11.血液・造血器系

オルプロリクス(エフトレノナコグ)の作用機序と副作用【血友病B】

厚労省は2018年3月15日、血友病Bの治療薬であるオルプロリクス静注用(一般名:エフトレノナコグ アルファ(遺伝子組換え))について、新規格の「4000IU」製剤を承認しました。

オルプロリクス静注用は遺伝子組換え血液凝固第Ⅸ因子Fc領域融合タンパク質製剤に分類されています。

これまでは、250IU、500IU、1000IU、2000IU、3000IUの5製剤でしたが、今回4000IU製剤が加わり、6製剤になりました。

 

今回は止血のメカニズムと血友病、そしてオルプロリクスの作用機序についてご紹介します。

 

止血のメカニズム

我々が怪我などをした際に出血すると、体内では血を止めようとする機構(止血機構)が働きます。

止血には、血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血があります。

出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。

これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいます。

 

次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。

二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。

 

二次血栓に関与するフィブリンは様々な「凝固因子」が血液凝固反応(カスケード)を引き起すことで生成されます。

 

二次止血時の血液凝固反応(カスケード)とは

血液凝固反応では、全部で14種類の凝固因子が活性化することで引き起こされます。

一般的に凝固因子はローマ数字(例:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)で表され、活性化した凝固因子はローマ数字の後ろに“a”を付けて(例:Ⅴa、Ⅶa、Ⅸa、Ⅹa)表されます。

体内の血液凝固反応は、反応の引き金となる因子の違いから「外因系」と「内因系」に分けられていますが、今回は内因系をメインにご紹介します。

 

内因系の血液凝固反応は第Ⅻ因子が活性化(Ⅻa)されることで開始されます。

ⅫaはⅪを活性化(Ⅺa)させ、Ⅺaが第Ⅸ因子を活性化(Ⅸa)します。

また、第Ⅷ因子が活性化したⅧaと、Ⅸaによって第Ⅹ因子が活性化(Ⅹa)されます。

Ⅹaはプロトロンビンをトロンビンに変換し、トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに変換します。

二次止血時の血液凝固反応(カスケード)

 

このようにして完成したフィブリンが二次止血を行い、強固な血栓(二次血栓)を形成します。

今回ご紹介する血友病は上記の凝固因子が欠損して発症する疾患です。

血友病とは

血友病は先天的に血液凝固因子が欠損している疾患です。

第Ⅷ因子が欠損している場合を「血友病A」、第Ⅸ因子が欠損している場合を「血友病B」と分類しています。

血友病は染色遺体の伴性劣性遺伝のため、男性の患者がほとんどを占めます。

国内での発症率は男児出生1万人に約1人で、現在では6000名程の患者さんがいらっしゃると推測されています。

 

血友病の病態と症状

血友病では血液凝固因子が欠損していることから、二次止血における血液凝固反応(カスケード)がうまく働きません。

その結果、二次止血に重要な「フィブリン」が生成されないため、様々な出血の症状が現れます。

血友病の病態

 

特徴的な出血症状は、関節内や筋肉内の出血(深部出血)です。その他、抜歯後に血が止まらなかったり、頭蓋内で出血することもあります。

 

血友病の治療

血友病の治療は、欠損している血液凝固因子を補充する治療が基本です。

 

血友病による出血を予防するため、上記因子の「定期補充療法」を行います。

また、出血してしまった際には適宜、「オンデマンド補充療法」を行います。

※オンデマンド(on-demand)とは、「必要に応じて」を意味します。

 

血液凝固因子製剤は在宅でも安全に静脈内投与ができることから、上記の定期補充療法を中心として、出血時には必要に応じてオンデマンド補充療法を行うことが一般的です。

今回ご紹介するオルプロリクスは、血友病Bで欠損している第Ⅸ因子の補充を目的としている治療薬です。

 

オルプロリクス(一般名:エフトレノナコグ)の構造と作用機序

オルプロリクスは、遺伝子組換え血液凝固第Ⅸ因子Fc領域融合タンパク質製剤です。

血友病Bで欠損しているヒト第Ⅸ因子に、抗体(IgG1)の定常領域が結合している構造を有しています。

 

このような構造により、体内で代謝による分解を受けづらくなり、作用持続時間が延長するといった特徴があります。

オルプロリクスによって第Ⅸ因子が補充されますので、その後の血液凝固反応が進行して無事にフィブリンが生成され二次止血が完了します。

オルプロリクス(一般名:エフトレノナコグ)の構造と作用機序

 

オルプロリクスの副作用

軽微な副作用として頭痛や口の感覚異常が報告されています。

稀にショックやアナフィラキシーなどの重篤な副作用の発現も認められますので注意が必要です。

 

オルプロリクス投与によるインヒビターの出現

定期補充療法を繰り返していると、補充している凝固因子を「異物(非自己)」と認識し、凝固因子に対して抗体が産生されてしまうことがります。

このような抗体のことを「インヒビター」と呼び、血友病B患者さんの約3%~5%に認められます。

インヒビターが出現してしまうと、当然、補充した凝固因子が働くことができないため、止血能力が失われてしまいます。

また、インヒビターが出現した患者さんではオルプロリクスによるアナフィラキシーのリスクが増大することが知られていますので、特に注意が必要となります!

 

あとがき

これまでオルプロリクスの規格は250IU、500IU、1000IU、2000IU、3000IUの5製剤でした。

オルプロリクスの定期投与開始時の投与量は体重あたり50IU/kgの投与量でしたので、例えば体重が60kgを超える患者さんの場合、1回あたり3000IUを超える量が必要となっていました。

これまでは3000IUが最大用量の規格でしたので、体重が60kgを超える患者さんでは1回の投与時に2バイアルを使用せざるを得ず、時間と手間がかかっていました。

 

今回、4000IU製剤が追加されたことから、体重が80kgを超えなければ、1バイアルで投与が可能となります!

以上、今回は血友病Bとオルプロリクス(エフトレノナコグ)の作用機序についてご紹介しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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