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アリケイス(アミカシン リポソーム製剤)の作用機序【肺MAC症】

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2021年3月23日、「肺非結核性抗酸菌症」を対象疾患とするアリケイス吸入液(アミカシン)が承認されました!

インスメッド|ニュースリリース

基本情報

製品名 アリケイス吸入液590mg
一般名 アミカシン硫酸塩
製品名の由来 特になし
製造販売 インスメッド合同会社
効能・効果 〈適応菌種〉
アミカシンに感性のマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)
〈適応症〉
マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)による肺非結核性抗酸菌症
用法・用量 通常、成人にはアミカシンとして590mg(力価)を
1日1回ネブライザを用いて吸入投与する。
収載時の薬価 42,408.40円

 

海外ではARIKAYCEとして既に承認・販売されていますね。

 

有効成分のアミカシンはこれまで注射剤しかありませんでしたが、リポソームに封入した初の吸入薬です!また、MACの効能効果を有する薬剤としても国内初となります。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
肺への移行性改善・全身性副作用の軽減が期待できますね。

 

今回は肺非結核性抗酸菌症の中でも肺MAC症の概要と、アリケイス(アミカシン)の作用機序・エビデンスについて解説します。

 

肺非結核性抗酸菌症(NTM)と肺MAC症とは

結核菌以外の抗酸菌が肺に感染して起こる疾患の総称を「肺非結核性抗酸菌症(NTM:non-tuberculousis mycobacteria)」と呼んでいます。

 

結核菌は非常に感染力が強いため、隔離等が行われますが、肺NTMの原因菌は通常環境内(土・水・浴室など)に存在している菌で、感染力は強くありません。

 

肺NTMの原因となる菌の種類は150種類以上ありますが、その80%以上はMAC菌(M. avium complex)です。1)

 

木元 貴祥
木元 貴祥
肺NTMの中でもMAC菌を原因とするのが肺MAC症と呼ばれるものですね。

 

肺結核は近年減少傾向ですが、逆に肺NTMは増加傾向にあると言われています(年間約8,000人が発症)。1)

 

MAC菌は42℃前後で繁殖しやすいため、最近では浴室・風呂場での感染が増えているようです。

 

基本的には無症状ですが、進行すると、せき、たん、血たん、だるさ、発熱、寝汗、体重減少などが出ることもあります。

 

肺MAC症の治療

肺MAC症の治療は、経口抗菌薬による多剤併用療法が基本です。

リファンピシン、エタンブトール、クラリスロマイシンの3剤による多剤併用療法が標準治療ですが、場合によってはストレプトマイシンやカナマイシンの併用も行われます。2)

 

治療期間に決まりはありませんが、通常1年半~2年程行います(菌の陰性化後1年)。1-2)

 

これら標準治療を行っても反応が得られない難治性の場合、注射の抗菌薬が行われることもありますが、今回ご紹介するアリケイスは難治性の肺MAC症に対して治療効果が期待されている薬剤です!

 

木元 貴祥
木元 貴祥
それではMAC菌の増殖メカニズムについて解説していきます。

 

細菌(MAC菌)の増殖メカニズム

細菌の細胞とヒトの細胞で大きく異なるのは細胞壁の有無です。細菌では細胞壁を有していますが、ヒト細胞に細胞壁は存在しません。

 

また、MAC菌(細菌)が増殖する際には、自身のタンパク質を合成する必要があります。

 

まず自身のDNAが「転写」というプロセスを経てmRNAが合成され、次いでmRNAの情報を元に「翻訳」のプロセスを経てタンパク質が合成されます。

この翻訳のプロセスでは、「リボソーム」が重要な役割を担っています。

 

細菌のリボソームは、50Sサブユニット30Sサブユニットが合わさってリボソーム70Sを構成しています。

リボソーム70SがmRNAの遺伝情報を読み取ることでアミノ酸が繋がって、タンパク質が合成されていきます。

ちなみに、ヒトのリボソームは60S+40S=80S

 

アリケイス(アミカシン)の構造・作用機序

有効成分のアミカシンはアミノグリコシド系抗生物質として、注射剤として承認・販売されています。

ただ、アミノグリコシド系抗生物質に特有の腎機能障害や神経障害(聴覚障害など)が問題として挙げられていて、長期の投与には適しませんでした。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
今回ご紹介するアリケイスはアミカシンをリポソームに封入した吸入製剤です!

