝子の変異状況を一括して検査することが可能で、2019年6月1日より保険適用されています。(下記中医協参照)
参考:中央社会保険医療協議会 総会(第415回)|医療機器の保険適用について 総-1
その後、2019年6月27日にロズリートレクの適応を判断するためのコンパニオン診断としても承認が追加されています。
中外製薬|ニュースリリース
がんゲノム医療やがん遺伝子パネル検査についてはがん情報サービスのページが参考になりましたので、ご興味のある方はご覧になってください☆
>>がん情報サービス|がんゲノム医療 もっと詳しく知りたい方へ
ROS1融合遺伝子陽性の肺がん
少し話が変わりますが、非小細胞肺がんの1%程で「ROS1融合遺伝子」が認められることがあります。
先ほどのNTRK融合遺伝子と同じく、ROS1遺伝子と別の遺伝子が転座して融合してできる遺伝子で、これを元に合成されるのが「ROS1融合タンパク」です。
切除不能な非小細胞肺がんでROS1融合遺伝子が陽性の場合、基本的にはザーコリ(一般名:クリゾチニブ)が使用されます。3)
ちなみに、前述の「FoundationOne CDx」ですが、2019年12月26日にROS1融合遺伝子検査のためのコンパニオン診断としても承認が追加されています。
中外製薬|ニュースリリース
ロズリートレク(エヌトレクチニブ)の作用機序:ROS1/TRK阻害
ロズリートレクはROS1融合タンパクおよびTRK(TRKA/TRKB/TRKC)融合タンパクを選択的に阻害する新規の薬剤です!4-5)
下図のようにTRK融合タンパクやROS1融合タンパクを阻害することでがん細胞の増殖を抑制すると考えられています。
NTRK融合遺伝子陽性固形がんのエビデンス紹介:STARTRK-2試験
根拠となった臨床試験には以下があります。
- STARTRK-NG試験:海外第Ⅰ相
- STARTRK-1試験:海外第Ⅰ相
- ALKA-372-001試験:海外第Ⅰ相
- STARTRK-2試験:国際共同第Ⅱ相(日本人を含む)
STARTRK-1試験とALKA-372-001試験については既に論文等で報告6)されていますね。
日本人を含むSTARTRK-2試験の結果は添付文書に公開されています。7)
STARTRK-2試験は18歳以上のNTRK、ROS1又はALK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん患者さんを対象とした国際共同第Ⅱ相試験で、NTRK融合遺伝子陽性の51例(うち日本人1例)の奏効率*は56.9%(95%信頼区間:42.3~70.7%)とのことです。
*奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合
STARTRK-1試験、ALKA-372-001試験、STARTRK-2試験の統合解析の結果も論文8)で公開されていますので、ご興味あればご確認ください
副作用
主な副作用として、味覚異常(46.0%)、めまい(30.2%)、錯感覚、末梢性ニューロパチー、便秘(28.6%)、下痢(27.0%)、血中クレアチニン増加、貧血(20.6%)、疲労(38.1%)、浮腫(27.0%)、体重増加(22.2%)などが報告されています。
重大な副作用としては
- 心臓障害(4.8%)
- QT間隔延長(頻度不明)
- 認知障害、運動失調(28.6%)
- 間質性肺疾患(1.6%)
が挙げられていますので注意が必要です。
用法・用量
<NTRK融合遺伝子陽性の固形がん>
成人と小児で少し異なっていますね。
- 成人:エヌトレクチニブとして1日1回600mgを経口投与する。
- 小児:エヌトレクチニブとして1日1回300mg/m2(体表面積)を経口投与する。ただし、600mgを超えないこと。(体表面積と投与量は下表の通り)
小児の体表面積(m2) | 小児の投与量(1日1回) |
0.43~0.50 | 100 mg |
0.51~0.80 | 200 mg |
0.81~1.10 | 300 mg |
1.11~1.50 | 400 mg |
≧1.51 | 600 mg |
いずれの場合も、患者さんの状態による適宜減量します。
<ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん>
通常、成人にはエヌトレクチニブとして1日1回600mgを経口投与します(患者の状態による適宜減量)。
収載時の薬価
収載時(2019年9月4日)の薬価は以下の通りです。
- ロズリートレクカプセル100mg:5,214.20円
- ロズリートレクカプセル200mg:9,889.90円(1日薬価:29,669.70円)
有用性加算(Ⅱ)(A=10%)と先駆け審査指定制度加算(A=10%)が加算されていますね!
加算の根拠
- 有用性加算:本剤はTRKを阻害する新規作用機序医薬品である。また、本剤は、標準的治療法が存在しない乳腺分泌がん等の患者のうち、NTRK融合遺伝子が陽性の患者で一定の奏効率が見られたことから、臨床上有用な新規作用機序を有する医薬品であり、有用性加算(Ⅱ)(A=10%)を適用することが適当と判断した。
- 先駆け審査指定制度加算:本剤は、新規の作用機序を有し、世界に先駆けて日本で承認されたものである一方で、「日本における承認事項の基礎となった臨床試験」に該当する中核的な探索的試験において、安全性の解析対象とされた日本人患者は16例と限られていることから、限定的な評価とした。
薬価算定の根拠は以下の記事をご参考ください。
-
【新薬:薬価収載】12製品+再生医療等製品(2019年9月4日)
続きを見る
まとめ・あとがき
ロズリートレクはこんな薬
- ROS1融合タンパクおよびTRK(TRKA/TRKB/TRKC)融合タンパクを選択的に阻害する
- NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに対して臓器横断的な承認
- 1日1回経口投与
臓器横断的な承認はMSI-Highの固形がんを対象にしたキイトルーダが初ですが、ロズリートレクはそれに次ぐ承認となりました。
MSI-Highの固形がんとキイトルーダについては以下の記事で解説しています☆
-
キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】
続きを見る
以上、今回は少しマニアックな内容でしたが、NTRK融合遺伝子やROS1融合遺伝子、ロズリートレク(エヌトレクチニブ)の作用機序やエビデンスについて解説しました!
2021年には新規のTRK阻害薬であるヴァイトラックビ(ラロトレクチニブ)、2024年にはROS1/TRK阻害薬のオータイロ(レポトレクチニブ)も登場しました。
-
オータイロ(レポトレクチニブ)の作用機序【ROS1陽性の肺がん】
続きを見る
引用文献・資料等
- Nat Rev Neurosci. 2003 Apr;4(4):299-309.
- Cancer Discov. 2015 Jan;5(1):25-34.
- 肺癌診療ガイドライン2023年版
- Mol Cancer Ther. 2018 Feb;17(2):455-463.
- Expert Opin Investig Drugs. 2015;24(11):1493-500.
- STARTRK-1試験とALKA-372-001試験:Cancer Discov. 2017 Apr;7(4):400-409.
- ロズリートレクカプセル添付文書
- STARTRK-1試験とALKA-372-001試験とSTARTRK-2試験:Lancet Oncol. 2020 Feb;21(2):271-282.
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