アリケイスの構造:アミカシンをリポソームに封入した吸入剤(ネブライザー使用)

 

リポソームとして吸入することで効率的に肺組織や肺MAC菌に感染したマクロファージ移行し、肺MAC菌に対して選択的に作用できると考えられています。局所で作用するため全身の副作用軽減も期待できるのではないでしょうか。

 

そして有効成分のアミカシンはMAC菌リボソームの30Sサブユニットに選択的に作用する抗生物質です。

アリケイス(アミカシン)の作用機序:リボソーム30Sの阻害(アミノグリコシド系)

 

リボソームの阻害によって、タンパク質合成ができなくなり、抗菌作用を発揮と考えられますね!

 

エビデンス紹介:CONVERT試験

根拠となった臨床試験(CONVERT試験)をご紹介します。3)

本試験は肺MAC症でガイドラインに基づいた治療(GBT)を6か月以上行ってもMAC菌の培養陽性が持続している患者さんを対象に、GBT+プラセボ群とGBT+アリケイス群を比較する第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は「陰性化率(6か月目までの喀痰中MAC培養が3回連続陰性)」とされ、結果は以下の通りでした。

GBT+
プラセボ群
GBT+
アリケイス群
陰性化率 8.9% 29.0%
オッズ比4.22(95%信頼区間2.08-8.57)
p<0.001

 

標準治療に上乗せすることで有意に陰性化率の向上が認められていますね!

また、腎機能障害の発現はほぼ無かったとの記載もありました。

 

用法・用量:ラミラネブライザシステムを使用

通常、成人にはアミカシンとして590mg(力価)を1日1回、ネブライザを用いて吸入投与します。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
専用のネブライザである「ラミラネブライザシステム」を使用とのことですね!

 

 

ラミラネブライザシステムの製品特徴

  • 本品は、非結核性抗酸菌症のうちマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)による肺非結核性抗酸菌症(肺MAC症)に対する治療薬として使用されるアミカシンリポソーム吸入用懸濁液をエアロゾル化する装置であり、患者はエアロゾル化した薬剤を吸入する。
  • 本品は、肺MAC症に対する多剤併用療法の効果が不十分である場合に用いる。
  • 本品のうち、ネブライザハンドセットについては、使用後消毒することで1か月繰り返し使用できるが、懸濁液の吸入効果を持続するため毎月新しいものに交換する必要がある。

ラミラネブライザシステムの製品特徴

中央社会保険医療協議会 総会(第479回) 議事次第|医療機器及び臨床検査の保険適用について

 

副作用

5%以上に認められる副作用として、耳鳴、疲労、咳嗽、発声困難、呼吸困難、喀血、口腔咽頭痛などがあります。

重大な副作用としては

  • 過敏性肺臓炎(2.7%)
  • 気管支痙攣(21.5%)
  • 第8脳神経障害(15.1%)
  • 急性腎障害(3.2%)
  • ショック(頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)

が挙げられていますので特に注意が必要です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
アミノグリコシド系抗生物質に特有の神経障害系の耳鳴り・難聴、めまい、腎機能障害も少ないとはいえ、注意しないといけませんね。

 

収載時の薬価

収載時(2021年5月19日)の薬価は以下の通りです。

  • アリケイス吸入液590mg:42,408.40円

 

算定根拠については以下をご覧ください。

【新薬:薬価収載】13製品+再生医療等製品(2021年5月19日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

アリケイスはこんな薬

  • アミカシンのリポソーム製剤
  • リボソームの30Sサブユニットを阻害し、タンパク質合成を阻害する
  • ネブライザーを使用して吸入で用いる

 

これまでアミカシンは注射剤しかなく、腎毒性や神経障害が問題で、長期間の投与には不向きでした。

アリケイスはアミカシンをリポソームで封入し、吸入で使用するため、より効率的なMAC菌への作用・副作用の軽減が期待できるのではないでしょうか。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
治療選択肢が増えることは朗報ですね!

 

以上、今回は肺非結核性抗酸菌症の中でも肺MAC症の概要と、アリケイス(アミカシン)の作用機序・エビデンスについて解説しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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